今月の特集2

 2016年12月16日。あの伝説の漢(おとこ)がミシマ社に再び姿を現しました。その名も大越裕。ミシマ社初期メンバーの一人です。代表・三島の著作『計画と無計画のあいだ』のなかでも常に伝説的なエピソードとともに登場し、隠れファンも多いという噂。そんな大越さんが、ミシマ社創業10周年となる年に、代表・三島、営業・渡辺と共に語り合いました。

伝説リターンズ〜〜あのミシマ社初期メンバーが一夜限りの復活!?(2)

2017.01.10更新

編集者 大越 もう一冊のマスターピース

三島あともう一つ、大越さんの熱い仕事は『書いて生きていく プロ文章論』という本があるんです。これも編集者 大越裕のマスターピースですよね。

大越著者の上阪徹さんという方は、出版業界、とくにビジネス書において有名な凄腕ライターです。学生時代からずっと私も書くことに興味があり、ミシマ社でライターの仕事もするようになったので、「上阪さんのように、高いレベルの仕事を継続的にやれる秘訣を知りたいです」とお願いして、書いてもらいました。有名な話ですが、上阪さんは締切に遅れたことが一度もないんですよ。本当にすごい。

三島大越さん、声が裏返ってる。

大越爪の垢を煎じて毎日飲みたいくらいです。野球選手にたとえるなら、上阪さんがメジャーリーガーで、私は趣味の草野球ぐらいの差があります。でも三島さんって、書き手に意外性というか、ものすごい暴投もするけど超剛速球も投げるみたいな、そういう人を好まれるところがありませんか?

三島まあ、そうですね。僕は基本マグマなんで。マグマという編集方法をとっていますから、底の方にマグマがあるかという。ミシマ社の本はプロじゃないんですよね。これも初期に出した『アマチュア論。』という本があるんですけど、その帯コピーは「自称『オレってプロ』にロクな奴はいない!」ですからね。その後に『プロ文章論』ってね(笑)。この本出すかって。でもプロでもアマチュアでもなく、その両方の範疇をも超えていくぜ、みたいな本づくりというか。つまり野生でやっているんです。こういう本はあの時代に出てすごく良かったですね。

お金のことは考えない?

大越『計画と無計画のあいだ』の書評をちらっとネットで見たら、「(良い意味で)こんな会社が10年も続いていることに驚いた」みたいな感想が散見されたんですけど、僕も独立して本当にそう思ったんですよ。毎月継続して売上を立てて、一人でやっていくだけでも大変なのに、ミシマ社は2011年から京都と東京の二拠点体制でしょう。独立してから初めて「三島さんは何も言わなかったけど、いろんな苦労があるんだろうな」と想像できるようになりました。

三島二拠点はなかなかね、大変ですよ。一拠点の時は僕の視線のどこかに、みんなの動きが入っていた。あそこに木登っているなとか、みんなで「こっち走ろう」といったのに、後ろ走りだしたり、土掘りだしたりする感じ。コントロールできないけど、同じ場所にいるから一応視線には入っているわけなんです。二拠点になって最初戸惑ったのは、「あれ、みんなの動きがわかんない」こと。どんな達人であっても、東海道500キロ離れた動きを感じるのは至難の技です。まして僕なんてまだまだ・・・。

大越三島さんのいいところは、お金の面で外注する相手や社員に対してはすごくしっかりしているけれど、自分の儲けについては二の次にしているところですよ。他社がこういう分野で売れる本を作ったから、自分たちも作ろうなんて発想は、絶対にしない。でも本をつくる人は、そうじゃないといけないと思います。さっきのITベンチャーの話じゃないですが、お金のことばっかり考えてると、逆にどこかで必ず行き詰まるのが会社なんだと思います。

三島いや。お金のこと考えないと駄目です(笑)。


イチオシ本はこれ!

三島最後にちょっと本の話をしましょうか。大越さんのイチオシ本はどれですか?

大越ミシマ社本で私のベストワンは、北野新太さんの『透明の棋士』という本です。これはとにかく素晴らしい本ですよ。タイトル通り、将棋がテーマの本ですが、将棋に一切興味がなくても、全く将棋のことを知らない人が読んでも、必ず目頭が熱くなるはずです。

三島もともとはミシマガジンの連載で、大越さんが担当されていたんですよね。

大越そうですね。もともとは私の高校からの友人で、報知新聞の野球のデスクをしている加藤弘士という男に、「スポーツ紙バカ一代」という取材の裏話をミシマガジンに書いてもらってたんですね。でも加藤が出世してだんだん忙しくなってきて、「後輩を紹介するわ」と紹介してくれたのが、北野さんだったんです。北野さんも野球はじめ、いろんな取材現場の面白い原稿を書いてくれていたんですが、あるときから棋士をテーマに書くようになったんですね。その原稿が、どれも本当に素晴らしくて、読んでいると魂が震えてくるような感じがするんです。北野さんのミシマガの記事はネットの将棋ファンの間で話題となり、今ではプロ棋士の間でも、北野さんの記事は評判となっているようです。一連の記事で、将棋ペンクラブの観戦記部門大賞も受賞されています。
 それで北野さんの話で印象に残っていることがありまして、彼は高校野球で身震いするような試合を観たりすると、「なぜ自分は彼らではないんだろう」と思うらしいんですよ。その感覚って、何となく分かるじゃないですか。ものすごく輝いている人や、魂を燃焼し尽くしているような若い人を見ると、「もしかしたら自分にも、そんな人生があったのかも知れない」と思って、身を焦がすような羨ましさを覚える感覚というか。北野さんは、このミシマガの連載を通じて、まさにずっと人々の記憶に残る高校野球の名選手のような、「北野新太」という一人の稀有な書き手になったと思うんですよね。

三島将棋が趣味の渡辺さんは、この本についてどうですか。

渡辺もうね、本当に読み物として究極というか、至高のノンフィクションです。スポーツ新聞記者の北野さんがなぜ棋士から信頼されているかというと、本当に腰の低い方でとにかく、筆が熱いんです。棋士という生業をしている人と出会ってしまった北野さん自身の心の震え、憧れみたいなものが、その熱さの源泉になっているように思います。将棋の知識が全くない方でもこの本を読めば、「棋士の魂」みたいなものに触れることができます。将棋が指せなくても、将棋のことを好きになってしまう。そんな本がありますか? って話ですよ。

大越北野さんはこれからも、将棋についてすばらしい原稿を書いていくはずです。「コーヒーと一冊」は手にとりやすさを追求したため、1冊1000円の1時間程度で読める内容となっていますが、もう何年かしたら、後の記事を足して、決定版『透明の棋士』を出してほしいと思っています。きっと日本の将棋史に残る一冊になると思いますよ。

三島それは絶対にやりたいですね。

大越期待しています。


漢・オオコシ

三島僕、話聞きながら思いましたけど、よくこの三人でやっていましたよね。一番最年長が大越さんで僕の一つ下が渡辺さんで、三兄弟みたいな。

渡辺大越さんがいま42歳で、三島が41歳。僕は40歳になりました。

大越当時はみんな、31歳32歳くらいだったんですかね。

三島大越さん年上だし、やっぱり気をつかうわけですよ。

大越そうだったんですか。

三島そうだったんですかって、いや、つかっていましたよ。大越さんはもう本当に頑固一徹みたいな、背中に「漢(おとこ)」って彫ってあるんじゃないかと思いました(笑)。

大越いやいや(笑)。でも本当に面白かったです。振り返ってみて、ミシマ社で働いていた時代は、自分にとって「最後の青春時代」だったと思います。さすがに今はね、自分が中年であることを受け入れました。あの時代は、本当に僕の人生の宝物です。また、20周年のときに呼んでくださいね。

三島ぜひ!

  

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