ダンス・イン・ザ・ファームダンス・イン・ザ・ファーム

第22回

直して使う

2020.09.09更新

 2020初頭、隣のおうちの方が、マンガとVHSのビデオテープを持ってうちへ訪ねてくれました。

「よかったら使って~。息子たちももうさすがにいらんけえ」

 思いのほかたくさん頂きました。マンガ(あたしンち)は娘が飛びついて読み始めたものの、VHSに関してはプレーヤーがあるにはあるのですが「すぐ見る!」という感じではありません。

 ところが、そのあとステイホーム期が訪れて、突如大活躍することになります。
 というのも、わが家はアンテナを立てていないのでテレビが見れない上にDVDプレーヤーがたまたま使えず、ネットを使わないで見ることができる唯一のソフト再生機が、VHSでした。

 雨の日には「何かすることなあい?」とエネルギーを持て余した子どもたちが部屋で暴れまわります。にわかにあのVHSテープの存在感が増してきました。
 
「あれ、見てみよう!」

 そこからビデオテープ祭りが開幕。「ドラゴンボール劇場版」「ジャッキーチェンの映画各種」「うちのタマ知りませんか」「X-ファイルシリーズ」・・・さすがに子どもとX-ファイルはみませんでしたが、何度も何度も再生しました。テープなので「巻き戻し」「早送り」など物理的に時間がかかるのが妙に新鮮で、「ものごとは時間がかかる」ということを再生機は「キュルキュル」と切ない声で僕たちに教えてくれました。

 そのあと、それらの番組にハマった5歳の息子がYouTubeでも見ようとして、1人でSiri的なものに向かって話かけていました。

「うちのタマしりませんかっ!?」

 すると答えが返ってきていました。
 
「・・・わかりませんでした」

 横目で見ていて
(なんか会話になってる)
 と思いました。

***

 YouTube、Netflix、音楽のストリーミングサービス、いつの間にか登場して、登場した瞬間を覚えていないまま、あっという間に僕たちの生活をより"便利"に塗り替えていきます。電波と電気があれば利用できる、というものが多いかもしれないし、場所や容量にもあまり限定されず「どこでも」「いくらでも」できるという傾向もありそうです。

 最近そんな傾向に直面したときに、「その便利、ほんとに必要?」と立ち止まってしまうようになりました。
 VHSで充分、楽しめてしまう子ども達の姿を目にしたときもそうです。レコード、テープ、CD、MD、MP3と目まぐるしく変わってきた音楽メディアも、LPレコードであれば片面30分しか収録できません。そして裏返してB面へ。カセットテープも表と裏があります。
 ちょっと横道に逸れますが、例えば音楽で1曲を録音する際。かつては4トラックとか8トラックとか、テープの幅と機械の仕様で具体的に制限がありました。その中で「ドラムとベースは一緒に録ろう」とかやりくりしたり、テープを物理的に切ったり貼ったりがそのときの"コピペ"でした。僕はその時代の最後の方をほんのちょっと体験できたくらいです。

 そういう限定があってある意味仕方なく工夫が起こり、結果、独特の作品性が育まれてきました。今はそういった制約から解放されて、「いくらでも録音や修正ができる」といった理想的な環境を手にしましたが、その反面、「整理が大変」とか「逆に時間がかかる」とか、いい面だけでもなくなったようです(参考:『名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書』中村公輔著・2018
 さらにその逆もあって、データ化されたことで今までのような「ゴミが出なくなった」。そうとも言えるかもしれません。


その便利、ほんとに必要?」。このことは昨年のこんな光景でも思いました。

 消費増税される直前の時期、島でオンライン決済などの講習会があったときです。もちろんネットで買い物をするときになくてはならない側面もありますが、このときの対象者は、普段みていても生活に必要不可欠ではないであろう、高齢者の方でした。

 今まで島の暮らしの中で、現金でやってきた営みをクレジットカードやオンライン決済に積極的に変えていく理由が、本当にあるのかと思いました。もしかしたら便利かもしれないけど、絶対に必要、でもないかもしれないわけです。

 このくだりも「便利さ」をうたわれていたかと思いますが、カード決済が消費税の優遇措置とセットだったあたり、本音は消費者行動のデータが欲しいんじゃないの? とか僕は拗ねていたので、おじいちゃんおばあちゃんいいよ使わなくて、と思っていました。災害で電気切れたらただの謎カードになってしまうだけですし。

***

 東京オリンピックが延期になりましたが、思えば初めから「建物」で暗雲垂れこめていたのが象徴的です。ザハ・ハディドさんの案は却下になり、そのあとの「昔の建物を使いなおす」案も気づいたら却下になっていました。

 周防大島の貨物船事故で壊れた橋の復旧が遅れた理由の一つが、「ボルト不足」といわれています。それは、最終案の東京オリンピックの会場の設営で使われているからということでした。

 また、今年住み始めた家のリフォームの際に、棟梁として担当してくれた大工の黒木淳史さんは、「資材がなかなか入ってこなくなった」と苦笑いしていました。東京オリンピック会場が関係している時期だったとか。うちの家は60年前の保育園。その腐った柱を、黒木さんの手で新しい柱と継ぎ足して、直して使っているというのに。

 対照的だったのは、水道のことです。船がぶつかるときに水道管も切れて断水が始まったわけですが、ある場所では、もともと先人たちが引いていた山の水の水道管を手直しして復活させて使ったり、引っ張る管を分岐させたり、またある人はシャワーを簡易的に作ったり。あるいは一応ルール上だめといわれている水道管を勝手に付け替えたり(島内で警告の放送があったぐらいです)。生きるために懸命なので、あちこちで自分たちのいいようにやっていた部分がありました。正直、笑ってしまうほどのたくましさを感じました。
 それもこれも、「直して使う」という考えと技術がないとできません。

***

 2020年7月7日から、島の一部地域で土砂崩れが多発するほどの豪雨の1週間が続き、そのあと集落で年1度の恒例行事「海岸清掃」がありました。地域の護岸や砂浜を、主な住民である60代~80代の方たちと一緒にゴミ拾いなどしていくのですが、この日は体感で例年の数十倍の、驚くほどのゴミでした。豪雨で流れ出たゴミが海を経由して漂着していたのですが、木や竹も多ければプラスチック、発泡スチロールなどの類も多く、とにかく大量でした。

 そして8月15日までのお盆。妻や、妻の勤務先の上司、友人、口をそろえてこう言っていました。

「今年の海岸のゴミの落ち方が、例年に比べてひどい」

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 コロナ禍の影響で、コンビニやその他の場所から「ゴミ箱が撤去された」というのが一因ではないかと島での会話にのぼりました。このお盆、島内の各種店舗などの売り上げは軒並み半減している(人に会わない:表立って出かけられない:お土産を買えないから)背景もあり、、他の地域と同様に経済的なダメージを受けました。ただし島内への車の流入自体はかなりあったので、普段の見えないストレスを海や山を前に発散しているようにも見えました。

 その直前の7月1日に、「レジ袋」の有料化の政策が施行されており、ビニール袋がなくてゴミが持ち帰りにくい。とかの影響なのかどうか、とにかく「ゴミが大量に残されていく」という事態を生んでいました。

 その間の7月31日。モーリシャス沖で日本の会社が所有するタンカー「わかしお」が座礁して、重油が大量に流出する事故が発生していました。希少な生物なども生息する豊かな生態系に破壊的なダメージを及ぼすのは、写真で一目みるだけで伝わり、戦慄しました。その事故の一報をみたときに、周防大島の船舶事故ともぴったり、逆の意味で重なりました。

 周防大島での貨物船の衝突事故。賠償を請求する過程で最も立ちはだかったのが、「船主責任制限法」という国際ルールに基づいた法律です。そういうことに全く興味のなかった自分でも覚えてしまうほど印象的でした。船舶の重大事故の際に、賠償額に制限を設けようという国際的な取り決め。これはもともと重油流出事故などを想定しているとも言われています。
(参考:2019年5月23日 第198回国会 参議院 国土交通委員会14号
030 山添拓035 筒井健夫041 石井啓一043 水嶋智

 島で賠償の議論が起こった際に、船主であるドイツの会社に対して「過失ではなく故意に近いのではないか」など、この法律の適用はおかしいという話もありました。船会社からの即時の申し立てにより、広島地裁でこの法律を適用し制限額を決め、それに対し橋の持ち主である山口県が抗告をして争っている状況です。当初から、行政からの住民への説明では「この制限を免れるのは難しい」と言われています。

モーリシャスの事故は、この逆です。日本の船主である会社は、モーリシャス政府から賠償を訴えられているようですが、その法律の適用の有無がすでにいわれています。
(参考:貨物船、ネット接続のため島接近か モーリシャス紙報道(産経新聞、2020年8月14日)
    モーリシャス沖座礁、賠償責任は商船三井ではなく「船主」に(産経新聞、2020年8月17日)
    モーリシャス座礁事故1か月 影響は?原因は?(NHKWEB特集、2020年8月24日)
    モーリシャス首相 茂木外相に「日本の責任と考えていない」 重油流出事故(毎日新聞、2020年9月7日)

 

 日本政府は周防大島について何もしなかったのに対し、モーリシャス政府は訴えている、いや訴えていない、とか。

 両方とも背景には「人件費」の問題なども見え隠れしたり、周防大島は「近道」、モーリシャスは「ネット接続」とかそうでない、とか、いろいろいわれており、たくさん疑問符が浮かんできます。

 ですがとにかく、事故の原因、経緯のいずれも【人間の都合】でしかないことには変わりありません。

 結果、起こっているのは環境への影響です。僕自身、モーリシャスの件は気になっていたものの、具体的に何もできていないのが後ろめたく、また何も調べごともしてきませんでした。

 ただ昨日の夜、島の養鶏家の小林さんからメールがきて、ハッとさせられました。そのうちの一文。

「海上での事故や人為的災害に関して、責任の重さがゆるい。人は水の上を歩けないのに」

 ほんとうにそうだなと思いました。そして、身近な「海のゴミの件」とも地続きなんだ、とも。
 つまり、海に捨ててしまえば自分の目の前からは見えなくなって、気にならなくなってしまうということです。

 誰かのせいにしたいのではなくて、自分自身がそうだなと思います。で残念ながら、海のそばに住んでみると、見えなくならず、気になることも事実です。
 僕たちは海に甘えています。

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 プラスチックのスプーン、容器はお客さんの回転率をあげるためには正解かもしれないけれども、残念ながら目の前の海では、当分分解されずに残ってしまう。片付けるのは、地元のおばあちゃんだったり。そしてそのスプーン、本当は捨てなくても何回もいろいろと使えたりして。

 「プラ」というリサイクルマークがついているプラスチック容器も、全部がリサイクルできてるわけではなく、多くが燃えるゴミと一緒に焼却処分されていると島の処理場でも聞きました。

 以前の回にも書いたけど、燃えるゴミを焼却した灰は、この地ではセメントの原料になっている。例えばそれは道路になったり、コンクリートの建物になったりでリサイクルできているような気もするけど、これらの構造物は、もし使わなくなったら壊して捨てるしか道はない。そういう意味では「使い捨てのサイクルが終わらない」。そういう感覚があります。

 恥ずかしながら、思えば移住して初めて気づいたことの一つは、農家の先輩たちが、道具や機械が壊れたり困ったことがあると、そこらへんにあるもので直したり何とかしたりすることでした。「新しいものを買ってきてどうにかする」という選択肢の順位が、だいぶ低い気がします。買いに行くのが「めんどくさい」、または「買いに行くよりも早いから」、ということもあるかもしれません。

 そういえば、そもそも自分の体も新しくすることができません。使い捨てられないというか、ある意味、死ぬまで直して使わないといけないし、毎日自分の意識にのぼらないところで、体内で勝手にやってくれています。

***

 

 「その便利、ほんとに必要?」と立ち止まる瞬間がもうちょっとあればいいのかな。

 本当は、その「便利」の一歩手前くらいのところに、生きる力や創造性が埋まっている気がしてなりません。

 おもしろみというか。ジューシーな旨味というか。

 それをこのたびVHSのくだりが教えてくれました。

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中村 明珍

中村 明珍
(なかむら・みょうちん)

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZの元ギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。

YORIMICHI BAZAR

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