一泊なのにこの荷物!

第21回

寒っ

2021.12.01更新

 12月になってしまった!

 師走と言えばやることがたくさん。子どもたちの二学期ラストスパートのサポート、個人面談、それと「年末進行でお願いしまーす」なんていう、前倒しで締め切りのくる仕事。他にもごちゃごちゃしたクローゼットを片付けたいし、靴もきれいに磨きたいし、台所も食材の在庫一掃整理したいなあ。

 だけどこのところ私の身体の動きは鈍い。なんか変、頭に浮かぶのはオズの魔法使いに登場する〈ブリキの木こり〉です。例えば直立状態から前屈体勢になると腰のあたりがミシミシする。家にある、ぶら下がり棒につかまってだらーんと脱力してみるのですが、この脱力状態で頭を軽く前後に倒してみると首の周辺から、ゴキゴキ異音がすることもわかりました。自分の内側から鳴っているコワい音・・・大丈夫か。

 つまり、凝っているんです。全身、固まっちゃっているみたい。このまま放っておくとひどい目に合いそうな予感がします。これまで何度かぎっくり腰になっているのですが、その予兆に似ている。痛くなってくると腰を落としてすり足で歩くのが楽でいいのですが、家でその動きをしていると「狂言のひとみたいやな」「狂言のあの動きやな」とかと家族に喜ばれてしまうし。こちらとしては真似しているつもりはないのですが、そう言われると何かセリフのひとつも言いたくなってくるというものです。気の利いたのを勉強しておきたいものだね・・・、なんて言っている場合ではなかった。

 端的に言えばこれは運動不足によるもの。そして身体が固まっているというのは、急に寒くなったからなのだ。この秋は暖かかったせいでずいぶん油断していたように思う。

 本当は、これくらいの季節から空気が澄んでくるので大文字山に登ったり、宝ヶ池を散策したりするのが楽しいんですよね。落葉が一段落すると梢にとまる野鳥がよく見えるようになるため、バードウォッチングがしやすくなって。ネクタイしているみたいなシジュウカラ。カワセミやルリビタキなど、青い鳥もかわいいね。京都市内でもけっこう色々な野鳥が見られるんですよ。私の大好きなツバメはすっかり南の国へ飛び立ったようですが、冬は冬で愛らしい子たちがたくさんいるのです。

 それと寒くなってくると「たまにはどこかの温泉に」なんて、一泊で繰り出したりしたものでしたが、果たしてこの冬はそんな風にのんきな旅行できるのかな・・・。温泉、しばらく行っていないな。銭湯にすら行けていない。冬の露天風呂って頭は冷や冷や、身体はほわーんと温まって、実に気持ちがいいんだよね。露天風呂に入りに行くまでが「寒っ!」ってなるけど、あの心地よさは何にも変えがたい幸せの時間であります。

 そうそう、昨年、学校のPTA委員の仕事をしたのですが、保護者向けの薬膳講座を企画開催した際に、打ち合わせの会議がものすごく盛り上がったことを思い出しました。しつこい冷えがある、寝付きが悪い、疲れ目、肌のカサつき、更年期対策などなど、みんなから講師の先生に聞きたい質問が出るわ出るわ。初めましての寄せ集めチームが、一気に一体感増し増しで「そうそう!」「ですよね!」って共感の嵐だったのです。同志になれた瞬間「この企画絶対上手くいくな」って確信しましたよ。知りたいことを教わるって、一番吸収率のいい勉強法だと、身をもって学びました。

 先生曰く、基本的には次の季節が巡ってくる前に、前倒しで準備、食養生をすることが健やかな日々を送ることに繋がると考えられています、とおっしゃっていました。つまり身体に事前に準備をさせる、ということのようです。西洋医学のように咳が出るからそれに対応した薬を服用するという対処療法的な考え方をするのではなく、空気が乾燥する季節がやってくるから肺を潤す食材を摂る、例えば長芋、レンコン、梨などは良い食材です。前もって気をつけてあげることが大事ですよ、という感じ。ね、興味深いでしょう?

 薬膳といっても漢方食材に限らず、普段からスーパーに売っていて私たちが日々食べているものにも色々な性質のものがあるとのことで、これを知らないのと知っているのとでは、知っている方が断然楽しいだろうな。例えば鮭が身体を温める、貝類が安眠を誘う食材である、なんて。

 こういう話を中3の娘にしたところ「へえ! もっと知りたい!」って言っていました。

 寒いと言えば、学生のころはずいぶん辛かったなあって、思い出します。小学生のときの体操服の半袖ブルマはキツかった。中学生の時は陸上部に所属していましたが、真冬の駅伝大会は芯から凍えた。ランニングと短パンのペラペラユニフォーム、今なら絶対、ごめんなさい無理です、無理! って言っちゃう。ウォーミングアップしたって全身鳥肌、ほんとにほんとに寒かった。ユニフォームの生地に匹敵するほど、やる気の薄い部員だったように思います。

 あと昔ものすごく寒かったのは、田舎の家の布団だ。おかんの実家、山形・庄内の家の冬の布団がめちゃくちゃ重たい綿の布団で、しかも昔のサイズなので私にとっては、にょーんと両足が飛び出す短さでした。「寒いからいっぱい掛けな」って母や叔母たちみんなが言うけど、二枚も掛けたらもう岩の下敷きになっているような状況で身動きが取れないの。どう考えても重い、重すぎるのです。間違いなくうなされる。金縛りにあったみたいになる。そして布団が堅くて首に沿わないため肩がびきびきに冷える。部屋自体も暖房切っているので息が白かった。こんなこと書いたらおかんに怒られるかもしれないけど映画『シックス・センス』の、霊が出るとき室温がぐっと下がって息が白くなるのを見たときに、この庄内の家を懐かしく思い出してしまった。もう、ほんとにほっぺや鼻が冷たくなるんだよね。叔父が「昔は、吹雪の翌朝なんかは窓枠の部屋側にも雪が積もってた」というようなことも言っていたので、みんな頑張って過ごしていたんだなあとしみじみ。

 雪国山形のそれに比べれば、京都の寒さなんて大したことな・・・、いや、寒いな。日中は家の外の日ざしを浴びた方が暖かい、とご近所の方々が家の前に出ています。京都の冬のあるある、と複数の人が言っています。でもこういうの嫌いじゃない。それぞれ自分の家の前を箒で掃きながら、お天気の話をしながら、なんとなーく日なたぼっこをするのって、楽しいものです。寒いけど、心はぽっと温かくなる。

 さあ、この冬は厳しいものとなるのでしょうか。各地雪の被害が出ないといいな。穏やかな年越しとなることを心から願っています。

 少々気が早いかもしれませんが、みなさまあったかーくして、どうぞよいお年をお迎えくださいね。

澤田康彦さんによる
「寒っ」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • いしいしんじが三崎に帰ってくる! 次の土日はいしいしんじ祭(1)

    いしいしんじが三崎に帰ってくる! 次の土日はいしいしんじ祭(1)

    ミシマガ編集部

    週末の土日はぜひミシマガ読者のみなさまにお伝えしたいイベントが開催されます。三崎いしいしんじ祭、5年ぶりの開催が決定しました!

  • 『時代劇聖地巡礼 関西ディープ編』ついに発売!

    『時代劇聖地巡礼 関西ディープ編』ついに発売!

    ミシマガ編集部

    『時代劇聖地巡礼 関西ディープ編』が、ついに書店先行発売日を迎えました!  時代劇研究家の春日太一さんが、時代劇のロケ地=聖地を巡り綴った、まったく新しい、時代劇+旅のガイドブックです。そのおもしろさを、たくさんの写真・動画とともにお伝えします!

  • 藤原辰史さんより 『小さき者たちの』を読んで

    藤原辰史さんより 『小さき者たちの』を読んで

    ミシマガ編集部

    『小さき者たちの』の刊行を記念して、著者の松村圭一郎さんと歴史学者の藤原辰史さんによる対談が行われました。 開始早々、「話したいことがたくさんあるので、話していいですか?」と切り出した藤原さん。『小さき者たちの』から感じたこと、考えたことを、一気に語っていただきました。その内容を余すところなくお届けします。

  • ひとひの21球(中)

    ひとひの21球(中)

    いしいしんじ

    初登板の試合で右手首骨折、全治三週間。が、しかし、日々着実に成長をつづける小学生のからだの、どこが生育するかといえば、それは骨だ。しかも末端だ。指先や手首の骨は、ほっておいてもぐんぐん伸びる。折れた箇所も、呆れるほど早くつながってしまう。

  • 春と修羅

    春と修羅

    猪瀬 浩平

    以上が、兄が描いた線をめぐる物語だ。兄はわたしの家から、父の暮らす家までしっそうし、そしてまた父の暮らす家から千葉の町までしっそうした。兄が旅したその線のすべてを、わたしはたどることができない。始点と終点を知っているだけだ。その点と点との間の兄の経験がどんなものだったのか

  • GEZANマヒトゥ・ザ・ピーポー&荒井良二の絵本『みんなたいぽ』が発売!

    GEZANマヒトゥ・ザ・ピーポー&荒井良二の絵本『みんなたいぽ』が発売!

    ミシマガ編集部

     GEZANのフロントマン、マヒトゥ・ザ・ピーポーがはじめて手がけた絵本『みんなたいぽ』を2023年2月22日にミシマ社より刊行します。絵は、国内外で活躍する絵本作家、荒井良二によるもの。本日2月17日からは、リアル書店での先行発売が開始しました。3月以降、各地で原画展やイベントを開催予定です。

  • 『おそるおそる育休』、大阪で大盛り上がり!

    『おそるおそる育休』、大阪で大盛り上がり!

    ミシマガ編集部

     こんにちは! 京都オフィスの角です。『おそるおそる育休』の発売を記念して、著者の西靖さんと、大阪・梅田の本屋さんを訪問してきました!

この記事のバックナンバー

10月01日
第31回 テレビ 本上 まなみ
09月01日
第30回 旅に出る(北海道編) 本上 まなみ
08月01日
第29回 本作り 本上 まなみ
07月01日
第28回 部活 本上 まなみ
06月01日
第27回 ウソ 本上 まなみ
05月01日
第26回 ロケ 本上 まなみ
04月01日
第25回 遊び 本上 まなみ
03月01日
第24回 学校 本上 まなみ
02月01日
第23回 ねどこ 本上 まなみ
01月01日
第22回 窓 本上 まなみ
12月01日
第21回 寒っ 本上 まなみ
11月01日
第20回 秋景色 本上 まなみ
10月01日
第19回 旅の宿 本上 まなみ
09月01日
第18回 こわい 本上 まなみ
08月01日
第17回 お昼ごはん 本上 まなみ
07月01日
第16回 ペット 本上 まなみ
06月01日
第15回 ひま 本上 まなみ
05月01日
第14回 ちょっといい感じ 本上 まなみ
04月01日
第13回 もうだめだ 本上 まなみ
03月01日
第12回 ひとり暮らし 本上 まなみ
02月01日
第11回 車 本上 まなみ
01月01日
第10回 お酒 本上 まなみ
12月01日
第9回 すっきりしない 本上 まなみ
11月01日
第8回 魚釣り 本上 まなみ
10月01日
第7回 山 本上 まなみ
09月01日
第6回 海 本上 まなみ
08月01日
第5回 自転車 本上 まなみ
07月01日
第4回 毒虫 本上 まなみ
06月01日
第3回 運動 本上 まなみ
05月01日
第2回 あさごはん 本上 まなみ
04月01日
第1回 ごあいさつ 本上 まなみ
ページトップへ