第68回
『時代劇聖地巡礼』の聖地巡礼その①
2021.05.06更新
こんにちは。ミシマ社京都オフィスです。4月20日に春日太一さんの『時代劇聖地巡礼』が発刊しました。時代劇といえば、その舞台のほとんどは「江戸」です。しかし現在の東京で、江戸時代を感じさせる場所を探すのは難しい。そんなわけで、実は野外で撮影するとき、そのロケ地の多くは京都と滋賀なんだそう。えー!
本書はでそんな時代劇の「聖地」41カ所を、美しい写真と共に巡ります。
前回このコーナーでは、著者の春日太一さんに本書の魅力をたっぷり語っていただきました。読んでいただければわかるのですが、とにかく春日さんの時代劇愛がアツい!それは本書でも健在で、ご本人曰く「はしゃいでる春日太一」を見て(読んで)いると「時代劇、なんかおもしろそう」という気持ちになってきます。また、本書に収録されているロケ地の写真が本当に素晴らしいんです。とくに京都オフィスメンバーにとっては、「ここもここもオフィスの近く・・・え、身近な場所があんなに絶景なの?!」と驚きの連続でした。
時代劇にはまったく詳しくないのに、すっかり影響されてしまった我々。『時代劇聖地巡礼』を片手に、実際にいくつかのロケ地に行ってきました。遠出は難しい状況ですが、少しでも旅気分を味わっていただけたらうれしいです!
編集部注)この聖地巡礼は、緊急事態宣言発令前の2021年4月15日に行われました。
<今回行ってみたメンバー>
アライ:時代小説は読むが、時代劇は両手で足りるほどしか観ていない。
ハセガワ:小学生のとき、おばあちゃんにつき合って何回か『暴れん坊将軍』を観たことがある。
タブチ:実家の近くに吉良邸跡があったり、少しだけ時代劇に馴染みがあるが、まだ通しで観たことがない。
東福寺
まずハセガワ・アライのコンビで向かったのは、本書P.115〜に登場する東福寺。いわずとしれた観光地であり紅葉の名所として有名ですが、時代劇にも多数登場する寺院なのです。
京阪・東福寺駅を降りて南へ。10分ほど歩きます。中門をくぐるともみじが新緑をつけて並んでいて、ふたりで「この季節に来るのも気持ちがいいですね〜」とさっそく遠足気分を満喫。そして見えてきたのが、三門と本堂です。
ハセガワ「あれ、これってもしかして、本堂・・・?」
アライ「うわ、そうですよ!これこのP.115の写真の角度じゃないですか?」
と、『時代劇聖地巡礼』を片手にワイワイしながらパシャリ。左が本堂、奥が三門です(東福寺さんから許可を得て、写真を掲載しております)。
ここの大きな特徴は、まずなんといっても巨大な三門と本堂です。しかも、互いの距離が近い。そのため、巨大な山門は他にもあるものの、門の間から本堂の壮麗な屋根が見えるーーというアングルはここでしか撮れず、その迫力ある構図を利した重厚感ある画が欲しいときに使われています。(P.115)
ハセガワ「門の間から本堂の屋根・・・こういう感じかな・・・」
む、むずかしい。こうして真似をして撮っていると、カメラマンのすごさも実感します。
次は、境内を流れる川にかかる橋「通天橋」へ。外観は『鬼平犯科帳』のエンディングのひとつにもなっています。この橋がなんともまぁ壮大で絶景で、二人で大興奮。
アライ「うーーーわーーーーーめっちゃ綺麗」
ハセガワ「これはすごいですね、ほんと。ここで撮りたい気持ち、わかる」
アライ「ここでこのシーンは撮ろうというふうに組み合わせていく技術って、ほんとすごいですね...」
そんなことを話しながら、回廊になっている橋の内部へ進みます。
どーん。
(※人が少なかったのでこんなふうに撮れましたが、撮影時はまわりの方へのご配慮をお願いいたします。)
この回廊を望遠で撮ると、木々が間を置かずに詰まっているように映り、格子を幾重にも重ねた壁のように見えるので画面に異様な迫力がもたらされます。(P.118)
今回わたしたちは望遠レンズを持ってくるのを忘れてしまったのですが、ふつうのレンズで撮るとこんな感じ。映画『大奥』(2006年)や、映画『大殺陣』(1964年)などで使われています。
写真映えがすっっごい。「これは・・・映えますね」「映えですね」と二人でブツブツ。しばしぼーっとして橋に吹く風を楽しみました。余裕で半日は居られそうな、優雅でゆったりとした時間が流れる空間でした。名残惜しく感じながらも、次は書院へ向かいます。
ここは縁側の幅が広い方丈で、庭は侘びた風情の石庭になっています。そのため、基本的には武家屋敷や寺院の書影、それから「大奥」もの等での江戸城本丸として使われるのですが、珍しいケースだったのが、映画『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994年)でした。
ここではなんと、この方丈を「江戸城松の廊下」に見立て、浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけるシーンを撮っているのです。(P.116)
なんと、ここで忠臣蔵が! ということで、ハセガワが吉良上野介、アライが浅野内匠頭をやってみました。エア刀です。
これは着物を着ていたらもっとサマになるものなのでしょうか?
本を見ながら「こういう構図ですかね?」「いや、こうじゃない?」とさぐる工程が楽しい!きっと時代劇ファンの方ならより「あの映画のシーン!」と興奮されることでしょう。時代劇を観てからもう一度来ようと決意。
偶然居合わせた方に写真撮影をお願いしました、ありがとうございました! 「私たち出版社で働いてて、今度この本が出るんです」と『時代劇聖地巡礼』もちゃっかり宣伝(ご本人の許可を得て掲載しています)。
見所たっぷりな東福寺。もう一度来たい!としみじみと思いました。
さて次は滋賀・八幡堀へゴー!
八幡堀
子どものお迎えに行ったアライと別れ、ハセガワは滋賀へ移動します。守山駅で営業・タブチと合流し、滋賀の町の本屋さん「本のがんこ堂」のタナカ社長と待ち合わせです。
この日は社長自ら運転して、お迎えに来てくださいました。車中ではこの本について、熱い議論に。
社長「この本売れんの?」
タブチ「売れます!」
社長「どういうとこが? ちょっとゆうてみ」
タブチ「実は時代劇のロケ地の大半は、京都と滋賀なんですよ!」
社長「ワシらからしたらこのへんで時代劇撮ってること、みんな知ってるしな」
ハセガワ「でも意外と自分では行ったことないですよね?」
社長「別に行こうと思わんし」
・・・めげずにこの本の面白さをアピールしつつ、一行は八幡堀に到著〜!
『鬼平犯科帳』のキービジュアルは、この八幡堀になります。石垣で護岸された堀割と、そこにかかる石の橋。そして、疎水のほとりにつくられた石畳の道。その岸辺に立ち並ぶ昔ながらの民家や蔵の数々。安土桃山時代から守りつくられてきたこの景観は、池波の描く「水路の張り巡らされた都市としての江戸」そのものといえます。(p172)
社長「おー、キレイやな〜」
タブチ「社長、写真撮りましょう!」
ここに来たらまずオススメしたいのは、岸の石畳の道を平蔵*気分で歩くこと。(P172)
*平蔵・・・『鬼平犯科帳』の主人公の名前
本書173ページの春日さんをマネして、同じ場所で撮ってみました。
ハセガワ「すごい! これ同じですよ!!」
社長「おーええやん」
行きの車ではブツクサ言っていたタナカ社長も、気分はすっかり時代劇役者。おなじみの風景も、ちょっと目線を変えてみると、そこは風情あふれる江戸の景色に。地元にお住まいの方にとっては、自分の暮らす街の魅力を再発見できる本でもあります。
それでは続いて、西の湖へレッツゴー!
西の湖
バトンタッチしました。タブチです。八幡堀から西の湖へ向かうわれわれ。春日さんは本書で西の湖をこう説明しています。
特に印象深いのは『剣客商売』です。劇中の主人公の秋山小兵衛は鐘ヶ淵の隠居宅から大川を舟に乗って江戸の街に出ます。その際の撮影に使われるのが、この西の湖です。(p.166)
そして、この「鐘ヶ淵」という地名を久しぶりに見たときに、「あっ!!」と思ったのです。というのも、僕は小学生のころ「緑スワローズ」という少年野球チームに所属していたのですが、その宿敵が「鐘ヶ淵イーグルス」。墨田区でも有数の強豪チームです。
そして大川というのは、今の隅田川の吾妻橋よりも下流のことですが、その近くにあるのが、隅田公園少年野球場。別名「王貞治球場」とも呼ばれ、昭和24年、戦後の荒廃した時代に「少年に明日への希望」をスローガンとして、整備され誕生した日本で最初の少年野球場なのです。日本が誇る世界のホームラン王、王貞治氏もここで育ちました。
『時代劇聖地巡礼』のこの一文を読み、少年時代この球場で繰り広げた「緑スワローズv.s鐘ヶ淵イーグルス」の熱戦に思いを馳せていたのですが、なんとなんと『剣客商売』で江戸の街へ出る際に撮られていた風景、そのロケ地が滋賀の「西の湖」だったとは!!!!!
ということで、そんな個人的な思い出も抱えつつ、西の湖へ向かいます。
「今度はあの角を回ってみましょう」「あの橋、まだ渡っていないんじゃないですかね」
そんな私の勝手な発言に振り回されながら、編集の三島さんの運転する車は同じ場所を何度も何度も回ったりもしています。(P178)
とあるように、湖のまわりはとにかく木々で生茂り、自分たちがいまどこにいるのかがわかりません。そしてようやく目的の「西の湖園地」まであと一歩というところで、タナカ社長がまさかの
「寒いしな、戻ろか」
と、ひとこと。
目的地手前になんだか映えそうなスポットがあったので、そこを鐘ヶ淵から江戸の街へ出る大川と見立ててパチリ。江戸の街へ出る、というテーマでそれぞれ立つ姿を考えたものの、雰囲気的には「日本の夜明けぜよ!」に近くなりました。
巡礼を終えた後は、知る人ぞ知る滋賀の銘店「さつま富士」へ。聖地巡礼の写真とはまた一味違う情緒あふれる写真を撮りつつ、巡礼の夜は更けていきました。