ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第5回

空師はソラシ

2018.08.05更新

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 梅雨という字、こっちにきて初めて意味がわかりました。

 6月はまさに梅。少しずつアツアツジメジメになっていく初夏の梅畑には大量の実が生り、せっせと収穫しては山を下りる毎日が続きます。梅は"足がはやい"ので、作業はスピード命。ひと月ほどの短い間に収穫作業が凝縮されます。

「高い木の枝を払う人を、空師っていうんだって」

 毎月通っているお寺で、先ごろ教えてもらいました。無農薬で育てるための立枝を残す栽培方法を学んだので、高くそびえてしまっている梅の木。空師とまでは言えないながらも、時によじ登り、落ちそうになりながら収穫していきます。

 ものすごい変な姿勢で宙空に浮かぶ、我が晴れ姿。孤独に作業しているのでおもしろさを共有できずにちょっとさみしい。でも、周囲には生物の息づかいが聴こえ、こわ~い虫の不意の接近で身の危険も感じながらのスリリングな作業は、やはりたまらないです。

 ちなみにこの梅畑は、親戚のおっちゃんから借り受けました。山の中にある畑なことに加えて、たくさんの大きな木の管理が大変になったからだと思います。僕はその人の半分の年齢だけど、自分でやってみてもハアハア言うぐらい。逆にその年齢までやっていたのがすごいです。今でもその先輩、別の畑は管理しているし、毎度その馬力には仰天させられます。

***

 さかのぼって今年の3月。中村家は5年住んだ家を出ることになりました。こちらも畑同様、やや遠めの親戚からお借りしていた借家です。5年更新の約束で、満5年で転居。許可も得てリフォームもバッチリやって、一応、10年くらい住むような見込みの話もしていました。不動産屋を通さず、しかも契約書を交わしていません。親戚だから・・・。

 

 さあ移住、と考えたときに最初の段階で心配になるのが「物件」のことかと思います。

そして地方、特に過疎地へ移住するときの、この重要なトピックにはいくつかの特徴があることが自分なりにわかりました。

 ①不動産屋を通すパターン・通さないパターン②空き家多いのか少ないのか問題③誰かが帰ってきちゃう④借りるのか、買うのか

 ここ周防大島も過疎地の一つだから、空き家のように見える家はそこら中にあります。"ように見える"としたのは、「誰も住んでいない」けど、盆や正月など年に1回以上「誰かが帰ってくる家」もたくさんあるからです。状態はピンからキリまで、今にも崩れてしまいそうな家から、オシャレな家に変わりそうな古民家、はたまたモダンな家。とにかく情景としては、普段使っていない家が種々たくさんある、というのを思い浮かべてみてください。

 物件を見つけるときは、東京にいたとき同様に《不動産屋を通して物件にあたり、大家さんと契約》するのが通常のプロセスなのかと思っていました。が、こちらでは《大家さんと直接やりとり》というケースも割とある。これには驚きました。

 僕はたまたま親戚がいる地域に移住したので、本人との貸借になったけど、他にもまず、役場、お寺、地域の人、長老みたいな方などを通してのマッチングがあり、そこから直接契約していく光景が見受けられます。この立場の方の活躍が、移住者にとっては本当に助かるし、安心だし、重要な役割を担っていると感じます。

 さて、それでは物件に住めるようになったとします。実はそのあとにちょっとした落とし穴。自分の体験と何人かの友だちの体験、聞いた話などを並べてみたところ、「なーんか似てる」と感じたことがありました。条件、要因が違うのでどれもが「ケースバイケース」で、一刀両断できないこと。そこを十分注意した上で、思ったのは―――。

 人は、気持ちが変わる。状況も変わる。

 当たり前ですが、そういうことでした。

 よくあるのが、過疎地ゆえ「どうしてくれてもいいよ(=リフォームしていい)」「誰も使わないから」という風に最初に言ってくれるのですが、どの段階かで、時おり状況が変わってきてしまうことです。つまり「やっぱり使う」「誰かが帰ってくる」などなど。

 こういうときの為にこそ!

 「契約」という知恵があると思うのですが、例えばケース・中村では「親戚」だったのが落とし穴。契約書を交わしていなかったからです。リフォームしてしまった点ではある種哀しい方向転換に迫られましたが、もちろん大家さんの意向と約束が最優先だし、むしろそれまで好意で貸してくれたということには、感謝してもしきれません。

 またある友人のケースでは、自宅兼店舗として物件を借りて約束しながらことを進めていたのですが、途中でだんだん条件が変わって雲行きがあやしくなり・・・数年かかってようやく解決し、開店できたというケースもありました。

 このあたりの対応は、地域や行政ごとでも様々あるかと思います。

 また別の角度では、気持ちが変わるのではなく「判断する人が変わる」ということもあります。どういうことか。それは直接やりとりしている相手の人ではなく、例えばその家族、親戚、関係者のどなたかの考えが、時間差で反映されることがある、ということです。こちらから見ると「大家さん本人の言っていることが変わっている」と見えますが、その実、大家さんの向こうで、何かが起こっているパターンです。

 不動産屋さんを通さないからこういうことが起こるんでしょ、という意見もあるかと思います。ですが、不動産屋さんを通して契約が成立している中にも、気持ちや状況の変化で哀しい事態はありえる。

 僕の身近では、そもそも実際に不動産屋さんがないことや、またあったとしても過疎地でわざわざ通すことに必然を感じていないので、直接契約できるのであればそれでいいと思っています。誠実に暮らしていれば、困ったときには周りの人が助けてくれる経験も、ままあります。

 なので、こういう事態が起こる前にできること。それは次のような構えなのではと思うようになりました。

 最初は借りて、地域に慣れてきたら、買う。

 借家のときは、あまり手を入れない。

 しょうもないスローガンみたいになってしまいましたが、もし、こういうことを事前にキャッチできていたら、僕の場合ももうちょっと違っていたかもしれないなあとも思うのです。

(家を「所有する」という考えについては、これはまた別途、個人的に引き裂かれていこうと思います。)

 

 実は、親しい農家さんの中には、開墾した畑でも似たようなことがあるともうかがいました。畑を整えるには莫大な労力と時間がかかります。そうしてできた「土」が、あるとき使えなくなると思うと・・・。また、奇しくもミシマ社のオフィスにまつわる話でも似たようなことがあったとか(「働く場所があってこそ」)。

 身近にあるということは、やはり「あるある」なのかもしれません。

 でも、じゃあなぜそこまでして、暮らしたいなんて思うのか。

 うーんとうなってしまいますが、それはやっぱり「人間らしい生活」ができている感じがするから、でしょうか。余計な悩み事が少なく、ちょっとした喜びが最高。居るだけでまずは喜んでもらえる。生きていける。生まれて30年、都会の絶望と希望の中でくんずほずれつしてきたので、これは何回も声を大にして言ってもいいんじゃないかな(できるだけさわやかに)と思っています。

 さて、家を出る必要に迫られた中村家、次の住まいへと舵を切りました。正確には、住まいというか「元・保育園」を買いました。より正確には、妻が買いました。字数が尽きてしまいましたので、これはまた後日綴りたいと思います。

 ちなみに今住んでいる借家の家賃は、1万円です。

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中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

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中村明珍さん出演イベント情報
今月、鳥取の「タルマーリー」さんで中村明珍さんのイベントが開催されます!

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 「元パンクロッカーが田舎に暮らしてみて、今どうなの?!」

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タルーマーリーの渡邉格さんと中村明珍さんは、お二人ともミシマ社の雑誌『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 vol.3 「教育×地元」号』に寄稿頂いています。

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