第27回
おお!周防大島!合宿 レポート(後編)
2022.06.07更新
5月27日、生活者のための総合雑誌『ちゃぶ台9』が発売となりました。
2015年より刊行してきた『ちゃぶ台』も、今号で9号目。創刊以来、「仕事×移住」「発酵×経済」「『さびしい』が、ひっくり返る」といったさまざまなテーマで特集を組み、現場取材を大切にした「生きた雑誌づくり」を目指してきました。
その原点はなんといっても、瀬戸内海に浮かぶ「
今回、『ちゃぶ台9』の完成を記念し、また、最高のかたちで次号(『ちゃぶ台10』2022年11月予定)の制作のスタートダッシュを切るために、編集チームのメンバーが周防大島で2泊3日の合宿をしてきました!
5人の編集メンバーのうち、なんと、ホシノ、ノザキ、スミの3人(過半数!)は周防大島初上陸。「いや、なんで今まで行ってなかったの!?」というツッコミはなんとか堪えていただき、私たちが島での出来事にひとつひとつ感動している模様を見届けていただけたらうれしいです。「百聞は一見に如かず」の体感そのままに、2日間にわたってお届けします!
2日目 レポーター:スミ
私は、ほかのメンバーより一歩遅れて、2日目から合宿に参戦しました。人生初の周防大島です。
JR大畠駅で、前日から周防大島入りしていたメンバーたちに合流したとき、私は「あれ、何かが変わっている」と直感しました。
海に足をひたす、みかんソフトを食べる、巌門から美しい夕日を眺める、島の人たちと語らう、といったことをすでにやっていたメンバーからは、オフィスで会うときとはちがう雰囲気、あえて言えば、「島の色のオーラ」がふわっと漂いはじめていました。みんなすごく元気、なんか高ぶっている、だけど同時に、ほぐれている感じです。移動中の車内で隣の席に座っているノザキの足元をみると、あ・・・砂がついている・・・。私がいなかった時間の充実ぶりを隠しきれていません。窓の外に広がる海の青を眺めながら、自分のぎこちない身体も早くここにアジャストさせなきゃ、とひとり誓いました。
島に入った直後に向かったのは、農家の宮田正樹さん、喜美子さんのお家でした。今回は、宮田さんの畑での出来事をレポートさせていただきます。
宮田さんには『ちゃぶ台』に何度もご登場いただき、昨夏には野菜を自分で育ててみるというオンライン講座もやっていただきました(その模様を『ちゃぶ台8』で中村明珍さんがレポートしてくださっています!)。入社以来、「宮田さんの畑づくりのように、ミシマ社は本づくりをする」という言葉をミシマから幾度となく聞いてきた私は、宮田さんの畑に向かうと聞いて、いきなり聖地に足を踏み入れるような心地になります。
宮田さんは、雑木林を自らの手で開墾して、一から畑をつくったという破格の農家さんです。実際に畑の前に立って、まず、その広さに驚きました。ここをひとりで・・・。すぐ近くに鬱蒼と茂っている木を眺めながら、これを人力だけで切り開くということの凄まじさを、文字どおり体で感じます。宮田さんは畑のむこうのほうに立っていて、「あっ、みなさん、ようこそ〜」と朗らかに出迎えてくださったのですが、私は感激して手をふりかえしつつも、なんだか呆然としてしまいました。
スナップエンドウを探すホシノ、ほおばるミシマ
畑には、スナップエンドウ、トマト、ズッキーニ、トウモロコシ、モロヘイヤ、きゅうり、人参など、さまざまな野菜が植っています。「どうぞ、好きにもいで食べてください」というおことばに甘えて、慣れない手つきでスナップエンドウの実をとり、生のままかじってみると・・・。シャリッ。甘い! 茹でてなんとなくマヨネーズをかけて食べるときとはぜんぜんちがう、青さとみずみずしさが溢れる味。
畑の片隅にはこんなにかわいい野イチゴも自生していました。これまた手でもいで食べてみたのですが、プチプチしていて、優しい甘さでモモのような風味があって、めちゃくちゃおいしいです。「たくさんとれたらジャムにするんです」とのこと。生え方も、味も、楽しみ方も、噓みたいな、おとぎ話みたいな感じだなと思わずにはいられませんでした。
自然農で野菜をつくる宮田さんは、不耕起(ふこうき)という手法を実践しておられます。つまり、化学肥料や農薬を使用しないうえに、できるだけ土を「耕さない」ということです。ここで、宮田さんの畑の写真を何枚かご覧いただきたいと思います。
トウモロコシ
ズッキーニ。赤ちゃんのような実が見えます。花もおいしいです。
土を覆うビニールなどはなく(干し草をまくことで乾燥が防がれているそうです)、地面のあらゆるところから、野草が生えに生えまくっています。そして、写真にうまく収められなかったのが残念ですが、畑を歩いているとテントウムシが手に乗ってきたり、モンシロチョウがそこらじゅうをひらひらと舞っていたりしました。まさに畑全体が生きていました。
「不耕起をやるのは、土のなかで微生物がやりとりしているのをできるだけ断ち切りたくないからです。いまのままの状態で、大島のこの土と、たとえば東北の土が、微生物を介してずーっとつながっているかもしれませんよね。そういうやりとりの邪魔をしたくないと思っています」
「長くつきあっていると、畑にも性格があることがだんだんわかってきます。あちら側の畑とは8年間つきあっているので、こういう野菜が合いそうだということがなんとなくわかるのですが、こちらはまだ1年目なので、うまくいくかわかりません。うまくいかなければ、また次の1年で別の方法を試してみる。そのくりかえしですね」
畑を見て、土の匂いを吸って、屈みこんで野菜に目を凝らして、ということをしながら宮田さんのお話を伺っていると、ほんとうに、生物や微生物のざわざわとした存在感が身に迫り、畑がメッセージのかたまりであることがわかります。もちろん、私にメッセージを受けとる能力は一切ありませんが、それでも、力とも情報とも声ともいえるようななにかを浴びることだけはできました。
その後、畑の一角で、喜美子さんが用意してくださったお餅や野菜たっぷりの肉団子スープをいただいて、体内まで畑の恵みでいっぱいになったあと、なんと、正樹さんと喜美子さんから「一緒に植樹をしませんか?」というご提案をいただきました。「みなさんと木を植えたいと思って」というお二人の言葉に、なんかものすごく泣きそうになってしまうメンバー一同。桑の木とブルーベリーの木を植えました。
周防大島のこと、宮田さんの畑のことは、これまで文章やオンラインの打合せで何度も触れて、知っているような気になってしまっていた私ですが、今回の訪問で抱いた率直な感想は、「こんなところがあるなんて信じられない」でした。日ごろの想像力の圧倒的に上をいく豊かさで、島の景色や、そこで暮らすみなさんの姿や言葉が体に流れ込んできました。
ちなみに、はじめてリアルで正樹さんと喜美子さんにお会いしたとき、お二人は顔を見合わせて、「・・・あなたが、あのスミさん!?」とびっくり。あれ、どうしたのかしらと思っていると、正樹さんがにっこりしながら、「いや~、なんというか、もうちょっと、ぽっちゃりした人だと思ってたんですよ~」と。まさかの一言に、一同爆笑。うん、やはり、実際にお会いするってとても大事で、幸せなことです。また、桑の実がなるころに、とは言わず、もっと早くにでも、みなさんと再会できる日を待ち望んでます。
3日目 レポーター:ノザキ
はじめての周防大島滞在、3日目。最終日になりました。帰りたくない! ホシノ、スミ、わたしの3人部屋。目を覚ますと、二人の姿がすでにありません。時刻はまだ7時前です。「おはようございます。しばらく砂浜にいます」(スミ)、「呼吸するミシマさんと、ハンモックのスガくん」(ホシノ)。社内チャットに流れてきている、活発な様子を横目に、寝ぼけた頭で露天風呂へ。朝のお風呂、青空、潮風、とにかく最高。帰りたくない!
この日の朝ごはんは、白鳥法子さんが営む「せとうちつなぐキッチン郷の家」でいただきました。ミシマの運転で郷の家に到着し、広くて気持ちのよい、風のとおる畳の部屋でおもいっきり呼吸をする。郷土料理の茶粥や名産のひじき、ズッキーニとお揚げが入ったお味噌汁、きゃらぶき、たまご焼き、梅干し、お漬物・・・ひじきは法子さん自身が海でとってきたもの。島が体にダイレクトに入ってくる。言葉になる前の感覚で満ちる。あー。おいしいを通り越して気持ちいい。滞在中、島のあちこちで聞こえてきた草刈りの音がここでも聞こえます。5月に漂う草のにおい。
朝ごはんは、周防大島名物の茶粥やひじきでした。
普段、かなり朝が苦手な私は(大変恥ずかしながら)8時までにゴミ捨てに行くのも必死。なんならゴミを捨てて一仕事終えた気持ちになり、そのまま二度寝だってする。でもそのときにいつも頭にあるのは「日の光を浴びると体が目覚める」という定説で、腕を伸ばして手のひらを上に向けて「光いいいぃぃ」と心で言い、自分の体が目覚めるのを待ちながらも結局待ちきれず布団に潜ったりしています。
でも島にきてうすうす感じたのは、光だけじゃない、ということ。いやむしろ、そっちじゃない、目が覚めるために必要なのは外的要因じゃないわ、自分の感覚だわ...ということでした。潮風で目が乾く。鳥の声が絶えず聞こえる。それぞれの場所から海の見え方が違う。裸足で感じた、海水の思ったより冷たくなさ。砂浜を歩くと感じる痛さと柔らかさの間。そいういう中にいると、自分の感覚が意識せずとも勝手にはたらいてくれる、そこに気持ちよさがありました。
今回、ミシマガジンの連載「暮らしと浄土」や『ちゃぶ台』にもたびたび寄稿くださっている養蜂家・内田健太郎さんの養蜂場を見せていただけることになり、初めて実際に蜂の巣箱を間近で見ました。「ではこれをつけてください」と言われて顔のまわりに黒いネットをつけます。ビビっている私。
内田さんは素手で巣箱を開けている。手袋をする人もいるけれど、素手と手袋は感覚がまったくちがっていて、ちょっとした感覚を察知できないと、巣箱を扱う際に蜂を潰してしまったりする、それを避けるために師匠に教わったときからずっと素手でやっている、とのこと。やっぱり、ここでもさっきの「感覚」のことを思いました。
日常的にはちみつを食べていても、どういう道具で、どういう場所で、どういう流れで、はちみつができるのか、商品になるのか、養蜂家ってどういう仕事なのか・・・まったく知らなかったし、今も知らないことだらけ。そういったことを今後は内田さんにまた伺いたいなあと思っています。
さて、今回の周防大島合宿の目的は、(今さらの説明ですが)2つありました。ひとつは、ミシマ社、文平銀座、周防大島の皆さんとつくる、「おお! すおうおおしまっぷ」作成に向けたリサーチ。もうひとつは、できあがったちゃぶ台最新号を島のみなさんに直接届け、ちゃぶ台誕生の地(経緯は『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台「移住×仕事」号』をぜひお読みください)で次号『ちゃぶ台10』に向けた企画会議をすること。『ちゃぶ台9』は先月末に発売になったばかりですが、すでに11月に刊行する次号に向けた制作がはじまっています。
干潮のときのみ歩いて渡れる「真宮島」でちゃぶ台企画会議をしました。おそらく、ちゃぶ台史上もっともオープンな場所での開催。こんな感じです。
この状況でなにが生まれたのか。次号をぜひ、待っていてください!
(おわり)