わが家の闘争 韓国人ミリャンの嫁入り

第24回 私たちは美男・美女

私のなかでうちの夫のあだ名は「イェプニ」だ。
イェプニは예쁜이(かわいい子)の意味の韓国語である。
本当にうちの夫の顔はすごく綺麗だ。鼻も高いし、顔の形も丸くてかわいい。それに唇もとてもかわいいのだ。眉毛もソン・スンホンみたいに濃い。
しかし、それを認めてくれる人が日本にはいない。

「うちの夫が一番かわいいよ」という私の主張を聞いた日本人の友達は、すべて噴き出すかのように大きく笑う。私としてはまったく理解ができない。そんな照れくさい言葉を平然と言う私にあきれているのもあるだろうけど、みんなは夫を美男子とは思っていないらしい。あまりにもはしゃぐ私の前で仕方なく投げた言葉がこれだ。

「まあ、唇はかわいいね」

不思議なことに韓国に行くとこの現象は逆転する。
韓国の母親と妹はいわゆる面食いで、イケメンが大好き。ふたりは夫に一目ぼれした。
「本当にハンサムね。よく見てみたら歯並びもいいわ」
娘にイケメンと結婚してほしかったお母さんはすぐさま結婚を認めてくれた。妹もそれに賛同し、ハンサムだとすごくびっくりしていた。
これは家族だからではない。私のベストフレンドも夫と一緒にあった日にこういったのだ。

「眼鏡をはずしたらよりハンサムに見える」

夫は多分、韓国に生まれていたらすごくモテ男になれていたと思う。だって、男性の美しさなんかあまり気にしないうちのお父さんもすごく顔がいいと一目ぼれしちゃったくらいなのだ。なのに、残念ながら日本に生まれてモテ男にはなれない。
「韓国で生まれたらタレントさんになれたかもしれない」
この言葉を言うとみんな爆笑する。夫は恥ずかしくて私に横目を向ける。

「ミリャン、もうやめて~!」

私の目は愛でかすんでいるというかもしれない。世界でもっとも大切な人ではあるけど、それだけでハンサムというほど盲目になってしまっているわけではないと思う。たまに不細工に見える時だってあるのだ。

私もそうだ。韓国では美人さんだと言われたのだが、日本に来て一回も「美人」と聞いたことがない。夫は私が太って、しかも服装もめちゃくちゃだからだというけど、顔だけ見ると私は美人に違いがないのだ。二重、高い鼻、厚い唇。なのに、私の魅力を認めてくれる人がひとりもいないのだ。挙句、友達に「色気が100%ない」とまで言われるようになった。
悔しいったらありゃしない。

ちなみに、韓国人の女の子は自分を美人だという子が多い。夫の会社にいる韓国人女性ふたりも自分を「可愛い」と言うらしい。もちろんみんな半分は自分が綺麗であると信じ、綺麗でありたいと思って使う言葉だ。

「本当に韓国人女性はなんでいつも自分が綺麗だというの?」と聞く友達に「だって、私綺麗じゃん」と返すと呆れられてしまう。謙遜じゃないと。しかし、他人が綺麗だといつも言ってくれるわけでもないし、自分をこんなに好きで、綺麗だと思って悪いことはぜんぜんないと私は思う。自分を愛さなくちゃ。

ずっと日本の「美」の定義に疑問を持っていた私がそれを理解したきっかけは、キム・テヒという韓国の女優さんが日本のテレビに出るようになってからだ。
日本では毎年、Jリーグに所属するサッカー選手の選手名鑑が発売される。そのなかには選手への質問コーナーがあるのだが、そこに芸能人のなかで誰が一番好きかという質問が定番である。最近円高の影響で、韓国人選手の多くがJリーグに所属するようになり、名鑑にも当然ながら韓国人選手がいっぱい出てくる。そんな韓国人選手たちが答える好きな芸能人の筆頭、その名はキム・テヒだ。

キム・テヒのことを知らない人のために説明すると、2011年にフジテレビのドラマ「スターと私の99日」に出演していた韓国人の女優さんである。「天国の階段」でジウ姫(チェ・ジウ)と共演したこともある、韓国の大スター。
韓国では最近美人を女神という傾向があるが、女神中の女神、誰もが否定できない美貌の持ち主であるのがキム・テヒだ。寿司に例えると、特上のなかの特上である。

そんな彼女は日本ではあまり人気がないらしい。男の心をつかんでいない。
キム・テヒが出るたびに「綺麗でしょう!!」を叫んだ私に夫の一言!

「まぁ、美人だとは思うけど、興味ないね」

目がぱっちりで鼻が高い典型的な美人さんにはあまり興味がないのだ。典型的だから。
日本の芸能ニュースを見ていると、「ええ? 大して可愛くもないのになんで人気なの?」という女優が急に人気を得たりする。それに昔人気絶好調だったアイドルの映像を見ると、もっと日本の美人の定義がよくわからなくなる。

「あれがかわいいか?」
「あれが美人か?」

などという疑問がずっと頭に浮かんでくる。
夫に聞くと、必ずこういうのだ。

「かわいいじゃん」

実は男性の好みも一般の日本人女性と私とは違う。
私は若干ムキムキ系が好きで、綺麗な筋肉を見ると目がない。もちろん、ボディービルダーみたいな筋肉はお断りだけど・・・また、自分が大きいためか、あまりにも細い男を見ると違和感がする。見てすぐ「私より細い」と判断できる男には近寄れない。しかし、私がちょうどいいと思う筋肉は日本人女性にとっては「Too Much」らしい。

サッカーを見るのもぴったりしたユニフォームを着て男らしさを前面に出して走る男たちの戦いが楽しいからである。ユニフォームがぴったりじゃないチームには野次を投げるときだってあるのだ。
なんだか、だんだん変態みたいな発言になってきたので、自粛する。

まあ、夫にというか、日本で人気がある女優さんの顔を思い出してみると、ひとつの結論に至った。
日本人が好む顔は私の目には印象が薄いのだ。

「なんかね、みんな顔がはっきりしないね」
「日本人は薄い顔が好きな人が多いんじゃないかな。そりゃ、人によって差はあるけど」
「そうか、そうか」

なんだか、合点がいった。
だから、私がいう美人は美人だけど、面白みもないし、好みでもないのだ。
日本では薄い顔が人気なのだ。

「そういう顔の違いを、弥生顔とか縄文顔というんだ」
「ええ? そういうのがあるのね」

初めて聞いた話なので、とても興味津々だった。ネットで調べたりしたら、南方系は縄文顔で北方系が弥生顔だった。だから、眉毛が濃くて印象が強い人を沖縄出身だというのだ。ひとつ勉強になった。

「ああ、あんたは韓国で生まれたらすごくモテたのに残念ね。きっと美男・美女カップルだと周りから言われただろうに」
「ええ? あんたは뚱뚱해(トゥントゥンヘ:太い)だから、美女になれないでしょう。それに寝巻きで出歩いちゃ、誰も美人って言わないよ」
「何が、コンビニぐらい、寝巻きで行っても別に問題ないでしょう。そこまで気にするのがおかしいよ」
「コンビニだけですめば問題にならないんだけどね・・・」
「ちぇ、、、」

夫の口撃には隙がない。
だが、ここで矛を引いては女が廃る!

「今は太って合う服がないのだ。痩せてちょっと身の回りを整えたら、きっとみんな私の美しさに目覚めるはずだよ」
「そうかな、外見だけじゃなくて性格も問題だと思うけど・・・」
「何?」

私が美人だと認められなくてもいい。ハンサムな夫をハンサムだと認めてくれなくてもいい。
私の目に、うちの家族の目には確かに私たちは美男・美女だ。

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プロフィール

趙美良(ちょう・みりゃん)

1979年韓国ソウル生まれ。翻訳家。
ソウルで大学を卒業し、カナダと日本で語学を学んだ。4年前に出会った男性と、付き合ってたったの3ヶ月で結婚。今は日本で暮らしている。昔から夢だった翻訳をしながら、頑張って日本の文化になじもうと誠意努力中。

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