オクノ修さんインタビュー

第20回

オクノ修さんインタビュー

2019.07.21更新

 代表ミシマが、2月の「ミシマ社の話」『これからの出版社とこれからの書店』で、「少部数レーベル」を始めると宣言してからはや5ヵ月。昨日、ミシマ社の新レーベル、ちいさいミシマ社がいよいよスタートしました。

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代表ミシマが、ちいさいミシマ社について書いた「ミシマ社の話」

・第73回 これからの出版社とこれからの書店(2月27日掲載)
(「なぜ少部数なのか?」について)

・第76回 「ちいさいミシマ社」と買い切り55%がめざすもの(5月29日掲載)
(「ちいさいミシマ社って具体的になにするの?」について)


 こんにちは、京都オフィスの田渕です。今回は、この絵本『ランベルマイユコーヒー店』が生まれるきっかけとなった歌をつくった、京都の喫茶店「六曜社」のマスター・オクノ修さんにお話をうかがいました。歌を歌うこと、そして本を読むこと。しみじみと語ってくださいました。

 こちらは、本日開店している「ミシマ社の本屋さん」にて、『ランベルマイユコーヒー店』の購入特典にもなっております。お手にとっていただけたら嬉しいです。

「ランベルマイユコーヒー店」のこと

―― 今回、オクノさんのつくった曲である「ランベルマイユコーヒー店」から一冊の絵本が生まれましたが、手にしてみての感想はいかがですか?

オクノ 嬉しいですね。こんなにグレードの高いものを作っていただいて。あと、nakabanさんはこういうふうに歌を聴いてくださっていたのか、ということもわかって新鮮でした。僕のイメージしていたのとも違って、そのギャップがおもしろかったです。

―― オクノさんの「ランベルマイユ」はどのようなイメージでしたか?

オクノ 僕のイメージだと、ヨーロッパのどこかにある田舎の街なんですよ。それは僕にとっての理想郷なのかもしれません。駅を降りて見渡したら一店ある、その珈琲屋さんが「ランベルマイユコーヒー店」です。

―― そうなのですね。このnakabanさんの絵はいかがでしたか?

オクノ nakabanさんの絵は、もう少し都会という感じがしますね。この絵本に出てくるマスターも、僕のイメージだとヨーロッパの革細工をやっている人で、ちょっとお腹が出てて、革のエプロンを着ている、くらいの感じでした(笑)。

―― へえ! 面白いです。

オクノ でもそれは僕の勝手なイメージで、歌っているときはその映像があるんですけど、聴いている人の想像力を邪魔したくないんです。だから、極力歌詞では説明しなくて。他の歌でも「君に会いたい」とか、「お前が好きだ」みたいな歌詞があるんですが、「黒髪の」みたいな説明は絶対にいれません。たとえそうであったとしても(笑)。

―― (笑)。「ランベルマイユ」という響きもおもしろいですよね。

オクノ そうですね。カタカナの名前を入れるのが好きなんです。それは実を言うと宮沢賢治の影響で。クラムボンとかイーハトーブとか。ちょっと幻想的な響きがするでしょ。

―― たしかに、オクノさんの曲のなかでも、「ホジキンソン」とかもそうですね。この「ランベルマイユ コーヒー店」は、いつごろから歌われていますでしょうか?

オクノ いつから歌ってるかなあ。1980年くらいには歌ってたから、かれこれ40年近くだと思います。でもこのランベルマイユコーヒー店のイメージはそのころから変わってないですね。

―― おお! 曲はどういうときに思いつきますか?

オクノ 自転車に乗ってるときとか、歩いているときですね。メロディーと詩が一緒に思いつくんです。それを人が聴けるところまでもっていくために、肉付けをコーヒーの焙煎小屋でする感じですね。ちなみに、ランベルマイユの場合は、「ランベルマイユの~」という冒頭のフレーズが一番最初に思い浮かびました。本当は2番も作れたらなあと思ってたんですけど、1番だけで完成しちゃったというか、つけたす必要もなかったので短い曲になっています。

―― 曲の幅も広いですよね。

オクノ それは嬉しいですね。長く生きてきていろんな人に会ってきたし、年の功ですかね。陽気な曲も切ない曲も。その時々の生活のなかで感じたことを曲にしてきました。ちなみに、「まっくろくろすけ」っていう曲もあるんですけど、あれは「となりのトトロ」みたときに書いた曲ですし。まあ、そんな感じです。

読書のこと

―― 本からインスピレーションを受けることもありますか?

オクノ ありますよ。とくにサン=テグジュペリと宮沢賢治ですね。10代のときに読んだこの2人が僕の根幹をなしています。なかでも『星の王子さま』ですね。ウワバミがゾウを飲み込んでいる有名なイラストがありますよね。あれが好きで、10代のころは自分でそのイラストのワッペンをつくって、ステージ衣装につけてたんです。

―― いいですね。

オクノ サン=テグジュペリは、飛行機の操縦士でもあったのがいいんですよね。空から地球を見ていると、道以外も見えます。だから、その道をちょっと外れたところに「こんなに面白いものがある」ということが直感的にわかっていたんじゃないかな。道があると人は道しか歩かないから、気がつかないままその道を歩いて一生を終えてしまうけど、そうじゃない楽しみみたいなものも教わった気がします。

―― オクノさんもコーヒーをやりつつ、感じたことを歌にされていて、なんだかサン=テグジュペリが重なってきました。

オクノ ありがとうございます。そういえば、この前誠光社の堀部さんに言われたんですけど、僕の歌は、鶴見俊輔さんが言うところの「限界芸術」のようなものだって言うんですね。限界芸術って、すごく簡単に言うと芸術と生活の間にある領域のことらしいんですけど、たしかに、僕がやっていることは、純粋芸術でも現代芸術でもない。あくまで普段の生活があって、そこからでてきた歌なんです。一生活者として生きて、そこで感じたことを歌にする。

―― なるほど。本当にそうですね。宮沢賢治についてお気に入りの作品や詩があったりしますか?

オクノ 宮沢賢治が「告別」という詩を書いているんですが、これが一番好きですね。若い頃に読んでビビビッときた。抜粋すると、

告別  宮澤賢治

おまへのバスの三連音が

どんなぐあいに鳴つてゐたかを

おそらくおまへはわかつてゐまい

その純朴さ希みに充ちたたのしさは

ほとんどおれを草葉のやうに喜ばせた

(...)

けれどもいまごろちょうどおまえの年ごろで

おまえの素質と力をもっているものは

町と村との一万人のなかにならおそらく五人はあるだろう

それらのひとのどの人もまたどのひとも五年のあいだにそれを大抵無くすのだ

生活のためにけずられたり自分でそれをなくすのだ

すべての才や材というものはひとにとゞまるものでない

(...)

ひとりのやさしい娘をおもふやうになるそのとき

おまへに無数の影と光の像があらはれる

おまへはそれを音にするのだ

(...)

みんなが町で暮したり一日あそんでゐるときに

おまへはひとりであの石原の草を刈る

そのさびしさでおまへは音をつくるのだ

多くの侮辱や窮乏のそれらを噛んで歌ふのだ

(...)

もしも楽器がなかつたら

いいかおまへはおれの弟子なのだ

ちからのかぎり

そらいつぱいの

光でできたパイプオルガンを弾くがいい(「春と修羅 第二集」より)

 こんな感じなのですが、どんなに才能があっても、ぼーっとしているとなくなってしまうし、純粋に音楽ができていたころから、大人になってまた音楽をつかみ直す瞬間のことがすごくよく描かれています。最後の終わり方もとってもいいですよね。僕にとって、すごく大切な詩です。詩をあまり説明しすぎるのも野暮なので、なにか感じてもらえたら嬉しいです。しゃべりすぎてしまいましたね。今日はまあ、こんなところで。

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(於:かもがわカフェ)

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