一泊なのにこの荷物!

第3回

運動

2020.06.01更新

「うーん、ぱっ」スクワットからの、直立。タケノコが伸びるイメージで両手は高く挙げる。「うしろ、まーえ」ぐいぐいっと、身体を左右にねじる。うー、背中の方からぴきぴきと異音がします。「ふねふねふね、ふねふねふね〜」両手を横に伸ばして揺れる。反復横跳びのような動きを拍手しながら繰り返したあとお尻を振ってしゃがみ、ジャンプ!

 夕暮れの賀茂川にやってきました。シロツメクサがみっしりひんやり茂る草地で、即興のおかあさん体操をしています。思いつくまま私が動くのに合わせて、子どもたちが真似をするのです。リズム感もセンスもゼロのださい動きに大喜びの娘と息子。5月の風が吹き抜ける広々とした空間で間抜けな体操をする母子を、ちょっと離れたところから他人のふりをして夫が眺めています。あ、動画は撮らないで。

 コロナによる休校生活三ヶ月。茶の間で風船バレーボール、腹筋背筋合戦、相撲、家の前でバドミントン、4、5日に1回は賀茂川、一週間から10日に1回は京都御所、と、やりくりしながら最低限に抑えたマスク姿の外出、運動の機会を作ってきましたが、外出自粛生活もようやく一段落。ほっとしました。元通りの生活にはまだまだ戻れそうにないけれど、これからはもう少し外で身体を動かす機会を増やしたいなと思っています。

 それにしてもスマホの歩数計は28歩、なんてことも珍しくない日々で、本当に予想だにしなかったことが起きた春でした。

 元々私はスポーツにほとんど縁がなく、自主的に何か運動を! とは思わないタイプ。ですがさすがに動かない日々が続いてちょっと調子がおかしいように思います。まず身体が硬くなった。東京に住んでいたころから行き始めて、途中ブランクはあるものの定期的にパーソナルトレーニングに通っていた私は、愛情こもった厳しい指導のお陰で必要最低限度の筋肉があるにはあったのですが、ステイホームとなった途端、これらの筋肉は速やかに音もなくどこかへ去っていきました。代わりに忍び寄ってきたのは、たふたふもっちりした背中の肉だ。憎い。

 通っていたときは指導をしてくれるN先生の「筋肉はまだ死んでない!」のセリフをゼエゼエしながら聞いたものだったけど(普段はめちゃくちゃ優しいのですが、トレーニング自体は結構スパルタなのです)、しばらく聞いてないとなると、ちょっと淋しくもあります。苦労して筋力をつけたのに、またマイナスから出直しか・・・とほほ。

 学生時代を思い返すと、自転車通学片道12キロ、これは結構いい運動でした。3年でふくらはぎがシシャモっぽくなって、腿もぱつんぱつんになった。持久力も結構ついたし、あれは良かったなあ。子どものころからトレッキング、山登りが好きなこともあり、持久力系の運動は得意ってことなのだと思う。

 一方で最悪最低だったのはエアロビクスの授業でした。リズムに乗って、鏡に向かって先生のダンスを真似して踊るやつです。ひとりだけ動きがずれていって、立ち位置もどんどんどんどん後ろへ下がっていく。友だちが上手く避けながら踊ってくれていましたが、一曲終わるタイミングで背後の壁と同化する勢いでした。毎回「ほんじょ大丈夫? 目ぇ死んでるやん」とクラスメイトに言われたものです。ソーラン節や盆踊りはわりと自信あるんだけど、エアロビクスはあかんかったなあ。

 そして、子どものころから一貫してダメだったのは球技。どうやら「球がどんな軌道で動くのかを予測、想像する能力が乏しい」ようで、投げるのも、打つのも、受けるのも、逃げるのも、蹴るのも転がすのも、もう何もかもが変になってしまうのでした。休み時間のドッジボールもキックベースもずいぶん肩身の狭い思いをしましたっけ。

 今でこそ少しはましになりましたが、未だに球のコントロールは難しい。いわゆる暴投、を繰り返して息子から「おかーさん! ちゃんと僕のところに投げて返して!」と注意されることもしょっちゅうです。《「うう、くやしい。みんなでおれをばかにして・・・」》つい佐々木マキさんの傑作絵本『ぶたのたね』の主人公、どんくさいおおかみのセリフが口から出てしまう。

 先月などは、サッカーのパス練習につきあっていたら足を捻挫し(グネった!)、夫からは「グネりのちびまる」と感じの悪い呼ばれ方をされていました。ちびまる、というのは夫からの呼称です。出典はアニメの『ピュンピュン丸』の弟、チビ丸のよう。旧い作品なので私は観たことがないのだけど、話を聞くに、かなり面白そうな内容です。まあ私自身はちっちゃくもなく、忍者でもないのだが・・・。

 さて、こういった運動神経というか、運動の能力は、代々受け継がれるものなのか。

 うちの娘はわりともたもたしていそうで、でも山登りはバテずにひょいひょい上がってくることから私に近いタイプなのではないかと思っていたのですが、キャッチボールが上手くて、しかも結構強い球も投げられることがこの数ヶ月の休校期間中にわかりました。これは本人も意外だったようで、嬉しい発見。

 息子はこの半年、一年前からサッカーとテニスを始めたばかりなのですが、レッスンはお休みになってしまったこともあり、ここ最近はバドミントンにはまっています。ラケットが軽くて、俊敏に動けるのが面白いよう。反応も早くかなりの確率で打ち返してくるので、元バドミントン部員だった夫はすっかり喜んでしまい、しょっちゅう「やるか」「おう」とつるんで、家の前でやっています。息子用にミズノの短いラケットや、新しいシャトルまで購入して、なんだか楽しそうだな。

 おーい、サンダルでやったら危ないし、靴履いてやってね! 

 夫が調子に乗って足をグネらないか心配しつつ、でもほんのちょっとだけ期待してしまう。「グネりのさわだ」と言って仕返ししてやりたいのであります。

澤田康彦さんによる
「運動」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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