高橋さん家の次女

第19回

師走のひとり言。

2020.12.11更新

(前回の記事はこちら

 人生は多分、一筋縄でいかないことばかりなんだと思う。思い出の地が太陽光パネルになったり、愛媛で農業をやろうと言い出した途端にコロナで帰れなくなったり、せっかく植えたサトウキビは猿に食べられて全滅したり。ちっとも思うように事が運ばない一年だった。
 でも、私より大変だった人は大勢いると思うから、家族や仲間にはたくさん迷惑をかけたけど、やり直したら何とかなる。何なら、生きてりゃ何とかなるもの。

 みなさん忘れていたと思うけれど、この連載は太陽光パネルになる予定の土地を買い占めてサトウキビ植えるど―!!という、なかなか無謀な計画から始まった。
 サトウキビを植え、地元の若い衆と育てる様子をここに報告し、最後には黒糖BOYSたちとそれらを絞って、自家製の砂糖できました〜!ちゃんちゃん。という美しいゴールを想定していたのだ。ところがだ、苗から芽が出てやっとサトウキビらしくなったと思った矢先、一反の土地に植えた数百本のサトウキビを猿に全部食べられてしまうという予期せぬ事態に。黒糖BOYSたちが「猿はサトウキビは食べんから大丈夫」と言っていたから安心していたが、よく考えたらネギまで食べてしまうんだから、サトウキビはご馳走に違いあるまい。
 スマホで検索したら何でも出てくる時代に、ここまで壮大な失敗はなかなか味わえない。実家にも帰れずサトウキビもない今、この連載のゴールが見なくなってきた・・・。どういう方向で続けていこうね。ふふ。でも、このリアルをお届けすることが正解なのだろうと思う。多分、人生ってそういう感じなんだろうと分かってきた。だからといって、そう簡単に諦めてはしゃくじゃないか。もうちょっと考えて、しぶとく粘ってみないと見えないことがあるだろう。
 こうして、四苦八苦して悔しい思いをしてみて初めて農地を手放していく人の気持がわかった気がした。続けていけない人たちには、たくさんの理由があることを忘れてはいけないね。紆余曲折の末、解決せぬまま終わるかもしれんけれど、まあ、もうしばしお付き合いくださいませ。

 ある日、愛媛の妹たちから連絡が来た。
 11月の秋晴れのなか、猿に食われて根っこだけ残ったサトウキビの芽が新たに伸び始めているという。サトウキビは一度収穫しても5年は続いて収穫できるということだから、なるほど食べられてもまだこの子たちは諦めてないんだな。植物の生命力はすごい。
 ただ、また猿が喜んで食べに来るのは目に見えている。
 この子らを何とか移動させなくちゃということになる。ゾエが有給をとって、早急に芽の出た苗を全部掘り起こし軽トラに積んで、Oさんのサトウキビ畑の空いているところに移植してくれた。みんなありがとう。
「12月からサトウキビの収穫や製糖の手伝いに行くことになったんですよ」
と、ゾエや妹が話している。そろそろOさんたちのサトウキビの収穫が始まり、去年見学に行ったあの黒糖工場で、黒糖BOYSたちが動き出すのだ。ああ一年前が懐かしい。あの甘い香りに満ちた工場で、今年の砂糖ができるんだ。若い衆の手が必要だということで、ゾエや妹たちが手伝いにいくことになったそうだ。いいなあ。私も行きたいな。

 Oさん達には知恵と経験を貸していただき、私達は体力を。そういう世代間の良い流れが街全体にできたらいいのにと考える。
 農業は大変だけれど、大変だからこそ楽しいんだということがもっと広がってほしい。そして、いろんな世代がそれぞれに持つ力を持ち寄りながら作業できたら良い循環が生まれるのにな。どの職業でも同じかもしれないが、農業も世代間での考えの違いをよく耳にする。簡単なようでそれが一番難しいと自分を見ても周りを見ても感じる。
 息子さんは無農薬派だけれど、お父さんは農薬派だったために、一緒には農業をできずに、息子さんは新たに農地を借りて別々にみかん農家をしている知人もいる。私や妹と父がそうであるように、親子間で考えが違うというのは多いかもしれないなあ。
 農業はある種、表現活動でもあるのだ。
 できた作物は作品である。農薬を使い、傷や虫食いのない美しい外見を求める人がいれば、見た目よりも安全性や環境に配慮し、無農薬栽培を目指す私達のような若者も増えている。家族といえども、いや家族だからこそ寄り添うことが難しいのも分かる。
 できた作物は、作った人そのものなのかもしれない。器や洋服と同じように、作者の思想や価値観が反映されるのだと思う。だからこそ、その食物がどこの誰に届いているのかを生産者は知るべきだし、消費者はこの野菜や米がどんな思いで作られたものかを知るべきだと思う。そういうこと一つで、食べることがもっと楽しくなり、作ることにももっと張り合いが生まれてくるだろう。

 前回お話した「新春みかんの会」が始まって9年、私達のみかんへの考えは随分と変わった。頭で考えていたことを実現したことで、徐々に点と点が結ばれて円を描き始めていくようになった。良さを分かって食べてくれる人。その人たちの顔を想像しながらみかんを作る。そこには愛情が生まれていた。みかんはただのみかんではなくなっていた。愛情は、農業への大きな糧となり、それは生き方そのものを変えていける力になる。人の気持ちが通い合うということは、心の毛細血管にまで血が流れるということだ。心が冷えていかない農業なのだ。作物を通し、そのような循環が生まれたらいい。そんな新しい時代の農業が理想だ。
 今年は愛媛に帰れなかったので収穫も発送も手伝いが全くできなかったなあ・・・。私は、友達からの発注を届ける伝書鳩のようなことしかできなかった。家族のみなさん、おつかれさまでした〜!!!

「新春みかんの会」は令和3年1月11日19時〜オンラインで開催予定です。家の柑橘類や、野草茶、そして家のみかんを使ったdans la natureの焼き菓子が自宅に配送されます。
予約は12月20日のお昼頃から始まります(少人数制なので早めのご予約を)。
詳しくはこちらを見てくださいね。

高橋久美子さんHP

高橋 久美子

高橋 久美子
(たかはし・くみこ)

作家・作詞家。1982年愛媛県生まれ。様々なアーティストに歌詞提供を行う他、詩、小説、エッセイ、絵本の執筆、翻訳、詩の朗読など文筆業を続ける。また、実家の愛媛と東京を行き来しみかん、米等の農業も行う。食べると生きるを考える「新春みかんの会」を主催して8年目。著書にエッセイ集『いっぴき』(ちくま文庫)、絵本『赤い金魚と赤いとうがらし』(福田利之/絵、mille books)など。翻訳絵本『おかあさんはね』(エイミー・クラウス・ローゼンタール/著、トム・リヒテンヘルド/絵、マイクロマガジン社)でようちえん絵本大賞受賞。webちくまにて短編小説も連載中!近著に『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)がある。

公式HP:んふふのふ 公式Twitter

編集部からのお知らせ

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