高橋さん家の次女

第17回

山のギャング現る

2020.11.11更新

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 サトウキビを猿に食べられた後、一旦はもう畑を辞めようかという話にもなった私達だが、妹やなっちゃんやゾエとも話し合い、猿に食べられない野菜の種を撒いてもう少し頑張ってみようということになった。9月、春菊やほうれん草、明日葉、妹はにんにくも植えた。どれも匂いがきつめで、猿くんよ、これなら食べる気にもならんでしょう。ほっほっほ。
 1ヶ月が経ち、野菜は芽を出しすくすくと育っていった。
 歯がゆいのは、私が相変わらず愛媛に帰ることができないことだ。写真で畑やみんなの様子を覗いて励ますことしかできなかった。私も、東京の小さな家庭菜園に同じように種を撒き同じように芽が出て成長する喜びを感じていた。愛媛でも無事育っているかなあと思いながら。
 今年の2月にさとうきびを植えてから、なっちゃんとゾエはまだ自分で作った作物を口に入れられていない。早くその喜びを味わってほしい。きっと実際に自分の手で育てた野菜を食べたら何かが変わるはずだ。今度こそは上手くいくといいなあと、祈るような気持ちだった。
 ところが・・・妹からLINEが入る。
「大変。今度はイノシシが出た。土の中で暴れまわったみたいで野菜がめちゃめちゃになっとる」
 写真には、せっかく成長し始めた野菜が土ごと掘り起こされている。私は青ざめる。もうここでは農業するなってことだろうか。イノシシは夜行性なので、夜の間に畑に侵入し、土の中にいるミミズを掘り起こして食べたのだろう。ミミズは食べていいけど、土を掘り起こすのはやめてほしいなあ(掘らないと食べられないか・・・)。農薬や除草剤を使ってないので、ミミズも沢山いて美味しいのだろう。イノシシは泥遊びが大好きだから、ふかふかの畑の中で暴れまわりたかったのだと思われる。
 うーん。これは何とか対策を考えなくてはいけないなあ。イノシシは猿とは違って、上に登ったりネットの下をもぐってまで進入することはないので追い払うのも猿よりは簡単だ。体の一番前にある鼻先でちょっとでも異変を感知したら、それ以上は入ってこないかなり用心深い性質でもある。鉄の杭を数十本買って、畑の周りに打ち込み、そこを網でぐるりと囲めば大丈夫だろう。イノシシは牙があるから怖いなあ。夜行性なので出てこないとは思うのだけれど。その後、まだイノシシは出てきていないようだけれど、早めに杭をしないといけないなあ。動物の出ない地域と比べると何倍も大変な土地だ。
 残った野菜は順調に育っていき、ついに葉ができはじめたようだ。葉物は成長が早いから楽しい。春菊は9月に植えて11月末には食べられるので約3ヶ月だ。私が今作っているオランダ豆だと、10月に植えて5月にできるから半年以上かかるのだ。つるが伸びてから豆がつくので2倍の長さがかかるのだと思う。初心者には、早めに喜びが味わえる葉物がお勧め。中でもほうれん草や春菊といった虫からの襲撃にも強い、味や匂いの濃い野菜がお勧めだ。白菜とか大根は虫に食べられてなかなか上手に成長しなかったりする。
 10月末、なっちゃんから、成長途中の春菊やほうれん草の写真が送られてきた。
 「間引いて、少し家で食べてみたらいいよ」とメールする。ぎっしりと並んでいるので、多少間隔を空けるためにもところどころ間引いて早めに食べるのがいい。大根やかぶ等の根菜も、種を適当に撒いておくと、ぎっしりと芽を出す。10センチくらいは間をあけないと全部が小さくなってしまうので、葉っぱが成長した頃に抜いて、別の場所に植え替えるか、葉っぱのうちに湯がいて食べる。「大根葉」とか「大根菜」と呼ばれて農家しか味わうことのできないこの時期のご馳走だ(市場等でもこの時期には売られているかも)。

「味付けなしで食べましたが、春菊の味がしましたよ〜!」
 という何とも初々しいメールが届いた。なるほど、自分が育てた野菜が、売られているのと同じ春菊の味がしたことに感動したんだなあ。
「もっと食べたいです」
 とも。そうだよね、きっと、もっともっと育つよ。
 イノシシくんだけ何とかしないといけないねえ。
 あとは、メンバーがもう少し欲しいなあという話になる。畑が広すぎて三人ではとてもじゃないけれど使い切れないのだった。だけど、猿もイノシシも出る畑で一体誰が一緒に作ってくれるかなあ。作っても食べられたり掘り起こされる可能性がある。そして、夏は草を放置しておいたらすぐに荒れるので近所の人に叱られる。これが案外と大変です。20センチ伸びたらもう手厳しくおじいちゃんおばあちゃんに怒られる。作物を育てるだけじゃなくてその管理がやっぱり大変なんだなあと思うのだった。
 さて、みかんの季節です! 私の家はお米や野菜もあるけれど祖父の時代からみかんも育てている。次回は、みかんの話を書こうかな。そうそう、みかんと言えば、「新春みかんの会」という集いを、おやつ屋のdans la nature千葉さんと東京で開催して早8年になる。食べもののことや生きることを一緒に考える会だ。今年はちょっとみんなで集まるのは難しいかなあということで、郵送でみかんとお菓子が入った箱を届けて、リモートで(40人くらい限定にしようと思います)行ってみようかと思っている。今まで遠くて来られなかった方も今年は参加してもらえて、それはそれで新しい発見もありそう。1月の中旬予定で、予約は12月上旬に始まると思います。お楽しみに!!

高橋 久美子

高橋 久美子
(たかはし・くみこ)

作家・作詞家。1982年愛媛県生まれ。様々なアーティストに歌詞提供を行う他、詩、小説、エッセイ、絵本の執筆、翻訳、詩の朗読など文筆業を続ける。また、実家の愛媛と東京を行き来しみかん、米等の農業も行う。食べると生きるを考える「新春みかんの会」を主催して8年目。著書にエッセイ集『いっぴき』(ちくま文庫)、絵本『赤い金魚と赤いとうがらし』(福田利之/絵、mille books)など。翻訳絵本『おかあさんはね』(エイミー・クラウス・ローゼンタール/著、トム・リヒテンヘルド/絵、マイクロマガジン社)でようちえん絵本大賞受賞。webちくまにて短編小説も連載中!近著に『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)がある。

公式HP:んふふのふ 公式Twitter

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