第70回
ヨーロッパ企画・上田誠さんインタビュー 舞台「夜は短し歩けよ乙女」、ここだけの話
2021.06.03更新
森見登美彦さんの傑作『夜は短し歩けよ乙女』を、ヨーロッパ企画・上田誠さんが舞台化!? つ、ついに・・・。上田さんが、あの難作をどう脚本し、演出するのか? 想像つかないが、面白くなるのは間違いあるまい。そう思うといてもたってもいられなくなった。ちょうどこのタイミングで、雑誌「TRANSIT」の「京都号」(2021年6月21日(月)発売)の一部を私が担当することになっていた(特集「京都にふれる、さわる」)。その取材で上田さんにお会いするので、舞台のことも訊いてみよう!
という流れで、ヨーロッパハウスへ訪れたのは、2021年4月下旬。舞台版「夜は短し〜」の台本(第二稿)締切直前でのタイミングだった。
(取材・編集 三島邦弘)
エチュードなしの台本づくり
――「夜は短し」、進行具合はどんなものなのでしょう?
上田 舞台美術とか上がってきたんで、それに合わせたり、一稿でバーっと書いたところを丁寧に書いて行ったり、二稿の作業にかかってるところですね。稽古が明後日からなんで、いま、終盤です。
――上田さんはエチュードから脚本をつくることが多いと思いますが、今回は稽古前に役者さんに台本を配るわけですか?
上田 ヨーロッパ企画の公演なんかでは、台本は稽古の初日にはなくて、プロットや配役などだけあって、エチュードをやりながら練り上げていきます。今回は総勢21人の舞台なのであんまりエチュードが入る余地がない。
それと、原作がモノローグですからね。森見さんの作品って、なんていうんですかね、少しマジックリアリズム。事実と空想がどこまでがどう、というのが曖昧なので。たぶん実写化が一番難しいと思うんですよ。
アニメと演劇は、実は、そういう現実と空想が混じり合った世界を描くのに、一応向いている媒体だとは思います。だから、案外アニメと演劇は近いかもってちょっと思うようにしてます。というか、自分に暗示をかけてます。
(編集部註:2017年公開のアニメ版映画の脚本も上田さんが担当)
――今まさにその最中と。
上田 そうです、そうです。自分の作風でいうと、あんまり、言葉でどんどん世界を広げていくという作り方じゃない作り方で舞台を作ってきたので。具体的にいうと、僕は、演劇は空間から考えるんですけど、森見さんは言葉から考えてらっしゃるので。それをいかに空間に落とし込むか、言葉の良さをどういかに立てるかみたいなところをやってます。
――特にこの作品、この文体とリズムを味わうこと自体が悦楽で、ストーリーを楽しむことと切り離せないですよね。それを、どう舞台で実現されるか・・・?
上田 これを聴いていただくとちょっと早いかもしれません。今どういう作業を僕がしているかというと・・・
〜音楽〜
こんな感じなんです。音楽担当の伊藤忠之さんに曲をつくってもらい、声は僕が仮で乗せてます。ラップもあれば、ポエトリーリーディングにリズムがのっているやつもある。
一人の語りを、どういう感じで聞かせていくかをいろいろ考え、研究するなかで、「ラップとか音楽に乗せて語るのを混ぜてみたら」と思って、つくりました。
――すごい。つまり、ひとつの脚本を書くにあたって、その途中段階の作業工程として、これを。
上田 そうです。
(編集部註:この後、音楽を通してのアプローチについて詳しく話してくださったのですが、舞台をご覧になっての楽しみに。ということで、泣く泣く非公開といたします)
なんでもない京都の場所が聖地になるとき
――京都に引き寄せて質問したのですが、「みゅーず」「河原町四条」など固有名詞の地名が出てきますが、脚本される際、現地に行って何かを感じたりされるのですか?
上田 今までこの作品を何度かやってるから、その都度その場所に行って確認はしてます。今回は美術家さんはじめ、いろんなスタッフに共有しなきゃいけないので、現地の動画を撮って送ったりとかしましたね。「ここら辺が喫茶みゅーずがあった場所で、今こんなんです」とか。
――コロナになって様相が変わったと思いますが、影響はないですか?
上田 えっと、これがいくつかあって、森見さんが上手に書いているんです。一つは、街のことではないですが、『夜は短し〜』は春夏秋冬、季節が移る作品ですが、冬が風邪の話なんですよね。風邪をうつしていくことで人のご縁をつないでいく、という物語です。これは今のご時世では、なかなか口に出しづらい話題というか展開です。脚本家としては、そこをくぐり抜けてやる意味が今ちょうどあるかな、と。
――なるほど。それをうかがい、ますます楽しみになりました!
それと、京都に住む者としては、京都の描かれ方も気になるところです。
上田 「サマータイムマシン・ブルース」をやったとき、その当時、自分たちの拠点だった同志社大学の田辺キャンパスを舞台にしたんです。そこに物語を付与していくと、だんだん自分たちの中でそこが聖地めいてきました。森見さんはそれを、出町柳、一乗寺など京都という場所を使ってされています。なんでもないような場所が、森見さんの物語がARのように乗っかることで、そこが物語の舞台になり、聖地となっていく。それはやっぱり面白いですね。
――昨年、上田さん原作の「サマータイムマシン・ブルース」を森見さんが小説化された『四畳半タイムマシンブルース』でも、その面白味が溢れてましたよね。
上田 森見さんの書き方と全然違う書き方の、本当に真逆ぐらい違う原作舞台だと思うんですよ。僕のほうは、かなりプログラミング的に書いたので。森見さんは、一つの文章から次の文章が導き出される、という書き方ですから。でも、原作で仕込んでいたプロットを、「あ、ここは変えても、こう繋げれば成り立つんだ」と、パズル的な新しさを、僕が気づかなかったところで森見さんは実現されてます。もちろん、その中で森見さんの筆が走るところもあって。この両立がすごいです。
伸びやかに書いているように見えるのに、話が繋がっている。原作の「サマータイムマシン・ブルース」もそれがミソなんですよね。自由に青春を謳歌してると思っていたのが、実はそれが決定論に回収されていく。その感じって、最初にパワーが漲っているのが大事なんですが、森見さんはそれを見事に文章にされました。
(上田誠さん 写真:高見尊裕)
上田さん同志社大学入学のヒミツ
――京都の持っている学生文化を背景にされた作品ですが、上田さんは鴨川周辺の、どっちかというと京大生中心の学生文化圏とはちょっと違いますよね。
上田 そうです。けっこう、同志社と京大って全然違いますからね。僕もまさか、同志社に入るとは思わなかったんで。京大とか神戸大学とか、実は国立を目指してたんですよ。でも僕センター試験でやる問題間違えるっていう。ああ、今本当に思い返しても人生一番の失敗ぐらい・・・。
――そ、そーでしたか。
上田 国語一・二をやらなきゃいけないのに、国語一をやってしまって。やけにこれ簡単だなって思ってたら、違ったんですよ。で、そこで親に泣きついて。浪人は嫌だったから、急遽私学に乗り換えたんです。
――運命の分かれ道でしたね。
上田 「あ、僕同志社か、あんまり柄じゃないな」って思いながら入りました。でも結局それが、同志社の仲間と出会って、ヨーロッパ企画に発展するわけで。まあそれもまた人生なんですけど。
一方でそういう京大周辺文化に憧れもあって。憧れとともに、自分たちがハマりすぎるところもありました。実際、大学の頃、同志社のサークルから独立するのですが、その時どこでやるかとなり、結局、吉田寮で公演もしました。そういう意味でなんか引き寄せられているんですよね。
創作と創作場所の「調和のとれた」関係
――上田さんは書いている場所に影響はされますか?
上田 個人的な感覚ですが、広い場所って時間が進むのが遅い気がします。狭い場所にいるとすぐ時間たつなーって感覚がある。広い場所にいると、もちろん視野も広くなるし、時間進むのも遅くなるから、なるべく広い空間で物を考えるようにしてはいます。外気に触れながらものを書いていくときは、喫茶店がちょうどいい感じがしますね。
――喫茶店といえば、ヨーロッパ企画ファンの方々の「聖地」である「チロル」がやっぱりおすすめですか?
上田 そうですね、チロルと映画『ドロステのはてで僕ら』の舞台になったカフェパランですかね。それと、この辺りで、みんな作業したり撮影したりした後に飲みに行く、亀屋権八グループの二条本店とか。あとそうですね、三条商店街にもいろいろお店や喫茶店もあります。
――上田さんご自身の働き方というか生活も、静かだけど静かすぎず、といったこうした場所と地続きなようにも感じられます。
上田 そうですね。賑やかなエネルギーに満ちててもほしいし、静謐でもあってほしい。両方ですよね。
それこそ『夜は短し歩けよ乙女』で、「調和のとれた人生」という言葉が座右の銘のようにこの本にあります。乙女の行動は、調子外れだったりするんですけども、通して読んだら、ある調和になっている。これが絶妙なんです。インテリア雑誌やライフスタイル雑誌のような一つのトーンで揃えたら調和が出るものでもなくて、でも雑然とした生活でいいというのもまた違う。生活の中でいかにそれを、「水準を上げる」という発想ではけっしてなく、調和のとれた暮らしをする。
――平均値をいくってことでは全然ないですよね。
上田 京都のお店でもそうですね。ある一つのスタイルでピシッと揃ってるお店も当然あるけど、それよりは、ゆるいところもあるほうに惹かれるというか。
まあ、きっと、ピシッとした状態で、その長年は持たないよな、人間。とは思いますよね。
――今日は、稽古直前の大変な中、ありがとうございました!
* *「創作の空気にふれる」と題した上田さんへのインタビューは、「TRANSIT」(52号、2021年6月21日発売)に収録されます。
編集部からのお知らせ
舞台『夜は短し歩けよ乙女』、詳細はこちら!!
舞台『夜は短し歩けよ乙女』
原作:森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」(角川文庫刊)
脚本・演出:上田 誠(ヨーロッパ企画)
原作は、2006年に刊行され、「第20回山本周五郎賞」を受賞(2007年)し、累計発行部数160万部を記録している森見登美彦のベストセラー作品。京都を舞台に、後輩である「黒髪の乙女」に想いを寄せる「先輩」が、彼女の目に留まろうと日々奮闘しながら様々な騒動に巻き込まれる様を描きます。脚本・演出は、京都を中心に活動し、劇団公演は全国で2万枚超のチケットが入手困難になるほどの人気劇団「ヨーロッパ企画」代表の上田 誠が務めます。
昨年8月に森見登美彦が、自身の小説「四畳半神話大系」(角川文庫)と、劇団ヨーロッパ企画の代表作、舞台『サマータイムマシン・ブルース』のコラボ作品「四畳半タイムマシーンブルース」(KADOKAWA)を刊行したことに対してのアンサーとして、上田氏の脚本・演出にて『夜は短し歩けよ乙女』を舞台化し、上演いたします!
<キャスト>
中村壱太郎・久保史緒里(乃木坂46)
玉置玲央・白石隼也・藤谷理子・早織
石田剛太・酒井善史・角田貴志・土佐和成・池浦さだ夢・金丸慎太郎・日下七海・納谷真大
鈴木砂羽
尾上寛之・藤松祥子・中村 光・山口森広・町田マリー
竹中直人
<公演日程>
■東京公演 6/6(日)~6/22(火)
会場:新国立劇場 中劇場 東京都渋谷区本町1丁目1番1号
■大阪公演 6/26(土)~6/27(日)
会場:クールジャパンパーク大阪 WW ホール 大阪市中央区大阪城3番6号
<チケット情報>
チケット料金(全席指定・税込): 9,800 円
ぴあ/イープラス/ローソンチケット ほか各プレイガイドにて販売