ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第19回

CHOICE

2020.01.27更新

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 妻の悲願の建物へ。ついに、新しい家に住み始めました。十数年前まで保育園だった物件で、戦後ほどなくして建てられたものです。今まで住んできた周防大島の小さな集落内での引越しなのでそう大げさではないのですが、今までとはちょっと違う。そもそも住居ではなかった建物なので、大幅に作り直したし、住まいにしては大きいんです。

「普通の家には興味がないねん」

「倉庫とかに住みたいと思っていた」

 という妻の嗜好に気づいたのは、1年前、リフォームを始めようというタイミングでした。

(そ、そうなの・・・)

 この建物が好きで仕方ないと聞いており、当然のように「仕事場にするんだよね」と思っていた僕はちょっと白目に。「古くて、家でないところに住みたい」という強い意志、というか癖を感じました。

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 年末ぎりぎりに移ったばかりなんですが、早速こんなことがありました。

***

 園児たちの「おべんじょ」だったところ - 小さな子ども用の便器がならんでいた区域を、家庭用のトイレや風呂場に改装しました(大工さんがやってくれました)。予算はカツカツなので一番安いタイプで、とお願いして。

 その際、一旦決断していたプランを途中で変更しました。悩んだ末に「水洗」から「汲み取り式」のものへ、と。汲み取りといっても「簡易水洗」というタイプでパッと見、いわゆる水洗ぽくはあるのですが、ふた月にいっぺんほど業者さんに取りに来てもらわないといけません。

「あらら、あっこにエントツがあるわ、と思ってびっくりした。下水道につながなかったん!?」

 と、一段山手に上がった、隣の家の方にこういわれました。保育園が現役で活躍していた時から、ずっとその場所で見届けてきたおうちです。

「そう、そうなんですよ。保育園の土地が道路より下がってるから、下水につなぐのに200万以上かかるらしくて」

 と僕。すると、

「昔は浄化槽だったんよね」

「下水につないだ方が、汲み取り呼ぶより結局コストかからんのじゃない?」

 と、おばちゃん。たしかに業者さんを呼ぶたびにお金もかかるし、そもそも下水が来ているのに汲み取りを選ぶとは思わなかった、という感じでした。

 それもそのはず、僕も選ぶとは思わなかった。当然のように下水道につないでもらい、その下水は処理場へ。工事の見積りも出してもらっていたし、ほかの選択肢は考えていませんでした。

 何故プランを変えたのかといえば、工事が始まる直前に、例の断水事故があったからです。あの、水がなくなったときの水洗トイレの不便さったら。あれが効きました。水が重いので力が必要なんですよね。で、ウォシュレットなどの快適機能がついているほどに、水がうんと必要になる。

 その時期小学校では、低学年が力がないので水を流し込むのがうまくいかず「トイレをガマンする」という事態も起こりました。そのうち高学年がサポートするようになった、といういい話もありましたが、とにかく、あの体験はなかなかのものでした。

 また下水をポンプで上げないといけないという土地の条件もありました。そのため水だけでなく、電気も止まったら・・・。

 なので「予算上の都合」に加え、「なんかあったときのために」という理由でプランを変更したのです。

それでは、皆さんにここで、質問です。家庭用水の使い道は次の五つに分類されます。A「炊事」、B「洗濯」、C「風呂」、D「洗面その他」、E「トイレ」です。これを、多い順に並べてみてください。

正解は、最も多いのがC「風呂(40%)」、以下、E「トイレ」、A「炊事」、B「洗濯」、D「洗面その他」という順番になります。これは、平成24年度(2012年度)のデータです。ちなみに、平成18年度(2006年度)はトイレが一位でしたので、また変動があるかもしれません。(『水運史から世界の水へ』徳仁親王著・2019年/NHK出版)

 今上天皇による、水にまつわる著書にはこう記されていました。

 「なんかあったときのために」という観点からすれば、「汲み取り業者に来てもらわないといけない」のは不完全な対策かもしれない。昔は肥溜めを使って肥料にしていた、ということを考えれば、このアイデアは「完全なる循環」ではないとも思います。水、電気が止まっても当面大丈夫だけど、汲み取りが断たれてしまえばどうにもできないトイレ。

 また、住み始めて数日してアッと思いました。さきほどの「エントツ」は臭気を上空に放つためのもので、汲み取り式にはセットでついているものなのですが、ある日、わが家の前が若干ニオウことに気づいたのです。エントツの先端には電気で回るファンがついているのですが、鼻のきく娘が、慣れない匂いに気づき「うえっ」と言っていました。そして、アッと思ったのは―――。

 緊急時対応を考えた僕の「先進的ローテク移行」判断によって、今の時代、しなかったはずの臭気が、漂っているのではないか。これはただ単にわが家のエゴではないか。いやいや、昔は普通だったのではないか。途端に心配になり始めました。

 さらに展開して、こんなことが浮かんできました。

 娘のように匂いを感知すれば、そのとき匂いは「存在する」。ただ、もし気にならないならば、そのとき匂い自体は・・・存在しない。のか? 匂いがあっても感知しないならば、それは匂いは「ない」ということでは。あるのに、ない。ないのに、ある・・・。

 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法・・・。

 いやいやいやいや。まずは匂いが解消されるようにしないと。

 資材があれこれ市販されているので試してみたところ、苦情もないし、現時点で解消された気もします。もうちょっと様子みてみます。

 他にも、家庭用水は小川を通してそのまま海に流れていきます。そして僕たちは、その目と鼻の先の海でとれた魚やひじきを食べたりします。なので、洗剤も考えざるを得ません。

 今はこれらの仕組みを採用してみて、考え続けていきたいところです。

***

 ちなみに、この家はテレビの電波が入りません。海から数百メートル離れた山手に位置していて、山の陰になっているからなんですが、周りのお宅はケーブルテレビに加入して観ているようです。今すぐに必要ではないなと思ったのでテレビはまだ置いていません(ゲームはありますが・・・)。

すると、子どもたちに変化が起きました。

 トランプ、UNOのブーム到来。そして読書する時間が格段に増えました。娘は今、同じ本と漫画を何回も繰り返し読んでいます。ゲームもやるにはやるけど、それにしても暇すぎるみたい。

 小5の娘が「トランプをやろう」と言うのでやっていると、4歳の息子が「やりたい」と参加してくる。ルールのわからない4歳に11歳が伝授。トランプやUNOのゲームが辛うじて成立するのを見て「数字を覚えたんだな」ということがよくわかって、ちょっと泣けてきました。

 ひらがなとアルファベットも少しわかるようで(Tを覚えるのが早かった←チョコレートプラネットの影響です)で、カタカナ、漢字はまだわからない。興味を示す順番が、興味深いです。

 11歳児は「ゲームは、ルールを守るほうがオモシロい」という立場で、4歳児はまだ「ルールを守るオモシロさがわからない」から、ルールを破壊しながら思うままにプレイしていく。姉はそれを叱りつけたり、「わからないか」と許して続ける様子がオモシロいです。だんだんとルールを理解していく4歳児、でも、ルールを無視するさまも案外よかったりして。

 保育園に置いてあった鼓笛隊のタイコを部屋に並べ、BroothスピーカーからSpotifyを使って曲を流しながら小太鼓、大太鼓を叩きつける2人の「時代」の遊び。ある日遊びにきた娘の同級生達も一目散に楽器に走り、大声で叫び始める。保育園が、呼んでいる―――。

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***

 「先進的ローテク移行」アイデアがもう一つあって、それはお風呂に「ガス給湯」と併用で「薪の釜」と「天日の温水器」を採用したことなんですが、これも断水のときの体験がもとになっています。

 初めて新居のお風呂に子どもたちと入った日。

「この水は太陽の熱であったまっているんだよ」

 と説明して蛇口をひねると、キンキンに冷たかった水がだんだんもくもくと湯気を出して流れ始めました。それをみて、子どもたち、

 「おおお~」

 「太陽すごい」

 と。でも実は、誰よりも僕が「おおお~」でした。

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中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

編集部からのお知らせ

周防大島らくご「立川談笑独演会」が開催されます!

◼︎日程 2020年3月22日(日)
​◼︎場所 和佐公民館(山口県周防大島町和佐)(駐車場あり)
◼︎時間  午後14:00 開場 午後15:00開演 
◼︎参加費 
事前予約 大人3500円 / 中・高生 1500円
当日 大人4000円 / 中・高生 2000円
(小学生以下無料・要保護者同伴)

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