一泊なのにこの荷物!

第16回

ペット

2021.07.01更新

 子どものころからウサギ、白文鳥、犬、アヒル、ニワトリ、亀、各種魚類に昆虫と、色々な生きものと共に暮らしてきました。うちの母が無類の動物好きで、すぐに「かわいいなあ!」「飼おう!」って、連れて帰ってくるのです。

 白文鳥は羽根もまばらなヒナのときから。二時間おきくらいにお湯でふやかしたエサを与えるのですが、仕事をしていた母は職場にも連れて行って世話をしていた。なんと大らかな優しい会社なんだろうか。

 例えばですよ、電話をかけている横でヒナがピイピイ鳴いてエサをねだったりしたらどうでしょう。しかも二羽。一羽が腹減った! と言い出せばもう一羽も「ハッ」とした感じでオレもオレも! と騒ぎ出す。ほら、ツバメの巣を想像してみてください。愛らしくも賑々しいあの状況。ほのぼのとする光景ですが、実際隣のデスクにいたとしたらかなり迷惑では・・・。

 アヒルも、初めはたまご色のほよほよヒナでした。ちびアヒルって本当にかわいいんです。特にまあるいクチバシの愛らしさときたら! 私たちの目尻は下がりっぱなし。ベビーバスで泳ぎの特訓、お散歩も楽しかったなあ。時々尾をフリフリするのがたまらなくて、いつもお尻に注目していました。

 ところが立派なアヒルになったある日、近所の池のアヒルに会わせてあげようと首の散歩紐を解いたら、一瞬でアヒル集団に同化してしまうという事件が発生。それは迎え入れてからわずか1、2か月くらいのことでした。必死におーいおーいと呼び戻そうとしたら全部のアヒルがこっちに向かってきたの。一緒に暮らして泳ぎの特訓もしたのに、どれが自分の子か判別できないって! 当時小3か小4くらいだったのですが、ちょっとした思いつきがまさかの別れになってしまったという、やっちまった...の典型例。衝撃的な出来事だった。

 最近では一昨年ちょうどこの季節に、イチローというおじいちゃん犬を看取りました。母が旅行好きだったこともあって、そのお伴で日本中を車で旅した犬です。大きいパピヨン。原種に近いらしい。

 若いときのイチローはちょっと不運な生い立ちのせいか犬嫌いで、留守番も苦手。やんちゃでいたずらっ子で、幼かった娘とよくもめていました。娘のリンゴを奪ったり、爆走して娘が引きずられたり。息子が生まれてからは、こちらの方がやんちゃだったため逆にいたずらをされる側になってしまった。愛想が良くてどこへ行ってもかわいいかわいいと撫でられたせいか、いつも頭のてっぺんが平べったくなっていたっけ。

 晩年は昼夜逆転生活になって夜鳴きをするようになってしまい、母は大変な思いをして面倒を見ていましたが、日中はというと穏やかで、そして不思議なことに食べても食べても体重がどんどん軽くなった。顔も身体もちっちゃくなって、あどけない赤ちゃんみたいな表情をして寝ていることが多くなりました。

 切なかったけれど、若々しいときからの一生を全部私たちに見せてくれて、一緒に過ごせて良かったと思います。最期のほうはバスタオルにくるんで抱っこして、いろいろ話しかけました。息を引き取る一時間ほど前に大きな声で「わん、わん!」と吠えたのですが、それがお別れの挨拶だったのだろうな。18歳を迎える間際、見事な終わり方だったと思います。

 そうそう、小学一年生の国語の教科書で『ずーっとずっとだいすきだよ』という、愛犬との別れが書かれたお話があったのですが(同名の絵本あり)、それを息子が宿題で朗読するたびじわじわ泣けたものだった。あの物語は今聞いてもたぶん、泣くだろうなと思う。

 さて、現在うちにいるのは金魚と、ヌマエビの一団。

 六匹いる金魚のランチュウ、そのうちの一匹が、今日も水槽の底でお腹を上にしてひっくり返っている。半年ほど前からエサを食べた後、この体勢でしばしじっとしていることが増えました。金魚だから目はつぶらないものの、ぽてぽてとしたお腹を天に向けて昼寝をしているようです。どことなく、ごはんを食べた後畳にごろりとしている私に似ているような親しみのわくポーズ。ペットと飼い主は似てくると良く言うけれど、まさか真似をしているのかね。

 小3の息子が「かーさんかーさん、また金魚がひっくり返っている!」と騒いでいる。

 しかし長年いろんな金魚を飼ってきましたが、こんな風に寝る子はいなかったなあ。ネットで調べてみると〈転覆病〉という症状に似ているような気がしてきました。のんきに構えていましたが、病とな!

 考えてみれば普段とは真逆の体勢でいるわけで、仰向けはやっぱりしんどいものかもしれない。じわじわ心配になってきましたが当の本人「お昼寝くん」が喋ってくれるはずもなく、ぽけーっと腹を上にして沈んでいるだけです。半日ほど経つとまた元に戻ってぷりぷり泳ぎ出すので、今のところ深刻にならない程度かもしれないが、密かに気を揉んでいます。

 身体が石でこすれると傷になるので砂利は取り除き、水草を多めに入れ通常のエサにプラスして草食も勧めるようになりました。素人考えですが、新鮮な野菜(野菜ではないけど)は身体に良いのでは、というイメージ。ほれ食え食えという気持ちが伝わったのか、ランチュウ集団はブチブチ噛みちぎって水草を食しています。結構消費速度が速いので、度々近所の水辺で調達してくるのですが、堅い茎は残して食べるところがかわいいではないか。よしよし、やわらかいとこいっぱい摘んでくるからね、と母さん張り切る。

 水替えだのエサやりだのの世話をするその横で息子が度々『ざんねんないきもの事典』の「金魚は雑に飼うとフナになる」という知識を披露し、期待を込めた目で金魚を見ているのですが、なにを言うか。何年経ってもうちの子はフナにはなりませんぞ!

 このランチュウは息子の幼稚園時代に園の夏祭りの金魚すくいでもらって来たものでした。飼い始めて五年ほど。副園長さんとお友だちというランチュウ協会のおじさまが、園児たちに分けてくださっていたのです。世の中には色々な協会がありますが、ランチュウ協会っていう名前の響きが平和で素敵・・・。

 最初はほとんど大きさも同じだったのに、今では大きさがまちまちで、色あいはもちろん性格も様々。チビなのに他の子を押しのけるパワフルなやつもいれば、小食なのに身体は大きい子も。仰向けになる「お昼寝くん」は一番食いしん坊。人間が水槽に近づくと「ごはんクレクレ」って集まってくるのがかわいい。

 泳いでいるのを見ているだけで楽しくて、やっぱり家に生きものがいるっていいなあと思うのです。今は水槽なので真横から見ているのですが、本当はガラスの金魚鉢か大きい水盤みたいなのに入れて、上から愛でたいんですよね。涼しげでとてもいいでしょう? どこかにいい容れものはないかなあと思って探しているところです。

澤田康彦さんによる
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本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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