一泊なのにこの荷物!

第6回

2020.09.01更新

 長かった梅雨が終わり8月になった途端、急に高温化した京都。36、37、38℃! なんて数字が連日続きましたね。月の前半は溜まりに溜まっていた洗濯もの、カーテンや敷物の類いをじゃぶじゃぶ洗っては干し、を繰り返して気分爽快。7月は湿気がひどく、家具の後ろや畳にカビが生えるんじゃないかと心配で心配で仕方がなかったのにこの変わりようときたら! 日本も雨季と乾季、という分け方をするような気候になってきたのかもしれないなあと、脳天直撃の日差しに頭をクラクラさせながら洗濯物を干しつつ思ったものです。

 さてでも、これだけ暑いのでは子どもたちを外に出すことはできません。せっかくの夏休みなのに! 「厳重警戒」「外での運動は原則中止」「危険」「外出はなるべく控えて」なんてメッセージが連日スマホに届くのです。おおこわいこわい。コロナ禍で行楽も控えていたので、梅雨が終わったら自然のあるところに遊びに行こう、思いっきり海で遊ぼう! なーんて、子どもたちに言いたかったのになあ。

 私の子どものころは夏といえば海、でした。うちの母は山形、庄内の生まれ。日本海独特の濃い深いブルーの海に潜り、魚を銛で突くのが得意という野性味あふれる人物で、アルバムめくれば海でガハハと笑っている写真が多数あります。子どもながらに(オカンはほんまに海が好きなんやなあ)と思って見ていた記憶がある。

 毎年夏休みになると親戚じゅうが庄内に集まって、伯父伯母いとこたちと毎日のように海に出かけました。母に限らず伯父は飛び込みも上手だったし、伯母たちもみんな泳いで楽しそうだったっけ。母たちのお気に入りの場所は「砂でじゃりじゃりするのが嫌だ」とのことでごつごつの険しい磯場、私やいとこたちはみな足を切らないよう古靴下を履かされていました。ださくてもこれが一番安全なのです。

 幼稚園から低学年は潮だまりでちゃぷちゃぷ、小3くらいからは徐々に浮き輪で磯泳ぎに繰り出します。足は全くつかないので初めはこわごわ浮き輪に掴まっているのですが、次第に立ち泳ぎができるようになり、潜ることができるようになり、底に近づくと水温がぐっと下がる、なんてことも体感できるようになるのが面白かった。たったひと夏でも自分が〈進化した〉のがわかるのです。そして年下のいとこにコツを教えるようになる。海から岩によじ登る時は寄せては返す波の勢いを利用して「せーの」で岩にとりつく、なんていう技もみんな身体で覚えていました。

 波に揺られながら水中めがねで梅干しみたいなイソギンチャク、大きなアメフラシ、ちびイシダイ、ちびフグ、ちびベラ、磯ガニ、フナムシ等々色んな生きものを飽きもせずに存分に見て触って。水族館で言うところの「タッチプール」に全身浸かっているようなものです。身体が冷えたら温まっている岩にへばりつき、暖をとってまた海へ。ただ仰向けにぷかぷか浮かんで、空を眺めるのも楽しかったなあ。私たち子どもが夕方帰るまでにやることは、バケツにシッタカガイやニシガイを集めることでした。なかには、収穫物にヤドカリが混じっていないかチェックするのが好き、といういとこもいましたっけ。晩の一品、お味噌汁にするのです。帰りの車はレジャーシートを敷いて水着のまま乗り込む。日に日に黒光りしていく肩を比べっこしたり、腕や髪についた塩をちょっと舐めたりして「しょっぱ!」と大騒ぎしたのも懐かしい思い出です。

 ただただ遊ぶ。とことん遊ぶ。今振り返ってみると、いとこたちと海で過ごした日々は何にも変えられない宝物のような時間だったと思えます。そしてそれと同時に、私が小学生のころってことは、母も伯父や伯母も今の私よりうんと若かったのだということにも気づいて、ちょっとびっくり!

 今夏の海水浴は断念しましたが、実はお正月はパラオで泳ぎました。数年ぶりの海外旅行に出かけていたのです。

 ずっと前から行ってみたかったパラオ。息子が水に慣れたタイミングで渡航したのですが、まさかその数ヶ月後に、家から出ることさえ自粛せねばならない事態が起こるなんて。全く想像もしていませんでした。当時はものすごくのんきな旅行ができていたということで、あれはもしかして夢だったのかな? と思ってしまうほど世界は変わってしまったのですね。

 パラオでは、もちろん毎日海で泳ぎました。日没までの間、食事時間以外はほぼ、海に入っているという日々。蘇る小学生時代! 天候にも恵まれて、私たちは青い海の世界を大満喫しました。一体何種類の生きものを見たのかな。シュノーケリングスポットを巡るボートツアーも、息子が怖じ気づいたりしないかが心配で恐る恐る参加したのですが、すべて杞憂に終わり「もっと泳ぎたい」「もっと海に入りたい」の連発で毎日海から引き上げるのが大変でした。ガイドさんにもかわいがってもらって海にドはまりしたようです。それからずっと、大きくなったらパラオでお魚の場所を案内するガイドさんになり、毎日ハンバーガーを食べる、と決意を語っています。連れて行った甲斐があったというものです。

 これからもいっぱい色んな海へ泳ぎに行こう。京都の海もきれいだし、もちろん、かあさんやばばも大好きな、庄内の海もね! 次の夏は例年通りいとこたちと再会できることを願うばかりです。

澤田康彦さんによる
「海」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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