第154回
【お盆に読みたい!】内田樹×釈徹宗「今年のお盆の迎え方〜 日本宗教のクセを生かして」
2023.08.12更新
こんにちは。ミシマガ編集部です。
内田樹さん・釈徹宗さんの『日本宗教のクセ』の発売から1週間、大きな反響をいただいています。
発売翌日の8月5日、本書の発刊を記念した内田先生と釈先生の対談イベント「今年のお盆の迎え方〜 日本宗教のクセを生かして」を開催しました。
差し掛かっているお盆の時期。お墓参りや迎え火など、宗教に触れる機会があったりや死者の世界に思いを馳せたりと、普段より目に見えないものに接近する日々を過ごされる方も多いかと思います。
お盆の時期を豊かに過ごすには? そしてそもそもお盆とは何か? なぜこの時期なのか? など、ぜひ今届けたいお話が次々に飛び出しました。
そんな対談の冒頭部分をお届けします。
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花火を見ている人もじつは・・・・
釈 やっぱりお盆といえば、先人に思いを馳せる日ということになりますよね。「お盆の迎え方」が今日のテーマではあるんですが、お話を総論的にするのは難しいんですよ。というのは、お盆というのはずいぶん地域によって様式も違えば、お作法も違いますし、ストーリーも違いますし、また宗派や宗教も違うので、ひとくくりに「こういうふうに過ごすのが正しいお盆ですよ」という語り方は難しい。
内田 そうですよね。日本人の場合って神仏習合的宗教性なので、神社の夏祭りっていうのも何となくお盆っぽい。こないだ大阪で天神祭がようやく4年ぶりに復活したので、我々も供奉したんですけど、夏祭りのメインの趣旨というのは、疫病退散を祈願するっていうんですかね。僕の中では仏教的なお盆と、わりとオーバーラップしていて。あそこに花火を見に来ている人たちというのも、意識としては何となくある種の日本の伝統的宗教儀礼にちょっといっちょかみしてる、そういう気持ちでいらしているのではないかしら。
釈 なるほど。確かにお盆はずいぶんいろんなものが混交して出来上がっているので。夏祭りといえば疫病退散。かつては感染症が夏にすごく流行ったのでそれを恐れて始まったと言われているんですが、やっぱりあれですよ、「神様仏様ご先祖様」みたいな括りで。
内田 まるっと一つのカテゴリーになってしまう(笑)。
釈 そうやって括っているのが日本のお盆ですね。
お盆はインドの雨季からはじまった?
内田 お盆ってもしかして、日本固有ですか?
釈 お盆自体はわりと汎人類的なところもありますよ。
内田 ほう。
釈 日本のお盆は、なかなかややこしいんですが、一つは大変有名な仏教起源説ですね。
インドからずっと中国、日本と渡ってきた。この時期、インドは雨季ですので、お坊さんが外に出歩いて修行をしない。精舎に集まって、いろいろ学問的な修行をしたりして、安居(あんご)というんですけど。その安居の最後の日を自恣(じし)というんです。その日にお坊さんに食べ物を供養したりすると、亡くなった人の追善供養になるという信仰があって。それでこの時にお坊さんに来てもらってお経をあげてもらって、いろいろなお供えをするっていうのが仏教ルートのお盆なんですよ。
内田 だいたいいつ頃ですか?
釈 複数のパターンがあるのですが、7月の15日あたりだそうです。
内田 天神祭りが7月25日ですから10日違いですね。
釈 今もこの時期にお盆をやっているのが関東地方とか。大体7月の13〜15日ぐらい。
内田 7月のお盆と8月のお盆があるんですね。
釈 そうなんです。旧暦の7月15日あたりは新暦だと8月半ばになっちゃう。日付のほうを守ってるのが7月のお盆で、時期を守ってるのが8月のほう。でも元々お盆って旧暦なので動くんですよね。だから7月から9月ぐらいまで毎年毎年動く。
内田 移動祝祭日ですね。
釈 そうです(笑)。かつての暦だとそういうふうになるんですけど、何となく旧暦と新暦をミックスして、二つに落ち着いているわけです。お中元の季節の中元、これが7月1日から15日です。この中元のときに、先祖供養をするという道教由来の・・・
内田 それは道教なんですか?
釈 道教なんですよ。それが混じってる。儒教の先祖供養も混じってる。というのが、日本のお盆のおおよそなんですけど。
内田 全部入ってるんですね。
お正月の正体
釈 そもそも、夏至とか冬至とかに・・・、
内田 人類は必ず祭事をする。
釈 そうなんです(笑)。冬至で言うとハロウィンも冬至ですし、夏至とか冬至にはこの世界の秩序が揺らぐと古代人は考えていまして。だからこの時期には死者と生者の境界が下がる。そうすると行き来が始まっちゃう。このときは宗教儀礼を行う。
内田 境界線を守らなきゃいけない。
釈 はい。これが、どうも東アジアの場合はお盆になり、冬至のほうは、ずれてお正月なったんじゃないかっていう。
内田 お正月! お正月って宗教儀礼なんですか?
釈 はい、日本の場合は年神がやってきて、歓待して、機嫌よく帰っていただく。
内田 年神っていうのはなんでございますか?
釈 新しい年を運んでくる神様。
内田 図像的にはどんな感じなのですか?
釈 男性神で表現されたりもしますが、もともと図像はないんですよ。古い信仰の中で造形されずにやってきた。神様の場所を用意しないといけないので、鏡餅を神様の依代に。
内田 あっ、鏡餅ってのは神様の依代なんですか。
釈 そうなんです。そしてうちはここですっていう印のために、門松を。
内田 あっ、毎年置いておきながら、門松が何のためにあるのか今初めて知りました(笑)。
釈 年神様をきちんとお迎えして、ご機嫌で1月15日に送り出す。それが終わったら門松や注連縄などをみんなで燃やす。
内田 年神様は15日間滞在される?
釈 そうです。
内田 でも、うち7日ぐらいに鏡開きといって鏡餅を叩き割ってしまっている。
釈 それは別に大丈夫です(笑)。でも15日までは松の内という言い方をして。
内田 松の内って15日なんですか。先生、もしかしたら松の内というのは年神様が門松の内側にいるからですか?
釈 ええ、そう考えてもよいと思います。あるいは、門松などを飾っておく期間が松の内。
内田 全然知らなかった。
釈 夏至がお盆の源流とすれば、お盆はかなり汎人類的だと言えるでしょう。人類全般的にだいたい夏至に宗教儀礼を営むという、そういうわりと壮大な話です。
(おわり)
*両先生のお話をもっと読みたい!という方へ。
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