ミシマ社の話ミシマ社の話

第79回

一冊!取引所、はじめます。

2020.02.26更新

 元日更新の「ミシマ社の話」で、システム開発をしている話を書きました。ありがたいことに、著者の方々、出版社の方、書店さんはじめ多くの方々から、応援してます、感動した、などと身にあまるお言葉を頂戴しました。

 そうした声を励みに、この1カ月半、粛々と開発を進めておりましたが、ついに告知を開始し、仮サイトをオープンしました。

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 こちらから説明書のような冊子をご覧いただけるようになっています。そのなかに「一冊!宣言」という文章(前回の「自分の足元から少しずつ」を短くし、加筆・修正したもの)を掲載しました。

 今回は、そのなかの一文について、もうすこし詳しく書きたく思います。

自分たちにとって本当に必要なシステムを開発していくことしか、中小企業の仕事改革などありえないと思います。

 と、その前に、このシステムを本格スタートするにあたり、新会社を設立したことをご報告いたします。社名は株式会社quaranta(カランタ)

 資本金は、100万円。その51%をミシマ社が出し、残りを代表の蓑原大祐、エンジニアの今氏一路がもつ体制です。私は代表ではなく取締役として参加。あくまで、本業であるミシマ社での編集者の職と会社運営に徹する所存です。

 では、なぜミシマ社が株の51%を保有するのか? 

 ここにこそ、私の不退転の意思を込めたつもりです。

 どういうことか。まずは、それについて書いてみます。

守るべきものを守り、生かすために

 この数年、書店からは「(ミシマ社のような)ちいさな出版社の商品をまとめて注文できるとずいぶん助かるんだけどな」と言われることしばしば、出版社を営む方々からは「営業の人を雇う余裕はないけど、書店に対しもっとしっかり営業していきたい。どうしたらいいですかね」と相談を受けること少なからず。

 注文したいけど、手間があまりにかかりすぎる。

 自社の本をもっともっと積極的に営業したい。

 書店、出版社、双方ともに、「ほしい」思いは同じ。商品がほしい。商品を届けてほしい。

 けれど、そのふたつの「ほしい」のあいだに回路がない。書店と出版社のあいだに「ミスマッチ」が起きている。

 これが、いまの出版界の現状といえるでしょう。

 くわえて、書店と出版社の取引は、その手法自体がものすごく古い。一例をあげれば、受発注の多くは、いまだに「FAX」でおこなわれています。これを伝えるたび、他業界の人たちは、飛び出さんばかりに目を丸くして驚きます。

 「ま、まじっすか・・・?」

 この「まじっすか?」が「まじ」でまかり通っているのです。

 FAXで返ってきた注文数を目視、「んん?これは10冊かしら、16かしら」と疑問に思い電話。「あ、それ16です」と言われ、営業メンバーが入力。それをさらに営業事務が転記。と何重にもわたって手間がかかる。そのたび、入力ミスなどの可能性が高まり、よけいに手間がかかる(わが社がその好例ならぬ悪例)。

 これほど昔のやり方を維持するのは、出版界を支える「FAX文化」を守るため・・・とでも言いたくなるほど、古いやり方がつづいています。むろん、文化であれば守るべきですが、FAXでの受発注はまったく「文化」ではありません。

 今回のシステムは、書店--出版社間の「不通」を解消し、いずれにもはびこる制度疲労を一新する、これをめざします。

 そう、自分たちが胸をはって「文化」と呼ぶことのできるものを守り、生かしていくために。 

 ここで冒頭の引用に戻ります。

 「自分たちに本当に必要なシステムを開発する」。こう書いたのは、自分たちの生命線を守るためです。生命線とは、これだけは死守しなければいけないという領域。自分たちの会社を、成り立たせるために絶対に捨ててはいけない仕事。逆にいえば、そこが侵されてしまうと、表面的には、同じようなものが生まれているとしても、まったく別物になってしまう・・・。

 自社でいえば、一冊入魂がこれにあたります。

 一冊をつくるのに、何回となく読み込む。校了間際であっても、気づけば大胆に赤字を入れることだってある。それは、その後のスケジュールを考えたとき、自らの首を絞めることになるが(一週間かけて一回転する作業を二回転させることになる、など)、それでもおこなう。もちろん、二回転目の手を抜くことなく。時間がないことを言い訳にすることなく。ものすごい集中力で対応する。ほんのわずかであっても作品が良くなるために。営業メンバーも、全国の書店さんと直取引をしているため、毎回、新刊を直接案内する。そして、すべての本のゲラを読み込み、タイトル会議にも参加する。などなど。

 はっきりいって、編集も営業も非効率きわまりない。

 効率主義の目線からいったら、ありえないことばかりだろう。

 だが、ここだけは声を大にして言いたい。一冊に対してねばれること、しつこいほど最後まで練り込むこと。これが自社の生命線である。そして、それをやりきって初めてミシマ社の本として世に出すことができる。

 と、自社の一冊入魂を例にとったとたん熱くなってしまいましたが、言いたいのはこういうことです。

 生命線を守るためには、それ以外の領域の仕事を効率化せざるをえない。

 自社の生命線領域だけは、効率化、近代的な合理化のロジックが大手を振って歩くような事態に陥らせないようにしたい(そういう作り方、働き方がしたいなら、いっそAIに全部任せればいい)。

 いま、自分たちの産業はそういう局面にきていると思っています。

 というのも、産業自体がピーク時と比べると売上規模で半分に縮小。それに追い打ちをかける消費税増税にともなう不景気の波。こうしたマイナス局面に、出版業がいることは否定できません。

 その波に巻き込まれるかたちで、今後、さまざまな場面で、経営のスリム化をはからざるをえなくなる。合理化、効率化という名のもとに。

 そうしたとき、間違っても効率化してはいけない一線がある。が、貧すれば鈍す、で、「とにかく効率化」がお題目となってしまい、ああ、効率化した、今日も効率化できた、よしよし、と自らの生命を削るようなところまで効率化してしまいかねない。それが人間というものだ。

 と、私は考えます。すくなくとも、人間にはそういう側面があることを認識したうえで、日々の仕事を組み立てるほうがいいでしょう。

 こう考えたとき、前もって、自分たちの生命線は何かをしっかり認識したうえで、それ以外を効率化しておくことが大切と思います。

 今回、システム開発をおこなう意図には、そういうこともあります。 

 つまり、非効率をとるほかない入魂作業や生命線といえる仕事以外は常に時代の「先」に合わせておきたいのです。置かれている局面で、出版という仕事を次世代につないでいくためには、避けては通れないはずです。

 そして、その効率化を可能にするのがシステムであり、それを「自前」でつくる必要がある。これが肝要だと思っています。

「これから」のシステムは自分たちの手で

 自前でつくる。といっても、もちろん、システム開発の会社の人たちに外注するわけです。僕たちはプログラミングできませんので。

 今回でいえば、システム開発のために、システム会社をたちあげることから始めることにしました。

 理由は、「やりぬく」ためーー。

 どういうことかというと、外注先を既存のシステム会社にすれば、途中でそのシステムの運営を中止されるリスクが常につきまといます。イマイチ儲からないから、ビジネスにならないから、といった理由でそうしたことが起こらないとはいえない。

 これが一番、困ります。

 途中撤退されると、いったん、そのシステムを使って動き出していた会社や組織が軒並み、難民状態になってしまいかねません。大型スーパーが撤退したあとの郊外の街と似たことになる。大型スーパー誕生後、商店街が潰れてしまい、その地域で唯一の店になっていたというのに、採算が合わず、本部の判断で撤退。結果、街には、商店街もスーパーもなくなった・・・。ぺんぺん草も生えなくなった事例としてよく言われることですが、同じようなことが、システム開発でも起こりえます。

 とくに、今回のようなシステムは毛細血管のようなもの。

 ちいさな出版社と小商いをつづける書店との回路をつくる取り組みであり、そもそも、儲かる市場ではない。裏を返せば、だからこそ、どこも投資せず、これまでシステム無きまま放置されてきたのだと思います。

 だけど、このまま無いのは不便すぎます。不便なばかりか、自分たちの仕事の存続にも早晩かかわってくる。

 あれば間違いなく便利だし、今後なければ必ず困るシステム。

 こうしたものは、どんなことがあっても(つまり、あまり儲からなくても)、運営しつづける、という会社でないと任せられません。

 が、そんな奇特な会社はあろうはずはなく、自分たちでやるしかない、と決意しました。

 「これから」を生きる自分たちの、自分たちによる、自分たちのシステム。

 これを実現するために、自分たち仕様のシステム会社をつくることにしたわけです。

 幸い、そういう奇特な取り組みをやりたい、という人が自分の周りにいてくれました。株式会社quaranta代表の蓑原さんがその人です。実は彼は、私が単身創業した当時、自由が丘のワンルームの一席をシェアしていた人。そのワンルームのあった建物の名前が、quarantaなのです。創業期を描いた拙著『計画と無計画のあいだ』には登場してませんが、彼とのつきあいはどの社員よりも長い。初代仕掛け屋キムラの友人の弟が彼で、ある日突然、訪れてくれたところから関係が始まります。以来、ミシマ社のホームページや「みんなのミシマガジン」の構築・運営を一手に担ってくれています。

 その蓑原さんが連れてきたスーパー(!)エンジニア今氏さんとともに、新会社を設立しました。

 私が代表を務めないにもかかわらず、株の半分以上をミシマ社が保有する。こうした大胆なかたちを許してくれたのは、蓑原さん、今氏さんが、このシステムの出版界における意義、必要性と私の思いを理解してくれたからです。

 絶対に、途中撤退をしない。ちいさな出版社、書店をはじめ、業界全体がよくなっていくために、やりぬく。

 その意思を新会社設立のかたちにも込めました。

 一冊!スタートアップ・サポーター

 ここからはお願いです。

 個別にみれば、ちいさな出版社がこの10年でかなり増えました。書店員さんのなかにも、「ちいさいミシマ社」の取り組みや理念に共感してくださる方々も少なくありません。
 問題は、点でありつづけること。
 個人としては、同感してくれる方が、組織レベルでの取り組みになったとたん、思考停止したかのように、「これまで」の流れにとどまってしまう。
 この事態をどう打開するか。
 これは、自分たちの業界のみならず、日本社会全体にとっても大きな課題のはずです。
 水面下で起こるちいさないい動き。それを点に終わらせず、線にし、面にし、立体にしていく。
 ちいさな点に可能性を見出してくれている人たちの輪をどう広め、力に変え、ある程度のうねりにまで高めていけるか。

 点から線、面へ。そして立体へ。

 これを実現していくため、お力添えをいただけましたら幸いです。

 書店、出版社の方々には、ぜひご参加いただきたいです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 また、個人、法人問わず、もちろん、出版関係者かどうかは関係なく、この取り組みにご賛同いただけます方々には、「一冊!スタートアップ・サポーター」になっていただければたいへんありがたいです。応援・賛同メッセージだけでもぜひ!

 何卒よろしくお願い申し上げます。

三島 邦弘

三島 邦弘
(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。 ミシマ社代表。「ちゃぶ台」編集長。 2006年10月、単身で株式会社ミシマ社を東京・自由が丘に設立。 2011年4月、京都にも拠点をつくる。「原点回帰」を標榜した出版活動をおこなっている。著書に『計画と無計画のあいだ 』(河出書房新社)、『失われた感覚を求めて』(朝日新聞出版)がある。新著に『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記』(河出書房新社)。

イラスト︰寄藤文平さん

編集部からのお知らせ

代表・三島がトークイベントに出演します!

■2020年4月11日(土)福岡
「古い仕組みから抜け出し、これからの仕事をつくる

日程:4月11日(土)19:00〜(18:30開場)
場所:カフェキューブリック

詳しくはこちら

■2020年4月17日(金)京都
「一冊!宣言~本屋と出版社と、読者の「これから」を考える

日程:4月17日(金)19:00〜(18:30開場)
場所:恵文社一乗寺店 COTTAGE

詳しくはこちら

「一冊!取引所」にご参加くださる出版社さま、書店さまを募集しています

「一冊!取引所」のサービスは今春開始予定です。また、2020年3月下旬よりシステムの運用テストを順次おこなってまいります。
ただいま、事前に参加くださる出版社さま、書店さまを募集しています。
ご興味をお持ちの方は、以下フォームよりお気軽にお問い合わせください。折り返し詳細をご連絡差し上げます。

出版社さまはこちら

書店さまはこちら

「一冊!スタートアップ・サポーター」募集

「いい本が出なくなる」「街の本屋がなくなる」・・・現在、出版界が抱えるこうした危機を現場の力で乗り切りたく思います。この取り組みは、これからの本の世界を豊かにし、未来へつなげていくためのものです。

 本を愛する方々、一冊を大切にする文化が残ってほしい、そう思ってくださる方々、ぜひ、お力添えをいただけないでしょうか。

 出版関係者にとどまらず、個人の方から企業の方まで、本取り組みを支えてくださる方々を募集いたします。

 率直に申しますと、今回のシステムをしっかりと世に定着させるためには、最初の一年を乗り切れるかどうかが大きなポイントになります。具体的には、半年の間に、少なくとも1500万円を集める必要があると思っております。

 お力添えのほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

・個人サポーター 1万円〜
・企業サポーター 10万円〜

<御礼に代えて> 1年以内に、本取り組みについてまとめた書籍をつくる予定をしております。その一冊を御礼に代えて、献本いたします。

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メッセージをお寄せください!

「一冊!取引所」への応援、賛同メッセージ、ご意見など、お声をお寄せいただけると幸いです。

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『パルプ・ノンフィクション 〜出版社つぶれるかもしれない日記』

上記のような思いのもと考察と実験と暴走をくりかえした5年分の記録が一冊になりました。
『パルプ・ノンフィクション 〜出版社つぶれるかもしれない日記』
3月18日(予定)、河出書房新社から刊行となります。三島の約6年ぶりとなる単著です。ご期待ください!

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