一泊なのにこの荷物!

第15回

ひま

2021.06.01更新

 時間だけがたっぷりある毎日であります。

 夫が「最近さ、メールがあんまり来ないんだよ」と、ぼそぼそ言い出しました。「何か、ものを売りたい人たちばっかり連絡くれるんだよね」「みんなどうしているんだろうなあ。元気? とか、会いにも行けないし、つまんないよね」。

 ははあ、淋しいんだな、と思って「大丈夫だよ。きっとみんなもそんなにメールとかしていないんだよ。私なんか前から滅多にメールとか来ないよ」と励ますつもりで言ってみたものの、言った途端にアレ? つまりオレたちどっちも人気ないってことか、と気がつく。そう言えば私のところにはこのところ毎日のように「カラスよけネット《ゴミ出し番長》買ってね」ってメールばかりが来るのです。

 せめてコロナさえなかったら行きたいとこはたくさんあるのに、会いに行きたい人もたくさんいるのになあ。先の見通しが立たないこの生活にもさすがにちょい疲れ気味。

 私は気を取り直して、ひとまずジャムを煮ることにしました。

 なぜジャムを煮るのか。それは、果物の甘い香りと、くつくつと煮込まれる音に包まれると、それだけでわかりやすく幸せな気分になれるからであります。

 今回はイチゴジャム。ちょうど買い出しの日にお値打ち価格の小粒イチゴを見つけました。小粒のはイチゴミルクにするのも美味しいが、ジャムにも最適。たった1パックだけだけど、やっぱり出来たてが美味しいからね。きれいに洗ってヘタをナイフで落とし、水気をふいてイチゴの重さの40パーセントのグラニュー糖をまぶし一晩冷蔵庫へ。翌日火にかけて、ふつふつぷくぷく沸いてきたら焦げ付かないようにつきっきりで煮詰める。へらで混ぜていると、イチゴの香りが台所じゅうに広がって、うっとりです。

 ジャムを煮る、というのは気持ちが鬱々としがちなコロナ禍中においてすごくいい気分転換になっています。果物の香りが心身の疲れとか緊張を解いてくれるような気がするんですよね。それと、毎日の料理のように「しなくちゃならない」というものとは全く違うというのも大きいのではないかなと思う。ただ自分が楽しむためにジャムを煮るのです。グラニュー糖と、その時々で何か手に入りやすい果物があればジャムはできる。砂糖の量も秤がなかったらだいたいの目分量で大丈夫だし、果物も例えば熟していないグリーンのキウイとかも美味しいんですよね。

 それから、家の片付けも始めました。

 何でもかんでも入れている階段脇の納戸の扉を開けてみる。まず目についたのは花火。昨年の残りものです。湿気ていないかな。フリスビーやボールなど、外遊びのおもちゃを置いている場所へ移すと、目ざとく見つけた小三の息子が「さっそくやろうやろう」と袋を開け、べりべりと台紙から花火を引きはがし始めました。火が着くかどうか、今晩3本だけ実験してみようよ......ちょ、ちょっと待て待て慎重に、折らないで! あっ。

 引き出しから古い種も出てきました。春菊、ミックスレタス、そば、コリアンダー。発芽、育苗用に良さそうだと取っておいたプラスチックトレー、発泡スチロールの箱と一緒に庭へ運ぶ。底に穴を開けて土を入れ、種をぱらぱら。古いから発芽しにくいかな、多めに蒔いてみることにしよう。

 大量のコード類も出てきました。紙袋ひとつ分。よくもまあこんなに貯めたなあ、何用かわからずひとまず保管していたものもありますが、ここから再登板するコードはもう何年もなかったのでまとめて特殊なゴミの日に近所の広場に持って行くことに。特殊なゴミといえば電池がけっこう貯まっていたな。おっと蛍光灯と古着もだ。ごそごそごそ、とそれらを集めて回ります。うちはあちこちにそんなコーナーがある。

 娘が「パジャマにしていたズボンがちっちゃくなっている!」と報告に来ました。目の前で広げられた短パンを見てみると確かに、え、君これ昨年穿いてたっけ? と言いたくなるくらいのミニサイズです。息子の方も服がパツパツで、へえ〜と思う。ひとまず娘のものを息子に、私のものをいくつか娘に。足りないものはリストアップしてまとめて買おう。衣類が小さくなる、というのは育った証拠であり、なんだか羨ましいなあ。
 

 他に最近始めたことはというと、朝のNHK「みんなの体操」の視聴。6時半にテレビがつくと同時にむくりと起き上がり、布団の真横でそのままやっています。

 テレビのなかの人たちの爽やかで、溌剌とした身のこなしが眩しい。こちらはというとまだ目も半分しか開いていないし、よれたTシャツに、ふくらはぎまでまくれ上がって膝下で留まっているスウェット姿。朝起きると必ず脛出し状態のニッカボッカみたいな形になってるんだけど、あれはどうしてなんでしょうね。みなさんは寝ている間にそんな風にはなりませんか? うちの娘も全く同じ状態になって布団から這い出てくるので、遺伝なのか? 目も半目だし。

 それはともかくこの番組、前半のウォーミングアップは動きもゆっくりで易しめなのですが、これをひとしきり終えるとラジオ体操が始まるのです。地味にしんどいラジオ体操。第2のときは特にきつい。でもこの番組のおかげで肩周りがだんだんほぐれるようになりました。やった分だけの効果はある。しばらく続けてみようと思います。

 ところで種蒔きの方はというと、数日後ものすごい勢いで発芽し始めました。古くてもちゃんと生きてた! やったやった! スーパーにあるカイワレ大根のようにみっしり密になってきたため移植しましたが、ぽよぽよと頼りないながらも順調に葉の数を増やし、ただ今かわいい盛りを迎えています。はー、見ているだけで和むね。おかげで庭に出るのが楽しくなったので、前からやらなきゃと思っていた鉢の植え替えもしました。さあみんな、新居はどうだい? 根っこが落ち着いたら肥料も少し入れてあげるからね。

 夕方は相変わらず賀茂川へ繰り出します。最近わが家でハマっているのは「ラクロス」。と言ってもこれは雑魚すくいの網で投げたボールをキャッチするもので、以前ラクロスの練習をしている学生さんたちを賀茂川で見たのをきっかけに始めた遊びです。わが家のニセラクロスはださくてかっこ悪いと思いつつ、キャッチした瞬間、網を持った手首を少しひねるという動きをつけると上手く見えることがわかり、しかもボールがバウンドするのも抑えられるので有効であることが証明されました。毎回賀茂川に着くとしばらくこのニセラクロスで盛り上がり、その後本来の目的の雑魚すくいをする、という流れになっています。昨年はでたらめな動きをする「お母さん体操」が流行っていたのですが今年のブームはラクロス。賀茂川で、空中で雑魚網振り回している変な親子がいたら、それはまず間違いなくわが家でしょう。ご通行の方の迷惑にはならないようにしますので、もし見かけたら笑ってやってください。

 もうひとつハマっているのは息子が学校の先生から教えてもらったアプリ。スマホをかざすと、カメラで捉えた植物の名前がわかるもの、もうひとつは生きものの名前がわかるというものです。こんなのあるんだ、と私も夫もびっくり。息子がさっそく私にスマホを向けて「ホモサピエンス...」と呟きました。

 結構面白いです。

澤田康彦さんによる
「ひま」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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