今月の特集1


 本日、全国の書店にて、後藤美月さん作・絵『おなみだぽいぽい』が発売になります。
 『家のしごと』(山本ふみこ著、ミシマ社)の装画でお世話になったことからご縁がつながり、後藤さんが長年温められてきた初の絵本を、発刊させていただくことになりました。

 後藤美月さんは、書籍や雑誌で挿絵を描かれるイラストレーターさんですが、もともと、三重県四日市にある本屋さん「メリーゴーランド」で働いていらしたことがありました。(このあたり、詳しくは「本屋さんと私」に登場いただいたときの記事をご参照ください。)
 そのメリーゴーランドの店主であり、後藤さんが通っていた専門学校の絵本の授業をしていた先生の先生でもあるのが、増田喜昭さん。後藤さんが小学生の頃に強く影響を受けたという『しばてん』という絵本を、その小学校の先生に紹介されたのも増田さんと思われ、後藤さんが多大な影響を受けてきた方です。

 『おなみだぽいぽい』の発売に先立ち、できたてホヤホヤの見本をもって、ドキドキしながら四日市のメリーゴーランドを訪れた後藤さんと編集部。そこで行われた増田さんと後藤さんの師弟対談は、絵について、絵本について、子どもについて......熱くひろがりました。3日間にわたり、お届けします。

(構成:星野友里、構成補助:角智春、中谷利明、写真:鳥居貴彦)

増田喜昭×後藤美月 自分の人生に落とし前をつける絵本(2)

2017.06.21更新


とりあえず自分の人生に、これでけじめをつけようとしてる作品

『ちいさなうさこちゃん』ディック・ブルーナ(福音館書店)


増田それなりにその道で本を描いて自分の考えたことを表した人たちは、ものすごい遺産をぼくたちに残してくれている。それが出版なんですよ。だからディック・ブルーナの『うさこちゃん』シリーズは遺産なんですよ。後半はもうダメですけど、はっきりぼくは言うんですけど。灰谷健次郎も、『兎の眼』『太陽の子』に尽きますねぇ。だからそんなふうに思うと、後藤美月が初期に何を表すかっていうのは、後に数々出してもこれ以上のものは描けないことがあるんですよ。

後藤この文章書くときに灰谷さんの詩をすごく読みました。というか、灰谷さんが選んだ子どもたちの詩を。だから増田さんが私に教えてくれた本は嫌が応でも心の奥で覚えているというか。

増田だからぼくはここに流れる後藤美月の意図は『しばてん』であり、『はせがわくんきらいや』やと思うんです。それ以外は何ものでもない。とりあえず自分の人生に、これでけじめをつけようとしてる作品。

後藤あ〜〜! よくわかりましたね!

増田わかるさ(笑)

後藤これを描いたらなにかがうまくいくんじゃないかと思って描いたんですけど、そういうもんでもなくて。ただ出ただけだった。でもそれでいいと思うんですけど。

左上)『兎の眼』灰谷健次郎(角川文庫)/右上)『しばてん』田島征三(偕成社)/左下)『はせがわくんきらいや』長谷川集平(復刊ドットコム)/右下)『かさじぞう』赤羽末吉(福音館書店)


増田これは本当に不思議ですけど、『兎の眼』も灰谷さんが17年間やった先生やめたことの落とし前をつけるための本。書かせたのは今江祥智なんですけど、長谷川集平は『しばてん』を読んだときに感動して、自分も卒業制作に人生の落とし前をつける。ヒ素ミルクを飲んだことを描こうと思って、『はせがわくんきらいや』を描くわけですよ。じゃあ田島征三はなぜ『しばてん』を描いたのかというのも調べてあるんですけど、『かさじぞう』(福音館書店)なんですよ。赤羽末吉の。

後藤あっ! やっぱそうなんですね...。わたし最近『かさじぞう』のこと考えて泣けてくるんですよ。

増田話は有名なんやけど、それよりもあの布団の色。絵本は可愛くきれいで子どもが喜ぶものというイメージを赤羽末吉も田島征三も、長谷川集平も一新してしまった。そしていまだにどの本も絶版になってないんですよ。


「ちゃんと生きないと絵なんて描けないよ」

増田僕は(ゲラを読んだときに)一応夜中に電話して美月にいろいろアドバイスはしたけど、最後に言った「お前の本なんやからお前の好きなようにしたらええぞ」っていうのが僕の最終的な意見やし。「なんで、ああせえへんねんや」と言うたらそれは、たとえば5%、10%、おれの作品になってまうねん。ぜったいやっちゃいけないことです。

 最近は絵本塾でも、それ言うてますよ。二つ持ってきて「どっちがいいですか?」って、作家が聞いたら「お前は作家なるんやめろ」と。「自分で決められないのにどうして作家になれんねん。おれは悪いけど人生、ぜんぶ自分で決めてきたぞ」と。それに対しての後悔はないし、だから「増田さんがあのときこう言うたからこうした」って言うたらめちゃ怖いでしょ。その人を恨むかもしれへんし。

後藤昔のメリーゴーランドの絵本塾って、何がいいとか悪いかとかって議論し合う、先生たちに言い返す人たちが多かったって聞いて。

増田いまは言い返すってことはほとんどないよ。やっぱりね、これはしょうがないことなんやけど。今日も大学で教えてきたけど、年々、意志のない人形みたいな学生ばっかりになってきました。だから僕はどれだけ学校に叱られても彼らに...、きのう補講やったんやけども来れない学生多かったから、「おい、動物園行くぞ!」って言って学生引き連れて学校出てめっちゃ怒られてん(笑)

後藤わたしも専門学校の先生に動物園、連れて行かれました(笑)。専門学校がよかったのは何も教えてくれなかったから。ただ単に「どう生きるか」。なんか、楽しみ方を教えてもらったから。「ちゃんと生きないと絵なんて描けないよ」って言うんです。


増田「描く」前に「見る」ってことを、子どもにもそうだけど、やっぱりしてもらわないと。発見とかね。だからまぁ、いろんな人が動物について語りつくすほど語っていたのに、大人たちは、就職や人生や金儲けに動物や植物のことは関係ないと思ったらしく置いてかれたんですね。で、いまうちで昆虫とかいろいろやってんのは「いやぁ、おれたち生き物やしさぁ。ちょっと自覚しませんか」ということを受け止めてやってるんですよ。


10年にひとりか100年にひとり、すごく共感する子が出てくる

増田美月が一番嬉しいと思うんは、「『はせがわくんきらいや』と『しばてん』やな」って言われることで、本人もそれをずーっと意識のどこかにおいてたと思うし。売れる売れないよりも、落とし前というか納得をつけるひとつの人生のけじめに立ち会ってるって感じがね。

 それでこれが不思議ですけどね、10年にひとりか100年にひとりかわからないですけど、ものすごく共感する子が出てくるんですよ。そのときは教えてあげようと思ってる。「こういう子が出てきて、こう読んだぜ」と言うと、そのときに初めて美月は「あぁ〜、出して良かったぁ」というときがやってくる。まぁ予言みたいなもんですけどね。それはずいぶん後からやってくるんですよ。『はせがわくんきらいや』は売れるのに、10年もかかりましたから。

後藤はい。

増田1年でバァーッと売れたやつは消えるのも1年で消える。よく古書屋に並んでいる本ですよ。いまはぜんぜん書店に並んでいないんですよ。でも『いないいないばあ』や『ぐりとぐら』はまだ売れ続けてるじゃないですか。たしかに『いないいないばあ』めくったら笑うもんね。大人も。「おお! やるな!」というカットのインパクトの強さを。

後藤さっき増田さんがおっしゃっていたように自分の落とし前のために描いたようなところがあるから、これをふつうの児童書の出版社に持っていいものなのかわからなくて、ずっと手元においてたんですけど、今回、ご縁あってミシマ社さんと別のお仕事をさせていただいて、「あっ、この出版社さんなのかもしれない」と思って。

増田温めてたやつなんか。

後藤温めて、でもそのあいだにもコロコロ絵が変わるから、何回も何回も描き直す感じ。でも、どこに持って行っていいかわからなかった。これが絵本かどうかわからなかったから、持っていけなかったというか。

(つづきます)


    

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