ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第7回

歌いたいから歌う

2018.10.14更新

 島のことで、今回はこの件には触れないわけにはいきません。つい先ごろあった「大阪の警察署からの逃走犯、山口で確保」の一件です。

 なぜかというとその犯人、周防大島に1週間以上滞在していたから。しかもうちから近所の「道の駅」を中心として、いかにも周防大島らしい光景が静かに広がっていたからです。詳しい経緯はニュースなどに譲るとして、ここでどんなことがあったか。

 数日前に娘の小学校の運動会があり、その準備の最中に知り合いの1人に訊きました。

「なんかあの犯人、道の駅にいたらしいですよね?」

「そうそう、私、声かけたんですよ。『あんたどっから来たん?』って。びっくりしましたよ~」

「えーーーっ!」

 相当目立っていたから、つい声をかけたそう。たしかにそういうこと、ここではよくあります。

 用事のついでに集落の自治会長にも訊いてみました。すると、

「僕ね、見かけたよ。見慣れない人が『日本一周』って書いて走ってるんだから」

「『がんばってるな~』って感じで見てたよね。ここも通ってたよ。あーびっくり」

「友達は話しかけたって言ってたよ」

 親戚は、気づけば隣でご飯を食べていた。ニュース見てあーーーっとなったというし、どうも見かけた人だけでもかなりの数。妻の職場である体育館ではシャワーを浴びていたそう。僕たち夫婦はそろって全く気づきませんでしたが・・・。

 なかでも、当人の『写真を撮った』ために時の人となってしまった道の駅「サザンセトとうわ」の支配人、岡崎竜一さん。報道によると、逃走犯は逃げているにも関わらず岡崎さんの撮影のオーダーに快く応じたり、その辺で寝泊りしたり。岡崎さんもご飯を食べさせたりしていたみたいで、それらほんとのところどうなっていたんだろう、と気になっていました。

 直接訊いてみたいな~とぼんやり想像していた、わが家への帰り道。軽トラの窓の向こうからやってくる自転車を見ると岡崎さんその人。通り過ぎて立ち止まりました。

「カツとじ定食食べさせたら喜んでさ」

 バッタリ会った小高い丘の中腹、海を望むきれいな場所で、いきなりナマの話を聞かせてもえらえました。

 「『倉庫に泊めてもらったお礼に、仕事をさせてください』って」

 岡崎さんは寝泊りするためにと倉庫を貸したんだそう。「仕事をさせてください」とはなんとなく「千と千尋の神隠し」な場面。いきなりレジに立ってもらうわけにもいかず、代わりに草むしりを依頼すると喜んでやっていたとのこと。200円ほどの体育館のシャワー代を出してあげたし、従業員の方々とも仲良くしていた、と。

 ニュースを読むと、近所の人も郷土料理の「茶粥」など食事を施していたみたい。僕もこれらを訊きながら(そりゃそうするよねえ)と思っていたので、

「これって、島では日常って感じですよね」

 というと、

「そうなんだよ」

 と応答してくれました。

 記事では、食べ物を提供した近所の女性が、

 「困っている人に優しくするのは当然だが、こんな事件になって悔しい」と話す。(毎日新聞・2018年10月3日)

 とあって、僕もまあ確かになあ~なんとも言えない気持ちになったのだけど、一方でこのとき思いました。

 優しくする行為自体は、そうしたいと思うからこそ、そこに生じるわけで。罪を犯した人のことと、何かを施すことの間にはあんまり関係はない。どちらかというと、その行為が「当然」と思えることが僕にはもはや「当たり前でない」ように思える。このことは、ことさら美談にする必要もないし、否定することでもないし、これからもそのままあればいいなあ、と思うばかり。

 そういえば、今年初頭に水のことで困ったときに(みんなのミシマガジン第2回)、島にある「日見の大仏」でおなじみの古刹、西長寺のご住職にこんなことも伺っていました。島のよさは「お接待」にある、と。 

 さかのぼることちょうど150年前。明治維新という歴史の境目に、周防大島は長州藩と海を挟んだ愛媛松山の幕府側の間にあって激戦地となった。長州側が勝ったことで明治へとつながっていくのだけど、このとき島で大変多くの犠牲が出てしまった。島にいた佐々木純円という和尚がそのことに胸をいためて、供養する意味を込めて四国八十八ヶ所に由来した「大島八十八ヶ所」を作ることを決意した―――。

 西長寺の住職、川西師は「これは島を初めて一つにしたプロジェクトでもあった」といいます。今でこそ島全体が「周防大島町」と一つの行政区分になっているけれど、大島というだけあってそれまでは常に統治は3つや4つに分かれていた。それを図らずも一つに結ぶことになったのが八十八ヶ所であり、周防大島のお遍路だった。

 お遍路では、歩く人ももちろん修行なのだけれども、住民の側からしても、道行くお遍路さんに食べ物などを施したり(お接待)、一夜の宿を提供(善根宿)することが供養であり修行でもあり喜びでもある。大事なのは「見返りを求める」ものではない、ということ。自分の功徳を積むことが喜び。四国で千年とかけて育まれた文化が、周防大島にも根を下ろしていった。それが現在の「よそ者」に対しての数々の対応にも現れているような気がする、ということでした。

 加えて、この島はハワイなど移民を多く輩出してきたという面もある。つまり、以前から「よそ者」が行ったり来たりする場所で、移住者である僕もこうして楽しく暮らせているのは、そんな風土があるからだとも、確かに思えます。

 今年8月には「祈りが人の形をしている」と思ってしまった、お盆の一件もありました。(ミシマガジン第6回)

 周防大島に来た理由を「夏に2歳の子供が4日間さまよって発見された場所だと聞き、ぜひ行ってみようということで来た」と語っていたという(FNN PRIME ・2018年10月1日1)

 逃走の彼に、まさかそのことが直接的に働きかけているとは思いませんでした。と同時に、でもそうだよな、そう思うかもな、と妙に納得もできなくもない。

 この道の駅では「何も盗られなかった」と岡崎さんは言います。近くでも特に何も起こらなかったとか。一方、旅する間にこしらえたあのたくさんの荷物は、どこでどう手に入れていたのか。捕まった今、考えるほどに混乱します。

***

 僕はこのタイミングで東京のバンド、GEZANのつい先日発表された新譜にまつわるインタビューを読んでいました。そこには、ヴォーカルのマヒトゥ・ザ・ピーポーさんのこんな言葉がありました。

「黒と白だけじゃない、悪魔と天使だけじゃない、もっと曖昧なものを掬い取りたい」(realsound)

 僕はこの島での一件に、整理がつかないものを見ました。もちろん、捕まったことにも理由があり、各当事者の人たちに起こった何かがあり、一つずつにケリをつけないといけないこともある。と同時に、一つひとつの事が過去、現在、未来と重なり絡みあった場所は、やっぱり単純に正と邪、善と悪などときれいに分けることができない。それこそが、今生きている世界だよな、と。

 その作品を聴き、歌詞を読みながら、島でのことや世の中のことがじりじりと重なっていきました。

 今、生きていることを問える時代にいるのかも。問える場が身の回りにあり、人もいる。それは希望に思えました。

***

 ちなみに道の駅「サザンセトとうわ」では、騒動のあと例の「カツとじ定食」がなぜか売れているといいます。

 うーん、謎!

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中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

編集部からのお知らせ

周防大島のオーガニックマーケット「島のむらマルシェ」第7回が開催されます

「島のむらマルシェ」は、周防大島の生産者をはじめとした出店者が、周防大島町久賀にある〈八幡生涯学習のむら〉に集う農産物のマルシェです。周防大島を中心として、各地で栽培・収穫されたおいしい野菜や果物、米、加工品、雑貨、カフェなどが並びます。第7回目となる次回のマルシェでは、ミシマ社代表三島もかけつけます!

■日時:2018年11月3日 10時〜15時
■場所:周防大島・久賀八幡生涯学習のむら

詳しくはこちら


数学の演奏会in周防大島 Talk&Walk Liveが開催されます

森田真生さんによるライブ、数学の演奏会が周防大島で開催!

■日時:2018年11月11日(日) 14:00〜〈 開演13:30~〉
■場所:周防大島・円満山 正覚寺

詳しくはこちら


『ちゃぶ台Vol.4』まもなく発売です!

2018年10月19日(金)発売の『ちゃぶ台Vol.4』には、中村明珍さんが「猪突ちょっとずつ」を寄稿くださっています。お楽しみに!

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