今月の特集2

 2017年も残すところあと7日。
 今年はどんな一年でしたか?

 ミシマ社では毎年、「今年の一冊」をメンバーが選ぶ「今年の一冊座談会」おこなっています。(去年の記事はこちら
 今年も、ミシマ社メンバーが東京と京都をSkypeでつないで、今年読んで一番「これは!」と思った本について語り合った様子を、2日間でお届けします。

 みなさんは、今年一年、どんな本に出会いましたか?
 一年の終わりに「今年の一冊はなんだろう...」なんて考えながら、読んでいただけたら嬉しいです。

2017年 今年の一冊! 座談会(1)

2017.12.24更新

『きみは赤ちゃん』川上未映子(文春文庫)

『きみは赤ちゃん』川上未映子(文春文庫)

 作家の川上未映子さんが、妊娠して出産するまで、そして出産してからの育児の話を綴った一冊です。妊娠や出産って、女性としてある程度知っているつもりでいたんですけど、まわりに妊婦さんがいてもここまで深く話を聞くことってないし、こんなに痛快に面白く書いてくれて、なんと言うか、心が和みました。
 出産に関して「ものすごく痛い」とかいうような暗い話が世の中には多くて、「わぁ...これが絶対に超えなきゃいけない道なの...?」と怖がってた自分がいたんですけど、たしかに痛いし怖いっていう部分もありながら、こういうことは楽しいよとか、面白いよ、こんなこともあったよと軽快に書いてくれていたので、救われたような気持ちになりました。出産や妊娠を扱ったドラマとかを見ていても、「この本のこの部分読み返してみようかな」とか、1年間要所要所で出てきた本でした。ぜひ男性にも読んでいただきたいなと思います!

アライ2014年に単行本が出ましたが、今年文庫化されたんですよね。

オカダ実はこの文庫本も、ミッキーさんにもらったんですよね(笑)。

アライ本当にこの作品は名著で、川上未映子さんにはミシマガでインタビューもしています。こちらもすっごく良いので合わせてぜひ!


『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』野瀬奈津子、矢萩多聞、松岡宏大(玄光社)

『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』野瀬奈津子、矢萩多聞、松岡宏大(玄光社)

 じゃじゃーん。
(と言っておもむろに本を取り出し、椅子の上に立つハセガワ。椅子の上から広げたのは蛇腹折りになったインドの絵本でした)
 ......これはただみんなに見せたくなって持ってきたので、この本が「今年の一冊」なわけじゃないんですけど、この本を作っている出版社「タラブックス」のことを書いた本、『タラブックス』を選びました。タラブックスってなに? どんな本を作っているの? とか、タラブックスのことを知るためには一番おすすめの本です。

 なんですけど、私が一番惹かれたのは、作り手の人、著者3人の人たちが本当にこの本を作りたくて作ったんだっていうことがものすごく伝わってくることです。とにかく、「好き」とか「楽しい」っていう気持ちが溢れてて。
 私は個人的に、今年は、お仕事が「うーん」と思うことが多くって、純粋に作る楽しみみたいなものを忘れかけてるなぁって自分でも思ってたので、この本はすごくそれを思い出させてくれるというか。タラブックスのことを知るだけじゃなくって、自分が日々仕事をしているなかで、どういうふうに働いていくかとか、どういうふうにこれから暮らしていきたいか、ということを考えている人におすすめします。
 タラブックスがあるインドとは状況も違うし、すぐに変えることはできないんだけど、でも、ちょっと心持ちを変えてくれるような一冊です。

ミシマこんなに自分と同じようなことを考えている人がいたのか、と感激しました。タラブックスのほうがもちろん先輩ですが、同時代にこういう存在がいることに励みをおぼえずにはいられません。心から同志を得た、と思えた一冊ですね。


『中動態の世界 意志と責任の考古学』國分功一郎(医学書院)

『中動態の世界 意志と責任の考古学』國分功一郎(医学書院)

 この本、まず値段にびっくりしたんです。金の箔押しのタイトルでA5版。そして330ページ。読みたいけど、2800円くらいするだろうなあ、ひょっとしたら3000円超えるかなあ、と思って値段見てみたら2000円。すぐレジに持っていきました。

 冒頭から引き込まれましたね。薬物依存者と著者との会話で始まるんですけど、「薬物をやめようという意志を強く持てば持つほどやめられなくなる」という旨の話が出てくる。それで、そもそも意志ってなんなんだろう、というところからこのサブタイトルの「意志と責任の考古学」とあるように起源を探っていくんです。
 調べていくとどうやら昔、中動態という能動でも受動でもない言葉のモードがあったらしい。今残ってるものとしては例えば「欲する」とか「恋する」とかが近くて、読んでいて「いきがかりじょう」とかもそうじゃないかなあと思いました。自分の意志でしようと思ってするものではなくて、周りの環境と自分がいったいとなって自然とその状態になっている、というニュアンスなんですね。

 でもどうしてなくなったのかというと、近代になって誰かが責任を取らないと社会が回らないシステムになって、中動態だと責任の所在が分からない。それでどうしたら責任を押しつけられるかとなったとき、「意志」という概念が作られていった。でも現代になって、それによる弊害も出てきていて、『イナンナの冥界下り』では安田先生は「心の時代」と言っているけれども、うつ病とか依存症やら心の病気が生まれるようになってしまった。そういうところに対して中動態という考え方が、救いになるのではと気づかされました。

 また、ミシマ社の本ともつながるところがあるなと思いました。たとえば『お世話され上手』(釈徹宗著)のなかに出てくる「巻き込まれキャンペーン」もまさに「中動態的に生きる」ということでもありますし、『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎著)での「物乞いにあげる/もらう」というのも、受動・能動ではなく自然とその状態になるのであって、うまく日本語では表現できないけどそういう中動態的な動きなのかなとも思ったり。いろんなものと繋がるな、思った一冊です。

ミシマ『うしろめたさの人類学』の松村さんも、選書フェアにこの本を選ばれてましたね。


『PITCH LEVEL 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法』岩政大樹 (KKベストセラーズ)

『PITCH LEVEL 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法』岩政大樹
(KKベストセラーズ)

 著者の岩政さんはサッカー選手です。鹿島アントラーズでJリーグ3連覇に貢献したり、日本代表にもなった方です。これがめちゃめちゃ面白くてですね、すごい本でした。よくサッカーを観ていると、観る側は「最終ラインが高い低い」とか「フォワードの決定力が云々」など、いろいろ感じることがあると思いますが、では、やってる側のピッチレベル、つまりサッカー選手の現場である試合中に、選手はいったいどういうことを考えているのか? あるいは日々の練習や、ピッチ外でサッカーに向き合う中で、どういうことを考えているのか。そういう論点が7つに整理されて、岩政選手自身の言葉で書かれています。
 つまり、岩政選手の自伝ではなく、サッカー選手としてこれまで考えてきたことが書かれた本です。

 岩政さんはディフェンダーで、すごく気合の入った感じの選手なんです。私の応援する浦和レッズは何度も痛い目にあいました。だけど、岩政選手は気合だけじゃなく、「理屈と情熱」のバランス感覚がすごかったのだということを本書から知りました。理屈がとてもロジカルなのがすごくて、鍛えが入った記述はそのまま、私が大好きな将棋のことや、自分の日々の仕事にも置き換えが可能なくらいでした。岩政選手は数学の教員免許を持っているそうで、ああ、なるほどなと思いました。ほんと興味深いことばかり書かれていますので、いろいろな人に読んでほしいですね。もっと具体的に紹介したいですけど、語ると長くなっちゃうんでガマンします......。

ミシマ岩政さんって、いま何をされてるの?

ワタナベ現在、東京ユナイテッドFCという関東サッカーリーグ1部のクラブでプレーを続けているそうです。コーチ兼任とのこと。1982年生まれだから、35歳かな。岩政選手の今後にも注目ですね。


(つづきます・次回12月25日更新)

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