今月の特集2

2016年、みなさまにとってどんな年だったでしょうか?
ミシマ社は10周年を迎え、多くの方々の支えを感じた一年でした。
今年も、ミシマ社メンバーの「今年の一冊!座談会」で、それぞれ一年間に読んだ本を振り返りました。
東京と京都をSkypeでつないでおこなわれた模様をお届けします!

2016年 今年の一冊! 座談会

2016.12.26更新


『漂流』角幡唯介(新潮社)

『漂流』角幡唯介(新潮社)

 私の「今年の一冊」は、角幡唯介さんの『漂流』です。
 角幡さんはさまざまなノンフィクション賞を受賞しているのでご存知の方も多いと思います。ご自身が探検家でもあり、これまでは自らがチベットやヒマラヤ、北極といった極地に行った話が中心でしたけれども、この『漂流』に関しては、1994年に起こった漁船の遭難事故、37日間も漂流したのに生きて帰ってきた沖縄の漁師を追った話で、今までとは一風違った作品になっています。

 もともと角幡ファンの私。4年ぶりの長編と聞けば読むっきゃありません。ですが忙しくて積読になっていた。するとその間に本書を読んだ僕の周りの信頼する書店店主、版元営業、取次勤務といった人たちが同時多発的に本書を絶賛しだしたもんだから「これは早く読まねば」と。

 で、読みましたよ。いきなり「序章」のつかみが最高です。冒頭で遭難事故の概要が描かれ、取材を始めた経緯が語られます。で、角幡さん、まずはその漁師さんに直接話を聞こうと電話を掛けたのですが、そうしたら奥さんと思しき方が出て、なんと10年ほど前にふたたび漁に出て行方不明になってしまったということがわかった。ちょっとミステリーみたいな感じもあって、そこからはもう、ぐいぐい引き込まれました。

 この漁師に強く心を惹かれた角幡さんは、沖縄に飛び、グアムやフィリピンにも行き、彼とその周辺を追います。そこから浮かび上がってくることに私は一読者として驚き、圧倒されました。たとえば沖縄のとある島の人たちの海の民としての在り方や、漁の在り方。一人の男の生き様だけではない海の民の在り方みたいなもの。その土地、その時代に生まれてしまったがゆえに抗えない、なにか定めのようなものがあるように思いました。
 やー、傑作ですよこれは。冬休みの読書にぜひおすすめしたいなと思います!

『さいはて紀行』金原みわ(シカク出版)

『さいはて紀行』金原みわ(シカク出版)

 うーん、今年はこれですかね、金原みわさんの『さいはて紀行』。ノンフィクションの旅行記で、著者がさまざまな「さいはて」を訪問するという作品です。

 温泉街のストリップ小屋に行って、60代のおばあちゃんのストリップを見て、なぜか仲良くなっっちゃって話を聞いたり、和歌山の刑務所に受刑者が髪を切ってくれる散髪屋さんがあって、そこで受刑者の人に髪を切られながら、「この人はなんで刑務所入ることになっちゃったんだろう」って考えたり。

 「なんのために」とかではなく単なる好奇心でやっていて、「いつか自分の好奇心に殺されるかもしれない」とか言ってるんです。でもただおもしろおかしく紹介するだけじゃなくて、ホームレスのおっちゃんに怒られながらも最後まで話を聞いたり、「自分だったらどうするだろう」って自身の生き方を投影してみたり、きちんと当事者によりそっている。その姿勢がとってもよくて、自分もそうでありたいし、そういうことをやりたいなと思いながら読みました。

タブチ なんかめっちゃトリイさんっぽい選書ですね、気になります。


『あなたの体は9割が細菌』アランナ・コリン/著、矢野真千子/訳(河出書房新社)

『あなたの体は9割が細菌』アランナ・コリン/著、矢野真千子/訳(河出書房新社)

 昨年の座談会では『寄生虫なき病』を熱弁してみんなにドン引きされましたが、今年は『あなたの体は9割が細菌』という、河出書房新社さんから出た本を語りたいと思います。これはイギリスからの翻訳物で、世界各国で話題になりました。

人間の体は細胞の数をベースに考えると、9割が体内に住んでいる細菌で、それに対して体細胞は1割しかありません。体や健康の話をすると、どうしてもハコである身体の組織や、内臓そのものに意識が向きがちですが、実はその状態を左右しているのは体内に住む細菌なんですね。

 これを読むと、「身体は一つの生態系なんだ」ということを思い知らされます。帯にも「肥満もアレルギーもうつ病も微生物の問題だった」とあるように、「それもこれも体内細菌の影響なの!?」と、目からウロコが落ちます。まさか心の病や遺伝的なものだと思っていたものまで、こいつら(腸内細菌)の影響だったなんて、ちょっと衝撃でした。

 あとこれを読んでから、食事へのイメージも変わりました。腸内にいる細菌たちへ餌を与えている感覚になってきて、自分の中に他人が住んでいるような感じがしてくるんですね。自分の体は、自分のもののようで、そうでもない。あるいはもっと別の見方をすれば、こいつら腸内細菌も含めて「自分」なのかなと。「身体観」を転換させる一冊でした。

ミシマ いやー、これは驚きの数々だったよね。抗生物質の話とかさ......(とまらない語り)


『翻訳できない世界のことば』『誰も知らない世界のことわざ』エラ・フランシス・サンダース/著、前田まゆみ/訳(創元社)


『翻訳できない世界のことば』『誰も知らない世界のことわざ』エラ・フランシス・サンダース/著、前田まゆみ/訳(創元社)

 僕の今年の一冊は、『翻訳できない世界のことば』と『誰も知らない世界のことわざ』のシリーズです。改めて、言葉というのは、それぞれの国の生活実感から生まれるんだな、ということがわかる一冊です。たとえば東南アジアで使われているマレー語には、時間を表す単位で、「バナナを一本食べるために必要な所要時間」をひとことで表す言葉があるんです。

 時間つながりで言えば、話は少し変わるんですけど、24時間制って暴力的だと思うんです。日本だって江戸時代の「一刻」という単位は、日が出ている間と暮れてからをそれぞれ6等分した単位だったから、季節によって同じ「一刻」でも時間がまちまちでした。あくまで自然が基準で、それに合わせて時間の単位を伸び縮みさせていたんです。夏長く、冬は短くなるけれど、日が出ている間に仕事をして、日が暮れたら家に帰る。そういう当たり前の生活が、今大切なんじゃないかと思います。

 ことわざで印象的だったのは、愛の言葉で「君の内臓(レバー)を食べたい」が「I love you」の意味になる国があるんです。『あわいの力』の「古代人は感情を臓器で感じていた」という話とつながっているなあと。あと、欲を言えば、ハンガリー語の「Szégyen a futás, de hasznos.」ということわざも収録して欲しかったなあ。日本語訳は、「逃げるは恥だが、役に立つ」。ドラマがフィーバーしましたね。この言葉が生まれた背景も興味深くて、ハンガリーって多くの国から侵攻を受けて、ソ連に侵攻された時には、国民20万人が難民となり亡命した歴史を持つ国なんです。そういう土地から生まれた「逃げるのは一瞬の恥だとしても、生き延びることの方が大切」という言葉には、重みを感じますよね。

 

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