第45回
『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』刊行記念特集 まえがきを公開します。
2020.05.23更新
本日、三砂ちづるさんの著書『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』が発売になります。
『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』三砂ちづる(ミシマ社)
昨今、何が起こっているのか、これからどうなるのか、誰にもはっきりとはわからない状況が続いています。そして今後も、そんな時間が続きそうです。
情報を追いかけることもある程度必要ですが、そればかりしていてもキリがなく、自分で考えること、自分で感じること、が今までにも増して大切になっていると感じます。
そのために、なにか、日々の暮らしの拠り所となる思想がほしい。
でも、ある立場に固執して敵をつくって攻撃したり、正しさをふりかざしたりはしたくない。
本書は、自分の中にしなやかでタフな思想を育てるための入口になってくれる、そんな一冊になったのではないかと感じています。
生きていると、矛盾も不条理もたくさんあるし、自分を守り育ててくれるはずの親が間違うこともあるし、そして自分もたくさんの間違いをおかしてしまう。
そんな中で、どう許し、許されて、他人とともに同じ時代を生きる喜びを、愛でていくのか。
そのヒントが詰まっています。ぜひお手に取ってみていただけたら嬉しいです。
本書の雰囲気を知っていただくため、『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』のまえがき全文を公開します。
まえがき
「魔がさした」という言い方をすることがあるんだけど、「魔」ってなんだろう。
本当はこう生きていたいのに、本当はこんなに愛していたいのに、本当はこんなつまらないことは忘れていたいのに、本当はこんなことこだわっていないで許していたいのに。
魔がさすのだ、魔が。
「魔の正体は、自己憐憫と罪悪感です」、今となってはいったいどこからこの言葉を覚えたのか、何かで読んだのか、誰かに聞いたのか、なんだかよく思い出すことができないのだが、魔の正体は自己憐憫と罪悪感である。
わたしってどうせだめなんだから、どうせわたしなんか・・・これが、自己憐憫。 なにかわるいことしちゃったんじゃないだろうか、いや、ぜったいわたしがわるい ことをしてしまった、わたしがわるい、わたしのせいだ、わたしの存在がよろしくない・・・これが罪悪感。
闘わなければならないことって本当にそれだけなんじゃないかと思う。自己憐憫と罪悪感。
生まれてきただけで完璧な存在で、世界に愛されていて、この世に受け止められていて、ここにいていいのだ。人間はみんなそう思って生まれてきて、そう思って育ってゆくことができるような存在のはずなのだけれど、あなたもわたしもいろいろな欠点があるように、あなたとわたしが生まれてきたとき周囲にいた人も欠点だらけだったために、また、生きているこの時代と世界が、けっこう、それなりにめんどくさかったりするために、シンプルに、生まれてきた自分は、この世界に全幅の信頼を置けなくなっちゃったりしているのである。
誰のせいでもない。誰を責めることもできない。
そんなふうに素直に育てなかったことに対して、親に文句言ってみたい気持ちはおありかとも思うのだけれど、自分が欠点だらけの人間であるのと同じくらい、自分の親もまちがいだらけで欠点だらけのただの男と女だったから、なんだかいろんなことをまちがっちゃったりもしたのである。もとより生まれてきた時代と世界を責めるわけにもいかぬ。それはまあ、所与の条件だから。
それでもこの自己憐憫と罪悪感、という「魔」とは、それを「魔」だと意識すれば闘うことができる。
わたしを先生と呼ぶ若い友人(女子大の先生だから、けっこう、先生と呼ばれる)が「先生! 自己憐憫と罪悪感が諸悪の根源でしたよね!」と言うので、いやいや、諸悪の根源、ってそれは言いすぎですよ、それほどのものじゃない。自己憐憫と罪悪感が魔の正体だって言ったのよ。何が違うんですか、って言われたらうまく答えられない気がしたのだけれど、そのあたりは、この本を読んでいただければひょっとしたらわかるかもしれません。
「自分と他人の許し方、あるいは愛し方」の世界へ、ようこそ。
明日は、内田樹先生をゲストにお迎えして、「自分と他人の許し方」をテーマに、三砂ちづる先生とのオンライン対談イベントも開催します。下記に詳細をご案内しておりますので、ご興味のある方は、奮ってご参加くださいませ。
編集部からのお知らせ
『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』への熱い声を大特集!
『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』への熱いご感想を、たくさんの書店員さんや読者の方々からいただいています! こちらの記事で、その一部をご紹介しているので、ぜひお読みください!
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