MSカレッジ通信

第2回

コラム#1「いい仕事をしつづけたい」。この当たり前を実現するために

2025.07.24更新

MSカレッジは・・・
いい仕事をしつづけたい。この当たり前を実現するための、本気の学びの場

 いい研究をしたい。いい本をつくりたい。

 なにも学問の世界、出版の世界にかぎりません。

 それぞれの本業の場で「いい仕事」をする。それも、継続して。ただ、いい仕事をしつづけたいーー。

 これは、いずれの職業に就く人であれ、誰もが望むことと思われます。

 ところが、そうした当たり前とも言える「たったそれだけ」を実現しつづけるのは、現実問題、簡単なことではありません。

 私自身、その大変さはミシマ社をたちあげ、運営してきたこの19年近い年月の間、ひしひしと感じてきました。ひとことでいえば、「ものすごく大変」だった。それでも、同時に、一貫して楽しい! と感じてもいます。これが、偽らざる私の思いです。

 つまり、ものすごく大変、なのに、楽しく出版活動をつづけてきている。

 それがなぜ可能だったか。とふりかえれば、大きくふたつあります。

 まず、間違いなく言えるのは、ミシマ社の周りには、「学ぶ」を怠らない方たちに囲まれていることがあります。そして、そうした方々を観察すると、そのための「環境」を自らつくっている方々であることにも気づきます。それは、組織に属しているか、フリーであるかの「形式」は関係ありません。

 たとえば、今回のご出演いただく講師のお一人、藤原辰史さんは、ミュージシャンの後藤正文さんと『青い星、此処で僕らは何をしようか』を、数学の泰斗・伊原康隆先生と『学ぶとは 数学と歴史学の対話』を、それぞれ共著で出されました。こうした出版という場で、「他流試合」のような異文化、異世界の方々との交流をつづけておられます。

 また、講師陣の一人である松村圭一郎さんも、「旅する大学」を自らたちあげるなど、大学という組織の枠外で学びの場を実践されています。

「公」とか「公共」といえば、お上(かみ)のやることだと信じられてきた。今度はそれを企業など別のだれかにゆだねようとしている。ぼくらはどこかで自分たちには問題に対処する能力も責任もないと思っている。でも、ほんとうにそれはふつうの生活者には届かないものなのか。(略)
この無力で無能な国家のもとで、どのように自分たちの手で生活を立てなおし、下から「公共」をつくりなおしていくか。「くらし」と「アナキズム」を結びつけることは、その知恵を手にするための出発点だ。(松村圭一郎『くらしのアナキズム』ミシマ社)

 まさに、有言実行されているわけです。

 こうした方々が、今回、ミシマ社という出版社の場で、新たなご自身の研究や学問のあり方について発表されます。松村さんは当日、その内容を発表くださることになっていますが、藤原さんからはすでに「官学から民学へ」というテーマをいただきました。

 民学とは?

 これからの私たちMSカレッジの方向性にも大きく影響を与える発表になるのは間違いありません。

 お二人にかぎらず、今回ご出演の方々は皆さん、それぞれの現場で「抗い」ながら、とてつもなくいい仕事をしつづけてこられた方ばかりです。尊敬してやまない、こうした方々の「生きたノウハウ」に触れたい。「いい仕事をしつづけ」ながら同時代を生きる方たちが、今、考えていることは何か。それを直接聴いて、学びたい。

 ぜひ、参加者の皆さんと「いっしょに」学びたいと、私自身、切望しています。

 というのも、「大変ながら楽しい」を実現しつづけてこれたもう一つは、「読者」の皆さんの存在抜きにはありえない。そう実感しています。

 事実、松村圭一郎さんが『うしろめたさの人類学』を完成させるきっかけになったのは、私があるイベントに松村さんをお誘いしたことがあります。それは、松村さんにとって初の人前でのトークイベントでした。その時間を経て、「誰に向けて書けばいいか」、つまり宛先を松村さんはつかんだと言います(詳しくはミシマ社ラジオ「ミシマ、ジャックされました」)。その意味で、すばらしい本が生まれる瞬間は、必ずしも編集者とのクローズドの打ち合わせの場からだけではない。むしろ、直接的に読者がいる場から生まれる。ふだんは、編集者がその読者を代表しているわけですが、リアルな読者がいることでしか動かないことも多々ある。それは、この20年のなかでまざまざと体感してきて、断言できることのひとつです。

 「学問と出版の新たな挑戦」を掲げるMSカレッジ第0回、その開講のご挨拶で私は、

「おもしろい」が生まれる瞬間を、読者の皆さんにも体感いただけるかたちで、あらたな出版のかたちをめざしていくことにしました。

と書きました。この背景には、次のような切なる思いをこめています。

 これからの時代に「いい仕事をしつづける」ための、新たな一歩にしたい。

 その一歩を講師の方々、参加者の皆様といっしょに踏めますことを心より楽しみにしております。

(文・三島邦弘)

MSカレッジ 第0回 開催概要

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日時 2025年8月22日(金)、23日(土)、24日(日)

場所 恵文社一乗寺店コテージ

住所 〒606-8184 京都府京都市左京区一乗寺払殿町10

出演者 藤原辰史、内沼晋太郎、寄藤文平、湯澤規子、松村圭一郎、三島邦弘

参加費 
会場参加 34,000円+税(アーカイブ付き、懇親会費別途)
オンライン参加 30,000円+税(アーカイブ付き)

会場定員 30名

お申し込み 
会場参加チケット発売:2025年7月14日(月)18:00〜
オンライン参加チケット発売:2025年7月18日(金)18:00〜

※〈ご参加に関するご案内〉お読みいただき、ミシマ社の本屋さんショップ(https://mishimasha-books.shop)よりお申し込みください。

主催 ミシマ社

詳細はこちら

「MSカレッジ」運営チーム

「MSカレッジ」運営チーム
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2025年8月より、ミシマ社がつくるあたらしい学びの場「MSカレッジ」がスタート。開催情報の告知や、出版と学問にかんするコラムなど、運営チームが更新しています。

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