ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第4回

風をあつめてふくらんで飛んで

2018.07.11更新

 つい先ごろ、妙に納得というか、頷いてしまうというか、むしろ共感を飛び越してしまいそうな意見に、島で出会いました。とあるインタビューでの出来事です。

 Q「都会から来てこちらで暮らしてみて、困ることとか不便だな、と思うことは何かありますか?」

 A「うーん、不便とは感じないというか、ちょっと慣れてきてしまってよくわかんないんですが・・・。息子は『東京にいたときよりも便利だね』といってますね」

 答えていたのは三浦宏之さん。周防大島で農業と、本州でのラジオディレクターの仕事を掛け持ちされています。この日、海のむこうの大都市・松山からのラジオ取材があって、三浦さんが被取材者。僕はその傍らに同席していました。家族で東京から移住したのが、僕と同時期の5年前。三浦さん親子の発言の主意は、「東京にいた時よりもコンビニがだんぜん近い」「ドラッグストアも近い」「米作れるし」「野菜とか魚とかももらえるし」。つまり《無敵》ということだったみたいです。

 〈ちょ、ちょっとたんま・・・。〉そばで聞いていて、さすがに「東京よりも便利」発言にはたじろぎました。同じ島といえども、僕たち家族の生活には必ずしも当てはまりません。お店や、田んぼのあり無しなどの環境の違いもあるし、本州に近い三浦さんの地域ならではの部分も大いにある。だから僕としては「より便利」とは言い難い・・・言いがた・・・言ってもいい・・・? か・・・? も・・・そうかも・・・!?

 反芻しているうちに、僕もだんだん「より便利」な気になってきました。便利という言葉がふさわしくなければ「快適」「爽快」、そんな感じでしょうか。

 考えてみれば、車を少し走らせれば買い物はできるし、お店がなくてもネットで注文すれば届く。実際不便と感じたことはそんなになくて、むしろ息子さんが言うように、食べ物は自分で作れて、ときにはもらえる。そういう安心感はかなり強力にあります。

 三浦さんは住み始めた当初、島の観光協会の方にこう言われていたそうです。

「今の新鮮な気持ちを忘れないように、島の良いところ、悪いところをしっかり見続けてください」

 そして、三浦さん本人もこう言います。

「『都会に比べると大変でしょう?』『どんなところが?』っていつも聞かれるんだけど、だんだんわからなくなってきちゃったんですよね。最初のころは"よそ者目線"として『こんなところが素敵だよ』『おもしろいよ』なんて言いまくってたんですけどねえ」

 これ、僕もよくわかります。自分にとって〈普通でない〉と感じていたことが、環境に馴染むとともにだんだん当たり前に。そして5年経ち、新しく移り住んだ人に会ったとき、「僕は東京の人じゃなくなってきてるんだなあ」と新鮮な気持ちになってしまうのです。

***

 同じころ、こちらも同時期に移住した宮田正樹さん・喜美子さんご夫婦とじっくりお話する機会がありました。ミシマ社の『ちゃぶ台』でもおなじみ、「野の畑 みやた農園」を営む野菜農家のおふたりです。最近かなり忙しそうだったので本当に久しぶり。農園で採れた野菜をばくばく頂きながら訊いていたのですが、そこには予想を超えた悲喜こもごもが凝縮されていました。移住者として、とくに農業を選択した者として共感してやまないファニーかつインタレストなおもしろさ。腹で笑って、心で泣いて、でまた笑って。宮田さんは、どこまでも飛んでいきます。うまく伝えられればいいのですが―――。


 と、その前に、ちょっと整理。

 一口にいう〈農業〉の営みの中に、いくつかの分類があります。農林水産省のホームページ(「有機農業をめぐる事情」平成30年4月)によれば、全国の耕地面積の99.5%(ほぼ全部!)を占める生産方法は、〈慣行農業/慣行栽培〉や〈一般栽培〉などとも呼ばれるもので、一般的には化学肥料や農薬を使用して栽培されています。

 他方、残りの0.5%の中に、いわゆる〈有機農業〉や〈オーガニック〉といわれる生産方法があり、さらにその中でもさまざまな手法に名前がついています。〈有機農業/有機栽培〉〈自然農法〉〈自然農〉〈自然栽培〉〈炭素循環農法〉〈バイオダイナミック農法〉〈○○式○○〉などなど・・・。たずさわる「人」それぞれの意思や背景によって、さまざまなアプローチが提示されています。細分化されていくほどに「どこがどう違うの!?」となってしまうところなんかは、まるでロックバンドの系譜さながら。僕は農業のそんなところもおもしろいと思っているのですが、日本国内「0.5%」というシビアな数字には、実に考えさせられるところでもあります。

 宮田さんは、その中でいう〈有機農業〉を10年営んだのち、5年前に周防大島に移住して〈自然農〉に切り替えた方です。(前述の三浦さんも〈自然農〉)。

 「収量でここまで苦労させられるとは、思っていなかったです。あっはっは」

 久しぶりにお会いして、さっそくこの話題になりました。

 自然農の大きな特徴のひとつは「不耕起」。フコウキと読むそれは、読んで字のごとく"耕さない"ことを方法の一つに置くのですが、なんで耕さないのかというと、「土の中の環境をいじらない=土の中の生物(微生物)に自然の状態のまま活躍してもらうため」と、僕は理解しています。ところが宮田さん、例えばジャガイモを30㎏収穫するために、有機農業のころは30株を植えれば採れていたところ、100株植えないと同じ量にならない、と苦笑い。

「それでも耕さないんですか?」

 と訊くと、

「自給用の田んぼでは不耕起をあきらめました。畑の草がはびこるんです。ははは(笑)」

 と言いつつも、畑では不耕起を続けていくそう。その理由はどうやら、何にも代え難い「おいしさ」にあるようです。

0711-1.jpg

宮田さんの畑 開墾前

0711-2.jpg宮田さんの畑 開墾後

 また、自然農は「マルチ」(畑でよく見る黒や透明などのビニールシート資材)を始めとした、人工的に作られた資材を使用しないことも特徴です。自然農で育てた玉ねぎの小ささに苦労している、という話。マルチを使えば大きくなるのはわかっている。でもやらない。有機農業のときは、誰よりもマルチを張るスピードが速かったそうです。でも、やりたくない。

「今年、きみさん(奥さん)と話して、ついにマルチを張ってしまいました。ところが・・・畑の一角、玉ねぎのところをみると、そこだけちょっと・・・草が生えてなくて・・・なんかこう気持ち悪くて・・・・・・結局すぐはがしてしまいました(笑)」

 えーーーっ!

「そう、いやだったんだよね。いやなら、しょうがない(笑)」

 と隣で訊いていた喜美子さんが今度は苦笑い。

 なんと、張ったそばからはがしてしまった宮田さん。

 訊いていて、自分の身体感覚にそって判断しているのが即座に理解できました。この気持ち、なんかよくわかります。ただ、一般的に「商売」としてみたときには、収量や作業時間で苦労しているわけだから、そこにこだわることもないのでは?

 すると、こんな答えが返ってきました。

「機械がいらない、つまり、誰でもできて、お金がかからない。みんなやれるんです。そうやって多くの人に、畑に、土、虫、草に、そして自分の食べるものに、触れてほしいんです」

「ほんの一部屋くらいの畑でいいんです。それで充分いろんな野菜が採れますから」

 なるほど! そこで一気に腑に落ちました。宮田さんの核心。苦労の向きがわかりました。つまり、商売としての手段としてだけではなく、そもそもの「喜び」を多くの人に感じてほしい。そこに向かう営みであり、身体の求めにしたがって、自分がこれだと思う方法を確立させていく。そういうことを包み込んだ農業への強い思いを、これらの言葉は物語っていました。

 開墾時、やっかいな雑木の大きな根を「抜根」した場面を回想する宮田さん。根っこに対する感情移入具合がまたそれを裏付けていて、笑ってしまいました。

 移住+農業で言えば、一方でこんな話もあります。

 移住して3年目の米農家・村上善紀さん。彼は逆に〈炭素循環農法〉を基礎においた野菜作りから、島にきて新しい農業の手法での米作りにシフトしました。彼はむしろ〈手法にこだわりすぎない〉方へ。これもまた、農業の別の地平を切り拓いていく重要な在り方に、僕には見えます。

 農業ひとつとっても、やり方の奥にひとりひとりの考え方、姿勢がある。それをありのままに、明らかに見ていくと、そこにおもしろさが詰まっている。そしてそこから何かが展開していく気配がして、心を震わせてくれます。これはとてもジューシーな部分だと思うので、いつかの回でまた触れていけたらと思います。

***

 宮田さんたちは、今年〈最後の開墾〉と称する、聞くだけで身震いするハードな冬を経て、畑を広げました。正樹さんはなんと腰をいためてしまったそうです。でも、そのハードさとは裏腹に、ふたり口をそろえて「これからが楽しみ」といいます。(トピック満載なので、三島さんにまた詳しくインタビューしてもらいましょう)

 この開墾によって、畑を「借りる」段階から奇しくも「取得する」に至ったともいう宮田さん夫妻。たまたま中村家も別のことで、似たような局面に出会ったところでした。

 そう、暮らしにとって、切っても切れない分野〈物件〉。これがまたなかなか~な課題を与えてくれるのです。

中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

編集部からのお知らせ

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 今回の記事で紹介された宮田正樹さん・喜美子さんご夫婦が営む「野の畑 みやた農園」。中村明珍さんも暮らす周防大島で野菜を無農薬・無化学肥料・露地栽培・不耕起で育てている農家さんです。そして「野の畑 みやた農園」HPには、この冬の開墾レポートが公開されています。こちらもぜひご覧ください!

野の畑 みやた農園|開墾記


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 また、ミシマ社の雑誌 『ちゃぶ台 vol.2 革命前々夜号』では、「野の畑 みやた農園」宮田正樹さんへのロングインタビューを収録しています。みやた農園のことをもっと知りたい方は、こちらもぜひお読みください。

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『ちゃぶ台 vol.2 革命前々夜号』ミシマ社編(ミシマ社)

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07月11日
第4回 風をあつめてふくらんで飛んで 中村 明珍
06月10日
第3回 火と田 中村 明珍
05月05日
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