第26回
ロケ
2022.05.01更新
6月に放送予定の旅番組の収録で、山形に行ってきました。うちのおかんの故郷でもある山形はこのエッセイで何度も触れていますが、今回旅したのは馴染みがある庄内ではなく内陸の方です。
4月終わりの山形盆地の美しいことといったら! 本当に驚き感動しました。だってね、サクランボ、ラ・フランス、リンゴ、モモといった果樹やハナミズキに桜タンポポ菜の花チューリップ芝桜スズランなども一斉に咲いて、うふふアハハと春風に揺れているのです。
新緑に染まる山々とその奥に聳えるまっしろの雪山、雪解け水がたっぷりと流れる河川。どちらを向いてもこんな感じで、全部が春。みちのくには春が一気にくるんだよ、とうちの母はよく言うのですが、これはちっとも嘘じゃなく、ほんとに雪が溶けた瞬間ぱっと春になるんだなということが木々や草花を見てわかりました。こちらまで笑っちゃうくらいに朗らかで、上機嫌の景色を眺めていると、桃源郷とはここのことじゃないかという気がしてきます。
今回の撮影隊のひとり、20年以上も前『世界ふしぎ発見!』のロケでフランス・コルシカ島へ行って以来お世話になっているカメラマンのKさんも「まさに山笑う、だね」としみじみ。Kさんと私はコルシカ島の珍味(!)、ウジ虫チーズを体験した仲。ご一緒すると絶対に愉しい旅になるに決まってる、そんな風に思える面白い方で、高知で一緒に文旦を頬張って以来ほぼ1年ぶりとなったこの山形ロケもやっぱり愉しい3日間になりました。
仕事柄「ロケ」が多い人生ですが、私はこのロケというものが大好き。この連載にもしばしば登場してくる(していただいている?)旅行好きの母親の影響か、自分の縄張りというか生活圏から離れて未知の世界へ飛びこむのを好む傾向があります。
身体が頑丈でどこでも寝られ、何でも食べられるというのも得しているなと思うし、生活面で決まった習慣がないため、いつもと違う状況でもストレスを感じないというのも強みです。サハラ砂漠のどまんなかで4、5日シャワー浴びられませんとか、インドで1週間川で水浴びになりますといった状況も、なんだそれ面白そう! と思ってしまう。スタジオに毎日通って仕事しているのに4日もシャワーしていない、なんて出演者はきっと敬遠されますが、サハラならその状態でテレビに映ってもOKなのです。愉快愉快。
ちなみに砂漠で寝泊まりすると毛髪が砂を吸着して羊毛フェルトのように固まることがわかり「へえ!」と思ったものでした。ごわごわ固まっているので頭にターバン巻くのも思ったよりも楽だった。私にしばしば発生する寝癖もバレないし、ターバンはありがたいものだ。情報はなんでも簡単に手に入る世の中とはいえ、体感してこそわかるってことはものすごくあるものです。それらをテレビや文章で伝えるのは難しくもやりがいがあります。それがみんなにとってためになる情報かどうかはまた別の話だけれど......。
うちの娘は若干私に似たようで、珍しい体験をするのが好きなタイプかもしれません。小学5年生で徳島の「川の学校」という、川ガキ(河童?)養成キャンプに参加していたとき「寒いときはドラム缶風呂に入って温まったよ、川の水を沸かすからお風呂に小魚が浮いてた〜」と嬉しそうに報告してくれたっけ。「ヨシノボリのから揚げ、おいしいんだよ」とか。現場からの報告写真では娘が太ミミズをぶらさげて笑っているのを見つけたりと、予想以上にたくましい。逆に息子は初めての場所、初めての体験に緊張するタイプで、家族4人のなかでも一番保守的。慎重なところは「ぼくに似た」と夫は言う。彼にちょっとずつ新しい体験をさせるのが私や夫の楽しみで、そのようすを観察するというか見守るのが面白い。尻込みしたり、おずおずしていたのが、いきなりパッと目の色を変えて「コレ、ボク好き!」ってなる瞬間を見ると(よしよし)と思うのです。
ロケでは色々な方にお世話になります。取材先のみなさんはもちろんのこと、テレビには映らないけれどロケバスのドライバーさんの役割はとても大きいものです。ぶるぶる震えるような細く険しい山道もすいすい、うわっ...と思うようなスペースで方向転換、などプロの技を駆使してくださるばかりか、撮影のサポート、お弁当のピックアップ、さくっと食べられるおいしいランチの店を紹介してくれたりと、いつも多方面に活躍してくれている。フレンドリーで気配りの上手な方が多いんですよね。
今回は地元山形にあるタクシー会社のドライバー、Tさんにお世話になりました。物腰やわらか、丁寧でしかもしゅっとしてて紳士的な彼は眺めの良い、撮影におすすめの場所を次々案内しながら「この先のカーブを曲がると眺望が開けます」などと事前にお知らせくださるのに感動しました。
空き時間に、Tさんに、うちの母が庄内出身であることを告げたら、「わあそうですか。庄内は本当にいいところです。この季節は孟宗汁っていう、タケノコのおつゆが私は大好きで...」「へえ、そうですかお母さんが」と何回も感心したように言ってくださるので、照れくさく嬉しかったです。
またすぐにでも行きたいって思えるところだらけ、いいところたくさん見つけた紀行でした。美味しいものいっぱい、夏休みはみんなで行けたらいいなあ!
行ったばかりのロケ報告ですが、語りたい体験はたっぷり。また追々お話を聞いてください。グアテマラの山賊話に怯えたエピソードとか。