東京ドリームを探して―Cocco

2018.05.07更新

「好きだと叫びながら自転車のペダルを思いっきり漕げるような、恋がしたい」

 Cocco、歌手、沖縄県出身、東京都在住。気が付けば干支を三まわり。一瞬に散らばる夢の欠片を拾い集めて生きる女性。――36の断章(メッセージ)。

 待望のCoccoさん最新エッセイ『東京ドリーム』がいよいよ発売です!! ミシマガジンでは、本書に込められたCoccoさんの想いをいち早くインタビュー。心が瑞々しくなるような、まさに総天然色の言葉たちがどのようにして紡がれたか、一瞬で目を奪われるカバーの絵はどのように生まれたか、そして「東京ドリーム」とはどんな夢なのか。これらが1冊の本になるまでの軌跡を、感動と爆笑のエピソードを交えて、ここにお届けします!!

old48-3.jpg『東京ドリーム』Cocco(ミシマ社)

(聞き手:三島邦弘 構成・写真:森オウジ)

手で書いて生きていく

―― これから『東京ドリーム』の執筆を振り返っていきたいと思います。大ファンをいたるところで公言しているCoccoさんの本を、こうしてミシマ社から出していただけるのが何よりも嬉しいです! まず、前の小説の執筆の際は手書きだと伺っていますが、本書もすべて手書きなんですよね?

Cocco はい。全て手書き。うちにはパソコンないから。だからネットで何か調べたいときは、使える人がいるときにやってもらう。郵便番号を調べる時もだし、「◯◯さんにメール送っておいて」とかも誰かにお願い。バスなんかは困りもので・・・。今はバスの時刻表もくれない。

―― 何でもかんでもネットですもんね。紙がどんどんつくられなくなっている。

Cocco だからバスは、乗るたびに発車時刻をバス停でちょっとずつメモって、家で少しずつ時刻表を完成させてた。でも、ついこの前「やった! 完成した!!」と思ったら、また最近になって変わったとかで(笑)。

―― まさかのダイヤ改正(笑)。

Cocco だから今またやり直し。

―― でも、そうやって手を動かして何かを知っていく、感じていくことで初めて見えてくるもの、それこそが大切だということがこの本には詰まっている気がします。

沖縄とCocco、「そのまま」のCocco

―― 今回は前半の中の6篇は「沖縄タイムス」に連載されていたものですね。僕は連載の頃から読んでいましたが、それ以外は全て本書のために書き下ろされたのですよね? どのようにして書き進めていかれたのでしょう?

Cocco 編集の日野におだてられて・・・(笑)

―― (笑)。全36篇で構成されていますが、それぞれのテーマもご自身で設定しながら書き進められたのでしょうか?

日野 少し補足をすると、最初の「沖縄タイムス」のものは1月1編だったので約12編ありました。まずそのうちからCoccoさんが精査をしたものに、書きおろしを加えていただいて、原稿用紙100枚程度になったものを最初にお預かりしました。

 そして、本にするならもう少し分量が必要なので、「もう少し書いてみようか」とご提案したんです。「よく買い物するよね」、「テレビ最近見てるの?」なんて話しながら打ち合わせをして、テーマを10個くらい考え、まずそれを下敷きにして進めてみようということになりました。

Cocco えっと、そのメモをそのまま読むと・・・「今思っていること」、「最近の流れと自分のズレ」、「テレビを見て思うこと」、「旅に行きたいけど行っていない話」、「沖縄とか全然離れていい」、「全体における遊びの部分」、「生活しているCocco」、「嫌だなとか面白いと思っていること」、「東京の話がもっとあってもいい」、「テーマなんてもういいんじゃないか?」

―― (笑)。

Cocco 結局大きなテーマは「Coccoの考え方」、「バナナや洋服の話」てなことをここ数年分まとめたエッセイ集。

日野 沖縄タイムスのものはテーマが「沖縄と私」なんです。なので、そこからもう少し離れて、普段話しているCoccoが面白いから「今話してることをそのまま書いたらいいんじゃないの?」といったようなことも提案して、今の形になっていきました。

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瞬発力で勝負です

―― 本書の執筆期間はどれくらいですか?

Cocco 5月くらいから書いてて、7月のバレエがある頃にはもう原稿を日野に渡した。

―― すごいスピードですね。

Cocco 持久力ないから。瞬発力の人生なの(笑)。小説も2週間くらいだった。日記とかは書けないタイプ。短期集中でずっと書いてるから「手が痛い〜手が痛い〜」って言ってた。小説の時なんてサポーター買ってたもんね。

―― 書く時というのは、言葉が降りてくる感じなのでしょうか?

Cocco なんだろうね、わからない。でも、降りてくる感じではない。一生懸命考えて、ちゃんと書こうとしてる。

―― 歌詞をつくる時とはまた違うものなんですか?

Cocco 全然違う。歌は何も考えないもん。手も痛くならないし(笑)。文章で嫌なのは、たとえば「私は」なのか「私が」なのか「私を」なのかをいちいち考えないといけないところ。どれが正しいのかをひとに聞かないといけない。だから苦手。でも、歌は何も聞く必要がない。後で自分で書いた歌詞を見て、「ここの歌詞、"私は"になってるけど、なんでなんだろう?」って勉強するようなことはあるけど。文章はつくっている時に考えないといけない。

―― 書くのに困って立ち止まることはないのですか?

Cocco きれいに書きたい。だから、ちょっと間違えたら「ええい!」って破って捨てちゃう。そして、またそのページの最初から書いていく。その繰り返し。気力が無くなってくると、最初から書くのはやめて、「✕」書いて訂正しちゃう(笑)。最初はそれが嫌だから、やり直しで手が疲れてしまう。

―― 本当に一発書きなんですね。読ませていただいて、一篇一篇が見事にキマっているので驚きました。後で気分が変わってつなげた痕跡が全然ないですね。執筆ではどんなことを心がけておられたんですか?

Cocco うーん、ノリ?

―― 大事です(笑)。

聞いて、聞いて、書いて、書いて。「自分調査」

―― いくつか印象的なものについてお伺いしていきたいと思いますが、本書に収録されている「ヒント」とか「自分調査」といった、アドバイスや自問自答のようなテイストのものは、どうやって書き進められたのでしょう?

Cocco 日頃会う人に「自分がこんな状況だったらどうする?」って話を聞いて、本当に自分調査をずっとしてた。これはその時もらった言葉たち。たとえば、うちの税理士さんに「Coccoはね、独自路線でいいのよ」って言ってもらえたり、会社員の人に「あんたね、悪いけどバカにならないとダメよ」なんて言われたり。そんなことをメモっておいて、また別の人に会った時に「実はこんなアドバイスもらってね・・・」とか話してみて、そのときにもらった言葉も集めていった。どれも私に対して言われたことだけど、みんなにも当てはまるかなって。

―― 本当に調査されていたんですね。読んでいて自分に言われているような気持になりますよ。「まずは体力」とか(笑)。たしかにそうだな、と思います。「何かを作らないで我慢してる時期も重要だっていいますよ」というのも素敵ですね。

かっこいい大人、どこにいる?

―― この項に、「気にかかること」で「幼稚化する大人たち」を挙げていらっしゃいます。これはどういうことでしょう?

Cocco 「大人になる」っていうことは、自分の時間を自分で遮断して終わらせたり、ガマンしたり、外の世界と自分の世界を合わせられるようになることだって思ってきた。

 たとえば小さい頃は食事中に本を読んでいたら「お食事しているときはやめなさい」と怒られる。自分の世界は一度置いて、みんなの時間に参加するように言われる。

 でもそれが今は、大人が自分の時間を遮断できないようになっている。ずっとcarry on(続ける)している。節操がないし、「それ怒られることなんじゃないの?」って思うことがある。他人の時間を自分の時間と合わせられない人がいっぱいいる時代。大人が子どもっぽいなと思う。

―― それはたとえばどんなシーンで見受けられますか?

Cocco たとえば電車のシートにお母さんと子どもが座っている時。子どもはずっと自分にアテンションほしいから「次◯◯駅だよね?」とお母さんに話しかけているのに、お母さんはずっと携帯をいじってて聞いていない。お母さんは「はいはい、ちょっと待って」なんて言って、ちゃんと話してるつもりなんだろうけど、目線はずっと携帯。それで子どもがお母さんの気を引こうとして、ちょっとふざけたりしたら、すぐ「ちゃんと座りなさい」と言って叱る。でも、そもそもお母さんがちゃんと話聞いてないから全然説得力ない。ほんと、この子も親も大丈夫かなって思った。
 
―― どんどんそれが普通になっているから、子どもも大人もしんどくなってしまっていますね。

Cocco 大人にとって「ちょっと待って」でも、子どもにとってはその瞬間が全てだからね。でも、最近は子どもも機械がほんとに上手。リモコンや携帯にもすぐ反応するし、使いこなす。やっぱり、子どもは大人がやることを見てるからね。大人がやることをまず真似する。だからかっこいい大人がいないと、大人になりたいと思わない。

―― かっこいい大人ってどうやって増やせるのでしょうか?

Cocco どうしましょ。とにかく最近なんでも全部アンチエイジングなのが気になる。

―― ほお。

Cocco そんなに全力で老いに逆らってどうするんだろう? って思う。化粧のコスメカウンターに行っても、「これアンチエイジングなので」と来る。いや、べつにエイジングをアンチしなくていいよみたいな。

―― (笑)。

Cocco 別にエイジングにアンチじゃねえし。みんなとどまろうとしすぎているよ、きっと。

―― そういうのって沖縄はどうですか?

Cocco みんな同じじゃない? うちの母親なんか、キャンプに行った写真見ても、ぜったい隅っこで携帯いじっている。自分でいじってるってわかっているのかな?

 私は、携帯持ってうちの子どもと写ってる写真、全然ない。つまり、ひとつもアテンションが他にいっているものがない。アテンションはいつも、子ども。「どうだすげえだろ」ってうちの子どもに言ったら、「ふうん」って。「どんだけ私のアテンション、あんたに集まってるかわかってる?」って聞いたら「わかってるわかってる」って(笑)。

 そしたら子どもは「5カ月くらいイタリアに行って、結婚する練習したら?」って言ってきた。「おれは一心にアテンション浴びてるから、お母さんはもっと自分の練習したほうがいい」って。だから私、「はい」って言った。

―― 本当にかっこいい親子ですね。

Cocco家の教育、基本は「ナメられたら終わり」

―― 教育方針は「ナメられたら終わり」と書いていらっしゃって、めちゃくちゃ面白かったです。これはCocco家の教育方針ですよね?

Cocco そう。うちは自衛隊みたいに絶対服従(笑)。親は友だちじゃないからね。ナメられないというのは大事。たとえば、うちの子どもが同級生とちょっと問題を起こした時のこと。主犯格の子どもとお母さんが全員集合して事件の究明に乗り出した。そうしたらひとりのお母さんが「みんなさあ、秘密は無しにしようよ」とか言ってきた。いや、子どもにも秘密はあるだろうと。私にも秘密があるし。秘密なんてどうでもいいけど、「私にうそつけんの?」ってのが大事。そこで私は「おい、並べ~!」って並ばせて問いただした。最後はみんな並んで「すみませんでした」で、解決。

 他のお母さんとかはもう、全然ナメられてる。最近の女の子なんて超マセてるからね。ナメられたら「ふざけんなお前、ちょっと来い」くらい言わなきゃだめ。まあ、うちの子どもは「うちのお母さん、昔ヤンキーだったから逆らわないで」みたいな感じでフォローしてたけど(笑)。

―― 推奨するもの「豊かな母国語」というのも、背筋がぴんと伸びます。

Cocco このあいだ、まだ1歳半くらいの子どもに「英語をやらせたいから、教えてやってくれ」と言われて。いやいや、まずは母国語だろ? って。日本語みたいに難しい言葉ができれば英語なんて、後で全然間に合うからって言っても、みんな英才教育したいみたいね。

―― とにかく英語できれば素晴らしいということになっていますよね。オリンピック開催が決まって、"英語第一主義"にますます拍車がかかりそうで心配です。

Cocco 日本は戦争に負けたからね。戦争に負けた国って、勝った国の言葉を優位に感じてしまう。歴史はずっとそういうことになっている。

―― 豊かな母国語の第一歩は何ですか?

Cocco なんだろう、やっぱり"やりとり"かな。読み聞かせも大切だと思う。子どもなら、だっこしているときに親がどれだけしゃべるかだね。

―― そこからしか言葉覚えないですもんね。お母さんの言葉はそれほど大切です。

Cocco 他人の子どもを見ると、親が何をしゃべりかけているかわかるもんね。たとえば「おいしい」ってことでも、お母さんが「うまい」って言えば、子どもは1歳でも「うまい」って言うからね。私は「うまい」っていう言葉を、東京に来るまで使ったことがなかった。「うまい」という言葉は、私の家では男の人が言う言葉だと教えられてきたし、「うまい」という言葉は生活になかった。実際に聞くと、かわいいんだけどね。

―― 親の責任は「子どもの歯並び」っていうのも面白かったです。

Cocco 子どもの意思でできることとできないことはある。歯並びはお金がないと治せないから、子どもにはできないこと。自分には八重歯があって、子どもの頃ずっと治したかった。なぜなら、ケンカの時、血が出たらすぐに負けになるから。ケンカして顔を殴られて、八重歯があるとすぐに血が出て負けになってしまう。それが嫌で、ずっと矯正したかった。

 その後、さらに反対側にも八重歯が生えてきてしまったけど、それでも矯正させてもらえなかったので、結局抜くことになってしまった。大人になってから自分で矯正したけれど、八重歯が足りないから、私の歯はきちんと揃っていない。それがすごく嫌だった。今、整体行ってもうまく合わないのは、歯が左右対称になっていないから。歯は命。悪いと体も顔も歪んでくる。

 だからうちの子どもは矯正させている。ある時、病院が予約の関係で朝しか取れなかったから子どもに学校を休ませた。電話で先生に「歯は命なんで」っていったら「将来何になるんですか?」と聞かれた。いや、そういう次元の話じゃないと。ほんと、歯は命。

わからない曲があったら、まず歌おう

―― 「お見送り」というエピソードで、「謎を謎のまま胸の中で膨らませたり萎ませたり、延々と脳裏を駆け巡らせたりとしている内に生まれるそれら独特のリズムや色香は可愛らしい」という一文があります。今は何でもすぐにWikipediaで調べて答をわかった気持ちになってしまいがちですが、Coccoさんは謎を謎のまま大切にされる・・・

Cocco 私が子どものころはラッキーだったね。想像できる時間がいっぱいあった。たとえば、子どもの頃に耳で覚えた中森明菜の歌で「他の人愛せれば〜」って歌詞がある。でもその時、なぜか「おなごいのかけ電話」って聴こえてて。

―― それは一体何なんですか?(笑)。

Cocco よくわかんないけど、きっとこの歌は方言か何かで、女の人が電話をかけてて、恋に破れて雨に打たれているイメージが私にはあって。今でもその歌を聴くと、雨に濡れている女の人が電話をガチャンと切るシーンが、ふっと浮かぶ。昔ずっと思っていた、考えていたことがそのまま歌のイメージになっている。

 けっきょく聴き間違えているわけだけど、そのとき調べていないからこのイメージを持てている。昔は歌詞すらも調べられないから音だけであたためていられた。心の中のイメージをずっと追いかけることができた。今はすぐ答が出てしまうから想像する時間がない。それはある人にはラッキーかもしれないけど、そうでないこともあるかもしれない。

―― 今はその想像の余地がどんどん減ってますよね。最近なんてスピーカーにスマホをかざしたら曲名がわかるアプリもあるようで。

Cocco 私、しょっちゅうCD屋さんで歌ってたよ。どこかで耳にした曲を覚えて、「この曲わかりますか?」って。あるとき、それがJoan Jett & the Blackhearts の 『I Love Rock N Roll』だった。

 レコードショップに行って歌うんだけど、これがみんな、わかんないわかんない。「それKISSじゃないの? お金ないなら聴いていいよ」って言われて、アルバム全部聴かせてもらった。でもなんか違う。

 その後も、バレエ教室にアメリカ人がいたので聞いてみる。その人の前で歌って紹介されたのは、メタル系のよくわからないミュージシャン。これまた間違い。

 ぐるっと回ってどこかのCD屋さんで、ようやくJoan Jett & the Blackhearts に辿り着いた。もうほんと、寄り道ばっかり。でもこの寄り道がなかったらKISSも知らなかったし。そういう寄り道ができるチャンスが今、ないね。

―― すぐに見つかりはするんですけどね・・・。

Cocco そうそう、すぐに答えに辿り着いちゃう。でも、Joan Jett & the Blackhearts なんて何度も回り道して辿り着いたから、けっきょく特別な1枚になっていった。今でも聴くと、イエーーーイ!!! ってなる。もう何十回歌ったんだろうね。

電話番号は覚えるもの?

Cocco でも私、わりとひとりが好きだから、ひとりで調べられたらそこで完結してひとりになっちゃう。幸か不幸か携帯もパソコンも使い方がわからないから、他人に会って聞くしかない。それは自分を社会性のある人間に保ってくれている。他人に聞かないとわからないから、ひとりになれない。でも携帯とか持ったら人に会わなくなるかもしれない。ひとりになってしまうかもって思う。

 そんな自分を知っての上で、持ってない方がいいと思っている。だから私は、映画を見ようと思うと、今でも映画館に電話してしまう。誰かといると、みんなすぐに調べちゃう。「みんなすっごいね! 電話しないの? あ、でも私、番号言えるよ?」みたいな。

―― (笑)。確かに番号は覚えなくなりましたね。

Cocco だから時々、自分の家の電話番号を覚えられない子は心配してしまう。今の子って携帯に「おうち」で登録されてるから、番号を知らない。それはいざというとき、とっても危険。

 それに番号を覚えていると、数字とセットでその人のことを覚える。このひと「2」が多いなって思ったら、なんかプレゼント買うときも200円のものがあの人に似合うっていうような発想もできる。

―― 携帯になんでも預けているから、人自体に何もなくなる。落とした瞬間、親にも電話できないんですね。僕らはまずは家の番号覚えさせられましたもんね。ということは、14歳の息子さんも携帯はもっていない?

Cocco もちろん携帯持ってない。なんか、「友だちが持ってるから」とか言ってなにげにねだられたこともあるけど、ナメんなお前、って思う。同じもの持ってないと友だちになれない友だちなんて最初からなくしちまえと。いらねえよと。私があんたのこと100倍愛してるから問題ない。グレてくださいどうぞ! みたいな。オレと勝負しようぜと。

―― しびれます。その通りです。

Cocco ある時、うちの子どもが「iPodがほしい」とか言ってきて、ふざけんなってことで一蹴しようと思った。けど、あいつは頭がいい。「Coccoとか聞けるよ? サッカーの試合の前に? テンション上げちゃうんだ」とか言ってくる。なるほど言ってくれるぜと思って、買ってやったのがSONYのカセットウォークマン。

―― カ、カセット?

Cocco 自分の好きなテープをつくるんだよって、片面にうまくおさまる分数にまとめてB面に行くんだよとかを教えた。見た目にはイヤホンでiPodを聴いてるふうだけど実際はカセットウォークマンという(笑)。

―― (笑)。

Cocco しかも彼のカセットウォークマンはちょっと壊れてしまったので、現在は割り箸とガムテープで補修されてる。昔はテレビで歌手が歌ってるのを、録ったものだった。テレビの近くで「シーッ」って静かにして録ってたらお母さんが帰って来て「ガラガラ〜ただいまー」で、がっくり、みたいなことも起きた。悲しいけれど、それで「録音」ということがわかる。

 テープも切ってくっつければ「編集」できるとかがわかる。こうした基礎的なことがわからないで、さらに高いレベルのことやってしまうと、本当に魔法使いの話にしかなんない。火のおこし方がちゃんとわかってたら、水をかけたらダメな火のこともわかる。大体の電化製品はドライヤーで乾かせば動くとかもわかる。そういう基礎を私と一緒にいる間に学んでほしい。家にいるうちは原始を学べと。その後は、信じるしかない。

―― まったく、「ついていきます」と言いたくなります(笑)。かっこいい大人が確かにここに一人います。

ずっと「ことせん」、でも、ずっと伝えたい

―― 本はどれくらい読まれるんですか? 

Cocco あまり読まないとは思うけれどね。

―― 青山ブックセンター六本木店用に選んでいただいた「おすすめ本10」には、『おばけの天ぷら』とか絵本が多く選ばれてました。

Cocco 小さい頃に読んでもらった本て、その時の匂いとかがしてくるから好き。

―― 『11匹の猫とあほうどり』、『おやすみなさいフランシス』もそうですね。

Cocco 自分では本読まないからいつも読んでもらってた。宿題の感想文とかも、お姉ちゃんに読んでもらって、聞いて書いていた。小学生の私の読書はヒアリングだった(笑)。読んでもらうのは好きだったな。自分から「これ読んで」と言うこともあった。

 中学生くらいになると、もう読んでもらわなかった。「琴線」を「ことせん」なんて読んでいて、「"きんせん"だ」なんてよく笑われた。東京に出てくるまで漢字も読めないし、書けないだから、「バカだ」と言われて育ってきた。小論文テストもずっとD判定だった。

 でも歌手になって歌詞を書いてたら「漢字いっぱい知ってるね」とか言われて「うっそー」みたいな。不思議だった。もちろん、いまだに家族の中ではいちばん漢字が読めない。今もずっと「ことせん」(笑)。他人が面白い漢字の読み方をすると、「なんか私みたい」って思う。

―― 漢字は東京に来てから覚えたんですか?

Cocco 多少は。でも、そもそも私の家族のレベルが高かったというのもあると思う。パパもお姉ちゃんもすごく本を読む人だった。家にはいっぱい本があった。トイレにすらもいっぱいあった。私は活字見るだけでオエ~って感じだったけれど、あの2人からしたら、あれだけ本読まずによく今、本書いてるなと思っていると思う(笑)。国語の成績も悪かったけど、手紙を書くのはずっと好きだった。小さい頃から。

―― 伝えたいんですね。

Cocco 入ってくるより出る方が多いから。出してばっかりだ。自分の中は日々の生活で埋まっちゃうから、「もう入らない!」ってなっちゃう。

―― それでも何か読み返される本とかはあるんですよね?

Cocco 『グレート・ギャツビー』は夏に読むのが好き。ああいう瑞々しいものを読んで感動すると、アメリカ人とも同じものを共有できるんだと思えてきて、なんだか安心する。

 日本の「侘び寂び」というのは、外国人には説明できないことがいっぱいあるもので。イギリスで学校に行ってるとき、私が侘び寂びだと思ってやったこと、話したことに「それじゃ意味わかんない」って言われると、「イギリス人にわかるかよ!」と思ってよく嫌になった。でも、そういう時にふと学校の図書館に行くと、是枝裕和監督の映画とかがあったり。ああ、本当にいいものって海を渡るんだ、というのを感じた。その時、自分が「侘び寂びだ」って言っているのって、ただの言い訳だなと思った。

 『グレート・ギャツビー』はその逆パターン。本当に心に入ってくるので、翻訳がいいのかな、と思って原作を英語で読んでみたら、英語でも同じだった。アメリカのやり方にがっかりした時も、この本のことを思い出すとほっとする。アメリカとわかり合える安心感をくれる。大丈夫なんだって思える。

―― 確かに。アメリカが「『グレート・ギャツビー』を生み出した国」という見え方になったとき、初めてわかることもありますね。他にオススメの本ってありますか?

Cocco やっぱ『東京ドリーム』じゃないですか?(笑)

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本の匂いのするところ、Coccoの癒やしスポット

―― 沖縄にいらっしゃった時は本屋さんにはよく行かれました?

Cocco 毎週行った。おばあちゃんちに行くと、ごはんできるまでの時間におばあちゃんが500円の図書カードを差し出して「本を買っておいで」って。本屋さんは徒歩5分くらいにあった。お姉ちゃんは『赤毛のアン』とか『小公女セーラ』。で、私は本屋さんで鉛筆買ってお釣りの450円を手に入れた(笑)。まずは換金。でもしばらくすると図書券はお釣りが出なくなって、えー! うそ! 意味ないじゃん! って。

―― いや、むしろそれが図書券の本来の使い方かと・・・(笑)

Cocco 本屋さんと図書館はすごく好き。本の匂いが好きなのと、みんな静かだからね。他人を相手しなくていいから楽だった。他人がいると、私はつい楽しくふざけて何かしないといけない気持ちになるから。だから図書館の沈黙ルールは楽だった。本は1年で1冊くらいしか借りないのに、子どもの頃、午後はずっと図書館で過ごした。それに夏はクーラーがきいてるしね。

 本屋さんは今も好き。本を買うのもだけど、やっぱり匂いが好き。なんか寝ている間にする勉強法とかあるじゃん? ああいう感じ。本に囲まれているだけで本の何かを吸収できる気がする。だから私にとって本屋は癒やしスポット(笑)。今でも引っ越しする時は必ず図書館の近く。

―― 東京出てきてからも?

Cocco 最近は本屋さんの方が多い。子どもたち最近図書館で勉強するよね。昔は大人が勉強しているイメージがあった。今はわりと子どももいて、「ちっ」って思う。家帰ってしろよみたいな。

―― いやいや、勉強させてあげてください(笑)。都内はどんな本屋さんに行くんですか?

Cocco 小さい本屋の方が趣味が見えて楽しいな。店主の性格がモロに出てる。ポップとか超つまんないのに「これイチオシ」とか書いてあるのが面白い。

絵は、最初から見えているものを「出す」だけ

―― 絵について教えてください。この表紙の絵はこのエッセイ用に描き下ろされたものですか? そもそも絵が先行したものなんですか?

Cocco 絵が先。描いたのは5月くらいかな? 『東京ドリーム』は、歌がまず最初にあって、次に絵を描いて、最後に文章を書いた。文章は一番苦手分野、けっきょく。

―― すごく素敵な絵です。今度展覧会もやっていただけるということで、ありがとうございます。

Cocco 絵は外に出したほうが褒められるからね。うちにあってもなんか、"日よけ"とかに使われてしまうから(笑)。

―― (笑)。Coccoさんはどんなふうに絵を描かれるんですか?

Cocco どうなんだろう? 絵は、絵としてそこに見えてるから、それを手をつかって"出す"だけ。考えて「こういうふうに描くぞ」といった感じではなくて、イメージが頭の中にあるけど、頭の中だとみんなが見えないから出したい、という感じかな。ヴィジュアル先行なんだろうね。文章は説明しないといけないから苦手。見えているものをそのまま活字で出すとうまくいかない。書くのは根気がいるよね。

―― 見えているものは一気に描けるんですね。

Cocco 瞬発力が勝負、ですから。

東京ドリームを探してたどり着いた「好き」

―― 『東京ドリーム』というタイトルへの想いを教えてください。

Cocco まず『東京ドリーム』という歌があった。Coccoヴィジュアル重視だから、タイトルも音楽もイメージも全部一緒に出てくる。でも、なんだろう? なんでだろう? って知りたくなった。だから歌をうたって、絵を描いて、文章も書いて、なんで東京ドリームなんだろうということを自分で確かめたかった。

―― 自身を知りたくてエッセイも書かれたんですね。結果、何が見えましたか?

Cocco 東京が好きなんだなってことがわかった。それは発見でもあるけれど、いちばん好きなひとって一番きびしく見ちゃうから。今、沖縄なんて嫌なこと100個くらい言える。これからは東京の嫌なことがたくさん見えてきて、東京との戦いとかが始まるんだなって気がする。だからこの先からは、私の「好きになっちゃったってわかってる東京」が始まる。

―― 大好きになると嫌いもいっぱい見えてくる・・・。

Cocco だからこの次はアンチ東京(笑)。東京ってほんとに不思議なポジション。故郷って絶対に揺るがない存在。故郷じゃないけれど、故郷以外でもっとも長く住んでいる場所が日本の首都で、大好きな東京。とても不思議な存在。

―― ありがとうございます。僕は本当にこの本を日本中の人に読んでもらいたいです。本当に、『サザエさん』並に一家に一冊あってほしいと思っています。


Cocco(こっこ)
1977年生まれ。沖縄県出身、歌手。96年日米インディーズデビュー。97年ビクターSPEEDSTAR RECORDSより日本メジャーデビュー。CDシングル16枚とアルバム9枚を発売。音楽以外のフィールドでも絵本、エッセイ集、小説などの出版物を発表。2011年6月東日本大震災救援企画「Cocco Inspired movies」発売。同年映画「KOTOKO」初主演。ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門最高賞他多数受賞。2013年8月DVD「Cocco ベスト盤ライブ~2011.10.7」発売。著書に、絵本『南の島の星の砂』『南の島の恋の歌』エッセイ集『想い事。』『こっこさんの台所』『コトコノコ』小説『ポロメリア』がある。

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