ミシマ社の話ミシマ社の話

第84回

こどもも大人も遊ぶように学ぶ

2020.07.21更新

先生も答えを知らない問題

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐーー。
 経済・社会活動を止めないーー。
 この相反するふたつのミッションをいかに成立させるか?

 いま、日本だけでなく世界の多くの国々の人間たちはこの難題に直面しています。
 もちろん、「ただしい答え」があるわけではありません。まして、政治家や専門家たちだけが考えることではない。自分たちはそこで下される結論を待っていたらいい、と思っているとすれば大間違いです。誰ひとり、確かな答えがないなか、生きることは止められない。生活の動きにあわせて、判断を迫られている。「お上」の決定は正解であるどころか、「ハズレ」であるほうが多い。すくなくとも、あらかじめそう思っておかないと、やりきれない(アベノマスクにはじまり、go to や給付金の外部委託と中抜きなどの愚策を挙げるまでもなく)。私たちひとりひとりが、個人レベルで、刻々と変化する状況に対応しながら、考え、判断しなければならない日々がつづいています。
 つまり、こういう局面で、「指示待ち」の姿勢ではいけない。もっとふみこんでいえば、「指示待ち」を疑いもしない人たちが、これ以上増えるようなことがあっては困る。先のgo to はじめ、あまりに的外れな政策、提言がまかり通るのは、私たちひとりひとりが「指示待ち」「反論せず」をくりかえしてきた裏返しでもあるのですから。
 コロナにかぎらず、地球環境の危機など、私たちが直面している現実は、これまでの常識では解決できないことばかり、既存の枠組みに収まらない現象ばかりです。
 森田真生さんが「学びの未来・座談会」などで再三再四指摘していることですが、このような現状で、「先生」のほうに答えがあって、先生と答え合わせをする、というスタイルの教育だけでは、まったく太刀打ちできない。
 いうまでもなく、どんなに立派な先生であれ、冒頭の問いに対する具体的解を提示することはできません。なのに、先生が生徒に教えるという一方通行な教育スタイルしかない。これは、先生と生徒が、地図も携帯電話ももたず突然、夜の山道に迷い込むようなものです。なのに、その現実を直視することなく、先生は晴れた日のよく見知った道の歩き方をひたすら教えている・・・。

 「先生も生徒も、誰ひとり、目の前の問題を解けない。この未知なる事態に対し、どうしていくのがいいか? みんなでいっしょに考えましょう」
 こういう姿勢でいると、日々、自主的に自ずと何かを学んでいくのではないでしょうか。先生も、子どもたちも。むろん、親たち、大人たちも。
 (コロナで困っている。自分だけでなく、親や周りの大人たちもずいぶんしんどそうにしている。どうしていいかわからない、と皆が言う。いま、小学生である自分が毎日学校に通って勉強するのは、大人たちもわからない問いをいつか解けるようになるため。コロナにかぎらず、これからもっともっと未知なる問題が出る可能性がある。そうした問題に耐えうる知力と体力をつけていかなければならない)
 感度の高い子どもたちであれば、きっと、こう思うことでしょう。
 だけど、現実に進行するのは、先生から生徒への一方通行な教育ばかり。こんなことして、何になる? と直感でわかってしまう子たちの何割かが、ひきこもりになっているのだと思います。すくなくとも、感度を高くもつことを諦めるよう強いられている。
 8月からMSLive!で開催する「こどもとおとなのサマースクール」では、まずは、この感覚の抑え込みから、子どもたちのみならず大人たちを解放することをめざします。
 何が問いかをみずから設定でき、それにむかって主体的に学ぶことができる。
 そうなるためには、学びが楽しい、学ぶことは喜びだ、という実体験があってこそ。「こどもとおとなのサマースクール」は、これからの学びの一歩目となるような「おもしろい」を参加者のみなさんと共有したいです。
 現状の学校や塾ではけっして体感できない学びへーー。

大人がこどもにできる唯一のこと

 話はすこし変わりますが、
 「勉強しなさい!」
 みなさんは子どもの頃、親や大人からこんなふうに勉強を強制されましたか?
 私のばあい、全然ないよ、と人に言いがちなのですが、正確にいえば、小学校に入ってすぐに、一度だけあります。
 幼稚園から小学校に入り、「勉強する」という行為に生まれて初めて接した私は、何をどうしたらいいかわかりませんでした。それで、とりあえず、ぼーっとすることにしました。様子見、ってやつですね。やがて、はじめてテストというものを経験します。いったい、なにをするんだろ、テストって? と思っている間に、それは終わり、あらら、な点数の書かれた答案用紙が戻ってきました。
 それを見た母が、すこし焦ったのでしょう。学校から戻ってきた私に、勉強をさせようとしたのです。「おかあさんが買い物に行っている間に、これをやっておくように」とか言い残して。
 (なんでやねん。なんで、せなあかんねん)
 と思った私は、やがてノートに怒りをぶつけます。しばらく言われてたとおり、勉強していたのですが、どうしても納得できず、鉛筆を走らせていたノートの紙を破ってしまいます。
 (ああ、やってしまった)
 子どもながらに、自責の念というものはあり、どきどきしながら母の帰りを待ちました。 
(おこられる・・・)と不安でいっぱいになりながら。
 戻ってきた音がしたとき「どきっ」としたのを今もおぼえています。
 幸い、母は怒りませんでした。自分も二児の父となり、いっぱい失敗を重ねるなかで、その理由が今はちょっとわかるような気がします。
 こどもに勉強を強制させたことを母自身、後悔していたのでしょう。
 「嫌やったんやね」と言って、ノートを破ったことも叱らなかった。ただ受け止めてくれた。絶対に怒られると思っていたのに・・・。
 あのとき、「やってしまった」と反省している上に、怒られ、さらに勉強を強いられていたら・・・?
 おそらく、今の自分はこんなふうではなかったと思います。出版社をつくり、のびのびとおもしろいを形にしていくんだ! と言って毎日を過ごしていなかったかもしれません。
 それほどに決定的な一瞬でした。
 おかげで、私は勉強嫌いにならずにすみました。
 その後、気づけば、本を読むのが好きになり、何かを知ることが楽しくなり、ほっといても勝手に勉強をするようになりました。
 学びが遊びになった、のだと自分では思っています。
 いま、自分が出版社をつくってさまざまな活動をおこなっていること、コロナ以降もメンバーたちと力を合わせ、危機を乗り切ろうと柔軟に動けていることと、小一のときのあの体験は地続きで直結しています。あのとき、学ぶことが嫌いにならなかったから、どんな困難がきても楽しみながら乗り越えていく、そうした感覚を育てることができたのだと思います。
 だから、自分が子育て必ず実践したいと思っていることは、「勉強しなさい」とはけっして言わない、それだけです。
 この春、長男が新一年生になりましたが、それだけは実践していきたいと強く思っています。もし親にできることがあるとすれば、遊ぶように学ぶ、学びの喜びに子どもが自主的に気づく、そのような環境を提供することくらいでしょう。
 そういう思いを実現したくて、「こどもとおとなのサマースクール」という場を設けることにしました。

 最後にひとつ。
 「こどもとおとなの」としたのは、学びが必要なのは、こどもだけではないからです。当然、ですよね。
 未知なる事態を迎え、いっぱい学ばないといけないのは、こどもも大人も変わりありません。
 私たちでいえば、コロナ以降、MSLive! をたちあげ、多くの識者たちの血の通ったことばを届けてきています。私自身、そうしたことばに触れ、多くを学んでいる最中です。もちろん、本を読む量も増えました。
 正直、どれだけ学んでもぜんぜん足りない、もっともっと学びたい。そのように思っています。おそらく、私のみならず、誰もが学ばないといけない局面に今があるのだとも思います。
 いっぱい学ぶ。そのためには、そもそも、学べる身体、吸収できる心身と感覚がないと始まらないでしょう。
 「こどもとおとなのサマースクール」が、学ぶ感覚を開く、その一歩となる場になればと願ってやみません。

 親子のみならず、こどもだけの参加、大人だけの参加も大歓迎です。
 今年の夏、ともに大いに学びましょう!

 

三島 邦弘

三島 邦弘
(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。 ミシマ社代表。「ちゃぶ台」編集長。 2006年10月、単身で株式会社ミシマ社を東京・自由が丘に設立。 2011年4月、京都にも拠点をつくる。「原点回帰」を標榜した出版活動をおこなっている。著書に『計画と無計画のあいだ 』(河出書房新社)、『失われた感覚を求めて』(朝日新聞出版)がある。新著に『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記』(河出書房新社)。

イラスト︰寄藤文平さん

編集部からのお知らせ

「こどもとおとなのサマースクール 2020」開催します!

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 本文にもありましたように、8月の上旬と下旬にMSLive!で、「こどもとおとなのサマースクール 2020」を開催します。

 こちらの講座は、小学生~中学生くらいまでのお子様を対象としながらも、親御さんもご一緒にお楽しみいただくことができ、もちろん、大人だけでもお楽しみいただけるような講座にする予定です。

 「つめこみ型」の教育ではなく、ひとりひとりのなかで気づきが生まれ、発見があり、学びそのものが喜び、という感覚が芽生えるような時間になればと望んでおります。

 幸い、私たち自身がぜひともお話をうかがいたい、教えてもらいたい、という方々にご登壇いただけることになりました。必ずや、長引く自粛・Stay homeで縮こまった心身の感覚を解放し、身体感覚が高まり、生命力が高まるような学びの場となるはずです。もちろん、「おもしろい!」をたっぷり詰め込んだかたちで。

こどもとおとなのサマースクール 2020

<開催日程>
いしいしんじさん「作文を書こう」

第1部 8月2日(日) 10:00 ~11:30 
第2部 8月23日(日) 19:00~20:30

玉川奈々福さん「浪曲に学ぶにほんごの語り方」
第1部 8月4日(火) 10:00 ~11:30 
第2部 8月18日(火) 19:00~20:30 

中田兼介さん「教えて、いきもの博士!」
第1部 8月3日(月)  10:00 ~11:30
第2部 8月19日(水) 19:00~20:30

光嶋裕介さん「家を作ろう」
第1部 8月6日(木) 10:00 ~11:30 
第2部 8月20日(木) 19:00~20:30 

tupera tuperaさん「夏だゾ〜〜〜!tupera tupera のへんてこおばけ工作」
第1部 8月7日(金) 10:00 ~11:30 
第2部 8月21日(金) 19:00~20:30 

<開催方法>
オンライン配信(オンラインイベントの参加方法の詳細はこちら。)
※ご参加者には、イベント開催の翌日ごろ、録画動画をお送りいたします。
当日、ご都合がつかない場合も、ご安心ください。

開催にあたってのごあいさつ&全講座チケットについて

各講座の詳細&講座ごと単独チケットについて

「夏が楽しくなる!大人のためのサマー講座」も開催中!

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 また、「夏が楽しくなる!大人のためのサマー講座」も昨日(7/20)より開催中です。大人を対象に、各分野の第一線でご活躍されている5人の講師をお招きしております。

「夏が楽しくなる!大人のためのサマー講座」

<開催日程>
7/20(月)~7/30(木)全5回 19:00~20:30(途中5分休憩あり)

7/20(月) 若林理砂さん 「夏バテしない身体づくり」
7/22(水) 有松遼一さん 「超入門! おもしろい能楽」
7/27(月) 三浦豊さん 「木のみかた 2020 夏」
7/29(水) 土井善晴さん 「この夏の一汁一菜」
7/30(木) 寄藤文平さん 「見えたとおりに描けるようになる講座」

※若林理砂さん「夏バテしない身体づくり」と7/22(水) 有松遼一さん「超入門! おもしろい能楽」のライブ講義は終了しました。近日中に録画映像の販売を行う予定です。また「全講座参加チケット」をご購入いただいた方には、録画映像を送らせていただきます。

<開催方法>
オンライン配信(オンラインイベントの参加方法の詳細はこちら。)
※ご参加者には、イベント開催の翌日ごろ、録画動画をお送りいたします。
当日、ご都合がつかない場合も、ご安心ください。

開催にあたってのごあいさつ&全講座チケットについて

各講座の詳細&講座ごと単独チケットについて

新たな試み、はじめます。

また、こちらの2つの企画では、MSLive!にとってはじめての試みをします。

それは全講座参加チケットの導入です!

「こどもとおとなのサマースクール 2020」
全講座参加チケット(全10回):¥25,000+税  ¥15,000+税(先着50名限定)
講師ごとの単独チケット(全2回):各¥6,000+税 ¥4,000+税  

「夏が楽しくなる!大人のためのサマー講座」
全講座参加チケット(全5回):10,000円+税

各講座ごと単独チケット:3,000円+税

【参加チケット価格を変更しました!】
 サマースクールは来年以降も継続して開催していきたいと思っております。
 そして今回はミシマ社としても初めての試みであり、少しでも多くの方にご参加いただけるように、参加チケット価格をあらためました。(来年以降の参加チケット価格は、当初の設定でおこないたく思っております。)

また、これらの講座、スクールはすべて、アーカイブ動画をご視聴いただけます。ご都合がつかず、リアルタイムでご参加いただけない場合も、ご安心ください。

 もし、どの講座も気になる! という方がいらっしゃったらこの全講座参加チケットがおすすめです。おもわぬ講座との出会いが待っているはず! どうぞお楽しみに!

【MSLive!】「ちゃぶ台編集室」第3回を開催します!

 次号の『ちゃぶ台Vol.6』をともに考える場所「ちゃぶ台編集室」。6月から毎月1回開催しており、9月まで合計4回開催します。

 『ちゃぶ台Vol.6』の大テーマは、「非常時代を生きる」です。

 新型コロナウィルス感染拡大に伴う緊急事態宣言は、2020年5月25日に全面解除が発表されました。しかし、そもそも今わたしたちが生きているのは、日常が非常時であり、非常時が日常になっていく、そんな時代ではないでしょうか。これを「非常時代」と名付け、さまざまな角度からのちいさな声を集めてみようと思います。

 雑誌『ちゃぶ台』の編集方針同様、あらゆることが未確定でのスタートですが、ミシマ社の雑誌編集の過程を読者のみなさまと共有する初の試みです。一冊の雑誌が企画段階から成長していく様子をぜひ間近で体感いただけたらと思います。みなさんのアイデアもお待ちしております。奮ってご参加ください!

「ちゃぶ台編集室」第3回 8月26日(水) 19:00〜21:00(休憩10分含む)

「ちゃぶ台編集室」全4回通しチケット

※現在、全4回参加チケットの販売のみ行なっております。第3回のみの参加チケットの販売は、後日開始いたします。
全4回参加チケットをご購入の方には、第1回・第2回の映像をお送りいたします。

※参加ゲストなど、詳細は後日ご案内いたします。

ちゃぶ台編集室第1回レポート

ミシマ社の話 非常時代宣言―「ちゃぶ台Vol.6」を始める前に

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