高橋さん家の次女

第13回

ふりだしに戻るの!?

2020.09.14更新

前回までのお話。
2月、私達は喜々として黒糖BOYSから譲り受けたサトウキビの苗を畑に植えた。コロナの影響で私は帰れなくなっていたが、芽が出て、葉が育ち、順調に成長する様子を妹が写真で送ってくれていたので安心していた。ところが・・・7月に入り、猿が畑に入った形跡が。そして数週間後、約9割にあたる200本以上のサトウキビが食べられてしまった!

(前回の記事はこちら

 長い長い梅雨が明け、連日酷暑が続いていた。真夏日と言っても、私が子供の頃とはわけが違う。30年前の夏休みの気温調べは「お母さん大変、今日30度超えとる!」というレベルだった。今の最低気温だ。
 年々気温は上昇し、もはや日中の農作業は命の危険を感じた。実際農作業中に熱中症で亡くなる人を地域でもちらほら耳にするようになった。農家という職業の仕事内容はあと20年くらいで変わるだろうと私は思う。今もハウス栽培が多くなっているが、モヤシやキノコのように工場の中で栄養液で育ったものがスーパーに並ぶようになるだろうと思う。いちごやミニトマトなんかは既に、大半が水耕栽培だと聞く。他の葉物野菜も、スーパーに並ぶものは露地栽培で育ったものは少ない。この先、さらに栽培の技術や種の改良は進み、栄養と水だけで殆どの野菜が育つようになるのではないかと思う。それを一言で批判も賛成もできない。なぜなら、気候変動の影響を一番に受けるのは農家だからだ。家庭菜園でもそう思うのだから、スーパーに卸している農家さんなんかは、もう次のステップに進んでいる人が大半なんだろう。
 母にも妹にも、野菜はもうどうなってもいいから午前中で農作業をストップするように電話する。
 「そりゃそうよー。日中畑に出とったらパトカーが回ってきて、『もうその辺でやめて家に入ってください』って注意されるけん昼は休みよ」
と母が言った。ナイスパトロールだ。妹も昼間は畑に出られないので別のバイトをしていた。

 でも残った1割のサトウキビを、何とか猿の出ないエリアに移さないと。妹は、サトウキビの苗をくれた黒糖BOYSのOさんに電話をして事情を説明した。「猿はサトウキビは食べないよ」とOさんが言っていたのに、食べまくることが証明された。Oさんたちの畑は海に近い方にあるので、元々猿が出なかったのだ。
「僕のサトウキビ畑に、植えたけど芽が出なかったところが何箇所かあるからね、そこに移植したらいいよ」
と言ってくれたようだ。猿がまた来るだろうから一刻の猶予もなかった。妹は一人で何でも頑張ってしまう上にやれてしまう頑固な職人肌。人に頼って迷惑をかけるなら全部自分でやってしまった方が気が楽という性格だ。いやでも、それじゃあチームでやっている意味がないじゃない。頼ることは信頼の表れでもあると思うもの。私は、なっちゃんとゾエに連絡してみた。サトウキビを抜く日は難しいが、Oさんの畑に行って植える日はゾエが有給を取れるという。まさか有給をとってくれるなんて正直びっくりしていた。きっと、みんなにとっても自分の畑になっているんじゃないかと思った。妹が心配しているよりも愛情を持っているんじゃないかと。
 そうして、残った30本ほどのサトウキビが抜かれて、Oさんの畑に移植された。ここなら安心だ。5年ものの先輩サトウキビに守られて大きくなれよ。しかし、こんな真夏に移植して生きつくかどうかだ。その日から、平日は妹が、土日はなっちゃんとゾエが水やりに行ってくれることになった。後日ゾエからメールがあり、「昨日畑に行ってみたら、まだ芽が生きているサトウキビがけっこうあるので再びOさんの畑に移植しました」と。みんな、指示を待つだけでなく観察して行動してくれるようになっていた。

 8月、40度を超える日もあり、さらに危険を伴う暑さだった。サトウキビはなくとも、草だけはどんどんと伸びる。草刈りをするにも熱中症対策で夕方から二時間ばかりだけなので、また次の休みに刈る頃には先週刈ったところが伸びているという追いかけっこだった。
「この暑さだから無理はせんとき。草伸ばしてたって仕方ないよ」
と私は言うけれど
「駄目よ久美ちゃん。近所の人とお父さんがチクチク言うてくるんよ。こんなに草伸ばしてーって。草が伸びてその種が落ちたら、もう二度と水田には戻せんぞって」
「え、そうなん?」
「そう。草の種がばーっと広がったら一巻の終わりなんだって。手つけれんって。ねえ、サトウキビもないし、私ら他人の畑の草刈りしよるだけよ。あほらしいわ。もう戻さんの?」
「えええ!!!それはいかんわ。無責任すぎるだろ」
「でもな、草刈りだけしてって流石に二人に私はもう言えんわ」
 三人に任せっきりの私が何も言えることはなかった。草刈りを頼める人なんて誰もいないしなあ。そうだ!と思い出した。こういうときはプロの力を借りよう。私の飛行機代を草刈り代にあてるのだ。前に地元の行きつけのカフェで、便利職人さんに名刺をもらっていた。草刈り一時間3000円と書いている。すぐに連絡してみると、「了解しました!お引き受けしますよ!このくらいの広さなら半日で終わると思います」と。少し涼しくなった9月に草刈りをしてもらうことになった。 

 サトウキビがなくなった今、二人がこれからも本当に続けていきたいかを聞いた方がいいと妹が言う。私含め、みんなの心が一回ぽきっと折れたのは仕方のないことだ。妹も秋以降は自分の農業が忙しくなってくるので、二人が自分主体で育てていく意思がないなら続けるのは難しいのではないかということだった。数日後zoomで会議をした。4人で顔を合わせるのは半年ぶりだった。私は正直ドキドキしていた。でもあの子達ができる限り頑張ってくれていたのは私達のためだけではないはず。きっと、自分の中で何かが芽生えはじめているからだと信じていた。そして、二人は開口一番
「続けたいですよ。むしろ、あまり行けないことが迷惑になってないか心配していました」
と言った。ほっとした。畑が続くことをほっとしたのではなかった。二人の中の土に対する愛情みたいなものが育っていたことにほっとしたのだ。良かった、二人はもうお手伝いの二人ではない。
「これからは、サトウキビに縛られない分、各々の育てたいものを自分で考えて、範囲を決めて好きなもん育てていこう。もちろん道具は勝手に納屋に入って使ったらいい。お母さんを師匠だと思って、何でも聞いたらええ。お互いに遠慮しないこと!」
 広すぎて使えないところは、今後信頼できる人に貸していこうということになった。自分で好きなものを育てると、気になって頻繁に見に来るだろうし何より自分で育てた野菜を食べられる喜びが背中を押してくれる。そう、それ!自分が食べる前に、猿に食べられるんじゃ・・・。
 大丈夫ですよ、猿に食べられない野菜は案外ありますよ!ほうれん草、ピーマン、春菊や小松菜、匂いのきつい野菜は大概お猿さんは嫌いだ。ゾエは山椒を育ててみたいと言っている。山椒は山椒でも辛味の際立つ中国山椒だそう。それから明日葉(アシタバ)も珍しくて名前も縁起がいいからやってみようと言っている。うんうん。何でも自分のやりたいことやってみたらええ。なっちゃんも、ほうれん草や、私の送った種を育ててみるそう。妹が、道具のありかを教えて、昼からは農業指導に行くからそれまでは植えるとこの草を引いて、軽く土を慣らしとくようにと先輩風を吹かせている。そうそう、その調子。何でも思ったことを言い合うのが大事。そうでないと、お互いにストレスになるだけだ。三人のバランスが取れてきている。彼らには初めてのことがいっぱいで、それを楽しそうにキラキラ喋っている。良かったー。私は胸をなでおろした。
 そもそもどうしてこんなに猿が出るようになったのかということだ。子供の頃はここまで動物が山から降りてくることはなかった。今はもう猿は山に住んでいるのではない。耕作放棄地の茂みの中や、お墓の横の竹やぶ、私達の家のすぐ傍に住むご近所さんになってしまった。ネットを3重にしてもぶどうを全部食べられたり、柿は、渋柿以外はここ7年は一度も私達の口に入ってない。同じ町内でもOさん達の借りている海沿いのエリアは猿が出ないが、山沿いの私達の地域は壊滅状態だった。それは最初の話に戻るが温暖化によることが大きいだろう。そして人間の生活スタイルが変化したからだ。その変化が温暖化を招いたので全てが繋がっていることなのだが・・・。
 そのことは、また次回に。とにかく、畑は三歩進んで二歩下がるで、今はみんなに感謝しながら見守っていきたいと思います。

高橋 久美子

高橋 久美子
(たかはし・くみこ)

作家・作詞家。1982年愛媛県生まれ。様々なアーティストに歌詞提供を行う他、詩、小説、エッセイ、絵本の執筆、翻訳、詩の朗読など文筆業を続ける。また、実家の愛媛と東京を行き来しみかん、米等の農業も行う。食べると生きるを考える「新春みかんの会」を主催して8年目。著書にエッセイ集『いっぴき』(ちくま文庫)、絵本『赤い金魚と赤いとうがらし』(福田利之/絵、mille books)など。翻訳絵本『おかあさんはね』(エイミー・クラウス・ローゼンタール/著、トム・リヒテンヘルド/絵、マイクロマガジン社)でようちえん絵本大賞受賞。webちくまにて短編小説も連載中!近著に『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)がある。

公式HP:んふふのふ 公式Twitter

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