明日の一冊

2022年11月

47都道府県女ひとりで行ってみよう幻冬舎文庫

47都道府県女ひとりで行ってみよう

益田ミリ

 タイトルの通り、益田ミリさんが47都道府県を旅行するエッセイです。
 私が一番印象的だったのは、佐賀県の「バルーンフェスタ」を見ながら「たぶんもう行かないけど、空を仰いだ「あの時間」をみんなで共有できたことは、なかなか愉快な思い出である」とミリさんが思うシーン。それがどんなものであっても、「人生でそれがもう二度とそれが見れない」と思うとさびしく感じてしまいます。だから「たぶんもう行かない」と言葉にドキッとしたのですが、旅って遠い場所に出かけて、そこに二度と来るのかはわからない。そのことはどこか人生に限りがあることを確認することとセットであるような気がして、だからこそ旅先の思い出は特別で、日常の中でたまに旅先のことを思い出したりするのはそのためなのかなと思いました。
 47都道府県ということで、作中で住まれている東京から遠くまで出かけるミリさんの、旅先の観察や心の中のつぶやきには注目です。すごく有名な観光地より、知らなかった名所や美術館をたくさん紹介されているのも嬉しいです。

ミシマ社営業チーム 須賀紘也

2022.11.30

脚本版 ほしいものはなんですか?ミシマ社

脚本版 ほしいものはなんですか?

益田ミリ

『東京あたふた族』刊行記念! ミシマ社メンバーが、大好きな益田ミリさんのエッセイをご紹介します! 二作目はこちら。
『ほしいものはなんですか?』の脚本版です。その名のとおり、脚本フォーマットで描かれているので自分のありったけの想像力を総動員させて、ドラマや映画を演じる人はこんな風に読んでいるのかーとちょっぴり気分を味わいながら読めます(笑)。人間のそのときどきに、しかしずっとつづくもんもんとした気持ちが描かれています。コミックエッセイとちがって脚本版ではことばの解像度も、目に入る表情の機微もそこに漂う空気感もすべてがすこしずつちがって見えて、不思議な体験でした。そして心の波が鮮明に感じ取れる感覚が新鮮です。

(ミシマ社新人チーム オオボリ)

2022.11.29

わたし恋をしている。角川文庫

わたし恋をしている。

益田ミリ

『東京あたふた族』刊行記念! ミシマ社メンバーが、大好きな益田ミリさんのエッセイをご紹介します! 一作目はこちら。
さまざまな恋のワンシーンと心の機微を描いた川柳が、イラストと短い文章とともに収められています。私は大学生の頃にはじめて読みましたが、年齢を重ねるといっそう心に染みる句が増えました。ミリさんの言葉を通していろんな気持ちを味わい、孤独な自分の心にも同志がいるのだと気づけます。「ああ、この言葉に出会えて、私(の恋)は情けなくならずに済んだ」と思える一句に出会ったんです。ふつうの恋、ふつうの人生に、彩りと気高さを与えてくれる一冊です。

ミシマ社編集チーム 角 智春

2022.11.28

ネコヅメのよる株式会社岩崎書店

ネコヅメのよる

町田尚子

『ねこはるすばん』『なまえのないねこ』などの猫絵本で大人気の町田尚子さんが、初めて猫を主人公に作った絵本がこの『ネコヅメのよる』です。夜、猫がそうっと家を抜け出して向かう先には何があるのでしょう。タイトルにもなっているネコヅメとは。リアルなタッチで描かれる猫と、幻想的な夜の風景に見入ってしまいます。沢山の猫が大集合するクライマックスは圧巻。これは絵本を描く人としての町田尚子さんの大きな特長の一つなのですが、構図のとり方がとても工夫されていて、俯瞰で取ったり、ぐっと寄ったり、猫目線で低い視点で描かれていたり、例えば映画のようなカメラワークで臨場感たっぷりに猫がネコヅメを見るために集まってくる様子を描き出します。見ていると、自分もその世界を体験しているような気持ちになりますね。

(絵本編集者 筒井大介)

2022.11.25

オオカミがとぶひイースト・プレス

オオカミがとぶひ

ミロコマチコ

ミロコマチコさんの絵本デビュー作。ミロコさんの絵本において、動物たちは自然の中の人智を超えた気配、エネルギーを象徴する存在として描かれます。ミロコさんはよく「生き物になるために」と言います。それはきっと、もっと自然に近づいて、その力を感じ、一体になりたい、ということなのだと思うのです。風が吹くのはオオカミが飛び回っているから。これは単なるたとえではなく、ミロコさんが自然の営みの中に感じたエネルギーの姿をオオカミという形になぞらえた、ということなのです。画家はそうやって感覚を研ぎ澄ませ、描き続けてきたのでしょう。奄美の自然との出会いを経て、その感覚はますます鋭敏になり、目には見えないものを感じ、見て、描き続けています。僕らはその絵を通じて、この世界の豊かさ、奥深さに触れることが出来るのです。

(絵本編集者 筒井大介)

2022.11.23

こどもたちは まっている亜紀書房

こどもたちは まっている

荒井良二

2005年に亡くなった絵本作家・長新太さんを敬愛してやまない荒井良二さんと「長さんへのオマージュを捧げる絵本を作ろう」というところからスタートした絵本です。荒井さんは、その絵本を読まなかったら自分も絵本を描いていなかったという、長さんの『ちへいせんのみえるところ』へオマージュを捧げる絵本、という形で応えてくれたのでした。画面の中には、それぞれ長さんの地平線に相当する基底線が描かれ、そこに子どもたちが待っているものが登場する、という構造になっています。荒井さんは「待った結果、得られるもの」よりも「待つ」という行為そのものを大切に考えているのではないでしょうか。「待つ」ということそれ自体が希望なのではないかと。この絵本を読んだ方は、ぜひ『ちへいせんのみえるところ』も読んで、長新太の地平線を感じてみて下さい。

(絵本編集者 筒井大介)

2022.11.21

雨のち晴(愛蔵版おはなしのろうそく7)東京子ども図書館

雨のち晴(愛蔵版おはなしのろうそく7)

編・東京子ども図書館 さし絵・大社玲子

昔ながらの言葉で、そのままの文で書いてあるのであたたかい感じがする。絵もステキ!!今のお気に入りは『雨のち晴』です。(※『愛蔵版おはなしのろうそく』というシリーズで紹介してくれました)

(ミシマ社サポーター 小5 まなえさん)

2022.11.18

完売画家CCCメディアハウス

完売画家

中島健太

著者は、プロとして生きることをキャンプファイヤーにたとえている。火をつけて、燃やし続けることが最重要。着火剤があれば火は簡単につくし、それが「才能」と考えている。だからと言って才能がなければ火がつかないというわけでもないと言うが、果たして本当だろうか?

(ミシマ社サポーター Hamiさん)

2022.11.16

夜空に泳ぐチョコレートグラミー新潮社

夜空に泳ぐチョコレートグラミー

町田そのこ

夏に冷たいソーダをのむみたいにゴクゴク一気に読み終えました。美しい言葉、描写、物語の中には、時々自分の過去と重なる胸がチクリとする情景もありました。また町田さんの作品を読みたいです。

(ミシマ社サポーター 星野靖子さん)

2022.11.14

社会を変えるには講談社現代新書

社会を変えるには

小熊英二

2011年の東日本大震災後、脱原発が叫ばれた時代に書かれた一冊。日本社会がどのような遍歴を経て今に至るのか、またそもそも政治とは何なのかを根本から整理し、一見非合理的に見えるデモの有用性を改めて説いています。政治や社会などの大きなテーマに一人の構成員としてどう向き合うかべきか、非常に参考になります。

BOOKSライデン 店主 前田侑也さん

2022.11.11

水中の哲学者たち晶文社

水中の哲学者たち

永井玲衣

学校や職場において哲学対話のファシリテータとして活躍する著者のエッセイ。当店でも哲学カフェを月1回実施していますが、わからないことを前提につながることが本当に心地良く、何より楽しいのです。哲学は市井の人々の手の中にあると強く思わせてくれる一冊。

BOOKSライデン 店主 前田侑也さん

2022.11.09

手の倫理講談社選書メチエ

手の倫理

伊藤亜紗

触覚で交わされるコミュニケーションについて書かれた一冊。英語にすると同じ"Touch"という単語になるものの、無機質で一方的な意味合いが強い「さわる」と、愛情や双方向性を感じる「ふれる」の違いをテーマに、ケアや日常生活での「わたし」と「あなた」のあり方を探っていきます。自己の枠組みを捉え直す上で大変おすすめです。

BOOKSライデン 店主 前田侑也さん

2022.11.07

私立探検家学園1 はじまりの島で福音館書店

私立探検家学園1 はじまりの島で

斉藤倫

松田コロン、小学5年生。4月から新しい学校に転校することに。そこは山の中にある「私立探検家学園」。校訓は「第一則、探検家は、フロンティアを信ずる。第二則、探検家は、冒険家にあらず。第三則、探検家は、未知を味方にせよ。」読んですぐに、こりゃミシマ社の、代表の三島が通ってそうな学校だな...と思った。私もこんな学校に通いたい、自分に子どもができたら通わせたい、そう思いながら読んでいるうちに、いやもうすでに自分も、本を開いたしゅんかんからこの学園に試験もせず、学費も払わず、入学しているんじゃないかと思いはじめてもいて、(うまく言い切れないのですが)本や児童書の本気をみてしまった....という気持ちになりました。小学校中学年〜の年齢に向けた創作童話シリーズですが、大人にこそ、読んでほしいです。

ミシマ社 野崎敬乃

2022.11.04

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