第44回
パンデミックを生きる構え(2) 藤原辰史×鈴木潤×三島邦弘
2020.05.20更新
4/25(土)に、メリーゴーランドの鈴木さんよりお声がけあり、「パンデミックを生きる指針」(その後のオンデマンド配信、そして本特集では、「パンデミックを生きる構え」に変更)として、藤原辰史さんのオンライン講演を開催いたしました。
100年前に起こったスペイン風邪の歴史を掘り起こしながら、今後どういう事態が起こりうるか、そして、最悪の状況を想定したときにどんな備えができるのかなどについてお話しいただき、100名を超える参加者の方々からは「考えを整理する、またさらに深めるきっかけをたくさん頂きました」、「なんとなく鬱々としていましたが、新しい未来を自分たちでつくろうと元気がでました。」、「いろいろな意味で孤独感に追い込まれている中、連帯を味わうことができました」と、切実なご感想をいただきました。
今回のミシマガジンでは、藤原さん講演の一部に加え、藤原さんとメリーゴーランドの鈴木さん、そして代表の三島の鼎談を中心にまとめたものをお届けいたします。パンデミックの時代に、本や本屋が果たせる役割や、子どもと学びについての話など、熱気に溢れた鼎談を2日間でお届けします。
(構成:田渕洋二郎、構成補助:中谷利明)
1日目掲載分はこちらから。
それぞれの持ち場でできること
藤原 他国を見ていると韓国や台湾、ニュージーランドなどでの取り組みは一見眩しく見えますよね。ですが、それぞれの国も日本より深刻な問題も抱えているし、日本にも日本にしかない独自の問題があります。「リーダー待望論」やっている以上、僕たちは永遠に民主主義、日本では不十分でしかない民主主義を実現できません。
その上で、まず身近なところでの政治を盛り上げていくことが重要になってくると思います。三島さんであればミシマ社、鈴木さんならメリーゴーランド。こうした取り組みはある意味1つの表現であり、表現をするということは社会への政治的なコミットなんです。
私も研究者として活動していますが、研究というのもある意味政治性から逃れることはできません。そこでミクロな政治に誠実に向き合っていくことが大事になってくると思います。
そして、もうひとつ重要なのは僕たちの意見をちゃんとわかってくれるリーダーを、スーパーの商品のように選ぶんじゃなくて、私たちで鍛えなきゃいけないということです。選ぶ、任せる、従うモデルはもうやめて、揉んで練って作り上げていくということをやっていかないといけない。
私の台湾の友人は日本の選挙投票率を見てぶったまげていました。そして、「あなたたちは私たちが血を流してゲットしたものをなんで簡単に捨てるんですか!?」というふうに言われました。我々は政治に参加できる権利を得ていることを、もっと自覚する必要があります。
鈴木 京都では市長選が2月にあったばかりでしたから、その話は身に染みて感じるものがあります...。
三島 そうですよね。でも、政治を変えていこうと思ったら、この瞬間からやっているのではすでに手遅れだと思うんです。日本の構造みたいなものに対して普段から動いていってないといけない。今回はすでにこういった事態になっていますから、なんとかして危機を長引かせない、起こってしまったことにちゃんと対応していくことが重要だと思います。
非常時と平時でいろんなことの扱いをフレキシブルに変えられるようにしなければいけません。ミシマ社でもずっと関わりのある周防大島で2018年に、タンカーが大橋に突っ込んで水道管が破裂し、40日間断水が続くという事態が発生しました。これは完全に非常時だったはずなのに、なぜか平時のルールで対応されました。そしてボランティアが給水活動に駆けつけても活動が制限されてしまい、結果的に体を悪くした住民たちが病院に殺到するという事態にまで発展しました。
鈴木 現場で何が必要とされているか見ればわかるでしょうに!
三島 1万6千人の国民が非常事態に置かれてもフレキシブルに対応できない。ミシマ社から毎年刊行している雑誌『ちゃぶ台』の去年の号では、今、日本で実際に起こっていることは実態としては無政府状態に近いんじゃないかと考え、テーマを「アナキズム特集」としました。刊行から半年経ち、今回のコロナウイルスの流行の中で、まさにそういう事態に陥っているなと感じています。そして、さっき藤原さんがおっしゃったように、まず足元で自分たちにできる政治への関わり方を探していく、運動していくということを、時間がかかってもやっていくしかないだろうなとすごく思いますね。
藤原 東日本大震災のときに、「これで変わる」「新しい時代がきた」ということを、私も何度も聞かされたし、期待しましたが、やっぱりすぐに通常に戻ってしまう。通常運転の方が慣れているのでそこに戻ってしまう。これはやっぱり日本の政治風土、「変わることへの恐怖」と言うんでしょうか。この気持ちはよくわかります。
日本列島は天変地異の列島ので、自分たち自身そのものまで変わるということに拒否反応を示すということもあるかもしれません。すでに暮らしが厳しい状況にある場合、世界が変わる方のリスクが高く感じられることもよくわかります。だから、それぞれの小さな持ち場でできる最大限のことをやるしかない。持ち場のない思考や表現はやっぱり脆弱です。私は幸い、文章を書くという仕事と学生を教えるという仕事があるので、その範囲で徹底的にやっていくしかないと思っています。
また、よく政府への異議申し立てをするとき「政治家や偉い人など本当に届くべきたちに届かない」という意見があるのですが、「直接届いて説得させること」はおそらくほとんど永遠に無理だと思うんです。そうではなくて、私の場合はですが、とにかく自分ができる限界まで書けることを書き、「無視できない状況にまでしてやれ」という思いでやっています。つまり言葉で包囲することです。読んでない人たちが「読んでないの俺たちだけだったの?」みたいな状況に持っていくこと。
自分たちができることを、できる範囲で徹底的に磨いていって、その成果を生み出していって、来たるべき変化のために準備しておくしかないです。
子どもに学ぶ、子どもと学ぶ
鈴木 今、全国的に休校が多く、うちの子どもたちもずっと家にいますが、もしこのまま1年くらい学校が再開されないこともあるかもと考えた時、私たちは子どもたちに何を伝えていけるのかということを考えるようになってきたんです。
いままでなら、学校に行っていれば読み書きや九九も覚えてきてくれるし、大人は仕事ができるしありがたかったんですが、こういう事態になって、やっぱり大人はすごく試されていると思っています。
世界中が今まであり得なかった状況に放り込まれているわけで、藤原さんがずっとおっしゃっていたように「答えがない」。
でも、だからこそ、もっと個人個人が耳を澄ませて、頭を使って考えて、自分に必要なことをどれだけ自分に引き寄せられるか。それがすごく試されているように思います。
自分の家の子どもの事だけではなく、未来を担うはずの世界中の子どもたちのことを考えなければいけない。
ちっぽけな利害関係なんて捨て去って選んでいかなければと思います。
藤原 子どもたちって、スリルを求める遊びをしますよね。ゲームの中ではたくさんの冒険をするし、たくさん人を殺したりとかするゲームもする。私たちは今、その何十倍もの危機が、現実に目の前に迫っているわけです。そう考えたときに、これほど学べる時間というのはないはずなんです。「逆に利用する」という鈴木さんのお話がありましたけれども、このことはなんとか子どもたちや若い世代の人たちに伝えたい。
もうしばらくしたら、学生たちとオンライン授業が始めるんですが、彼らに言いたいのは、「むしろこの時期に学ぶということがどれだけ大きいことか」ということです。「いままでの受験勉強で培ったことというのはけっこう役立つかもしれない」「あなたたち頼むよ!」と。ゲームよりも何万倍もスリリングな現実と向き合っていくことになるんです。それは知性が試される機会になります。パソコンの画面越しですので今までのようにできるか不安ですが、これをなんとかうまく伝えていきたいですね。
三島 これについては本当に答えがありません。大人たちにも答えがないから、子どもたちと一緒に学んでいくしかないと思っています。
藤原 子どものつくる文章っておもしろいんです。僕もやってましたけど、口述筆記なんておもしろいですよ。子どもがしゃべりながら適当につくった物語を素直に聞き取ってあげて、それをそのまま文章化して出すとですね、すごく喜ぶんですね(笑)。支離滅裂で、オチもなく、教訓も道徳もない。本当に自由。他には存在しない絵本を作ることだってできるんです。
鈴木 あはははは(笑)。なるほど!とてもいいですね。その時にしかできない貴重な記録ですね。
藤原 この危機の時代にあって、むしろ大人が学ぶべきことがたくさんあるはずです。私たちが何に対して気を使って、何の空気を読み続けているのか。さっきも空気の話がありましたけれど。子どもに学ぶチャンスじゃないかなと思っています。
三島 そうですね。それはちょっとやってみます! ミシマ社で、ミシマガスクールみたいなものをずっとやりたいと思っていたんです。去年からずっと考えていたんですが、休校ばかりの中、いまこそやろうと思います。「子どもに聞く」ということ、子どもがいろいろ作るというのをやりたいと思っていたので、うまく反映できるようにしたいと思います!
(終)
編集部からのお知らせ
MS Live!(ミシマ社ライブ)続々開催!
MS Live!とは、空間を超えて「生きた言葉」を届ける、ミシマ社主催のオンラインライブイベントです。その瞬間瞬間に生成される生命力の溢れる言葉を、待っている人のもとへ届けるという行為は、「出版活動の原点」でもあります。一期一会のライブイベントや、毎週開催する講座「今日はどんなライブをやっているんだろう」と、立ち寄る方がワクワクするような、そんな空間に育てていけたらと思っております。ぜひ、ご参加くださいませ!
日時:5月23日(土)14:00〜(開場 13:00)
開催方法:WEB会議ツール「ZOOM」を使用したオンライン配信
日時:5月24日(土)14:00〜(開場 13:00)
開催方法:WEB会議ツール「ZOOM」を使用したオンライン配信
日時:5月29日(金)19:00〜(開場 18:00)
開催方法:WEB会議ツール「ZOOM」を使用したオンライン配信