『うしろめたさの人類学』を読んでみよう(1)

第6回

『うしろめたさの人類学』を読んでみよう(1)

2018.11.03更新

 こんにちは、京都オフィスの野崎です。突然ですが、今日はミシマガ読者のみなさんにとにかく早く伝えたい、大ニュースがあるんです! それは・・・

 ミシマ社より2017年10月に刊行された『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎著)が第72回毎日出版文化賞特別賞を受賞しました!!

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『うしろめたさの人類学』松村圭一郎(ミシマ社)

 毎日出版文化賞とは、毎日新聞社が主催する賞で、毎年11月に受賞者が発表されています。文学・芸術部門、人文・社会部門、自然科学部門、企画部門の4部門からなる本賞と特別賞があり、特別賞は「広く読者に支持され、出版文化の向上に貢献した出版物」に対して贈られます。今回この映えある賞に『うしろめたさの人類学』が選ばれました!(詳細は、本日11月3日(土)付の毎日新聞にて発表されています。)

 この賞の受賞を記念して、ミシマガでは今日から2日間にわたって、『うしろめたさの人類学』を特集します。まずは、どこよりも早く著者の松村圭一郎さんからの受賞コメントを掲載します。

受賞に際して

 歴史ある賞をいただくことになり、予想外のことに戸惑いつつ、とても光栄に思っています。とくに、この「特別賞」が「広く読者に支持され、出版文化の向上に貢献した出版物」に贈られることに、よろこびを感じています。出版から1年以上たちますが、多くの方の思いが結集して本というかたちで世に出たことの重さを、日々、実感してきたからです。

 『うしろめたさの人類学』という本が誕生するきっかけは、いまから12年前、2006年10月のミシマ社設立までさかのぼります。大学時代の親友だった三島邦弘さんがひとりで出版社を立ち上げたとき、私は博士課程を終えて、研究者の卵として歩み出したばかりでした。

 そのとき以来、彼が担当編集者になりミシマ社から本を出すことが、二人の夢になりました。もちろん当時は、いつ実現するともわからない、漠然とした夢でしかなかったわけですが。

 それでも、ミシマ社のウェブ雑誌には、ずっと何かを書き続けてきました。いまは、おそらく誰も覚えていない『KYOTO的』というミシマ社最初の(幻の?)ウェブ雑誌がありました。そこに2006年10月(ミシマ社設立月!)から2009年6月まで「エチオピア的」という文章を書きました。

 その連載を終えた直後、今度はデザインを一新した『平日開店 ミシマガジン』(現『みんなのミシマガジン』の旧バージョン)で、2009年7月から2013年3月まで「<構築>人類学入門」を連載しました。これが『うしろめたさの人類学』のもとになっています。

 長いこと書いていたにもかかわらず、連載当時は、ほとんど何の反響もありませんでした。おおまかには、本と同じような内容です。しかもインターネットで無料で誰もが自由に読める。それでも、誰かに届いている感覚はまったくなかったのです。

 本を手にとって読んでいただいた読者の方からは、よく「タイトルがとても気になって」とか、「このきれいな色の装丁に惹かれました」と声をかけていただきます。いずれも私が考えたわけではありません。タイトルはミシマ社の会議で決まったもので、装丁と本全体のデザインは、SOUP DESIGN(現BOOTLEG)の尾原史和さんの作品です。帯にある山極壽一さんの力強い推薦文に背中を押されて買っていただいた方も多いと思います。

 「各章のあいだのエチオピアの日記がおもしろかった」と言っていただくこともあります。これもいまから3年前、出版に向けて最初の草稿を書き上げたあと、三島さんに「あいだに何か違う文体のものを入れてほしい」と言われたことがきっかけでした(「日記」にたどりつくまで1年かかりましたが)。

 本は、書き手の文章があれば、出版できるわけではありません。とくに私のように無名の書き手では、とくにそうかもしれません。モノとしての本をつくるには、タイトルから装丁、レイアウトやデザイン、校正、印刷、製本など、さまざまな人のアイディアと尽力が欠かせません。

 そして出版されたあとも、営業の方の努力や、本を棚に置いてくださる書店員さんたち、推薦者や書評者をはじめ、読んでくださった方々の思いがつながって、はじめて多くの読者に届くものになっていきます。それらがネットでの連載にはなかったのです。
 
 今回の特別賞がとてもうれしいのは、この「出版物」としての本づくりの価値を認めていただいたからです。ネットやSNSを通じて誰もが文章を書き、表現できる時代にあっても、「本」にはまだ多くの人に何かを伝えられる豊かな可能性がある。そのことを再確認できました。

 たくさんの人が一冊の本づくりに関わるなかで、その出版物は、文章のつらなりをこえた価値を生み出すことができる。その意義を認めることは、ミシマ社の設立の言葉にある「一冊の力を信じること」そのものだと思います。

 この賞は「私」に与えられるものではありません。授賞式には私が呼ばれますが、本をつくって届けることに関わってくださったすべてのみなさまを代表して授賞式に出るつもりでいます。

2018年11月3日 松村圭一郎

 この本について、そして著者の松村さんについてもっと知りたい、という方は『うしろめたさの人類学』発刊直後に松村圭一郎さんが寄稿くださった「『うしろめたさの人類学』を書いて」をぜひお読みください。

記事を読みにいく

 また、明日のミシマガでは「旧みんなのミシマガジン」にて2017年10月24日に掲載した、藤原辰史さんと松村圭一郎さんの対談記事が復活します。こちらもぜひお楽しみに!

うしろめたさの人類学
松村圭一郎(著)
定価:1,700円+税
判型:四六判並製
頁数:192頁
装丁:尾原史和
発刊:2017年9月16日
ISBN:978-4-903908-98-4 0095

目次
はじめに
第一章 経済――「商品」と「贈り物」を分けるもの
第二章 感情――「なに/だれ」が感じさせているのか?
第三章 関係――「社会」をつくりだす 「社会」と「世界」をつなぐもの
第四章 国家――国境で囲まれた場所と「わたし」の身体
第五章 市場――自由と独占のはざまで
第六章 援助――奇妙な贈与とそのねじれ
終 章 公平――すでに手にしているものを道具にして
おわりに 「はみだし」の力

世の中どこかおかしい。なんだか窮屈だ。そう感じる人は多いと思う。でも、どうしたらなにかが変わるのか、どこから手をつけたらいいのか、さっぱりわからない。国家とか、市場とか、巨大なシステムを前に、ただ立ちつくすしかないのか。(略)この本では、ぼくらの生きる世界がどうやって成り立っているのか、その見取り図を描きながら、その「もやもや」に向き合ってみようと思う。
――「はじめに」より

松村圭一郎(まつむら・けいいちろう)
1975年、熊本生まれ。京都大学総合人間学部卒。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。岡山大学大学院社会文化科学研究科/岡山大学文学部准教授。専門は文化人類学。エチオピアの農村や中東の都市でフィールドワークを続け、富の所有や分配、貧困と開発援助、海外出稼ぎなどについて研究。著書に『所有と分配の人類学』(世界思想社)、『文化人類学 ブックガイドシリーズ基本の30冊』(人文書院)がある。

編集部からのお知らせ

【11/7】ちゃぶ台Vol.4発刊記念 トークイベント 
出演:松村圭一郎×三島邦弘

『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)の著者でもあり、『ちゃぶ台Vol.4』には「人間の経済 商業の経済」をご寄稿くださった松村圭一郎さんをお招きして、編集長三島邦弘との対談イベントが実現します。

■タイトル:人間の経済をとりもどす!

■内容:『うしろめたさの人類学』でいきづまる世界に「スキマ」を空けた松村さん。年一度刊行の雑誌「ちゃぶ台」で、すでに始まっている未来の種をレポートする三島さん。ふたりが共通して求めるものに、「人間の経済」があります。「人間の経済 商品の経済」を『ちゃぶ台Vol.4』に寄稿した松村さんの考え、そして意図とは? 三島さんが雑誌づくり、出版社運営を通してめざす「経済」とは? 無二の親友でもある二人がこの日、ぞんぶんに語り合います。また、「ミニブックトーク」の時間を設け、「人間の経済」を取り戻すために必読といえる本も紹介してもらう予定です。

■開催日:2018年11月7日(水)
■場所:恵文社一乗寺店
〒606-8184京都市左京区一乗寺払殿町10

詳しくはこちら


【11/23】ちゃぶ台Vol.4発刊記念 トークイベント 
出演:松村圭一郎×三島邦弘

さらに岡山でも、松村圭一郎さんとミシマ社代表三島邦弘による対談イベントが開催決定!

■タイトル:もういちど「近代」を考える:次の『ちゃぶ台』Vol.5はどうなるの?

■内容:雑誌『ちゃぶ台』で、つねに時代の流れのその先を見つめてきたミシマ社代表の三島邦弘さん。今春、スロウな本屋で日本の近代を問いなおした石牟礼道子作品の寺子屋をはじめた松村圭一郎さん。
 20年来の旧知の仲であるお二人が、いまあらためて「近代(菌代?)」について語り合います。『ちゃぶ台 Vol.4「発酵×経済」号』が発刊されたばかりですが、お二人の目は、もう次の Vol.5 で何を世に問うかに向けられています。さて、お二人は「近代」という時代をどう乗り越えようとしているのか? 岡山の地で、はじめてその先の話があきらかに!

■開催日:2018年11月23日(金)
■場所:スロウな本屋
〒700-0807 岡山県岡山市北区南方2-9-7

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