2023年6月
岩波書店
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『遠い声をさがして: 学校事故をめぐる〈同行者〉たちの記録 』
小学生の事故死を巡る内容も分量も重厚なノンフィクション。「事故はなぜ発生したか?」という学校・行政側と「娘はどのように亡くなったのか?」という家族、友人側、相容れない問いを客観的事実を知ろうとする研究者の姿勢と、準当事者として家族に寄り添う姿勢を一人の人間(=著者)が体現するのは可能だ!!!
2023.06.22
左右社
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『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集 』
簡単な現代語だけでつくられているのに、読むと思わず感嘆してしまう「かんたん短歌」で若い世代の短歌ブームを牽引した歌人・枡野浩一による待望の短歌集。日常で使う言葉と場面ながら全く新しいものの見方で、短歌をつくる枡野さんの視点そのものの魅力が詰まった一冊です。中でも、「いろいろと苦しいこともあるけれどむなしいこともいろいろある」「『お召し上がり下さい』なんて上がったり下がったりして超いそがしい」「『元気です』そう書いてみて無理してる自分がいやで付け加えた『か?』」という収録歌が個人的にはお気に入りです。
2023.06.15
筑摩書房
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『ドライブイン探訪 』
道路沿いに佇み食事を提供する「ドライブイン」を取材したノンフィクション。国道のチェーン店ばかりが軒を連ねる風景しか知らない私には、そこに出てくるお店のひとつひとつの歴史に胸を打たれました。「取材したお店には、それぞれ三度以上足を運んでいる」という著者の橋本倫史さんの真摯な取材が本書全体を通じて、とても伝わってきます。
2023.06.12
生きのびるブックス
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『無垢の歌 大江健三郎と子供たちの物語 』
フランス文学者、翻訳家の野崎歓さんによる大江健三郎論。
前期から中期にかけての作品に登場する「子供たち」に着目し、 その純粋さ、 無垢さに大江文学の魅力を読み解こうとするエッセイのような一冊 だ。
大江健三郎さんと言えば、難解な長編小説を書くノーベル文学賞受賞者、反核・ 反原発運動や「九条の会」 呼びかけ人など政治的発言にも積極的な作家のイメージが強い。『 無垢の歌』はそんな「偉大な作家」から離れて、 障害を持つ息子とのほほえましいやり取りや大江さん自身の子供時 代の記憶に即した鮮やかな描写を取り上げることで、 大江文学のユーモラスで柔らかな一面を示してくれる。
この本を読んで「大江健三郎と子供たち」に親しみを持ったところで、 大江作品を読み始めることをおすすめしたい。 2023.06.09
彩流社
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『光の護衛 』
他者の孤独や痛みに寄り添う作品を書き続け、「他者の作家」と
称されるチョ・ヘジンさん。 最新邦訳短篇集に収められた9篇はいずれも、 韓国国内外の歴史的暴力や同時代の事件を題材に、権力に虐げられ、社会から疎外された人びと に光を当てた物語だ。
彼らが絶望の中で受け取った希望や、弱々しい命の灯火が、「光」として物語のあちこちに灯る。 それを拾い集めるように読むうちに、出来事そのものの残忍さをあ げつらうのではなく、そこに生きた一人の生をすくい上げようとす るチョ・ヘジンさんの「他者」への眼差しの温かさに気がつく。「 光」はまた、傍観者の姿も何度も照らし出す。他者の痛みに無関心 な者たちが見て見ぬふりをし、すぐに忘れてしまうから、 権力による暴力は時代や国を超え、形を変えて繰り返される。
『光の護衛』と佐々涼子さんの『ボーダー』の登場人物が、何度も重なって見えた。 2023.06.07
集英社インターナショナル
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『ボーダー 移民と難民 』
ノンフィクション作家の佐々涼子さんが、
入管に収容された在留外国人や彼らを支える弁護士、 支援者への取材を通し、 日本の移民難民政策や入管問題を取り上げたルポルタージュ。
2年前、人権侵害を指摘され廃案となった入管法改正案が今年、ほぼ同内容で国会に再提出され、今も審議中だ。担当行政庁は、 難民申請者のほとんどが偽装難民だと言い、 送還忌避者の収容長期化を問題視する。だが、 佐々さんが出会うのは、国籍国での迫害を逃れて来日したものの、 難民認定されず入管に収容された人や、 日本で生まれ育った子どもたちなど、 日本に留まらざるを得ない事情がある人ばかりだ。
佐々さんの文章を通じて、「偽装難民」「送還忌避者」と一括りにされた人たちのことを一個人として想像できるようにな るとき、入管法について本当に議論すべきことは何か、報道やSN S上の発信への見方も変わるはずだ。 2023.06.05
mille books
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『LIFE IS ESPRESSO 新装版 』
「100%燃焼できる人生を探そう」。その思いからアメリカ本国の巨大企業を辞め、バリスタとなった下北沢「BEAR POND ESPRESSO」の田中勝幸氏。若きバリスタたちからも尊敬を集めるカリスマは、東京という、当時まだエスプレッソ・カルチャー未開拓地の「荒野」を選んだのだった。彼の半生をつづる物語と哲学、対談集。エスプレッソとピッツァはともに一瞬で作られ、一生かけて深められていく。「身体の芯から滲み出てくるような、全力で情熱を注げるもの」への渇望は、魂の叫びなんだろうなと思う。
2023.06.02