
2025年11月
中公文庫
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武田泰淳
文芸同人会で80歳の先輩に「『富士』はすごい」教えてもらった一冊。先輩が大学生の頃に所属していた文芸サークルで「武田泰淳の『司馬遷』を読まずに現代文学を語れるか」と言われるほど、武田が重要な作家であることを知りました。富士山の近くの精神病院が舞台の本作は文庫版で約670ページの大作ですが、次々にショッキングな事件を起きるので、特に後半は落ち着いて読む間がありません。過激な登場人物たちの言動を通して、「人間とは」「精神とは」との問いが読み手に投げかけられつづけ、日常生活とは違う頭の働きによってめまいを味わうことができます。文章は今売られている文芸誌に載っていてもおかしくないんじゃないかと思うほど言葉づかいが現代的で、描写も会話もすんなり読みやすいのでおすすめです。
(ミシマ社 営業チーム 須賀紘也)
2025.11.11