第48回
MSマルシェ「業界最高値」 出店・タルマーリーさん
2020.07.06更新
先日、MSLive!で、MSマルシェ「業界最高値」を開催しました。
ほんとうによい商品を、その魅力をお伝えするとともに、適切な価格で販売しようというこちらのイベント。(MSマルシェ「業界最高値」に関して、くわしくはこちら)
第1回は、パンとクラフトビールの製造、販売をされている、タルマーリーの渡邉格さんと麻里子さんをお招きしました。
イベント内では、パンやビール作りの様子を、動画とともにご説明いただき、さながらオンライン工場見学のような臨場感!
さらに、製造、小売りに、じかに携わっているタルマーリーのおふたりだからこそ感じていらっしゃる、資本主義社会の問題点、そして、その問題にどう立ち向かっているのか、といったことも、お話しいただきました。
作り手の方のこだわりを知ることができ、なおかつ、消費者としてのあり方も考え直すきっかけとなる、貴重なイベントとなりました。
本日は、そんなイベントの様子をダイジェストでお伝えします。
パサパサしないパンの秘訣
格さん 私たちタルマーリーは鳥取県の智頭町という人口7000人弱の町で、以前保育園だった建物をリノベーションして、パンと地ビールの製造と販売、そして、カフェも運営しています。
麻里子さん 12年前に小さいパン屋さんとして開業して、夫婦でなんかと食べていければいい、くらいに思っていたんですけど、結局今では10人ぐらいの規模でやっています。智頭町に移転したのは2015年ですね。智頭に移転してから、クラフトビールの製造も始めました。パンもビールも、全部野生の菌だけで発酵させる、というポリシーを持ってやっています。
格さん パンは20数種類作っています。牛乳、バター、卵、砂糖は一切使わず、5種類の酵母を使い分けて味を変化させています。
それでは、製粉から焼き上げるまでの、一連の流れをご説明します。
まずは、製粉です。製粉には、ロール製粉機を使っています。石臼で挽くと全粒粉といって少し黒っぽい小麦粉になり、ストイックなパンができるのですが、逆にロール製粉機を使うと真っ白な小麦ができて、ふわっとしたパンに仕上がります。
小麦粉は、隣町の津山の小麦を自家製粉して、購入した小麦粉と配合して使っています。挽きたての粉は風味が強く、味も濃いので、お菓子などは自家製粉した小麦粉だけで作っています。
続いて、発酵の段階です。
現在、パン用酵母は、イーストといって科学的に優秀な菌だけを選抜して、それを増やしたものが主流です。しかし、昔はそういった技術が無かったので、空気中からパンを膨らます酵母を採取していました。
私たちは今、その昔ながらのやり方でパンを作っています。この野生の菌(天然酵母)は、科学的な技術によって作られたイーストと違って、発酵力がとても弱く、不安定です。
一時醗酵という、生地を発酵させる時間が、イーストなら2時間弱で終わるのが、野生の菌の場合は12時間ほどかかってしまいます。私たちはこの、長い時間がかかる、というのを逆手に取って、しっかりと長い時間発酵させようということで、最短3日、最高で6日間発酵させています。
時間を引きのばせば引きのばすほど、作り手は大変になるというイメージがあるかと思います。しかし、ゆっくりとした時間の中で行う発酵の仕事は、少し余裕が出てきて、1時間や30分のズレなんかはどうでもよくなるんです。それなので、逆に人間らしい労働ができるようになっています。
発酵が終わったら小さく分割して、パンを膨らませ、そして膨らんだ状態で窯に入れて焼き固めます。
うちのパンは、ほとんど油を使わないので、普通に作るとパサパサになりやすいんです。そうならないように、高加水といって、パン生地にできるだけ水分を入れて柔らかくしています。例えばバケットは、粉と水の割合が10:9くらいなので、非常に柔らかい生地になります。そうすることで、次の日も、次の次の日もパサパサせずに食べることができます。
天然酵母のパンは、とてもゆっくりと発酵していくため、焼いた後も熟成して味が深くなっていくんです。私は焼いて2日目くらいが一番美味しいんじゃないかと思っています。それなので、一番味の良い2日目に、パサパサにならないことを意識して作っています。
時間を味方につけたビール
格さん 私たちは、パンもビールも、できるだけ存在感がありながら、それでいて脇役に徹するものを目指しています。そんな中で、結局何が一番大事なのかというと、ずっと食べ続けられる、ということです。衝撃的な味ではないけれども、ずっと食べ続けられて、メインのお肉やお魚と一緒に食べても、味を邪魔しないというものをめざしています。
ビールにおいて、それを追求していった先に生まれたのが、セッションエールです。あまり苦くならないように、ホップをひかえて製造しています。これが、今回のビールセットのうちのひとつです。
また、今回のセットには、ラジカルサワーエールという、乳酸発酵させて、わざと少し酸っぱくしたビールも入っています。これは、肉や魚、ジビエといった、生臭いものの味を消すために作ったビールです。ビールの原材料を使い、日本酒の製法で作っています。
そして、こちらが熟成セゾンです。高付加価値を作るためには何が必要なんだろう、と考えていった結果、「時間を味方につける」ことへたどり着きました。
商売人、そして製造者からみて感じている資本主義社会の問題点のひとつが、新しいものに価値を置きすぎていることです。
資本主義社会の中で、安いものをどんどん売らなきゃいけないという状況が生まれていますよね。その中で、新しいものだけは価格を自由につけられるからだと思うのですが、新しい商品を次々と生み出しますよね。
そして、新しいものが出るたびにテレビで宣伝して、そしてみんながそれを持つという流れが、古いものに価値がないという考えを生み出します。そして、新しいものもすぐに古くなるからまた新しいものを作る、という負のスパイラルにおちいっているのではないかと思っています。
ビールに関しても、「鮮度が命」ということを聞いたことがあると思います。これは、大手ビール会社が、すぐに届けることができるというシステムをうまく利用して、生み出したキャッチコピーなんです。それにより、「ビールは鮮度が命」ということがみんなの常識になったんですね。
それに対して私は「ビールは熟成が命」というキャッチコピーを打ち出し、熟成ビール、つまりすごく寝かしたビールを作ってみました。そして寝かすことによって味も変わっていくしそして価値も上がっていくんじゃないかと思っています。
私はこの熟成ビールを作る中でひとつ気付いたことがありました。それは、原材料がよくないと腐敗しやすいということです。実験的に、普通の安い麦芽で作ったビールと、有機麦芽で作ったビールをともに2年間寝かしたのですが、普通の安い麦芽のものは腐ってしまいました。一方、よい麦芽を使ったものは長持ちをしてワインのような風味になっていました。
高い値段で売るためには
格さん 私たちは、「田舎は土地が安いから食も安くあるべきだ」という一般常識がある中で、いかにちゃんとしたものを高く売っていくかということを考えながら、12年間パンを売ってきました。
そんな中で、3つの重要なことが見えてきました。
1つ目は、高い値段で売るためには、値段の根拠が必要だということです。私がいきなり市販の100円のパンを1000円にして売ると言ってもお客さんは納得しません。そこで、私たちは、一から製粉し、野生の菌を採取することで、商品の価値をあげようとしています。
2つ目は、消費文化をつくる、ということです。そのために、書籍や講演活動を通じて、「消費によって支えることで、良いものが残っていくのではないか」という提案をしてきました。
3つ目が、消費者の買う力をつける、ということです。私たちがいくらよいものを作っても、買う力がなくなってしまったら誰も買ってくれないですからね。これは政治や経済の問題に絡んできます。商売人としての目線で経済を語るということは、商売人にしかできないことなので、積極的に取り組んでいきたいです。
・・・と話は尽きませんが、このあたりの詳しいお話はぜひまたマルシェ出演の際にお話いただくことに。乞うご期待です!
編集部からのお知らせ
MSマルシェ限定セットを期間限定販売中です!
MSマルシェ限定のパンとビールセットは、7/12(日)までの期間限定で販売しています。(※なくなり次第販売終了)
野生の菌でつくられた豊かな味わいのパンとビールを、ぜひお召し上がりください!
また、MSマルシェのイベント動画も、同じく7/12までの期間限定で販売しております! 記事ではご紹介しきれなかったお話や、パンやビールづくりの映像など、ぜひぜひご覧いただきたいです。
MSマルシェは今後も各地の生産者さんたちにご登場いただき、開催していく予定です。こちらのページやミシマ社Twitterなどで随時お知らせしてまいりますので、ぜひご参加くださいませ!(現在参加者募集中のMSLive!一覧はこちら)