ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第11回

Walk together, Rock together

2019.03.24更新

 運転中、息子がすでにスースー寝息を立て始めていた。目的地に着き、車を停めてそっとドアを閉める。一瞬だから大丈夫だろうと車から離れ、店に入り用事を済ませにいく。少しして店から出ると、車の中から声が。泣き叫ぶ声。大声。車の外からでもすぐわかるくらいで、ドアを開けると、

 「とっとがいい~!」

 息子がチャイルドシートの上で全力で泣いていました。お父さんがいい、と言いながら。

 (起きるの早かったな...)

 息子をなだめて、車のエンジンをかけ、島外の次の用事へとドライブ。するとまた「スースー」。車が動くと眠くなって、停めると起きちゃうのかな。また寝てしまったのでさっきのようにそっとドアを閉めて車から離れ、再び建物の中に入っていく。車は建物の横のすぐ見える場所にある。用件をササっと済ませて外へ出る。するとまたしても車から泣き声が。

 「とっとがいい~!!!」

 顔をぐしゃぐしゃにして、「いい~」と言いながらパンチを何回も繰り出してくる。さみしさ、哀しさ、怒りが、混乱の表情から否応なく伝わってきた。

 「ごめんね」

 と謝り、おうちに帰ろうとなだめてすぐ出発。よっぽどイヤだったのかなかなか気持ちが収まらない様子で、ずーっと泣いて数十分。チャイルドシートの横に落ちているお茶が飲みたいというので、海沿いの国道の路肩に車を停め、後ろのドアを開けお茶を手に取ってやる。そして運転再開、さらに30分以上かけて周防大島の家に戻ってきました。

 (・・・ない)

 家に帰ってからすぐに、スマホを紛失したことに気づきました。失くしたのはこの3時間、息子と一緒に往復していた間だ。すぐに電話をかけてみると「プルルルル」とまだ生きている。いったいどこに置いてきてしまったのだろう。

 「あっ!」

 確信はないけど、さっき停めた「路肩」でどたばたしているときに落としたんだ。きっとそうだ。

 

きびすを返し一人車に乗ってもと来た道を逆戻り、スマホを探す旅へ。またロングドライブになるし、すでに夜になってるので正直めんどくさい。何も目印のないただの路肩だったので、運転しながら小さなスマホを目視で確認するほかない。

勘であたりをつけるが、まったく見当がつかない。しばらくして、後ろからは僕を抜かしたそうな車があおってくる。そう感じて、左にウィンカーを出してテキトーに道端に車を停めた。もう疲れた。

運転席から反対車線の路肩にむけて何気なく目をやりつつ休憩していると、

「ん?」

なんか落ちてる。車を降りて、対向車が来ないのを確認しながらその異物を拾い上げると・・・僕のスマホでした。画面が粉々のスマホ。バリバリグシャグシャ。

よく見るとそこはバス停になっていて、僕が駆けつけるのが一足遅く、何かに踏まれていた。

「よく見つけたな~」

偶然立ち止まった場所で目をやった場所に落ちてたなんて、我ながらそのことに一番感心しました。

***

(((息子の怒り、執念が、スマホを落とさせた・・・)))

粉々のスマホを助手席に置いて、こんなことを考えながら運転していました。3歳の息子は「さみしかった」という気持ちを表す言葉をまだ持っておらず、泣きわめき、怒り、「お父さんがよかった」と言いながらパンチしてくる。これが精いっぱいの表現だった。すまないことをした。そう思うと同時に―――。

多くの人が知る仏教用語、「煩悩」。その代表は「貪瞋痴」すなわち「むさぼり、怒り、愚かさ」の三毒ともいわれます。毒というくらいに、仏教ではその感情の取り扱いが大きなテーマになっている。でも、じゃあそんな機能がなんでわざわざ最初から人間に備わっているんだろう。そんなことをぼんやり思っていました。そしてこの日ふと、この疑問と息子の叫びが結びついた。

「とっとがいいー!!!」

一人にしないで、こわいよ、という子どもの叫び。ここに生きている、なぜかわからないけど生きたい、という強い気持ちがそのまんま出てきて僕に伝わったかのよう(それがあれこれしてスマホが割れた)。

当たり前といえば当たり前だろうけど、感情は「生きること」にセットされている。この日、急に実感が伴いました。

そして、感情を取り扱うといっても身体に備わっている以上、ただ「捨てる」「無くしていく」というワケにはなかなかいかないのだろうな、とも思えてきました。だからこそ、いろんな仏教があり、いろんな宗教がある。

 ところで、民俗学者の新谷尚紀さんによれば、生きることは、「死ぬこと」があって初めてわかるんだそうです。

〈死を発見したことによって何が起こったのか。それは生の発見でもありました。〉(「お葬式 死と慰霊の日本史」2009年)

 「死」は動物には認識できないらしいのに、我々ホモ・サピエンスはそれを発見してしまった。それは多様な葬儀を営むことからもわかる。死は概念、言語化されて発見されたものなんだ、ということでした。

 死を発見すると、「この世とあの世」が考えられる。なので、宗教が始まった、と。

***

 

 昨年の夏、周防大島に住む妻の祖母が亡くなりました。僕にとっては東京から移住したばかりの身に、畑のことや島の暮らしを教えてくれた人。例えば、

■水路や溝を掃除する(あとで困るから)
■石垣には除草剤をかけない(崩れるから)

また「しきたり」について、

■家は『玄関』から入ること(初めて訪れる人や、正月など節目には誰でも裏の勝手口から入らずに)
■ガス台の上には物を置かない(火の神様のしきたり)
■集落の方が亡くなったら、親戚でなくても「お悔やみ」にいく。(線香をあげたり、死に顔を見る)
■喪中の人は、集落の神社には参ってはいけない(現在、僕もそうしている)

大切な神社のお札を預かっているかどうかを何度も確認したり、あるいはほかの家の仏壇に拝みにいくように促されたり。祖母の家でこの文章を書いているたった今も、近所の方が仏壇に拝みに来てくれたばかり。

もともと冠婚葬祭の会場として使われていたのは、集落の真ん中にある公民館(毎年落語会で使わせてもらっているところ)。特に葬式は、葬儀屋さんが登場するまで地域であげるのが普通でした。で、僕が住むところではまだその文化が混在していて、ほとんどは葬儀場であげるようになった今でも、時おり住民中心になっての公民館でのお葬式もある。その光景をまだ目撃できている。

さらにもうちょっと前にさかのぼれば、そのまま行列をなして集落の墓地まで行き土葬をしていたとも聞く。その当時使っていた祭具は、つい最近近くの砂浜で焼却しました。もう使わなくなったから。僕もその現場に立ち会いました。

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僕の娘は、4歳のときに島に移住して、今は小学4年生。娘といつものように砂浜で遊んでいると、貝殻やシーグラスを集めて持ち帰り、あるとき大きなジャムの空きビンに入れ始めたことがあります。「箸」で。

「はい、ではこちらに、お入れください」

彼女が編み出したのは「骨壺遊び」でした。箸でザクザクザク。シーグラスをビンに詰めていく。その発想は僕にはありませんでした。

島にきて、僕も娘も葬儀に立ち会うことが増えました。それだけこちらでは死が身近だということ。逆に東京での僕の子ども時代は、1回も死を見ることができなかった。

「生と死」が生々しくて、まだギリギリそこにある島の暮らしは、僕にとってかなり重要なことです。たぶん、子どもたちにとっても。

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中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

編集部からのお知らせ

寄り道バザール vol.11 が開催されます!

 今回は『数学の贈り物』を出版したばかりの森田真生さん、『数学の贈り物』をはじめ数々のミシマ社本の装丁をしてくださっている寄藤文平さん、そしてミシマが登壇するという、ミシマ社とご縁の深いイベントです。どうぞお越しください。

■日時2019年4月28日(日)
■場所:周防大島・八幡生涯学習のむら
 山口県周防大島町久賀1102-1


第1部 「偶然の宴」森田真生
第2部 「おお! すおうおおしま」寄藤文平×三島邦弘
「島の人たちがつくったガイドマップ」を一緒に作ります。寄藤文平さんがイメージのイラストを作ってくださいました!

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