ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第17回

ストレート田舎エッジ

2019.11.09更新

 7月下旬、祖母の一周忌が自宅でありました。義理の母のお母さんにあたるのですが、僕が移住してからもずっと元気で、島の暮らしについていろいろ教えてもらった人です。大のカープファンだったのですが、亡くなってから突然、僕の娘が引き継いでカープファンに。今は、2軍の試合を観に行って喜んでるくらい。本当に不思議なことです。

 近所のおばちゃんたちは、

「もう1年かぁ早いもんよのぉ」

 と、話し相手がいなくて寂しいみたいで今でも話題にしています。うちの祖母、すごくおしゃべりだったみたいです。

1109_jpg近所のおばちゃん

 その一周忌の法事、昔ながらの和風の間取りの家にある仏間で執り行いました。隣の集落・小泊にある正覚寺から僕と同世代のご住職がいつも拝みにきてくれます。

「昔の家にはどこも仏間があって、そこが一番いい部屋に作られている」
「そこには当然仏壇がある」
「どこ行っても家が同じ作りで出来ているから、目をつぶってても仏間にたどりつく」

 と冗談交じりに話してくれましたが、集合住宅あがりの僕には「なるほどなあ~」と頷いてしまいました。

***

 8月のお盆直前の時期、僕はお坊さんとして法要に出ていたのですが、こんどは別のお寺、平生町の般若寺のご住職がこんな法話をしていました。

「昔の家には縁側というのがあって、そこはあの世(家の外)とこの世(家の中)の境目の役割があった」
「縁側のとなりに床の間と仏壇があって、『亡くなった人』と『お坊さん』は縁側から出入りしていた」
「だから盆提灯は縁側に飾っていた」
「縁側でのおしゃべりは、家の外でもあり、中でもあり便利だった。もしかしたら、誰でも彼でも上げないという意味もあったかもしれない」

 むむむなるほど。そういえば・・・。
 先述の正覚寺の和尚さん、いつも法事のときに縁側の窓を開けてそこで雪駄を脱ぎ出入りしていました。今までなんとも思っていなかったけど、そういうことでしたか。玄関から上がることはないようです。

 般若寺さん、こう続けます。
「昔は自宅で葬儀するときに、棺を3回くらいくるくる回してから出棺していた」 

 そうそう、これも見たことある。地域や宗派によってやったりやらなかったりするそうなんですが、僕の住む和佐では今もたまに自宅葬儀があり、その光景を眺めたことがありました。
 回す意味は「さまよって勘違いして戻ってこないように」とか。

 ちなみに、嫁入り時のお嫁さんもかつては「実家の縁側から出た」。これも地域によるみたいなのですが、いずれにせよ家によって形作られている習慣とその意味がありそうです。

 この日のあと、僕は兵庫県の播磨地方、遠くは大阪までの範囲の家々をまわるお盆のお勤め、いわゆる「棚経」へ。付近の景色は、住宅地から田畑が広がる農村部と様々。合計100軒以上の初めましての家に上がらせてもらったんですが、一軒家や集合住宅合わせて、ついに一回も縁側から上がるということがありませんでした。

 「周防大島にはまだギリギリ残っているけど、兵庫ではもう無くなってる」

 習慣の有無のグラデーションを感じずにはおれない一件でした。

***

 9月のある日、周防大島の友人の三浦さんのところにドイツ人の若者が短期居候していたので、アメリカ人の友人と一緒に3人で遊びにいきました。神社にいったり寺にいったりしながら話をして。

 ドイツ人のグレッグくんの最初の質問は、会っていきなり、

「日本人は宗教的にはどんなかんじなんですか?」

 クリスマスやって初詣に行って節分やってハロウィンやって、といろいろできるのはどうしてか、と素朴に思っていた様子です。
 たしかに僕も、妻のお父さんの夢だったから、という理由で家族誰もがクリスチャンでないのにキリスト教式で結婚式をしたわけで・・・。

 少し考えてから、こう答えてみました。
 「うーん、GODの数が違うからでは・・・」

 そこを手掛かりに話をしてみたんだけど、ちょっと理解するのに時間がかかった模様。その時間の長さに、文化の隔たりを感じました。

1109_2.jpg

(左から)グレッグさん、大工の黒木さん、エイブさん 

 また、僕らが会う前に、すでに三浦さんは彼とこんな話をしていました。

「ドイツ国内では、東日本大震災のあと脱原発に舵を切る決断をしたみたいだけど、日本ではどうして話し合いができないんだろう」と。

 ここから、僕たちは「議論すること」についての話題へ。そこで、彼らとは議論自体の成り立ちが違うことを気づかされました。つまり、「意見を持つ」「意見を伝える」ときの在り方が違っていたんです。

 どういうことか。例えばグレッグくんたちは、話し合いの場で違う意見を持ったとしたらそれをそのまま伝える。相手が違う意見だったとしても、意見として受け止める。意見の相違は意見の相違。そうして議論が進んでいくイメージ。

 かたや、僕たちは「空気を読む」ことに重きがあるときがある。この「空気を読む」がなかなかグレッグさんには伝わりづらかったです。

「エア・・・リーディング? かな?」

 なんかそれだと空気を読むとは違いそう。フィールなんとか?

 翻訳しながら「おれたち、議論のときに『フィール』してるのか・・・」と笑ってしまいました。

 議論を「感じなきゃいけない」のって、なんなんだろう。

 よくあるのが、「意見の相違」と「感情」がくっついてしまうこと。「あの人のあの言い方はない」「あの人は、ただ言いたいだけ」「気にくわん」etc.。

 アメリカ人のエイブくんも、国は違えど(もちろん異文化ですが)そのテーマについてはおおむねグレッグくんと同じような環境で育ってきた。が、彼は現在周防大島で1年働いているので、だんだん、なんとなくわかってきたようです。わかってきたけど、やっぱり「理解できる」わけでもなさそう。

1109_35.jpg

般若寺の福嶋住職と

 僕は、ロックやパンク、ハードコアといった音楽の系譜に参加させてもらってきたので、おかしいことは素直におかしいといいたい。し、でも、いわゆる日本的な文化の中でも育ったので、関わっている周りの人がいやな気持ちになるのも好きじゃない。どちらの感じも体の中にある。というわけで、ベストは、「誰もがいやな気持ちにならないながら、よりマシな方向にシフトしていく」というやり方をとりたくなる。それが僕にとって自然です。

 ちょうど昨年の今頃、島に架かる橋に船がぶつかって大変なことになっていた。
 あれから一年。島にぶつかった船はドイツの会社のものだったわけだけど、その事件のことはグレッグさん、「全然知らなかった」といいます。
 もし逆に日本の船がドイツにぶつかって同じことが起こっていたらどうする?と聞いたところ、

「ドイツには海が身近じゃないから・・・」
「だから魚を食べる習慣があまりないです」

 と笑っていましたが、

「たぶん・・・裁判で勝つのはなかなか難しいと思うけど、何かしらアクションは起こすかもしれない」

 とのこと。

 島の僕たち、大部分の人たちは、自然とそういう動きを作らない選択をしていました。
 一応、町が呼び掛けて、希望者が「賠償請求」する(国際法が関係していてどうなるか未決着)という流れと、それとは別で、100名ほどの原告団で別の訴訟が起きたというニュースがあったけど、人口は1万6千人あまり。僕の身の回りではどちらもやっていない人ばかりです。

***

 島で独立して新しい職業を始めた友人の、元リハビリの理学療法士・末弘くん。彼は高齢者がなるべく自宅で元気に暮らせるようにサポートするための仕組み「netto(ねっと)」を始めたのですが、彼がこんなことを教えてくれました。

「入院した高齢者がいたとして、都会の常識だとそのまま施設に入るような人でも、周防大島では自宅に帰れちゃうことが多いんです。特に、チンさんが住んでる和佐がダントツですごい」

 どうして、と訊くと、

「たぶん、井戸端会議が効いてます」

 とのこと。普段高齢の方々が、家の外で常におしゃべりしていることで「誰がどこで何してるか」が把握されていて、何かあったときにすぐわかる。それがセーフティネットになっていて、断水のときにもそれが発揮されていたといいます。
 たしかに、近所のおばちゃんたちは僕の動向をよく把握している。駐車場の「車の有る無し」で判断していたりする。このアナログ・プライバシーの無さは、よくある田舎暮らしの負のイメージの側面が強いけど、そういう福祉的な役割も担っていた。

 アメリカ人のエイブくんも、断水を通して「コミュニティがすごくパワフルだと思った」と何度も言っていた。かたや、先述の兵庫参りでは「すぐ隣の人の名前を知らない」ということがあった(都市ではこれが普通ですね)ので、より対比が鮮明です。

 昔ながらの家では、建物の作りとして縁側が設計されているけれども、それは自動的にあの世とこの世とセーフティネットだったりを人に「勝手に」感じさせる仕組みを備えていた。自動的にというのがミソで、これは普段意識にのぼらない。でも、例えば「議論する」という前提だったり「正しいこと」「正しくないこと」などの判断の基準、どんなことも、意識にのぼらない場所で僕らに自然と備えさせていくことになる。

 建物のつくりをどんどん拡張していったら、地球全体、宇宙全体ということになる。そうやって僕たちの意識は環境によって日々作られている。
 そこを掘り下げるところから始められないでしょうか。

1109_3.jpg

***

 それにしても、うちのおしゃべりおばあちゃん。セーフティネットだったんだなあと感慨もひとしお。

「あんたんとこののおばあちゃんは、拡声器じゃったけえねえ」

 と近所のおばちゃん。なんか泣ける。

中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

編集部からのお知らせ

11/10(日)中村明珍さんが2つのイベントにご出演されます!!

周南市立徳山駅前図書館presents あちこち"ほん"わか日和トークショー 周防大島は日本の縮図? いま、僕らにできること 原点回帰の出版社ミシマ社トークイベント

日時:2019年11月10日(日)14:00~15:30
会場:周南市立徳山駅前図書館 1階共有スペース
(山口県周南市御幸通2-28-2)
出演:中村明珍(中村農園代表)、榎本俊二(漫画家)三島邦弘(ミシマ社代表)
参加費:無料
申込方法:11月1日より徳山駅前図書館3階カウンターにて整理券配布 ※整理券は直接来館での手渡しのみとなります。 電話での予約受付はできませんので予めご了承ください。
定員:20名
主催:周南市立徳山駅前図書館(協力:ミシマ社)

ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 Vol.5 「宗教×政治」号』の刊行を記念して、「ちゃぶ台」と周防大島の関係性から、島の魅力、地方で暮らすこと、ミシマ社という小さな出版社の取り組みについて、『ちゃぶ台 vol.5』に寄稿された中村明珍さんと榎本俊二さん、ミシマ社代表の三島邦弘が語ります。

*イベント開催期間中は、併設する蔦屋書店さんにてミシマ社フェアを開催中です。ぜひ、あわせてお立ち寄りくださいませ。

中村明珍(なかむら・みょうちん)
1978年東京都生まれ。ロックバンド「銀杏BOYZ」のギタリストとして活躍後、周防大島に移住。現在は、梅やオリーブを栽培する農家であり、僧侶でもあります。
榎本俊二(えのもと・しゅんじ)
1968年神奈川県生まれ。漫画家。『GOLDEN LUCKY』でデビューし、シュールで奥深い世界には熱いファンも多数。
三島邦弘(みしま・くにひろ)
1975年京都生まれ。出版社二社を経て、2006年10月東京・自由が丘でミシマ社を単身設立。現在は、自由が丘と京都の二拠点で「原点回帰」の出版活動をおこなう。ほぼ全書籍の編集を担当。年に一度刊行の雑誌「ちゃぶ台」では編集長を務め、「お金や政治に振り回されない生き方」を求め取材。


2019年11月10日(日)寺子屋ミシマ社 『ちゃぶ台』次号をみんなで企画会議!@himaar(岩国)

日程:2019年11月10日(日)18:30~(開場18:00~)
場所:himaar(ヒマール)山口県岩国市今津町1-10-3(TEL:0827-29-0851)
定員:35名様
出演:中村明珍(中村農園代表)、三島邦弘(ミシマ社代表)
入場料:1,500円(1ドリンク付/税込)
お申し込み方法:
・ヒマール店頭もしくは電話:0827-29-0851(店休日を除く10:00〜19:00)
・メール:info@himaar.com(お名前、人数、電話番号を明記してください。返信をもって受付完了としますので、受信設定をお願いします。)

主催:himaar(ヒマール) 
協力:ミシマ社

お問い合わせは 0827-29-0851(ヒマール)まで  

“お金や政治にふりまわされず、「自分たちの生活 自分たちの時代を 自分たちの手でつくる」”  2015年にミシマ社が創刊した雑誌『ちゃぶ台』が掲げ志す大きなテーマ。それは私たちがhimaar(ヒマール)という店でやろうとしていることとも重なります。 創刊以来、年に一回「移住」「会社」「地元」「発酵」などさまざまな切り口から手がかりを探ってきた雑誌『ちゃぶ台』の最新号Vol.5「宗教×政治」号が10月20日に発売されました。この最新号をご紹介するとともに、早くも(!)来年刊行の次号『ちゃぶ台Vol.6』にむけたワークショップ形式の公開企画会議を、編集長の三島邦弘さん、『ちゃぶ台』に毎号登場・寄稿している中村明珍さんをお迎えして、ヒマールで開催いたします。ご来場、心よりお待ちしております。(himaarさんWebサイトより)

11/17周防大島にて、森田真生さんのトークイベントが開催されます!

数学の演奏会in周防大島​ 2019 Talk&Walk Live

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日程:11月17日(日)14:00〜(13:30開場)
場所:周防大島・円満山 正覚寺

詳細はこちら

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