第195回
Ready to change my life!ーー『心の鎧の下ろし方』刊行記念 三砂ちづるさんインタビュー(2)
2025.06.05更新
2025年6月12日(木)、リアル書店にて『心の鎧の下ろし方』が先行発売となります。
ミシマガでおなじみのロング連載「おせっかい宣言」を元にした、3冊目の書籍。刊行にあたり、著者の三砂ちづるさんのお人柄を読者の方々にも改めて知っていただきたく、ミシマ社のスタッフたちからの質問も預かり、はるばる竹富島にうかがって収録したインタビュー、本書の紹介も交えながら、3回にわたってお届けします。本日はその2回目です。
(聞き手・構成:星野友里)
人と接するときの基本スタンスは?
――もう一つ、スタッフから、三砂先生が「他者」と関わるときの基本スタンスは何ですか? どうしてまわりの人たちにこんなにも愛情深くいられるんだろうと思います、という質問がきています。この本でも、若い人たち、子どもたちを大切にする大人でありたい、という話が出てきますが、私も近くで見ていて、たとえば学生さんたちに対する、愛情の深さや幅が、すごく大きいなと感じます。
三砂 人と接するときの基本スタンス。えっとね、今目の前にいる人のことを一番大事にする。
――その一言からたくさんのことが伝わってきますね。
三砂 私、そんなにしゃべるほうじゃないです。 1対1だとむしろ聞くほうで、聞きたい、理解したいという、 そういうことかなあ。 人間に対してもすごく好奇心が強い。家族でも、学生さんでも、今目の前の人がすべてだと、そうありたいと思っています。
三砂ちづるさん
教えるときに、大切にしてきたこと
――今回の本では、24年間の教師生活にピリオドが打った話も出てきます。教える、ということについては、どのように臨まれてきましたか?
三砂 何を教えるかが重要なんじゃなくて、自分がどうあるかということだけが重要なんだ、と思ってやっていました。教える内容は、相手、時代、教科によって変わりますから。さっきのチューブの話と似てるんですけど、自分をいい状態にして、その教えるべきことを媒介として、目の前の人とどう関わるか? という感じです。
――いろんな生徒さんがいても、自分を整えていれば、そのときにその場にいる生徒さんたちに届く言い方とか方法が、おのずから出てくるであろうという。
三砂 信じることですよね。本にも書きましたけど、その人たちが私の言葉のどこを切り取って自分の胸に刻むかは、私にはわからない。でも何かが届くと信じる。同時に、受け取っているほうにとっては、何を聞いたかじゃなくて、先生がどういう文脈で話すか、どういう雰囲気で話していたか、どういうふうに語りかけていたかということのほうが大事なんだと思っているので。
本当にどんな話がゼミや授業で拾われて学生の頭に残るか、わからない。(略)まったくどの言葉、どんな話が拾われるかわからない。しかし、そのこと自体もわたしの喜びであった、と気づくのである。
――『心の鎧の下ろし方』p94「心の鎧を下ろす」より
――染み入ります・・・自分を省みても、変にきつく言っちゃったなというときって、明らかに自分のコンディションが悪いんですよね。
三砂 そうですよね。 夫や子どもに八つ当たりしちゃったな、と後悔するようなときも、だいたい別のところで嫌なことがあった場合が多い。だから、目の前の相手を中心に動けていれば、内容がどういうことであれ、ちゃんと伝えられるんじゃないかと信じる。
家族にも学生にも、「忙しいからあとにして」という言葉は言わないようにしてきたつもり。 とくに子どもとか学生とか、自分よりも若い、立場としては弱いと思う人が、私に何か言ってくるときというのは、一生懸命言ってきてるんだから、後回しにしちゃいけない。上から言われたことは、逆に後回しにしてもいいんだけど。 ま、それもあまりしないけど。
―― それも、目の前にいる人を大事にすることですね。
目の前に来て言う人の言葉以外は気にしない
三砂 それと同時に私は、目の前に来て、「あなたがやっていることはこんなふうに間違っています」とか「こんな困ったことがあった」とか言われないかぎり、相手の反応を気にしてないところもあるんです。極楽トンボなだけなのかもしれないんですけど、相手は自分をどう思っているんだろうとか、 こんなこと言われているようだけど、どうしようとか、気にしない。
――そうなんですねぇ。
三砂 気にしないようにトレーニングしてきたところもあります。以前に自分の本がよくも悪くも話題になったときに、本をたくさん出していた友人から、インターネット(当時はSNSはまだなかったから)で書かれていることは一切読むなって言われたんですよ。ものを書いていく人は、自分の世界を守らなきゃいけないからそんなこと読んでちゃダメだ、と。すごくありがたいアドバイスでした。だから私はSNSにも参入しなかったんですよね。 今の時代からは遅れていますけれど。
周囲にいじめられるという相談も受けますけど、それはあなたが悪いんじゃなくて、その人が悪いのだから、ほっときなさいと。「あなたのことを思って」と言う人がいるけど、本当にそうなら、あなたが嫌がる言い方は、普通はしない。あなたがいじめられていると思っちゃった時点で、それは破綻しているわけだから、どうしても嫌ならその関係から逃げたらいい。
――最近、自己肯定感という言葉がよく使われますね。先生から見て「自己肯定感」ってどうですか?
三砂 単なる流行りだろうとも思いますし、いろいろな文脈で使われているのでしょう。自分自身の物差しを自分に置いている、自分の幸せは自分でつくる、というのが自己肯定感でしょうか。他の人の評価で自分の人生の価値を決めていると不安になる、ということですかね? 竹富の生活のために仕事も辞めたし、家を建てることにお金全部使ったし、持っているものをたくさん、差し出した。傍から見ると、何にもなくなった、と見えるかもしれないけど、他人にどう思われても、こんな幸せな生活があるんだって、思ってる。そう思えることが自己肯定感・・・ですかね。
(つづく)
*続編は6/12(木)に公開予定です。