ミシマ社の話ミシマ社の話

第76回

「ちいさいミシマ社」と買い切り55%がめざすもの

2019.05.29更新

 「これからの出版社とこれからの書店」を書いた3カ月前は、新レーベル名を「ミシマ社の本屋さん」と考えてました。が、一転、最終的に「ちいさいミシマ社」としました。

 その心は?

 と問われれば、「ちいさい」願望がむくむくと高まっていた。おそらく、そうなのだろうと自分では思っています。頼りない言い方になってしまいますが、「ちいさい」に惹かれているのは間違いありません。

 そもそもミシマ社は、創業時の2006年から「大きくしない」を目標にしてきました。大きいも小さいもなにもない、社員は僕一人しかいなかったのに。

 で、現在はどうかというと、13名。おいおい、「大きくしない」はどこへいったんだよ。

 たしかに、一人あるいは数人規模の出版社が増えているなか、もはや「ちいさい」とは言いがたい。ただ、大きくしようと思ったことは一度もありません。自然成長の結果、たまたま
・・・。特別な筋トレをしなくても、ドーピングしなくても、改造しなくても、日々生きていれば、筋力はつくし骨は伸長する。ちいさな三歳児と思っていたら、あっという間に干支が一周し、成人と変わらない体格に。会社も同じように、(意識的に抑えないかぎり)放っておいたら、ある程度かってに大きくなっていくのではないでしょうか。

 とはいえ、意図の有無はさておき、大きくなった自分の肉体を冷静に見ると、あらぁと思わずにはいられません。それで・・・。

 もう一度「ちいさい」へ。

 という意識が立ち上がった。そんなふうに思えたとき、はっと気づきが訪れました。

 その「もとに戻ろうとする動き」のことを、「原点回帰」と言うのではないか。日々動きつづけるなかで大きくなったり方向が変わっていったり、そのたび、もとに戻ることを厭わないーー。創業期に掲げた「原点回帰の出版社」。13年目にして新たな意味が更新されたような感覚です。

 *

 では具体的に、どのような「ちいさい」をめざすのか?

 形がちいさな本ばかりを出す??

 レーベル名を思いついたあとちらっと頭をよぎりましたが、そういうことではありません。名前に引きずられて形ができる。それだと、思いより形式が先となってしまう。先に思いがあって形になる。どういう形になるかはわからずとも。常にこうありたいと思っています。

 今回における「思い」の根っこには、ミシマ社という出版社を12年つづけてきて、じりじりと積もった苛立ちがありました。それは、「少部数の本を出せていない」。実際、(前回も触れたとおり)なんだかんだと初版4000部以上のことがほとんどでした。

 「ちいさいミシマ社」では、おそらく1000部〜3000部の初版部数が多くなるのではないかと考えています。

 規模の「ちいさい」出版活動。これが「ちいさい」に込めた意味のひとつです。

 もうひとつは、書店さんに買い切り55%で卸す(その理由には「これからの出版社とこれからの書店」に書きましたのでそちらをご覧いただければ幸いです)ことで、書店と出版社の「ちいさい」商いの関係を築いていきたい。

 日本はいま、世界に類を見ない人口減少国となっています。ということは、「多売」がどんどん難しくなっている。ましてや「薄利多売」では立ちゆかない。小売とメーカーが共存できる商売のつづけ方が、性急に求められています。

 継続的な「小商い」を可能にする。その一手として、条件面を大きく変えることにしたのです。

 もちろん、出版社にとって卸し率を大幅に下げることは、けっして楽なことではありません。70%で卸していた本を55%で卸す。返品がなくなるとはいえ、15%もの利幅が減る。会社運営の設計を根本から変えないことには、会社がもたない・・・(「設計してんのか」というツッコミはこの際ご遠慮願えれば)。

 「人が増えたのに、大丈夫かー。給料払えるんか」

 と心中、誰かが毎日叫んでおります。

 はい・・・。

 それでも、やるしかない。やらないといけない。

 たとえ十数人であれ社員を抱える身。これまでの設計が完全に行き詰まってからでは遅い。これからの設計を「いま・ここ」で、我が身を削りつつ、練り上げていきたい(でないと、人口減少時代に無策であるどころか逆行しようとする現政府と同じじゃ・・・などとも思うわけですがばっさり割愛)。

 さて。

 「いま・ここ」と書きました。

 これからの設計を「いま・ここ」で練り上げる。

 この一文には、スクラップ&ビルドをめざすのではない、という思いが含まれます。「これまで」と「これから」と分離したところに「いま」が屹立するわけではない。あくまでも、これまでの流れのなかに「いま」はある。

 会社運営にひきつけていえば、設計を変えるからといって、メンバー一新、給料体系一新、というやり方をとるわけではない。これまでの流れ(とりわけ働くひとたちが安定していきいきと働ける環境)をできるだけ維持する。その部分はこわすことなく、人口大減少時代のあり方へ向けて設計変更、方向転換をしていく。

 この難題を乗り越えていかなくてはいけません。おそらく日本中のありとあらゆる業界、職種の人たちが直面しているはずです。

 「ちいさいミシマ社」という新レーベルで、条件を「買い切り55%」に設定した背景にはこういうことがあります。 

 *

 では。

 買い切り55%の意味するものは何か?

 人口減少時代における書店と出版社の共存のあり方をめざして。とはすでに述べました。ただし、それは薄利多売からの脱却という利益率の話にとどまりません。

 卸し率が大幅に変わるということは、同時に、売り方も変わる。売り方が同じで利幅だけが変わるなんてことはありえません。

 出版社側から見れば、利幅が大きく下がる分、これまでできてきたことで、できないことが生じます。ミシマ社でいえばそのひとつが、販促物の作成に当たります。新刊が出るたびに、ミシマ社仕掛け屋チームが手作りのPOPやパネルをつくり、全国の書店さんへお届けしてきました。「ちいさいミシマ社」では、それはできません。出版社を運営するにあたり、設計を変えていかなければいけない。そのひとつが、販促物などにかける予算と時間のカットを挙げざるをえません。

 裏を返せば、そこは本屋さんに一任する。どう売るか。どう届けていくか。買い切って仕入れてもらった本の「届け方」は、本屋さんに全面的にお任せすることになります。

 ・・・そんなの当たり前じゃないの?

 出版業に携わっていない方々は、こう思われることでしょう。実は私も、同じ思いです。

 つくるのが出版社。売るのが書店。

 分業であることの「原点」に立ち返り、それぞれがそれぞれの本業に徹する。

 まったく新しい関係性(人口減少時代における小商いの関係性)を築くにあたり、「原点」から始めてみる。その上で、出版社の営業として書店さんと協力できるところは積極的に動く。出版社と書店の関係を見直し、いい方向に向かっていく。そのきっかけとしたい。

 買い切り55%には、こういう思いも込めています。

 

 文脈からややずれますが、レーベル名を「ミシマ社の本屋さん」としなかったのは、この原点に立ち返って考えなおしてみたからです。書店が出版をおこなうという流れが始まっていますが、出版社の本音はこうでしょう。書店さんからは、「売ることはこっちに任せて。あなたたちは、いい本をつくって!」と言ってもらいたい。そのほうが、断然いい関係になっていく。

 近頃、そのことをひしひしと実感することがありました。恵文社一乗寺店の鎌田さんが自発的におこなってくれたある仕掛けを見て、なるほど〜、と思いました。その仕掛けの効果もあり、森田真生さんの『数学の贈り物』が(おそらく)日本一売れています。けっして立地条件がいいとは言えない、京都の中堅書店で。その仕掛けとは、小冊子が付いた『数学の贈り物』セット売りです。単体1600円の本に対し、セット価格1800円にして販売したところ、単品売りを含めてすでに200冊近く売れているのです。

 書店が企画・編集した小冊子を、出版社の出版物の販促として使う。この鎌田さんのアイデアと試みは、「これから」を築くうえで、ひとつの突破口になる。そう確信しました。

 いずれにせよ、書店と出版社、それぞれの存在意義をもう一度原点から見つめ直し、本来の良さを高め合う関係を築いていきたいものです。

 *

 

 最後に。

 買い切りに抵抗のある書店さんがまだまだ多いということも重々承知しています。額面的なことをいえば、「売ることは書店」という原点に回帰すれば、買い切りは、書店が「売る」仕事であるために必須といえます。返品可能という条件下、ややもすれば「場所貸し」のようなことになりかねなかった「これまで」のやり方をいったん捨て、発想自体を変えてもらう必要があります。出版社側が15%の利益を削り、設計を変えざるをえなかったように、ここは書店さん側もリスクをとって変わっていただきたい。

 と、そういう思いがあることは否定しません。

 ただ、「そうはいっても」という方々が僕の周りにも相当数います(僕より年配の方々がとくに)。そういう方々に正論を振りかざしても仕方がない。で、考えました。

 もちろん、書店さんに対し僕がえらそうに言えることは何もありません。が、あえて、実感をもっておすすめします。

 それは、「儲けと直結しない、よくわからない動き」を常に抱えておく、です。

 たとえば、ミシマ社では創業一年目に仕掛け屋チームを設けました。初代仕掛け屋のキムラに、「会社の数字のことは一切気にしなくていい。とにかく仕掛けて!」というわけのわからんミッションを授けて。

 関西にオフィスを構えてからは「ミシマ社の本屋さん」をオープン。週に一度の開店だったり、月の一度だったり、不定期ながらも7年つづけてきました。方針は一貫して、採算はあまり気にしない。出版社の内部に、「読者の方々と出会える場」をもつこと。それ以上の財産はないと思っての取り組みです。

 とにかく、短期的な儲けとはどちらも無縁。けれど、長い目でみたとき、このふたつから日々のエネルギーを直接受けている。仕掛け屋の展示をみた読者の方々から、「行って、本当によかった」「本と触れる機会がこんなに素晴らしいものだったとは」などと言ってもらったり。読者読者と出版社の人間は言いがちだけれど、「本屋さん」で実際の読者の方々と出会ったり。

 もう、これ以上の喜びはないというほどの喜びを、どちらの活動からも受けています。

 おおげさにいえば、次の動きへの回路が「よくわからない動きを抱える」ことで開けていく。そんな気がしてなりません。

 というわけで。

 買い切りという「短期的には損か得かよくわからない動き」を、ぜひ。これまでと違う「おもしろい」が待っている。それだけは断言しておきたく思います(断言しましたよ!)。

三島 邦弘

三島 邦弘
(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。 ミシマ社代表。「ちゃぶ台」編集長。 2006年10月、単身で株式会社ミシマ社を東京・自由が丘に設立。 2011年4月、京都にも拠点をつくる。「原点回帰」を標榜した出版活動をおこなっている。著書に『計画と無計画のあいだ 』(河出書房新社)、『失われた感覚を求めて』(朝日新聞出版)がある。

編集部からのお知らせ

「ちいさいミシマ社」スタートします!

「ちいさいミシマ社」は2019年7月20日にスタート予定です。
創刊は下記2冊となります。

仲野徹『仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう』(予価1,900円+税)
絵・nakaban、詩・オクノ修『ランベルマイユコーヒー店』(予価2,200円+税)

本体価格は予価の段階ですが、現時点で、注文するぞ!と思ってくださった書店さんは、こちらまでご連絡いただけましたら幸いです。

個人でご購入希望の読者のみなさまは、ぜひ発売日にお買い求めくださいませ。
(ミシマ社の本屋さんWEBショップでも販売予定です)

<書店様お問い合わせ先>
ミシマ社 京都オフィス
TEL:075-746-3438
FAX:075-746-3439
メール:hatena★mishimasha.com
(★を@に変えてお送りください)

<お取引条件>
・条件:買切・卸正味55%
・納品:宅配便またはメール便にて直送します。
・送料:上代2万円/回以上のご注文で送料無料。それ未満は一律800 円(※)を頂戴します。(※例外として、沖縄・離島は実質送料に応じた金額を頂戴いたします)

<注文書ダウンロード>

◆『仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう』
https://drive.google.com/open?id=1wOAwH9N4UoAdvenl09HboGxmViSpsOrh

◆『ランベルマイユコーヒー店』
https://drive.google.com/open?id=1HXbvSlWCsm9uRMZ6RYudMW0o2JprVrpF

2019年度ミシマ社サポーター、募集中です。

 ミシマ社では、日々の出版活動を応援してくださるサポーターを募集しております。2013年に「サポーター制度」が始まって以来、サポーターのみなさまといろんな活動をご一緒してきました。「サポーター制度」についての考え方は、下記をご一読いただけますと幸いです。

サポーター制度について

 また、サポーター制度の具体的な活動について知りたい方は、こちらをご覧ください。

具体的な活動をもっと知る

 現在、2019年度のサポーターを募集しております。ミシマ社メンバー一同、これからもっとおもしろいことを、サポーターのみなさまとご一緒できたらうれしく思います。お力添えをいただけましたら幸いです。

2019年度ミシマ社サポーターのご案内

募集期間:201913日より
サポーター期間:201941日~2020331

どの月にご入会いただいても、次年度の更新時期はみなさま来年の4月で統一です。ご了解くださいませ。その年の特典は、さかのぼって、全てお贈りいたします。


2019年度のサポーターの種類と特典

◎ミシマ社サポーター【サポーター費:30,000円+税】

以下の特典を毎月、1年間お届けいたします(中身は月によって変わります)

【ミシマ社からの贈り物】

* ミシマ社サポーター新聞(1カ月のミシマ社の活動を、メンバーが手書きで紹介する新聞)
* 紙版ミシマガジン(年2回発行・・・の予定です!)
*『ちゃぶ台』をはじめとした、今年度の新刊6冊ほど(何が届くかはお楽しみに!)
* ミシマ社で作ったグッズや冊子
* サポーターさん限定イベントのご案内
* ミシマ社主催イベントの割引

・・・などを予定しております!(※特典の内容は変更になる場合もございます。ご了承くださいませ。)

◎ウルトラサポーター【サポーター費:100,000円+税】

【ミシマ社からの贈り物】

上記のミシマ社サポーター特典に加え、

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E-mail:hatena@mishimasha.com
(件名「ミシマガサポーター申込み」にてお願いいたします)
TEL:075-746-3438

なんも大学presents『ちゃぶ台の上の秋田 〜秋田に醸されナイト〜』開催!

 秋田県全域をキャンパスに見立て、秋田に暮らす人たちを講師に、その思いと情熱をアーカイブ。そこで学んだ知恵を未来の人たちとシェアする大学のようなネットメディア、「なんも大学」さんです。今回その「なんも大学」さんがトークイベントを開催されます!

 出演は、展覧会『Fermentation Tourism Nippon〜発酵から再発見する日本の旅〜』クリエイティブディレクターで秋田県ウェブマガジン「なんも大学」編集長の藤本智士さんと、雑誌「ちゃぶ台」編集長でミシマ社代表の三島邦弘。さらに、日本酒大好きミュージシャン&精神科医の星野概念さん。というなんだか奇妙な組み合わせ。

 しかしそんな三人の共通点はなぜか、秋田と発酵!(出身でも在住でもない)
 参加してもらえれば、三人が秋田を大注目している理由がわかるはず。秋田自慢の純米酒や発酵食品を楽しみながら、ともに醸されまショー!

2019年6月15日(土)18時〜19時半
場所 :渋谷ヒカリエ8F d47 MUSEUM
料金:1,500円 (当日支払い) ※秋田の純米酒&発酵おつまみ分の実費。苦手な方はお茶アリ。
定員:50名
出演:藤本智士(Re:S、のんびり)、三島邦弘(ミシマ社)、星野概念
主催:秋田県ウェブマガジン「なんも大学」

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