第29回
映画『最初の晩餐』公開記念:常盤司郎監督インタビュー
2019.11.01更新
ある日、ブックディレクターの幅允孝さんから一本の電話をいただきました。
「すごく、いい映画があるんです」
そんなご連絡をいただいたのは、今回が初めてのこと。
それは観てみたい、ということで、早速、監督の常盤司郎さんとつないでいただき、映画を観させていただきました。
映画の概要は公式サイト等でご覧いただくとして、観終わった静かな感動のなかで、初めての長編映画として本作を監督した常盤さんに、お話をうかがってみたいと思ったのでした。
今日は、そのインタビューの内容をお送りします。
(聞き手:星野友里、構成:工藤奈津子)
ステップファミリーを描く
―― この映画がつくられるきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
常盤監督 じつは、この脚本の元になっている映画があって、『クレイフィッシュ』という10分ぐらいのドキュメンタリー風の短編映画なんです。自分の親父がガンとわかったときに、カメラを回し始めました。今回の映画はエンターテイメント作品ですが、親父のお葬式のときの想いが元になっているので、その短編の姉妹版というか、その後、みたいなものですね。
プロデューサーは女性の方で、この映画の構想がスタートしたころが、離婚してちょっとしたときだったそうなんですね。それで、プロデューサーとしての1作目にステップファミリー、つまり、再婚同士の家族の話をやりたいと。で、監督は誰かと考えたときに、ふと浮かんできたのが僕の顔で、声を掛けてもらい、やろうよということになって。
だから最初は「ステップファミリー」というテーマがあっただけで、そこから自分の話を書き始めていった感じです。僕自身はステップファミリーではないんですけど、ここに描かれている、例えば「焼き芋の爆発」とか「目玉焼き」の話は、自分が体験したことです。
―― 映画が完成するまでに、7年の年月がかかっているとうかがいました。
常盤監督 僕にとっては、本作が長編映画の監督デビューだったので、前作の実績がないわけです。なので、武器は完全に脚本だけなんですね。最初の一年とかはただ書いている時期というのがあって。そこから染谷将太くん(主演)がグッと乗ってくれたりしたのは、やっぱり脚本の力だったんじゃないかと思います。そしてその脚本に、この5人のメインキャスト(染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏)も、スタッフも、プロデューサー陣も、委員会の皆さんも集まってくださいました。
―― この5人が食卓を囲む絵面には、不思議なインパクトがありました。
常盤監督 もともと自主的に制作を始めた企画なので、妥協も一切しなかったですし、それはスタッフもキャストも全員同じ気持ちで、純粋にこの脚本に出たいと言って集まってくれた方々です。戸田さんも、主にドラマや大きな映画で活躍されている方なのですが、中小規模でも良質な作品をやりたいということで決めてくれたんだと思います。窪塚くんも、最近は海外がベースになっていますし、本当に5人が5人、主役を張られる方々ですので。だからこそ、ばらばらのところから集まってきた感じが化学反応を起こす。それがステップファミリーという設定にピッタリはまった気がしています。
「家族になる瞬間」の映画
常盤監督 星野さんはどのシーンが好きでしたか?
―― 麟太郎さん(染谷さん演じる主人公)の、仕事も恋人との関係も、いろいろなことが噛み合わなくて苛立っているような場面が印象に残っています。
常盤監督 この映画は見た人によって感想が全然違うんですね。女性なのに麟太郎のほうの目線で見てたりとか、男性なのに女性のほうに感情移入したりとか、誰にも感情移入はしなかったりとか。それで、これはもしかしたら特定の人物に感情移入しなくてもいい映画なんじゃないかと思ったんですね。つまり「東家」という家族そのものに感情移入すればいいのかなと。
ある記者さんが言っていたのですが、どうもこの映画は、どこかで自分の家族のスイッチを入れざるを得ないそうなんですね。家族の記憶を思い出さざるを得ないというか、映画にそういうスパイスをかけながら見てしまうという。
―― 確かにそんな感覚はありました。監督にとっても、長編映画の最初の作品のテーマが家族ということは、創作をするうえで、そこに思いがあるのでしょうか?
常盤監督 確かに、これまでの作品は短編を含めて、家族が絡んでいるものが多いですね。どちらかというと、たまたまそういうふうになっちゃうなという感覚ですかね。次回作では、そろそろ家族は卒業かなという気がしているんですけど。
何なんでしょう、もしかするとどこかに、心残りがあるんじゃないでしょうか? たぶん満たされていたら脚本も書けないと思うので、満たされないものがあるのかもしれないですね。別に仲の悪い家族ではなかったですけど、それはもしかしたら父とのあいだに、後悔や、やり残したことが無意識にあるのかもしれない。
僕はテーマを決め込みすぎずに書くので、筆をおいたとき、初めて大事なテーマに気づくことが多いんです。今回はおはぎのシーン(ラストに近い場面)を書いたとき、「ああ、家族になる瞬間を見たかったのかもしれないな」と思って。別れの映画とか喧嘩する映画とか、出会う瞬間を書いた映画っていろいろあるけど、でも家族が、家族になる瞬間を描いた映画って、僕は見たことなかったなと思って。
―― そうですね。その「家族になる瞬間」が、お通夜という、死をきっかけに描かれるというのもまた、家族ってそういうものなのかもしれないと思わされました。
映画を撮っているところ以外での演出のはなし
―― 子ども時代を演じる役者さんたちもすごく素敵で、大人になってからのシーンとのつながりも、全く違和感がありませんでした。
常盤監督 これは実は、映画を撮っていないところでの演出もありました。楽駆くん(窪塚さん演じるシュンの子ども時代を演じた)は、本来は全然、窪塚くんっぽい人ではない。だから、例えば撮影現場でみんなのところに来ようとすると、「一人になっていたほうがいいんじゃないかな?」と言って、あえて他の俳優部と距離をとらせて孤独な役柄をつくらせていました。
美也子(戸田さんの役)の子ども時代を演じる森七菜さんだけに、楽駆くんと初めて会う衣装合わせのときに「彼に話しかけないようにしてほしい」と言って。楽駆くんは何も知らないから「なんか機嫌が・・・機嫌が悪いみたいです彼女」って。彼が自然に孤独にならざるを得ない状況をつくっていましたね。
―― 孤独感、すごく出てましたね・・・。他にはどんな演出をされましたか?
常盤監督 他には、七菜さんが小学生の役を演じていたのですが、やはりすごく難しいわけです。そこで、事務所にお願いして、彼女が小学生だったころのビデオとかを取り寄せてもらって。それを2人で見ながら「こういうしゃべり方をしてるね」と全部研究するというのをやりましたね。あと、実際の小学校の周りを2人で歩いたりとか。ランドセルを背負ってみたりとか。だから教室のシーンで、周りの子供たちに「彼女何歳に見える」と聞いたら「え、同じ歳でしょ」って言ったときには、「よし!」って。(笑)
―― そんなふうにするんですね。
常盤監督 あとは、台本をみんなで読み合わせする「本読み」というのがあるのですが、それが「はじめまして」という顔合わせでもあるんですね。窪塚くんは、永瀬さんや染谷くんとは、昔共演したことがあるから、初めてではないんですけど、それでも久しぶりなわけです。だけど、「今回は、別室で監督と2人でやっていいですか」と言ってくれて、別室で2人で本読みして、そのまま何も言わずに帰っていったんです。それは現場で、映画の15年ぶりという設定のなかで、役として会いたいから、ということで。そういうことを各々やってくれていて。
―― 役者さんからの演出の提案もあったんですね。
常盤監督 そうですね。窪塚くんはやはり、あの玄関を開けるシーンに賭けてたと思う。実際、彼じゃないとあり得ないような空気を放ってましたしね。観ているお客さんはハッとさせられるんじゃないでしょうか。
―― 映画を観ていない方たちにも、これくらいのネタバレは許されるかなと思います。このインタビューで気になった皆さま、ぜひ劇場に足をお運びいただけたらと思います。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
常盤司郎
福岡県生まれ。映画、CM、ミュージックビデオの監督・脚本をはじめ、サザンオールスターズ初のドキュメントムービー「FILM KILLERSTREET(Director's Cut)」(06)など様々な分野で活躍。実の父との関係を綴った短編映画『クレイフィッシュ』(10)がShort Shorts Film Festivalで最優秀賞と観客賞を開催初のダブル受賞し、国内外の映画祭で高く評価される。続く短編映画『皆既日食の午後に』(11)では世界10カ国以上の国際映画祭に正式招待。また河瀨直美監督らと競作した「CINEMA FIGHTERS PROJECT」(17)では、手がけた短編映画『終着の場所』が大きな話題に。本作が劇場長編映画デビュー作となる。