ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第14回

絶叫 -ウィスパーボイスで-

2019.06.29更新

 最近、群馬に住む友人の安孫子真哉くん(40)となぜかほぼ毎日のように連絡をとっています。彼は、僕が周防大島に住む前に一緒に活動していたバンド、銀杏BOYZの元ベーシストで19歳の頃からの知人です。

 彼はちょうど1年前、昨年6月に周防大島に遊びに来ました。理由は東京のバンドSEVENTEEN AGAiNのミュージックビデオ(動画はこちら)を島で撮影するにあたり彼も同行していたから。彼が代表を務めている音楽レーベル・KiliKiliVillaからリリースしています。(レーベルのインタビューはこちら )
 その滞在中の夜、先輩農家の小林さんたちを始め何人かの農家と共にご飯を食べながら楽しい時間を過ごしたのですが、彼が群馬に帰ってからしばらくしてこんな連絡がありました。

「農家になる」

 かなり驚きました。が、彼とは似たような思考回路を持つ者同士のくされ縁。割とすぐに納得できました。(このあたりのことはミシマ社の雑誌「ちゃぶ台」vol.4にも)。

 ここ最近の連絡は、どうやって農業に入っていくかをあれこれ話す内容で、僕の方が逆に再認識することが多いのです。

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***

 というのも、彼が農家にいざなろうとしたときに、実際にどうやってなったらいいのか、教えてくれるようなものが身近になかったのです。まず、このことが大きな気づきでした。

 僕のような「農家ではなかった人」が始めるときに、入り方はいろんなルートがあると思うのですが、僕の場合は

① 本で読んだ
② 農家で研修・いろんな勉強会に出席/懇親会で話を聞く
③ 現場で実践

という流れでした。ですが、そもそも国の「農業次世代人材投資資金」(旧・青年就農給付金)という補助金をもらいながら勉強できる制度があり、それを利用しながら就農するのが一般的な流れでもあると思います。僕もそれをまずオススメしました。

 驚くべきスピードで本を読んだりネットで情報を集めたり、YouTubeで農家の動画をみたり。毎日吸収し、本当に農業の準備を進めていった安孫子氏。勉強している中で、

 「パンクに出会ったときのような高揚感があるねえ」

とまでいっていました。昔から知っている人なのでこりゃホンモノだなあ~と思いました。

 おそらく今後、彼の言葉で書かれる農業の話が臨場感があるというか、実際どうしたらいいのかがわかりやすいと思うので、それを楽しみに待ちたいと思うのですが、どうも準備の中でぶつかった壁が(まだ準備段階なのに!)いくつもあり、僕もそれを聞きながら「う~ん」と唸っていました。

 たしかに、たしかに。僕にもあったなあ・・・。

***

 この春、彼はいろんな準備を経て「農業大学校」の1年間の研修にいくことになりました。僕の周りの先行している若手何人かもそのルートで農業に従事しているので、王道といえば王道。

 「面接はスーツで行くべきだと思う?」

 という電話がかかってきたので、先行農業者にアドバイスもらったりして、受かったようでよかった。

 入学式の日。終わってすぐ電話かかってきました。(ひんぱん!)

「・・・なんでよ。農業の勉強しにいくのに何度も立ったり座ったりしなきゃいけないんだ!?」

 何やらおだやかでない様子。詳しく聞くと、式典の最中に「起立」「着席」の数が多すぎると感じてかなりイライラしたようです。

 (農業が、したいです・・・・・・)

 スラムダンク三井の声が聞こえてきました。

 

 実はその前段があります。いわゆる公的な農業支援の窓口に説明を聞きにいくたびに出鼻をくじかれる思いをしていたようなのです。

 そもそも、周防大島に来たときに他の生産者と話している中で「農業・・・いいかも」と、なんとなく衝動が芽生えて、そこから地道に調べて準備してきていた。年も年だし家族もいるので、そこには真剣さ、必死さもあります。
 ところが王道ルートの一つである公的な窓口で、とにかく「農業は大変だ」ということが伝えられる。つまり「やりたい」から「どうしたらいいですか?」という質問に対して「このやり方じゃあ難しいだろう」という答えで返ってくることがとても多い。「その感じだったら、こうしてみる方向は?」という建設的な支援という感じではなかったようです。やりたくなった気持ちを後押ししてくれるものでは、どうもなかった。

 

 また、彼が農業大学校に行くようになったつい最近の出来事です。出荷作業の授業があったそうで、そのとき「農業は大変」の正体が、僕にもわかったくだりがありました。

 チンゲンサイを「収穫」して出荷用に「袋詰め」。この日、規格のサイズよりも収穫が1週間遅れて大きくなってしまったそうで、この間にもう一つの工程が追加。「葉っぱをむしって小さくする」が入りました。

 「この作業が大変なんです」

 そう教わったそうです。この時の話を聞いていた現場の安孫子くん、

 「食えるのにもったいない」

 「なんでわざわざそんなことを?」

 と思った。これは流通や、販売する小売店の都合ということだそうで、おや? と。彼は音楽レーベルを運営しているのでモノは違えど流通には思いがある。「わざわざ大変な作業を追加している」と感じたそうです。

 音楽では、かっこいい音楽を作って届けたい。農業では、おいしいものを育てて届けたい。僕もこれが基準だと思います。農作物は自然物である以上、規格にそろえて届けるというのはちょっと不自然。でもそうしないといけない構造が、大変さを生んでいる。大変だから作り手がいない。だったら、その構造を見直すべきでは。
 ちょっと大きくても小さくても食べられるから。そもそもそれが普通で、そういうものがお店に並ぶし、それを買う。そうなってくれたら・・・。

***

 農業大学校の社会人枠のコースに通いながら、

「農作業楽しいわ~」

 と日々連絡がきます。自身の直感は間違ってなかったようです。それだけで続けられるのに充分な理由になる。そう思います。つい先日は、一緒に埼玉にある明石農園の圃場見学にも行きました。

 あともう一つ。別の仕事から、農業に変わることのギフトがあります。まあこの二つに限らずいえることですが、それは「使える用語が増える」ということ。言語が増える。例えば、

「トラクターとかって、いるのかな?」
「大きい会場でライブやるんだったら、アンプはデカくてもいいけど。みたいな感じ」
「ステージの中音がでかくなるのイヤだったら、管理機のほうがかえってよかったりするかも」

 言語をミックスしすぎるとだんだんわけわからなくなってくるけど、これで友だちが増える、とも思います。ともすれば世界中に。
 そう、実はこれも隠された農業の秘密。内緒ですよー。

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中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

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