一泊なのにこの荷物!

第4回

毒虫

2020.07.01更新

 普段ほとんど医者通いをしない私ですが、年に一度の恒例、皮膚科クリニックに半ベソで駆け込む季節が近づいてきました。

 原因は虫刺されです。

 事件は大抵、母方の田舎・山形の庄内で休暇を過ごしているときか、海や山に行楽に出かけ、やほーいやほーいと調子に乗って泳いだり踊ったり食べたり飲んだり、また、のんきに眠りこけているとき起こります。

 不可解なのは他にも人がいるのにも関わらず、必ずピンポイントで私だけ餌食になってしまうことだ。足首、脛、太ももはもちろんのこと、屋外の公衆トイレでお尻(卑怯者め)。キャンプのバーベキュー中に首筋。山奥の滝壺で二の腕。庄内の祖父母宅で手首。京都の奥座敷・貴船の川床でご馳走を食べているときはワンピースの袖口から進入、脇腹を。さらには、とある寺院に取材で伺ったとき、ご住職のお話が核心に迫っていく一番いいところで左肘に異変が・・・。

 なぜ今そこを狙うのじゃあ!

 普段、動体視力が半端なく優れていると家族に言われ、ゴキブリ退治も得意、いつだって身の回りの小さな異変を見逃さないのに、毎年毎年、たった1パーセントの隙を巧妙に突いてくるブヨやヌカカ、アブたち。どこかに慢心があったのだろうか。何か恨まれるようなことしましたっけ。田舎に集うイトコや叔父叔母たちなんて常にガードゆるゆるなんだぜ。全員短パン、ビーサン、ランニング。虫除けスプレーしているところもほとんど見たことがありません。うちの息子なんて夏場は基本ハダカで暮らしているというのに・・・。「ちく」あっ! 飛び上がるのはいつも私だけなのです。

 皮膚の上にぽつっと点が。そこを中心にみるみるうちに表面が硬くこわばり、熱を帯びて赤く腫れ、むず痒い痛みが襲いかかってくる。数時間後には広範囲にわたってパンパンに腫れ上がるのであります。関節近くをやられると、腫れで可動域もなくなるほどの酷さ。

 病院の先生も、毎度おなじみといった風で「ほんじょさん、カルテを見たら昨年の日にちとは一週間ほどしかズレがないですよ」「このしこりみたいなのは結節といって、しばらく尾を引きます。なるべく掻かないように飲み薬も飲んで、早く治しましょうね」。同じ言葉をかけられる。

 本当に毎年何をどうやっても、毒虫たちからは逃れられないのです。

 そうそう、バリ島でも何かの大群に襲われたことが。山奥のリゾート、ウブドという村で、のんきにプールで泳いでいたらふわふわふわーっと、頭上に小バエサイズの虫が集まりだした。水から上がったらさらにふわふわー。熱帯の自然豊かな土地だからまあこういう虫もいるんだねなんて思っていたら、体中がぶつぶつと痒くなり出したのです。両手両脚お腹も背中も斑点だらけ! まさかここにも天敵がいたとは・・・。

 慌ててホテルのフロントに出向き、ブツブツを見せながら痒い痒いと伝えたら、虎の絵のついた軟膏を貸してくれ、体が凍るくらいにすーすーするその薬を塗り込みました。うかつに森の中で水着になったのが悪かった。調子に乗ってはいけないわ、なんて反省してもあとの祭りでしたが。

 毒虫は他にもいろいろいますね。

 高校一年生の時、テストの開始直後私の机に這い上がってきたのはテラテラと怪しく光る赤黒いムカデ。しかも15センチ以上の大物! 絶叫です。

 試験監督の先生が出席簿でぶった切り危機は免れたものの、まっしろのテスト用紙の上でびんたらびんたらもがき苦しむムカデが恐ろしすぎて、いまだに強烈なトラウマになっている。

 その後、靴箱の上履きに潜んでいたムカデにやられた先輩がいるという噂を聞き、必ず靴の中を確認してから履き替えるようになりました。これ、山の上の学校あるあるでしょうか。

 今暮らしている築100年くらいのわが家にもムカデの小さいのが時々縁の下から出てきたり、ハチが軒下に巣を作ったり、ヒルがお風呂場に登場したりと、色々あります。ヒルはお風呂のタイルの目地にそっくりな太さで、斜めに横たわっていたりするので「あれ、タイル割れちゃったかな?」と思ってよく見ると、トンカチみたいな形の頭を左右に振って進んでいたりする。一体どこから来たのか? お風呂場では眼鏡を外しているので要注意です。

 基本的に昔から虫好きで、バッタやチョウチョやカマキリ、ダンゴムシもアリの卵も何でも触ってみる虫取り子どもだっただけに、毒虫にも興味はないではない。痛くなければいいんだけどな・・・。

 さて、つい先月のことです。

 わが家の玄関脇の椿が、みるみるうちに葉を減らし始めて何事かと思っていたら、チャドクガの毛虫が発生! 葉っぱの裏にびっしり整列しているアレです。タイミング良く剪定に来てくれた庭師さんに退治してもらいほっとしていたら、一週間後、見慣れぬ蛾が網戸にへばりついているのを見つけました。1センチ少々の大きさ、全体に黄色くて触角も顔も脚までもモフモフの毛に覆われ、黒目はぱっちり大きい何とも愛らしい顔立ちです。

 おーい! 私は息子を呼びました。見て、窓の向こうにかわいい子がいるよ。

 ところが、それはまさかの、チャドクガの成虫だったのです。ネットでチャドクガを調べていた夫が「これ、成虫!」と。こ、こんなかわいい顔立ちだったのか・・・。ふー、危ないところであった。背後で夫はこう言いました。「卵産むし、退治しとかなあかんなあ・・・ちびまる、気ぃつけて行きや」

 どうやら私、退治を託されたようです。

澤田康彦さんによる
「毒虫」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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