月刊ちゃぶ台

第15回

ちゃぶ台編集室レポート(1)コロナの時期の周防大島

2020.07.14更新

 2020年6月、ミシマ社が毎年秋に刊行している雑誌『ちゃぶ台』の次号を考える連続オンラインイベント「ちゃぶ台編集室」がスタートしました。第1回では、編集長の三島邦弘より、ついに決まった『ちゃぶ台Vol.6』の編集方針を大発表! そしてゲストの中村明珍さんと内田健太郎さんに、これまでの「ちゃぶ台」との取り組みや、この間の周防大島の状況などをお話いただきました。当日の様子を一部抜粋してお届けします。

ついにはじまった「ちゃぶ台編集室」

三島 『ちゃぶ台』はミシマ社が年に一度出している雑誌なのですが、今年で第6弾になります。おかげさまでこの5年間、雑誌づくりを続けることができました。

 今日はみなさんとともに「ちゃぶ台、今年どうしましょうか」会議を行いたいと思っています。つまり公開企画会議です。雑誌づくりが始まる前の段階で『ちゃぶ台』の企画会議を公開するということは、周防大島や天草で何度かやったことがあったのですが、最初のキックオフミーティングだけではなく、雑誌が作られていく過程、途中にどんなことがあったのかを共有していく試みは初めてです。今から4カ月間、全4回で「ちゃぶ台編集室」を開室します。どうなるかわかりませんが、ぜひみんなで雑誌を作り上げられると嬉しいなと思っております。第1回は、創刊のきっかけにもなった周防大島のお二人にゲストとして来ていただいております。明珍さん、内田さん、簡単に自己紹介をお願いできますか?

明珍 自分は今、周防大島に移ってから7年が経ったところです。もともと家族で東京に住んでいて、2011年の震災をきっかけに妻が先に周防大島に移り住んで、その1年後に僕が追いかける形でこちらに住み始めました。

 『ちゃぶ台』の創刊号にも書かせていただいたんですけれども、移住を決めた当初、農業をやるのとお坊さんになるというのを決めていたんです。それが数年の間にいろんなことをやるようになってしまってですね。それを三島さんはじめとして『ちゃぶ台』がつぶさに取り上げてくださったんでした。今もリアルタイムでなにをやっているかわかんない感じの人になっております。もともと東京では音楽の仕事をやっていました。ついさっきもですね、新しい仕事の依頼がありまして・・・。

三島 お~! 面白いですね。

明珍 1、2時間くらい前に道で呼び止められて、新聞配達をしないか、助けてって言われてですね。検討を始めちゃっています(笑)。

内田 僕は周防大島に住んで10年目に入ったところです。2011年の震災をきっかけに周防大島に移住して、ここで養蜂業を営んでおります。移住してから始めたので当時は全くの素人だったんですけれども、やるっていう気持ちだけは一応持って移住したという感じです。ちょうど娘が生まれる時に移住しているので、娘は今9歳になって、下の子が6歳になりました。家族4人で仲良くやっております。それと6年ぐらい前から「島のむらマルシェ」というマルシェを周防大島で開催していて、そこで三島さんと出会うきっかけにもなりました。

三島 そうでしたね。僕は周防大島に、6年前の4月の末に初めて行きまして、そこで明珍さんや内田さん、マルシェメンバーたちにほんとうにすごく良くしてもらったんです。みなさん、養蜂や農業などいろんな活動をされているんですが、それを直接届ける「マルシェ」をやっているその姿に、僕は感動して。大きな企業が入ったり、どこかの自治体が大きな力を持っていて、そのノウハウをもとにやっているとかではなく、決まっている流れがあるわけでもなく、ほんとうに手作りでみなさんが楽しそうにやってらっしゃる姿がすごく大きな光だったんです。なんかもうこの動きを伝えないといけないと思って、『ちゃぶ台』という雑誌を立ち上げようと思ったのが6年前ですね。この間、周防大島とともにミシマ社があったというのは、事実として実感しています。

コロナの時期の周防大島

三島 昨年の10月に出した最新号『ちゃぶ台Vol.5』の特集は「ぼくらの宗教」「みんなのアナキズム」だったのですが、その特集や巻頭文で「自然災害、人災、議論されないまま通過する法案......今、私たちをとりまく環境は、実態としてすでに『無政府状態』に近い。」ということを書いたきっかけには2018年の10月に周防大島で起きた断水事故がありました(詳しくは『ちゃぶ台Vol.5』に収録)。

 お二人にもご登場いただいて、断水から半年が経過した状況をうかがいました。今日はそこで出た課題のその後や加えて新型コロナウィルスの感染拡大が起きた状況で、周防大島ではこの数カ月間どんな様子だったのかを教えていただけますか。

明珍 はい。身の回りでは3月くらいから徐々に、じわじわと影響が出始めたかなと思います。ただ、やっぱり島だからなのか、都市部とは違って、しばらくはそこまで切迫した様子はなかったようにも感じます。僕たち夫婦は毎年企画しているちょっと大がかりな落語会があって3月下旬に予定していたのですが、それを開催するかしないか判断する必要がありました。なのでこれからどうなるかを気にしていたほうではあったと思います。

 SNSで見ている様子と、島で実際に感じている状況には時差があったかなっていうのは思っていて、今でも東京の人とやり取りをしていると、全く違うことが起きているんだなと・・・。ギャップが常にあるっていうことを感じています。

 農業に関しても、自分はオンラインショップで直接販売するやり方をとっているので、観光客とのやりとりは基本的にはないのですが、観光にまつわる仕事をされている人たちはやっぱり途中から大きな影響はあったんじゃないかと思います。

内田 うちは蜂蜜屋をやっていて、出荷先は島の外にもあるんですけど、メインはやはり島内なので、近隣の道の駅が閉まったり、主要観光施設やホテルも全部閉まったりと、大打撃だったんです。

 でもさきほど明珍さんも言ったように、「街」の人とは全然違うというか、すごくほのぼのした時間を過ごしてたかな。楽しんでいるというと語弊があるかもしれないけれども、正直、とてもいい時間を過ごしています。

 子供たちにも手伝ってもらって新しく家庭菜園を始めたりとか、普段はできなかった焚火とか。田舎は「スローライフ」っていうけど、これまでずっと忙しく走ってきて、そんな言葉は嘘だなと思っていたんです。それがコロナによってスローな自分がいて、これがスローライフかと。むしろ、そういった意味では新しい発見のある日々ですかね。

個人の価値観と島全体のリスク

内田 今回のことで言うと、やっぱり状況の受け止め方が個人によってあまりにも違うんですよ。うちのすぐ近くのおばあちゃんでも、人っこ一人歩いていない道を散歩するのにもマスクして、もう鬱になりそうというくらい気にしているわけです。もちろん観光客が入ってくることに対しても敏感に思っている。

 この人みたいに「なんでそんなに早く観光客を入れたりするんだ」と思っている人もいれば、片や人が集まるところへ行ってもまったく気にしていない人もいる。そこに差があり過ぎて、そのギャップを埋めることはできないですよね。そもそも「個人の価値観」が違うわけですから。

 だけど、島のリスクという観点で考えるなら、年寄ばっかりの島ですから、島で感染者が広がって・・・ということを想像して正直、もう橋は塞いだ方がいいって本当は思っていたんですよ。今は平常時ではなく非常時なんだから、と僕はすごく重く捉えていた方なんですね。2018年の断水っていう非常時を経験しているんだからこそ、何かもうちょっと出来たんじゃないかなと思っていますね。

三島 僕は非常時における決定スピードが速くなっていたほうがいいんじゃないかと思うんですね。周防大島の断水も今回のコロナも生死にまつわる時っていうのは、とにかく決定スピードを早くして、変化に対応していかないと、時間が経てばたつほど変な状態にはなっていくと思うんです。だから、僕がすごく思うのは、非常時対応のときは別ルールで対応することを少なくとも平常時に備えておかなくてはなないのではということなんです。非常時のときの優先されるべきものの順位が頓珍漢になっているというのが今の日本社会のいろんなところで象徴になっているんじゃないかなって。

明珍 学校の休校のこともそうなんですが、なにか判断が下されるときに、責任を取る、引き受ける人がどこにいるのかわからないのが気になっています。それって、非常時に全く役に立たないというか。「責任を取る」ということが、どういうことなのかというのをもう一度考えるというか・・・僕も考えたいですし、決定する立場にある人が考えてほしいということを思いますけど、どうやったらいいんですかね?

三島 そこを変えていかないといけないですよね。

(後半に続きます。後半は7/15に公開予定です。)


●ちゃぶ台編集室とは?

2020年秋刊行予定の『ちゃぶ台Vol.6』をともに考える全4回の連続オンラインイベントです。各回単発でのご参加、4回通しでのご参加、いずれも可能です。イベント終了後、お申し込みいただいた方へアーカイブ動画をお送りいたします。リアルタイムでのご参加が難しい方も動画でイベントの内容をご覧いただけます。

ミシマ社の雑誌編集の過程を読者のみなさまと共有する初の試みです。一冊の雑誌が企画段階から成長していく様子をぜひ間近で体感いただけたらと思います。みなさんのアイデアもお待ちしております。奮ってご参加ください!

次回開催日 2020年7月16日(木)19時〜
ゲスト:平川克美さん(文筆家、隣町珈琲店主)

詳しくはこちら

●ミシマ社の雑誌『ちゃぶ台』とは?

お金や政治にふりまわされず、「自分たちの生活 自分たちの時代を 自分たちの手でつくる」。創刊以来、その手がかかりを、「移住」「会社」「地元」「発酵」「政治」「宗教」などさまざまな切り口から探ってきました。

災害、毎年のように起こる人災。くわえて、外国人労働者受け入れ策など議論なきまま進む政策。すさまじい勢いで進む人口減少。 大きな問題に直面する現代、私たちはどうすれば、これまでとまったく違う価値観を大切にする社会を構築できるのか。「ちゃぶ台」が、未来にたいして、明るい可能性を見出す一助になればと願ってやみません。

本誌編集長 三島邦弘

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ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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