第23回
Vote
2020.10.25更新
「知らなかった・・・」
こんなことになっていたのか。チラシの文面を考えていたときに、自分の無知に僕はのけぞりました。ショック。
4年ぶりの周防大島の町議選、町長選の投票が10月25日に予定されています。その準備でのこと。僕は島に移り住んで8年目を過ごしていますが、移り住む前も、後も、選挙について投票以外に直接関わったことはありません。縁がありませんでした。今回、町議選を中心に若い人、身近な人が立候補することを決意して、新しい人たち、いわゆる新人が何人も出馬することがわかり、そのうちの一人の準備を手伝っています。
この文を書いている現時点で、投票日を迎えていないので結果は出ていません。
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冒頭での「ショック」は、「チラシに政策を書かないほうがいい」というアイデアのことでした。僕もショックだったのだけど、出馬の本人もかなりショックを受けて、何日も悩み揺れ動いていました。書きたい、けど書けない。どどどういうこと?
思うところがあって出馬したのだから、当然、政策をいいたいところです。でも書くべきではない、という。政治や選挙を勉強したことがある友人のアドバイスです。僕の普段の取り組みに置き換えてみると、例えばマルシェやるにしても、ライブやイベントを作るにしても、「どういうことをやりたいのか」と思いを書くのが普通なのだから、面食らいます。
そのうち、一緒に考えていたらだんだん腑に落ちてきました。うむむなるほど。いくつか理由があるのですが、中心は「選挙のあり方」。そこに原因がありそうです。
「立候補します」と公に言っていいのは、ルール上、立候補届けを出してから。つまり、告示日を迎えるまでは準備していても「立候補します」と言ってはいけないらしい。それまでは、挨拶まわりしても「こんにちは~」と何しにきたかよくわからない挨拶になりかねません。ある意味、不審(実際はもっと工夫するのですが)。
この島の選挙に関していえば、「告示日」から「投開票日」まで5日間しかなく、その間に初めて「立候補します」「議員になろうと思います」「一票をよろしくお願いします」と言えるように。
この「期間の短さ」。もうすでにあちこちでも言われているかと思いますが、これでは政策どころか名前も、僕たちの耳に入ってきません。それの意味するところは「印象で勝負」、そういうあり方に行き着くんだなと気づきました。とにかくイメージイメージイメージ。
チラシの件。例えば、今までも議員を勤めていた現職候補なら、実績があるので「これまでやってきたこと」をもとに書けて、イメージは全く悪くない。でも、名の知られていない新人候補者が、政策を書いたら? 「それほんとにできるの」とイメージが悪く映ることがあるといいます。それならばいっそ書かないほうがいい、という判断がここで浮上。その方がこの選挙を戦うためには最善だ、そういう理屈です。
このとき思いました。「政策を訴えない」「いいたいことを言わない」を突き詰めていくと、どんどん本人は空っぽになっていくしかないなと。中身が空っぽになれる人が選挙に強い、ともいえそう。中身を空っぽにして、より多数の人がいい印象を抱くあれこれの匂いを嗅ぎつけて、口にして、表現する。これが、今の選挙の制度で勝つことなのかも。ほんとにそうなの?
試しにその目で国政や首長選挙などをみてみたら、「うわあ」。なるほどなるほど。いやーな納得をしてしまいました。これじゃあ、マイノリティの意見を聞くわけ・・が・・・。
政治って、表現の世界の極北なんじゃないかと、急に思えてきました。
その目で見てみたら、そこと相性のいい表現の世界も、おのずと見えてくるかのようです。
思うところがあったから、選挙に出ようと思った人たち。候補者本人が「なんで書いちゃいけないの」と苦しむのもそりゃ当然、僕も苦しい気持ちになりました。
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都市部ではそれでも違うかもしれませんが、この地域は過疎高齢化しているという特徴があるので、そこを考えないといけません。
町の有権者(13996人/10月20日現在 )の大多数は、高齢者です。しかも元気な高齢の方たちがたくさんいます。先日、80歳になってパパイヤの木を百本と植えて栽培の挑戦を始めたプロ農家の人がいる話を聞きました。衰えない探求心、驚くべき体力。
選挙戦でネットを使ったりしても、都市部のようには機能しないだろう。選挙戦で勝つことは直接関係ないから力を入れる必要がないかもしれない、とスタッフ同士で話していました。SNSユーザーにはキャッチしてもらえても、普段それらを使わない有権者が近くにいる可能性あり。例えば高齢者はどう感じるか、そういう方たちに寄り添うことが第一です。
令和になっていても、大正、昭和、平成みんないます。「会って握手」「チラシ配り」そういう足で稼ぐような泥臭さが、人の胸を打つ。(今回はコロナ影響で握手ができないけど)
それらはライブハウスの前での「手配りのチラシ」にも似た、地味かつ確かな営みだともいえます。
選挙前にも実はやることがたくさん。1人では到底準備できないので、後援会を編成して、チラシ、のぼり、選挙カー、選挙期間のスタッフ采配・・・。本人は、支援者と連絡をとり、島じゅうをチラシをもって挨拶まわり。ある場所に立って「おはようございます」と声をかける辻立ち、またいわゆる街頭演説など。以前は「そういう行動、意味あるの?」と僕は思っていました。そういうふうに傍観していた1人です。
挨拶まわりにいけばその先で会話が始まり、ともすれば時間も使う。「大島」というだけに外周138km。離島もあるので船でも足を運びます。移動だけでもなかなかです。
さっき書いたように、「辻立ち」も「挨拶まわり」も告示前は一票お願いも言えず、立候補しますも言えず、のぼりに「名前」を出すこともできません。つまり、告示日までは「何やってるかわからない状態」です。
こんな話もしていました。
「後援会ってよく見るけど、活動していないでしょ」
「ただの名前だけなんじゃないの?」
のちに、勉強不足の僕は、後援会があることで「看板を設置できる数」や「ハガキを送れる」など、ルール上できることが増えるのだと知りました。
告示から選挙期間に入ると、「立候補者の誰々です」「投票をお願いします」ということがようやく言える。そこでできるようになるのが「電話かけ」「ハガキの発送」。ネットが使える世代にはもうピンとこないであろう営みが、「どうだ」といわんばかりに顔を近づけて迫ってきます。
いわゆる選挙ポスターは、もし告示日に貼っていなくて次の日とかになると「やる気がない」と思われるので、なるべく早くしっかり貼りきる。なので人員が必要です(あるいは候補者同士の事前の申し合わせもあり。それをのちに知る)。
ハガキの宛先を書く有権者の住所は、個人情報につきコピー不可、写メ不可。手書きで写し取ります。僕も半日やって、右手が痛くなりました。
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候補者が、準備期間中ぽろっと漏らしました。
「これ、コロナじゃなかったら立候補しなかったよ」
普段仕事をしている世代全員にいえるのですが、たしかにヒマがないと到底できない期間設定と仕事量です。
また、ある支援者がぽろっと漏らしました。
「関わってみて初めてわかったけど、手伝いたくても、特に勤めに出てたら何にもできないよね」
おのずと準備も本番も、日中に活動できるのは定年退職した方たちや、比較的時間の融通がきく自営業者などになります。ところが、
「よりによってなんで畑が忙しい時期にあるんだろう」
今、みかんの収穫や稲刈りの最盛期です。実際めちゃ忙しい。自営業者の中でも一次産業従事者が多い島で、なんでこの期間設定なんだろう。でも、高齢の方たちの投票を考えると、たしかに冬や夏に行うのも、厳しいものがある。
また自営業者でも商売している人は、近い人間関係の中で利害もぶつかってしまうし、印象もあるので、表立って「この人を支持しています」となかなか言い切れないところがある。
民主主義とはなんだろう。どこか何かがおかしい。どうしたらいいのだろう。
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今回の島を取り巻く選挙は、それでもやっぱり今までとはどこか風向きが違うようにも感じます。2018年の「断水」の件が引き金になって、思うところがある人が増えている、ということを表しているのかも。
それだけではなく、たび重なる豪雨などでの災害、それから新型コロナによる過疎高齢化地域での影響、インフラ、医療、観光業などいろんな場面で対応を問われています。
これらは若い世代も無関係ではいられないし、僕みたいな若い世代なのか中年世代なのかとにかく元気な世代はいろいろトライするべきだと思いました。だってこれだけいろんなことが起きて、これからも起き続けるのだから。
1か月前に道路から染み出しはじめた家の近所のナゾの水。これは山からの地下水なのか、地下に埋まっている水道管の漏水なのか。1か月前に水道課の方が水質検査に来られてから、そのままです。娘は来年中学生。統合の第一期生となりますが、長くかかるバス通学、これまたバス停までの道は夜イノシシが通る道。そんなこんなも身近な話です。
途中で「ネットの活用は実質意味ない」みたいなことを書きましたが、告示後、すぐにネットの活用が始まりました。するとすぐにレスポンスがあって、思わぬ反響に驚きと喜びに包まれています。
この文章は投票日に掲載されますので、当初書いていた応援中の候補者の名前を、一応消しました。万が一ルールに抵触してしまってはと思ったからです。ネットでの選挙ルールはちょっと複雑です。
今回のことで「昔ながらの選挙」と「これからの選挙」のちょうど境目を見ているかもしれないと感じています。
これまで通りにとどまる必要はない。これからを生きるんだから。そう悟って、毎日チューニング中です。さて、結果はいかに。