第193回
『建築と利他』発刊しました!
2025.05.16更新
昨日5月15日(木)、『建築と利他』が全国のリアル書店にて先行発売となりました!
建築家の堀部安嗣さんと、政治学者の中島岳志さんの対談をベースに、大幅な書き下ろしと、堀部さんによるスケッチが加わった、美しい佇まいの一冊になりました。装丁デザインは鈴木千佳子さんです。
ミシマ社から発刊となる「利他」にまつわる最初の本は、2020年に発刊した『料理と利他』でした。こちらは、料理研究家の土井善晴さんと中島さんの対談をベースにしています。
利他の研究を続けている中島さんが、「料理」、そして「建築」に注目をされるのは、そういう暮らしに根づいた営みの中にこそ、利他の本質があると考えているからだと、以前にうかがったことがあります。
堀部さんは、「パッシブデザイン」ということを積極的に掲げて建築を手がけられてきました。それは、土地の形状や光、風、その土地の歴史、そこに暮らす生き物たちなどなど、すでに「あるもの」を活かして建築のデザインを考える、というスタンスです。
本書を読んで気づくのは、そういったスタンスで建てられる住まいは、結果として、そこに暮らす人間にとっても優しいものになる、ということです。
建築について、住まいについて、環境について、利他について。興味がある方、気になっているみなさまに、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
「はじめに」を公開します
本日のミシマガでは、中島さんによる「はじめに」を公開いたします。
本書を手に取るきっかけにしていただけたら嬉しいです。
『建築と利他』――はじめに――
この数年、利他について考えてきました。
その中で痛感したのは、自分以外の存在を自分の思うとおりにコントロールしようとしているときには、利他は起動しないということでした。
利他的な存在になろうと思ったとき、私たちは「あの人のためになることをやってあげたい」という思いに駆られます。重い荷物を持っている人がいたら代わりに持ってあげたいと思い、障害がある方がいたら、行為を代行してあげたいと思うでしょう。
もちろんその気持ちは大切なことです。しかし、もしかすると、なんでも代わりにやってあげることは、その人の主体性を奪うことになるかもしれません。代行している側は、よかれと思ってやっているのですが、それは当事者の「自分で道を切り開きたい」という前向きな気持ちを搾取しているかもしれません。やってもらう側は、いつもお世話になっているという負債感を抱え込み、ついには「自分は支配されている」という感覚を持ってしまう可能性もあります。
こうなってくると、与え手側は戸惑います。「がんばってやってあげているのに、なんで感謝されないのか」という不満を持ち、場合によっては「感謝されるように、もっとやってあげよう」と、相手を自分の思いどおりに統御しようという方向に傾斜していきます。
こうなると、利他的精神よりも、「感謝されたい」「役に立っているという実感がほしい」という利己的精神が上回り、状況が悪化していきます。利他的だったはずの行為が、どんどんと利己的になっていく。これが利他のパラドクスであり、気をつけないといけない重要なポイントです。
利他において重要なのは、なんでもかんでもやってあげることではなく、相手の思いや行為にうまく沿うことで、潜在的な力を引き出すことにありそうです。自分がよいと思うことを押し付けず、相手の主体性に応答しながら、前に進めていく。その過程で、与え手側の主体のあり方も変化していき、共に生成的に成長していく。そのようなあり方が、利他の形としてあるように思います。
堀部安嗣さんという建築家は、「沿う」ことの達人です。建築家は、自己のオリジナリティを打ち出す傾向が強いように思いますが、堀部さんはそのような「自力」を極力抑制しようとしているように見えます。
そう言うと、クライアントの言い分をよく聞く建築家なのだと理解されるかもしれませんが、それは一面的です。堀部さんが尊重しようとしているのは、むしろ人間以外の存在の主体性です。
環境、自然、土地の形状、来歴、景観、動物、植物、土壌、微生物、太陽の動き、空気の流れ......。
人間を超えた存在の声に耳を澄まし、その土地にあるべき建築の形を整えていく。それが堀部さんの方法です。
もちろんクライアントの現実的な要求も大切ですが、その人が継承したい記憶や安堵感、余白などが、より大切な主体性として捉えられ、設計が進められていきます。さらに生きている人間だけでなく、亡くなった人の存在や、これから生まれてくる人の存在も視野に入れながら、建築が構想されていく。そんな稀有建築家が、堀部さんなのだと思います。
本書はコロナ禍が始まって以降、複数回にわたって行われたオンラインイベントの内容を再編集し、一冊の本にしたものです。
私にとって、堀部さんとの対話はいつも生成的で、二人のあいだで何かが紡ぎ出されていく感覚があります。話題は建築を中心に進みますが、建築の狭い領域を超えた普遍的な話につながっていくのが、いつもとてもおもしろいところだと思います。
ぜひ、本書を読みながら、私たちの対話に読者の方もご参加いただければと願っています。ここから「建築という『道』」の新しいヴィジョンが生まれていくことを期待しています。
中島岳志
『建築と利他』カバーより
堀部さんと中島さん本書の発刊に寄せてコメントをいただきました!
フリーペーパー「ミシマ社の利他の本たち」をつくりました!
ミシマ社ではこれまでに、利他にまつわる7冊の本を刊行してきました。
その集大成ともいえる『建築と利他』の刊行を記念して、7冊の紹介や、関連するオススメ読みものや書籍などを掲載したフリーペーパーをつくりました。
下記にご紹介する、「ミシマ社の利他の本フェア」や『建築と利他』パネル展を開催いただく書店に置いておりますので、お立ち寄りの際にはぜひ、お手に取ってみてくださいませ。
「ミシマ社の利他の本」フェアを開催します!
『建築と利他』はミシマ社にとって7冊目の「利他本」
その利他本がならぶフェアを開催します!
「ミシマ社の利他の本」フェア開催店
【北海道】
紀伊國屋書店 札幌本店
【関東】
〈東京都〉
紀伊國屋書店 新宿本店
八重洲ブックセンター 阿佐ヶ谷店
三省堂書店神保町本店(小川町仮店舗
東京堂書店
【関西】
〈京都府〉
丸善 京都本店
大垣書店 京都本店
大垣書店 烏丸三条店
大垣書店 イオンモールKYOTO店
大垣書店 イオンモール北大路店
アバンティブックセンター 洛北店
〈大阪府〉
ジュンク堂書店 近鉄あべのハルカス店
田村書店 千里中央店
MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店
紀伊國屋書店 梅田本店
ジュンク堂書店 難波店
〈兵庫県〉
ジュンク堂書店 三宮店
発刊記念パネル展も開催!
『建築と利他』の発刊を記念し、その中身を紹介するパネル展を各地の書店で開催いたします。
政治学者・中島岳志が利他を見出した、堀部安嗣によるその土地に「あるもの」を活かす「パッシブデザイン」。
そのもととなる堀部さんのスケッチや、実際に建てられた建物の写真に、本に出てくる2人の思考が表れたコメントを添えた展示です!
発刊記念パネル展「利他の視点でパッシブデザインを読み解く」開催書店
【東北】
〈岩手県〉
MORIOKA TSUTAYA
【関東】
〈東京都〉
紀伊國屋書店 新宿本店
ブックファースト 新宿店
ジュンク堂書店 立川高島屋店
東京堂書店
〈神奈川県〉
アカデミア 港北店
ブックファースト 青葉台店
【中部】
〈岐阜県〉
HUT BOOKSTORE
〈愛知県〉
ジュンク堂書店 名古屋栄店
【関西】
〈京都府〉
丸善 京都本店
京都大学生協 ブックセンタールネ
京都 蔦屋書店
〈大阪府〉
ジュンク堂書店 天満橋店
ジュンク堂書店 近鉄あべのハルカス店
田村書店 千里中央店
【四国】
〈香川県〉
TSUTAYA BOOKSTORE TAKAMATSU ORNE
【九州】
〈福岡県〉
ジュンク堂書店 福岡店
サイン本情報
堀部安嗣さん、中島岳志さんのお二方のサインが入ったサイン本を、冊数限定で販売いたします!
※サイン本は数に限りがございます。各店舗ともなくなり次第、販売は終了となりますのでご了承ください。
※5月15日(木)発売に合わせて入荷予定ですが、店着が多少前後する場合がございます。
【北海道】
紀伊國屋書店 札幌本店
【東北】
〈岩手県〉
MORIOKA TSUTAYA
【関東】
〈東京都〉
くまざわ書店 調布店
銀座 蔦屋書店
くまざわ書店 桜ヶ丘店
ジュンク堂書店 吉祥寺店
芳林堂書店 高田馬場店
東京堂書店
ジュンク堂書店 立川高島屋店
代官山 蔦屋書店
ジュンク堂書店 池袋本店
ブックファースト 新宿店
三省堂書店神保町本店(小川町仮店舗)
〈神奈川県〉
ジュンク堂書店 藤沢店
アカデミアくまざわ書店 橋本店
【中部】
〈石川県〉
明文堂書店 TSUTAYA KOMATSU
〈岐阜県〉
HUT BOOKSTORE
〈愛知県〉
ジュンク堂書店 名古屋栄店
【関西】
〈京都府〉
大垣書店 烏丸三条店
本と野菜 OyOy
丸善 京都本店
大垣書店 堀川新文化ビルヂング店
京都大学生協 ブックセンタールネ
京都 蔦屋書店
大垣書店 イオンモール北大路店
アバンティブックセンター 洛北店
〈大阪府〉
ジュンク堂書店 難波店
ジュンク堂書店 天満橋店
長谷川書店 水無瀬駅前店
ジュンク堂書店 大阪本店
ジュンク堂書店 近鉄あべのハルカス店
〈兵庫県〉
ジュンク堂書店 三宮店
【四国】
〈香川県〉
TSUTAYA BOOKSTORE TAKAMATSU ORNE
【九州】
〈福岡県〉
丸善 博多店
ジュンク堂書店 福岡店
〈大分県〉
Bareishoten
【6/6金@東京堂書店現地&MSLive!】
堀部安嗣×中島岳志発刊記念トークイベント「『いのち』と響き合う『住まい』を考える」
かつては、建築も人間も、
新刊『建築と利他』では、そんな対話が交わされています。
それが近代になり、建築は人間の「自力」
そんな中、堀部さんは、土、光、風、生き物たち、歴史、記憶...
私たちの暮らしと切り離せない「住まい」から、
***
<日時>
2025年6月6日(金)18時30分~19時50分
<出演>
堀部安嗣
中島岳志
<参加方法>
・東京堂書店現地参加 ※定員80名
・MSLive!オンライン視聴
※オンライン配信をお申し込みの方には、
アーカイブ動画は2025年7月31日まで、
<参加費>
・東京堂書店現地参加 1,500円(税込)
・MSLive!オンライン視聴 1,650円(税込)