10年後を考える

第4回 インディペンデントから始まる世界のつながり。山梨のローカルライフ<後編>

2018.02.12更新

 「10年後を考える」をテーマに、未来に自分がどう生きていくべきかを考えるこの連載。その最初のケーススタディとして僕の山梨の暮らしを取り上げてみたんだけど、正直言うと色々至らない点があってだな。
 「実はそういうことじゃないんだ〜!」と補足したいことが多々あるので今回も山梨の話の続きをするよ。


ニッチに潜りつつ、外にひらく


山梨の山中で微生物にハマるの図

 田舎に住んでDIY! 自然に囲まれてマイペースに暮らすぞ〜! と言うと「自給自足的ていねいな暮らし」みたいなイメージになるかもしれないけど、現実は全然そんなことなくてむしろ逆。山梨に引っ越してから僕の人生はより尖り、より外に開いていくことになった。

 引っ越し当初こそ「もうデザイナーの仕事やめちゃったし、発酵とか微生物とか超ニッチだし、しばらくひきこもり仙人生活だな...」と覚悟を決めたものの、いざ山の中での生活を始めてみると、

「ワイン飲みたい! 温泉行きたい! 遊び行っていい〜?」

「そんな山の中で何やってるの? ちょっと見せてよ〜」

 と東京時代よりもお客さんが爆増した。しかも引っ越し当初から三年経った今に至るまでずっと訪ねてくる人が絶えない。たまに「千客万来にも程があるだろ!」とうんざりするぐらい家が賑やかになったのだ。

 そして。仕事の面ではどうだったのかというとだな。
 生活費かかんないし、欲張らずぼちぼち頑張るか...と思っていたら引っ越す前よりも仕事のオファーが激増した。

・普通のデザイナーやめて微生物の道に入った
・僻地なので気軽に打ち合わせとかできない

 というビハインドにより、もう世間から見捨てられるに違いない...! と思ったのだが、

「へえ〜面白そう! じゃあそっち遊び行きま−す!」

 と面白がる依頼主が次々とあらわれ、我が家に遊びにくるようになった(しかも首都圏だけじゃなくて全国から)。せっかく遠くまで来てくれたので「近所のワイナリー散歩行きます?」「ついでに温泉入ります?」と一緒に遊んでいたら、びっくりするぐらい仕事がいい感じでまとまるようになった(特に一緒にお風呂入るのが最強!)。

 ここで僕が学んだのは、「自分のフィールドを持つ」ことの大事さだった。

 いきなり話飛んじゃうけど「シンガポールと聞いて連想するのは?」と訊かれたら、十中八九「マーライオン!」となるでしょ。特に強い動機を持たない人がシンガポールに行く理由は「なんとなく、マーライオンでも見よっかな...」であり、もっと言えば「マーライオンがないとシンガポールには行かない」なんだね。マーライオンは単に物理的オブジェであることを超えて「シンガポールに行く理由」になっている。

「え? ヒラク君は結局何が言いたいわけ?」

 そうね。僕の場合に置き換えると、シンガポールが山梨の山の中であり、マーライオンが微生物だったのであるよ。

「都会に事務所構えて、フットワーク軽くかつ手広くデザインを手がける」

 というアクセシビリティと全方位性を捨て、

「僻地で誰も理解できない謎の活動をする」

 というニッチ×二乗の環境に移行したことで「自分だけのフィールド」が出現した。これが結果、対外的な求心力になる。つまり「ニッチに潜ること」と「外に対して開いていくこと」が矛盾していないヘンな状態が生まれるんだね。

 Googleで「カフェ」と検索しても件数が多すぎて自分の行くべきカフェは見つからない。「カフェ 枚方」と検索すると然るべき選択肢があらわれ「カフェ 枚方 猫」と検索すると自分の行くべきカフェはほぼ特定される。僕が山梨の山の中で今の仕事をスタートさせたのは「カフェ」から「枚方の猫カフェ」へのトランジションであり、ビジネス的に見てもわりとクレバーだったのだね(後付けの解釈ですけど)。


ユニークさこそサバイバルの鍵


山梨で味噌屋の兄妹とともにラジオもやってたりします

 自分のフィールドでユニークさを育んでいくことは、実は生物の世界で見ても賢明なサバイバル戦略だ。

 地球の長い歴史のなかで何度か生物の大絶滅が起こったが、その苦難を生き延びたのは必ずしも「強い生物」ではなかった。ていうか「強くあること」「多数を占めること」を目指すと生物はわりとすぐ滅ぶようだ。それはなぜかというと、自分が強すぎるとその強さによって生物多様性が損なわれ、それが環境の激変を招いてしまうから。有名な絶滅種の恐竜は、大きい身体を維持するための大量のエサが環境の変動によって手に入らなくなったために苦境に陥った。

 ではサバイブするためには何が大事かというとこれはもう「ユニークであること」「しなやかであること」の2つに尽きる。

「ユニークであること」とは、生物的に言えば「みんなが食べなさそうなものを喜んで食べる」、「みんなが住みたがらない環境に喜んで住む」ということであり、「しなやかであること」とはつまり「AがダメでもBのテを持っている」ということだ。みんなが欲しがるエサを頼りにしていると、争奪戦になった時に苦しい。みんなが住みたがる場所でメリットを享受していると、そのメリットを狙う競争相手に脅かされることになる。だから「いかに戦わないか」が絶滅を免れる条件になる。白亜紀の大絶滅において、恐竜は滅んだが意外なことにヘビやワニは生き延びた。恐竜は爬虫類より体温調整機能が進化した恒温動物(体内で熱をつくりだせる生物)だったが、熱をつくるためにエサがたくさん必要で、それがアダとなった。ヘビやワニは変温動物で省エネ体質だったから生き延びた。僕の研究対象である酵母も数億年滅びていない生物界の古参プレイヤーだが、その秘訣は「空気があってもなくても生きていける」「エサがなくなったら冬眠する」というフレキシブルさだ。

 「進化している」「優れている」「多数派である」ことがサバイバルの条件にはならない。むしろ個体のハイスペックさがサバイバルを阻害することがしばしば起こる。

 だから目指すは「強さ」ではなく「ユニークさ」で、「いちばんになる」よりは「しなやかでいる」ことだ。

 そのためには、書いてる自分でもヘンな結論だと思うが、「謎の存在」であることが鍵を握る。

「なぜそんなことに?」という謎生物こそがしぶとい...!


ユニークすぎる謎地域の求心力


ワインを飲みによく友だちが訪ねてきます

 謎生物と化した僕が住む土地もまた謎地域だ。
 僕が引っ越したのは甲府盆地を臨む丘陵地で、勝沼地区をはじめとする「日本におけるぶどう&ワインの首都」だ。見渡す限りの斜面に果樹畑がひろがり、3万人弱の人口に40件近いワイナリーと数え切れない果樹農家がひしめくガラパゴス進化甚だしい地域なんだよ。
主な産業=ワイン&果樹栽培!と言ってもいいぐらいの集積度で、春になると桃の花で辺り一面ピンクになり、夏の終わりからそこかしらからワインの発酵する香りが立ち上り、秋になると丘がブドウの紅葉のグラデーションで染まる、日本でもここにしかないようなユニークな景観なんだね。

 そこで生きる人々も日々果樹や醸造に向き合う独特の生業を150年以上継承してきている(詳しくは僕の著書『発酵文化人類学』を読んでね)。

 スーツ来たサラリーマンばっかりの東京から引っ越してくると、みんな野良着や作業着で土まみれになって働いているのにビックリする。雨が続くと「ブドウが病気になる〜!」と心配し、秋になると今年のワインの発酵具合を心配し...と、みんな天気と果樹と微生物のことでアタマがいっぱいなのであるよ。

 さてそんな不思議なこの土地から生まれる「甲州ワイン」は、近年ワイン大国のヨーロッパからも注目されはじめている。詳しい説明は省くが、脈々と受け継がれてきた「日本的ワイン醸造」を洗練させることで、他の国にはマネできないユニークなプロダクトが世界のワイン好きをザワつかせているようだ。僕の家に来た外国からの友だちもみんな寿司屋でワイン飲んでご満悦で帰っていく。今までは醸造家が山梨から海外へ研修に行くだけだったのが、最近では海外から山梨に研修にくるケースも増えている。輸入文化だったはずのワインが、ローカルで洗練され続けることで「地酒」になる。この土地では老若男女みんな地元のワインを飲む(酒の肴はたくあんとかマグロのぶつ切りとか)。

 「ユニークであること」を大事にすれば、ローカルは閉鎖系の環境ではない。
 「なんでそうなった?」があるレベルを超えて洗練されると、それは外の世界への求心力を持つ。

 不思議なことに、ユニークであり続けると、ひとりぼっちではなくなるんだね。


インディペンデント発酵ラボをつくるぞ!


ラボのイメージ図。実際はもっと尖ったものができる予定

 ローカルな環境でユニークであることは、俗世を離れて仙人でいることではないことに僕は気づいた。むしろ同質性と利便性から離脱することで、より多様な存在と多様な関係を結ぶことができる。とか言うとなんか言い回しがカタいので、平たくいえば

「僕のとこ面白いから、遊びにおいで」
「君のとこも面白そうだから、今度いくね」

 という楽しみがあるんだね。

「ヒラク君、うちの特産の焼き物おみやげ!」
「お返しにワイン持ってく?」

 という愉快な交換が我が家でよく行われる。地域内で循環する経済も大事だが、「地域性から生まれる差異」を外から来た誰かと交換することもイケてる。

 「ユニークさ」「ヘンテコさ」という風穴のあいてないローカルは、コミュニティ内部で物事を循環させることにこだわりすぎて息苦しくなっていく(という状況をデザイナー時代によく見た)。だから定期的に外から来た人に「なんでやねん!」とツッコミしてもらうことが必要だ。そこで自分の個性を知り、よりユニークに自分らしくあることに邁進できる。

 山梨のこの土地に引っ越して微生物たちと暮らし始めたことで、僕という存在はローカリティを獲得した。それは物理的な意味だけでなく、普遍的な存在を目指すのをやめてニッチな謎生物として生きる楽しさをゲットしたということだ。

 「ユニークになる」と言ってもそれはマーケティング的な話じゃなくてだな。自分のなかにある「ヘンテコな愛」を育てることであり、自分自身をつくりあげた環境や文脈を肯定することなんだと僕は思う。要は「自分を否定しない」ってことに尽きる。ニッチで偏って不器用な自分でOK!

 ヘンテコさが他者との関わりをつくるきっかけになる。風通しのいいコミュニケーションの起点になるということが僕にとっての「イケてるローカリティ」だ。

 でね。
 引っ越して三年のあいだに遊びに来てくれたみんな、近所の友だちのみんなのおかげで僕はバカボンのパパみたいに「それでいいのだ」的なメンタリティを身につけることができたので、次のチャレンジに着手することにした。

 それは何かというと、「DIYで発酵ラボを建てる」ということだ。これまで菌を培養したり観察したりするのをキッチンの一角でやっていたのだが、もっと本格的にやりたいので、家の近くの畑(家買ったらオマケでついてきた)に小さなラボを新築することにしたのだぜ。

 家もDIYでなおしたので、ラボもとうぜんDIYで建てる。せっかくイチから建てるので、キッチンラボで感じていた限界を解決する仕様にする。具体的には、

・バイオセーフティレベル(できればレベル2)を確保
・無菌状態のスペースを設置
・DNAの培養や微生物の特定ができる設備

 まで実現できたら最高だ。
 このラボができれば、現状高校生レベルの研究を最低限ちゃんとしたレベルまで引き上げられる。そしたらカビの研究者として僕の住む山の中の環境の菌の生態系をリサーチし、イケてる菌の発見にトライするぞ!

 「どういうこと?大学の研修者でもないのに、それやって何になるの?」

 正直よくわからない。研究のその先はひたすら謎なのだが、きっと何かしらの「ローカリティの深化」が待っているのだろうと思われる。そして深化の先には必ず新しい出会いと、他分野でのローカリティを極めているヤツらとの国境を超えたエクスチェンジが待っているはずだ。
 「謎を突き詰めることでサバイバルする」という仮説を自分自身で試すしかねえ...!

 先の見えないチャレンジは楽しい。
 自分でも理由がわからない、でもきっとやった先に答えが見つかりそう。そういう予感があるところに未来があると思うんだな。答え合わせは、今はしない。謎をとことんまで楽しむのみ...!

 ということで僕の話はいったんお終い。次回の内容はこれから考えるけど、おそらく僕の友人を訪ねにいくことになりそうです。それではまた来月会いましょう。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

小倉ヒラク(おぐら・ひらく)

発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市の山の上に発酵ラボをつくり日々菌を育てながら微生物の世界を探求している。『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014を受賞。新著に『発酵文化人類学』。

バックナンバー