第30回
旅に出る(北海道編)
2022.09.01更新
8月、家族で北海道旅行をしました。久しぶりの旅! いつも北海道を旅するときは飛行機とレンタカーという組み合わせでしたが、今回は初めて車ごとフェリーで入ることにしました。
2週間ほど夏休みが取れそう、とマネージャーNさんから聞いたとき、すぐに私の頭に浮かんだのは北海道の大地でした。《でっかいどお。北海道》という広告がむかーしあったそうだけれど、その通りあまりに広大で、かつ、どこもかしこも魅力的な北海道は、大好きだからこそなかなか行くことができない場所。せっかく行くからにはそう、最低でも10日は欲しいななんて思ってしまう。欲張りでしょうか? でも10日どころか2週間もOKだなんて、わーい。のんびりし放題ではないか!
一気に北の大地の爽やかな風が吹き抜けたように感じました。実際は酷暑の大阪市内でタクシーに乗り、エアコンの風にがんがん当たっていただけなのですが。さらにNさんの話には続きがあり「夏休み中、原稿の締め切りが一本あるので、それを忘れないようにしてください」という、極めて大事な助言だったものの、こっちの方は聞こえたような聞こえていなかったような......脳内に立ち上がった北海道の風景、どこまでも続くポプラ並木の葉のざわざわ揺れる音にかき消されていた気がします。実際は19時すぎの大阪の繁華街、北新地の喧噪がタクシーの周りを取り囲んでいただけなのだけれど。
行けるのか北海道に? 行けるのだろうか?
当然ながら慎重な行動が求められている状況であることに変わりはなく、まず夫に相談しました。
慎重派の私よりもさらに2.5割増しほど慎重派である夫に「この夏どこかに行けそうな状況だったら、何したい?」と聞くと「そりゃ涼しいところがいいよね」。
何したいかにすっと答えないのは、良くある夫のパターンです。動きたがり遊びたがりの妻の希望はなんだろう、何かあるに違いない......とこちらの出方をうかがっているのと、自分としてはわざわざ暑いなか炎天下のどこかへ出かけたくはないんだけどね〜、ということなのだろうと推断します。おそらく夫の一番の希望は自分の部屋でクーラーをびしっと効かせて、愛用のエンジェルなんとかという枕とふわふわ布団にくるまってホラー映画を観たいとか、そんな感じに決まっている。そもそもインドア派ですし、コロナ禍で籠もることは苦になるどころかむしろ普段からせっせと蓄えている映画をここぞとばかり、たっぷり観られてありがたいなあと、前向きに捉えるタイプなのです。この点について彼は私とは違う嗜好を持っているのだ。
「2週間くらい休みが取れそうなんだよね、どっか行くとしたらどこがいいかなあ」ともう一回、聞いてみる。「そりゃ涼しい北の方がいいね、北海道とか」。
おっ。
「まあでもちょっと先だし、来月コロナがどんな状況かもわからないから、様子見ながら考えるとするか」と私が言うと「そやなあ」とのんびりした返事が返ってきました。この時点で「行く」ことが決まったわけです。
家族で旅行するとき、プランを立てるのは私です。企画者の権限でだいたい自分のやりたいこと、見たいものをひとつは叶えることにしている。今回の北海道に関しては、実は長年温めていた計画がありました。それは以前出演した映画『そらのレストラン』のロケ地を再訪し、撮影でお世話になった方々に再会するというものです。そこに自分の家族を連れて行きたい、映画の舞台になった、道南、せたな町の素敵なところをたくさん見て欲しいというものでした。ちなみに、こちらの映画はせたな町と、そして隣の
北海道の地図を広げ、パソコンでせたな町について改めて調べていると、映画の登場人物のモデルになっている
Mさんは元気で優しくって面倒見が良く、さらにかなりの感激屋さんでもあり、5年前、撮影のクランクアップの時に何度も「私たちのことが、こんな風に映画になるなんて夢のよう...」と涙ぐんでおられたのが印象的だったのですが、どうやらMさんも一瞬で時間が巻き戻ったよう。うるうる声になっているのが手に取るようにわかり、ついこちらも感極まってしまいました。京都と北海道、まだ再会前なのに泣く私たち。客観的に見れば声聞いた瞬間あっちとこっちで泣きはじめるなんておかしいのですが、きっとまた会いましょうねと約束してたんだもの、そして織姫と彦星以上に待ったんだもの、これはもう盛り上がってもしょうがないでしょう。
お部屋の予約と近況報告をして、さあ一気に北海道行きが現実的なものになりました。続いて、私の演じた役のモデルとなった方、村上牧場の奥さんTさんにも連絡をしてみると、こちらも再会をとても喜んでくださり、子どもたちに子牛の哺乳を見せていただけることに。やったあ!
全くの新しい土地を訪ねる旅もいいけれど、年齢を重ねて、これまで出会った大切な人、大切な場所をもう一度訪ねていく旅っていいものだなあと思うようになりました。人生って実はあっという間なのかもしれないということに、気づき始めたのです。
今までは、初めましての現場に赴くことが多い仕事柄、これまで素敵な人に出会う機会もたくさんあったにもかかわらず、引っ込み思案な性格が邪魔をして自分から仲良くしたいなという意思表示がなかなかできずにいました。でもこの1、2年で、大好きな人に会いに行ったり、大好きな場所に出かけて行くことを、臆せずできるようになりたいと願うようになったのです。会いたい人、行きたい場所が心にあること自体が幸せなのだと、その存在が自分の心を温めてくれているのだと、コロナ禍で一層認識できるようになったのでした。
それに、子どもたちの様子を見ていると、毎日の生活の中で興味関心のあるタイミングを逃さず、体験をしていくことが若い人たちにとってどのくらい大事なのかということも肌で感じたのです。好奇心の芽は大切にしないとあっという間にしおれてしまう。この2年は、あらゆることに制限のかかる生活でした。だから今回はなるべく、我慢しないで、コレ! と思ったものを存分にやってもらおうと思ったのです。
5年ぶりのせたな町では撮影場所の提供からおつかれさまの会まで、映画作りを盛り上げ応援し続けてくださったKさんご一家はじめ、懐かしい人たちにたくさん会うことができました。うちの家族もわーっと受け入れてくださって、あちらこちらで個々に遊んだりお話したりしながら関係性を深めているのが見ていてとてもありがたく、面白かったです。
ここには書き切れないほどの歓待をしていただき、また偶然の再会劇も重なって、夏のせたな町を大満喫してきました。みなさんの笑顔、海の見える牧場も、巨岩が3つ並ぶ三本杉という浜辺も、海に沈む夕日も、そしておいしいごはんも。過ごした時間の全てが宝物になりました。
今回のプランは小樽港を起点に主に道南を回る旅。最初の1週間は予め決めておいた宿にとまり、後半は臨機応変に、地元の方のおすすめを聞いたり、家族の希望を聞きながら行き先を決める計画としました。
自家用車で旅行に出ると、つい増えるのが荷物。こちらの連載も『一泊なのに〜』ってタイトルですが、2週間の旅行ともなるとさらにみんな際限なく愛用の品々を持ち込もうとするので、まだ入るまだ入るぞって、詰め放題のわがまま袋のようになっていき、荷物室は混沌状態。宿に着くたび、旅行バッグを運んでくれようとする親切な係の方に「ちょっと、その、まず荷物の整理が必要でして」と慌てるのであった。かっこ悪い......。
私も、北海道だけどもしかすると泳ぐかもしれないとライフジャケットを、途中絶対必要になる洗濯ハンガーや洗剤を、キャンプもするかもしれないしと包丁、鍋やザル、コーヒーフィルターにドリッパーを。カセットコンロも折りたたみコンテナに入れて積み込みました。夫はなぜか枕カバーを持っていた。こっちは臨機応変に使い回せるタオルにしたのに、枕カバーって、汎用性ゼロやん!
あらゆる荷物の中で一番活躍したのは、カセットコンロと鍋でしたね。せたな町でいただいたたくさんのブルーベリーは、生で食べた後、残りを煮つめてジャムに。また、道中いろいろな道の駅でとうもろこしを買い求めては空き地で茹でて、おやつにしていたのです。
他にもホテルの人が勧めてくれた帯広の町の精肉店(ガラスケースの中がほとんど見えないけど、めちゃめちゃ美味しいお肉が売っていた)や、新北斗の駅前にいた、インパクト大のゆるキモキャラ「ずーしーほっきー」、しゃぶしゃぶ屋さんで出てくるおにぎりの謎、札幌農学校と書かれたフラスコ型の日本酒が美味しかった件など、興味深いものが山盛りの旅でした。ああどうしよう書き切れないよ!
というわけで続きはまたいつか。
編集部からのお知らせ
中田兼介×本上まなみ 「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」開催します!
本上まなみさんと、『もえる!いきもののりくつ』著者の中田兼介さんのトークイベント「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」を開催します!
ここでしか聞けない本上さんのいきものとのエピソードもお話いただく予定です。
みなさまのご参加お待ちしております!