『銀河鉄道の星』発刊記念対談 後藤正文×名久井直子(1)

第7回

『銀河鉄道の星』発刊記念対談 後藤正文×名久井直子(1)

2018.11.21更新

 いよいよ明日、『銀河鉄道の星』(宮沢賢治・原作、後藤正文・編、牡丹靖佳・絵)が発売となります! 発売を記念して、著者の後藤正文さんと、装丁を手がけてくださった名久井直子さんの対談を2日間にわたり、お送りします。

 昨日掲載した「あとがき」からさらに踏み込んで、後藤さんがなぜ、宮沢賢治を新訳しようと思ったのか、そして子どものころから宮沢賢治の作品に触れてきた名久井さんは、今回何を感じられたのか? たっぷりとお届けします。

(聞き手:三島邦弘、構成:星野友里・須賀紘也、写真:三枝直路)

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『銀河鉄道の夜』は未完成のデッサン

―― 名久井さんは岩手県のご出身ということで、子どものころから宮沢賢治の本に触れる機会も多かったんじゃないですか?

名久井 なにしろ賢治の高校の後輩なので。

後藤 すごいですね。

名久井 小学生のときに全校集会で、賢治がつくった歌を歌った思い出があります。それほど身近ではあるんですけど、むしろ近くて遠いもののように感じていました。だけど後藤さんが訳したのを読んだ時にはすごく感動して、「こんなにいい話だっけ」と思いました。

―― おおー。

名久井 賢治の『銀河鉄道の夜』は、風景はよく見えるんですが、登場人物をあまり細かくは説明していないので、読んでいて想像力が試されているような気持ちになるんですよ。だから苦手意識がある人も多いと思う。でも後藤さんの『銀河鉄道の夜』は、人間の動きなどが丁寧に書いてあって、読者にゆだねている部分が減っているので、より物語に入りやすくなっていっているのかなと思いました。

後藤 ありがとうございます。

―― 後藤さんは、どのように宮沢賢治を読まれてきましたか?

後藤 僕は歌詞づくりにおいても賢治の世界観に影響を受けてます。でも確かに、若いころはそんなにいい話かどうかよくわかってなかったです。今となっては古い言葉が使われているし、同じ行に同じ言葉が重複して出てきたり、文章が整理されていない作品もあるから、原文を読むのは難しくて。特に『銀河鉄道の夜』は、本当は未完成で、まだデッサンしたところなのではないかと思います。

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名久井 確かに「物語として伝えようとしていない」というか、まだ素材である感じがしますよね。

後藤 そうそう。これから物語を編み直していこうとしていたのかもしれない。一番驚いたのは、原稿が一枚欠けているんです(※註)。自分だったら嫌だなって思いますけどね。まだ完成していない、途中が抜けてるデモ音源の未発表作品が店に並んでいるのは。

※本書では、後藤さんが欠落部分を補っている(『銀河鉄道の星』p107後ろから2行目~p109の2行目)

名久井 どうですか、亡くなった後に「こんな音源が見つかった!」みたいな。

後藤 めちゃくちゃ嫌ですよ。ジョン・レノンだって天国で嫌だと思っているはずですよ。

一同 (笑)

名久井 賢治自身は『銀河鉄道の夜』が本になっているのを見てないんですよね。生前に本になったのは、『春と修羅』と『注文の多い料理店』だけなので。だから後世でこれだけ有名になって、しかも歌を歌っている人が訳すことになるとは、思ってもみなかったでしょうね。遠くまで来たな、と感じます(笑)。

翻訳は音楽の編集に近かった

―― 後藤さんから受け取った原稿は、最初『銀河鉄道の夜』だけでした。その後、名久井さんと「もうちょっとあってもいいね」と相談して、そしたら後藤さんからパッと『よだかの星』と『双子の星』が送られてきた。

後藤 『よだかの星』と『双子の星』は好きな作品です。読むときはいつもセットで読んでます。この2作と『銀河鉄道の夜』は補完し合っていると思うんですよね。1つの話の中での出来事が、別の話の中で「あの話知ってるか」みたいに挿入されたりして。

―― そうなんですよ。見事な組み合わせだと思います。『銀河鉄道の星』をつくる前に、最初後藤さんからいただいた提案は、「『コーヒーと一冊』シリーズでどうですか」でした。

後藤 僕がもともと「銀河鉄道の夜」の訳をはじめたのは、人にプレゼントするためだったんです。最初はただワープロソフトに打ち込んで、それを渡すつもりだったんだけど、読みやすいように翻訳しようと思ったのがきっかけで。だから一冊にまとまっていればそれでよかった。『コーヒーと一冊』くらいの手軽さがいいなと思ってました。でもちゃんと着地すべきところに着地できたと思います。『コーヒーと一冊』だと、牡丹さんの素敵な絵も白黒になってしまうし。

名久井 小さな読者が手に取るかどうかっていうところも、大きく違いますよね。コーヒーと一冊はなかなか渋めですから。

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―― 今回翻訳する上で、意識したことはありますか?

後藤 賢治の描いている景色を壊さないように書きたいっていうのがありました。

名久井 そうですよね。

後藤 ただ読みやすくするだけでは、賢治作品の魅力である「詩情」がごっそりと奪われてしまう。だから絶対に残さなければいけない言葉もありました。僕がやりたかったのは『3分で読める銀河鉄道の夜』を書くことではなかったので。

名久井 そういう本はすでにありますからね。

後藤 翻訳は音楽の編集に近かったです。「ここはノイズかな」というところを見つけて、重複している言葉を取り除いたり。

名久井 じゃあ逆に、この変な楽器の音は残しとかないと、ということもある?

後藤 そうそう。「ここは変な表現だ」と思っても、その「変な表現」こそが音楽の重要な要素になっていることも多いですね。『銀河鉄道の星』を読んで、「なんか自分が思っている『銀河鉄道の夜』と違う」と感じた方は、自分で翻訳してみるとおもしろいですよ。

牡丹靖佳さんによる『銀河鉄道の夜』の翻訳

―― 名久井さん、『銀河鉄道の星』の装丁の「ここを見て」というところはありますか?

名久井 それはもう牡丹さんの絵を見てほしいです(笑)。全部決まったかたちの絵が整列しているようなデザインにはならないようにしたので、そのカッチリしていない雰囲気も含めて味わっていただけたら嬉しいなと思いますね。

―― 名久井さんが「黒を多く使おう」と決めてくださったのも、すごく大きかったと思います。

後藤 「よだかの星」のページで字が白抜きになるところとか、いいですよね。全体的に間がちゃんとあるのがいいと思う。最近は文庫の絵本もありますが、余韻を味わえるのは大きい絵本ならではですよね。

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―― 本当にそのとおりだと思います。牡丹さんの絵についても、うかがえますか?

名久井 想像していた以上に美しいです。賢治の世界、後藤さんの言葉と牡丹さんの絵は、すごく相性がいいなと思います。 賢治作品の世界を反映した、抽象と具象の間のような絵を描いてくださいました。後藤さんの書いたものをそのまま絵にしているのではなく、牡丹さんも独自の『銀河鉄道の夜』の翻訳を、絵によってされているように思います。

後藤 そうですね。『銀河鉄道の夜』は夢と現実が混ざったり、突拍子もなく何かが現れたりで、読んでいてもうまく映像に変換することが難しいと思うんです。牡丹さんの絵を見ると「なるほど、そういう感じか」と思って楽しいです。

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―― お気に入りの一枚はありますか?

名久井 私は表紙にした絵がすごく好きですね。賢治の作品には鉱石とか実験とか、ちょっと心がどきどきするアイテムがたくさん出てきます。この絵にはそういうドキドキ、キラキラしたものが凝縮されていると思います。

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後藤 僕は裏表紙の2人が歩いている絵が好きです。「そうかそうか、カムパネルラはちょっと背が高いんだ」と思いますね。

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名久井 (笑)

(つづきは明日掲載します)

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