一泊なのにこの荷物!

第28回

部活

2022.07.01更新

 「あ、今日部活だから遅くなるよ〜」ふうたろう(仮称、娘。高校1年生)が慌ただしく出ていきました。今朝も早くからお日さまがじりじりと京都の街を照らしている。

 部活、かあ。部活って懐かしい響きです。私は中学では陸上部に所属していましたが、夏の間の練習はキツくてへこたれていたものだったなあ。蜃気楼が見えるんじゃないか、と思うくらいに熱せられた運動場でサッカー部やバスケ部なんかと場所を分け合って「おーい」「へーい」どたばたとトラックの周りを駆けていました。言うまでもないけれど、夏の運動場ってのは暑いんです。ぱっさぱさの地面にときおり熱風が吹き、砂煙が舞う。西部劇の舞台かよ。メニューをこなす合間合間に「水!」「水!」と手洗い場へ行き、顔をばしゃばしゃ洗い、首も洗い、頭も濡らさないといられなかった。ふう、生き返った〜と人心地つくと、熱風に混じってばしゃばしゃばしゃ、きゃいきゃいという反響音がするのです。音の方を見れば、あっちにはプールがあるのでした。涼しげな青の世界。羨ましい。こっちは耳の後ろやうなじからも汗がとめどなく流れているっていうのに。あー、選択を間違えたなあ、高校へ行ったら絶対水泳部に入ろう。そう思ったものでした。

 当時のうちの学校の陸上部の部室兼倉庫はサッカー部の隣で、仕切りの板壁に1センチくらいの穴が空いていたのを覚えている。着替えのときの覗かれ防止のためティッシュかなんかを丸めて詰めていたけれど、なぜか時々外れていてサッカー部員の方から「ちょ、覗かんといてや〜」と言ってくるのでした。はあ?? であります。コンクリートブロックを積んで作ったような、土足のままで出入りする砂っぽいホコリっぽい、狭い部室だったな。とてもじゃないけど全員が中に入れるようなスペースはなく、わいわいがやがや他の部活の子たちと共に部室前の地べたに集っていたっけ。何を喋っていたのかはさっぱり覚えていないけれど、長屋住まいって感じで、楽しかった記憶がある。

 高校では水泳部に入り、念願叶えたのですがそこから2か月ほどでモデル事務所にスカウトされるという青天の霹靂事件が起き、日焼けNGが出たためにあっという間に退部となったのでした。

 ......なんて思い出を語ってしまいましたが、そもそも私は運動が得意というわけではないのであります。

 あれれなんだか変だぞ? と気づきはじめたのは小学2年生くらいのとき。幼児期から背がまあまあ高かった私は、手足も比例してまあまあ長く(とりわけ手が長かった)、でも運動するときはこの手足をうまく使いこなすことができずに持て余してしまいがちでした。

 その筆頭は徒競走。気持ちとしては当然進行方向に進みたいとは思っているのだけれど、しゃかりきに腕を振れば振るだけ、振り子の要領なのか背面方向、つまり後ろにもエネルギーを持って行かれるような違和感があったのです。腕が前に戻るまで、ちょーっと時間がかかるのね。足だって、地面を蹴って前へ前へ行くはずですが、これも蹴り出しの足がまた次、前方の地面を捉えるまでがイメージするよりも、ほんのちょっと余計に時間がかかってしまうのであった。人形劇の、操り人形が動くときのような手足のぶらぶら、ゆらゆら感と言ったらいいのでしょうか。いまいち定まらない、決まらないこの感覚、一体なんだろう? と思っていたのです。でも当然ながら自分の走っているようすは客観的に見られないし(運動会も、当時ビデオカメラで撮影するなんて習慣はほとんどなかった)、また、友だちの走る姿は見られても、友だちの走り方を自分が体感するなんてできるわけがないので、なんか変だなとは思いつつそのままやり過ごすしかありませんでした。

 卓球、テニス、大縄跳びなんかも脳が指令を送ってから動きを開始するまでのタイムラグのせいかタイミングがズレ、うまくいかない。ダンスなんてもっての外で、センスないなあヘタやなあと笑われ、笑いつつも凹んでいましたっけ。

 でも体を動かすのは嫌いじゃなかったんですよね。気持ちいいし楽しかった。試合に出たり結果を残したりってことにはひとつも縁がなかったけれど、夏の暑さにはへこたれていたけれど、部活では運動がしたかったのです。勝負心があってストイックに打ち込む友だちの姿には刺激を受けたし、でもそこまで自分を追い込むことができない私っていったい何なんだ、ということも考えるきっかけになったし、体を動かすことだけではないいろいろな学びがあったように思います。

 ここ何年かで「ひとつのスポーツにこだわらずストイックにやり過ぎない、エクササイズのような部活」がある学校が出てきているとニュースで見たのですが、これを知ったとき、えーめっちゃ良いじゃん! と思わず拍手しました。学生時代にあったら絶対入っていましたよ。生まれたのが早すぎた。ようやくこちらにも光が当たったというのが嬉しかったです。

 さて。娘の高校の部活掲示板はホール前にあるので、説明会や懇談会のときに前を通るのですが、見るといつも賑やかで面白い。この春は新入部員募集のお誘いが思い思いに書きこまれていましたが、文化部も運動部も実に統一感なくわちゃわちゃしていました。「人生変えちゃう時が来た」「GODに誓うな己に誓え」「青春つくってます」「全国も目指せるよ」「TRYズザザー」「○○先生を全国一位にする!!」「兼部可能」「来いよ!」謎のイラストも多数あり、ついニヤニヤしてしまう。いいなあ、青春。みんななんかかわいいなあ。

 学校の先生の過重労働が問題化されてもうだいぶ経ちます。しばらく前に明るみになったスポーツ強豪校の暴行事件など、行き過ぎた問題もあります。指導者の外部委託も含め顧問の先生方の負担が少しでも軽減するような流れになって欲しいし、なにより子どもたちが「好きだからやりたい!」っていう気持ちが全うできるような、そんな部活環境であって欲しいなと願います。がんばりやさんにとってものんびりやさんにとっても、いい夏になりますように!

澤田康彦さんによる
「部活」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

編集部からのお知らせ

中田兼介×本上まなみ 「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」開催します!

cf5f387dd05370fd8913.jpg本上まなみさんと、『もえる!いきもののりくつ』著者の中田兼介さんのトークイベント「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」を開催します!
ここでしか聞けない本上さんのいきものとのエピソードもお話いただく予定です。
みなさまのご参加お待ちしております!

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