ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第6回

慈悲ースターダスト

2018.09.09更新

 7月、近所に住む妻方の祖母が息を引き取りました。つい先ごろまで自宅で暮らしていたので、ゆっくりというよりは突然の旅立ち。僕が移住したばかりのころには、普通に山のみかん畑に出かけて作業をしていたし、最近でも家で近所のおばちゃんたちと大きな声でおしゃべりしていたから、びっくりするような。

 そもそも、2011年の震災があったときには東京で暮らしていた僕たち家族。妻と当時3歳の娘は、そのおばあちゃんが住んでいる周防大島に一旦移って、そのまま定着。それがのちの僕の暮らしの始まりでした。東京とまったく違って「保育園にすんなり入れた」という点も大きかったし、なにより、海も山もあるおおらかな地形が体にすんなり入ってきました。

 おばあちゃんは大のカープファン。その様子はミシマガジンでの第3話にも書きましたし、家族を巡るカープへの情熱は「屋上野球vol.3」(編集室屋上)にも綴りました。祖母、母、叔母、妻、孫と4世代で暮らせた光景は祖母にとってもよかったようで、見舞いにきた義理の兄に「幸せだった」と伝えていたそう。もちろん僕たちにとっても子どもたちにとっても幸せな時間でした。

 先ほど、ゴミ袋に書く名前が祖母から父に変わっていたことに気づき、だいぶさみしい気持ちがこみ上げてきました。

***

 話は変わり8月上旬、お盆の勤めで兵庫のお寺に寝泊まりしていた朝。突如としてテレビのニュースに登場した「周防大島」というワード。そう、あの2歳児の、行方不明の一件がありました。

 僕が住んでいる場所とは離れている地域だったので、土地勘は全くなかったのですが、うちの子どもとも1歳違い。同じような景色のつづく場所。とてもとても、人ごととは思えませんでした。

 僕たちの家(廃保育園)のリフォームを手掛けてくれる黒木建築設計の黒木淳史さんはそのころ、まさに現場の「家房」という集落で作業中でした。

「もうね、仕事にならんのよ。切なくて」

 作業していた家の近くには多くの捜索隊が入り、集落の防災スピーカーで連絡の声、そしてお母さんの声。反応が聴こえるようにと、放送が流れたあと、手を止め静かにするんだそうです。黒木さんの話を訊いただけで泣けてきました。

 なので、ボランティアの尾畠さんによる発見には、全国の皆さんと同じかそれ以上にほっと胸をなでおろしました。居なくなった日は1歳だったのに、見つかったときには2歳。誕生日をまたいでいたのも、見つかった今となってはなんともかわいらしい現象です。大分からはるばるやって来た尾畠さん、テレビやネットで流れるその佇まいをみて、僕は「祈りが人の形をしてるような・・・」と思いました。

「何年か前にも、同じようなことがあったよね」

 お盆の時期に、いつものように島のジャム屋「瀬戸内ジャムズガーデン」での勤めに出たその休憩時間。一緒に働いている地元出身の学生がそんな話をしていました。他の人たちもあったよね~、と、その記憶があるといいます。その一件は似てる、というよりもほぼ同じようなケースで、やっぱり3日後ぐらいに沢で見つかった幼児がいたそうなんです。

 この手の話、実は周防大島出身の宮本常一の著作にも同じような記載があります。これってたまにある光景なの? と驚く感じだけど、神隠し→見つかる、みたいなことが起こるこの島の風土は、不思議といえば不思議、ありそうっちゃあ、ありそうです。

 この渦中のなか、僕はふと、島に住む自分たちにとってはどういう意味? どういうサインなの? と考えていました。深く考えることもないかもしれないけど、ともすれば、今年の1月には島全体の断水があり、7月には西日本の大豪雨で各所が崩れ、被害もあった。そして、幸いにもいずれも人的被害まで至らずに済んでいる。

 そして、尾畠さんのような人の登場。その姿を見るに、やっぱり「祈り」だったり「願い」みたいな、都会育ちの僕にとってはなじみの薄くなっている、フツーで単純で素朴な気持ち。その強さというか確かさを感じました。

 もっというと、「生命」そのものを、そのものとして感じるにちょうどよさそうな場所。この島はその一つとはいえるのかな、とも思いました。祖母の死もあり、一連の流れが僕にとってはそれが自然に感じられたのです。むしろ、そう感じないのはもったいない、というぐらいに。

 もしかしたら今、どんな場所もそうなのかもしれないです。

***

 ラジオ受信機を耳にこすりつけるようにして「カープ・ナイター」を聴くのが生き甲斐だった祖母。食事の席にはカープの選手名鑑がいつも置いてありました。今、仏壇にそのラジオが置いてあり、試合の日にはスイッチオン。

 旅立ったちょうど一カ月後の、8月23日。カープファンの義理の兄がチケットを譲ってくれて、初めて家族で広島・マツダスタジアムでの試合を見ることになりました。入手困難なチケットを手に、同じく熱烈なカープファンの叔母と球場にイン。

 試合は、4回までで0-7でボロ負け。8回までで盛り返すも5-8、もうこれは負ける試合だろうと僕は車を取りに、サッサと球場をあとにしました。

 試合終了後、再会した家族の様子がなんかおかしい。そう、僕が見てない9回のウラに4点を入れて、奇跡のサヨナラ逆転勝利をおさめていたのです。初めて行った生野球のすご試合に、興奮するわが家族。前の席の知らない夫婦も泣いて握手をもとめてきたそうです。

「○○選手の背番号は何番でしょう!?」

 帰ったら、カープのカの字もなかった小4の娘が見事なカープ女子に化けてしまいました。

「じゃあ、〇〇選手は!?」

 知らねーよ! おばあちゃーーーん。

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中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

編集部からのお知らせ

2018年10月19日(金)発売の『ちゃぶ台Vol.4』には、中村明珍さんが「猪突ちょっとずつ」を寄稿くださっています。どうぞご期待ください!

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